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前世は大工女子の異世界生活  作者: 森林木林森
30/49

夢は異世界で叶える。

 話し合いが終わり、念の為エリックにコールする、帰って来た事を伝えてガチャ切り、なんか言ってたけど用があれば掛けてくるでしょ。


 義務も終わったので新生ネロ、マイン、レーラの3人をプラスしてアナの店に向かう、市場を通りかかると久しぶりの顔ぶれが声を掛けてきた。


「マインちゃん、レーラちゃん今日は寄ってかないのかい?あらヨーコさん久しぶりだね」


「ようっ!今日もお揃いで仲良しだな、ウチも双子が欲しいぜ、あれ?ヨーコちゃんじゃねーか久しぶりだな」


「マイン~レーラ~また遊んでね~」


 えっ?私は?私も遊ぶよ?お手玉?おはじき?あやとり?ゴム飛び?ケンケンパ?なんでも出来るよ?


「2人が随分と人気ね?」


「えぇ、よくお使いに出しているので、同じ格好ですし、愛嬌もありますから、顔を覚えてもらったんでしょう。」


 ネロは先を歩く双子を優しく見守る、最初庭から出た時にはキョロキョロして自分の身体をチェックしたり、屋敷を敷地の外から見たり、落ち着かない様子だったけど、今はだいぶ落ち着いたようだ。


「マインちゃん、レーラちゃん、今日はみんなでお出かけか?良かったなぁ、みんな帰って来たんだなぁ、またウチにも寄ってくれよ?」


 いや、マインとレーラが街の顔みたいになってんじゃん、すれ違った衛兵さんまでハイタッチとか、私ら居ない間に何があった?


 双子の人気っぷりに驚きながらアナの店に到着、ドアを開けた瞬間女ドワーフが「あっ!」って言って奥に走って行った、いや、案内先にしてくれよ。


「ヨーコ!!あはは!おっかえり~あはは!」


「うわっぷ、アナさん苦しいよ、久しぶりだね、手紙さっき読んだよ、なんか相談があるんだって?とりあえず聞くから席に案内してよ」


「あらヤダ、すまないねぇ、ナタリー奥にヨーコ達を案内しとくれ!」


 女ドワーフナタリーって名前か、初めて知ったし、なんかナタリーってよりミザ……やめとこう、監禁されそうだ。


「ありがとうミザ……じゃなくてナタリーさん、とりあえずエールを3つに蜂蜜酒があれば5つお願い、おつまみはお任せで、みんなお腹すいてるからガッツリ系が良いかも。」


 あっぶね!あのままミザリーとか言ったら椅子に括り付けられて、足折られるとこだった。


「なんだい、いきなり名前で呼ぶなんて、あいよ!エール3に蜂蜜酒5だね!んじゃアタシも今度からヨーコって呼ぶよ!」


 ドワーフは男も女も豪快で大好きだ、最初はウザかったけど、裏表なくて付き合いやすいや。


「はいよ!エールと蜂蜜酒お待ち!今ツマミ持って来るから、乾杯して待ってなよ!」


 ナタリーからジョッキをもらって「ギルド依頼お疲れ様乾杯!」「ネロの初外出に乾杯!」ってな感じでスタートした。


 次々と運ばれてくるツマミ、どれもボリューム満点、味も酒に合うように濃いめの味付け、酒が進むぅ!


 ひと段落着いたころ、アナがジョッキとボトルを持って来た。


「これ、飲んでみとくれ。」


 ボトルから注がれる透明の液体、この香りは……。


「白ワイン!出来たの?凄いじゃない!やったねアナさん!香りもフルーティーでいい香り、ちょっとジューンも試してみて、貴女白ワイン好きでしょ?」


 ジューンも1口クッと口に含み、少し驚いた表情をする。


「美味しいわね、少しヨーコのより甘いのかしら、飲みやすくて、これならメイもいけそうね、メイ飲んでみる?」


 メイちゃんもクイクイッと飲む、ペロッと舌で唇を舐めて笑顔が見えたから気に入ったようだ。


「アナさんに白ワインの説明した時、眉毛垂れ下がったから諦めてたけど、凄く良く出来てる、素晴らしいわ、でもどうやってこんなに早く仕上がったの?発酵させるには時間が足りなくない?」


「ははっ!そうだろ?ヨーコが果汁だけって言ってたろ?酵母ってのが皮についてるって教えてもらったから、あとは発酵の温度さ、何回でもチャレンジするのが私らだ、おかげで少しワインが苦手になったがね、早く発酵出来た秘密?ドワーフ独自の魔法があるのさ、昔せっかちなドワーフが作った魔法だよ、魔力を相当使うからマジックポーションと毎日友達だったけどね。」


 その後はウイスキーの樽を香りのあるいくつかの木で試してるとか、ブランデーも作ってるとか色々教えてくれた。


「ヨーコ達はしばらく留守だったみたいだけど、噂じゃ新しく見つかったダンジョンに行ってるって聞いたよ、男衆の仕事の話だっだからあたしらは深く聞かなかったけど、新しい建築方法を教えてるんだって?」


「まぁ、ドワーフ達とは仕事をしていたわ、彼等真面目ね、よくやってくれてるわ、あ!そうだっ!アナさん、これは私が作ったお酒じゃないんだけど、簡単に作れるお酒があるの、飲んでみる?因みに現場のドワーフ達は毎晩飲んでるわ、ダンジョン産の火酒。」


 その単語を聞いたアナは目をカッ!と見開いて


「飲ませてもらえるのかい?」


「勿論!今出すね。」


 ヒップバックから火酒を樽ごと出して脇に置いた、樽のコックを捻り透明な液体をグラスに注いだ。


「これはダンジョンにある、バッカスの畑でとれる素材から出来る火酒、飲んでみて、強いから気をつけてね」


 アナが香りを嗅いだ瞬間、彼女の目がウルッとした、ドワーフ達もそうだったけど魂が喜ぶ?感激?みたいな事言ってたな、恐る恐る火酒を口に含むアナ、もう目からは涙が溢れている、男も女も同じ反応だ。


「はぁぁぁぁ、父ちゃんにも飲ませてやりたかったねぇ、これが火酒か、酒精が強く独特の香り、青臭い?いやなんだろう、原料の香りかね、これ樽で寝かせたら樽の甘い木の香りがつきそうだね、ヨーコ、原料は手に入るのかい?」


 私はヒップバックから竜舌蘭を取り出し見せた。


「えっ!これが火酒の原料だったのかい!南の共和国で食用にされてるアローエーにそっくりだ、確かあの辺にはドワーフの古い都市があったって、子供の頃昔話で聞いたことがある!」


「アロエ?確かに似てるね、葉肉の部分とか、でもお酒に使うのはこの部分よ、葉の部分は使わないわ、この実の様な所を使うの、そこをうぷっ!?」


 熱してデンプンを糖分にしてって言おうと思ったらデッカイ手で口を押さえられた、因みにバッカスシリーズだと何処を使っても酒になるチート仕様。


「ちょっと待って!それ以上言わないどくれ、私達の楽しみが無くなるから、ヨーコ、私は火酒の失われた製法を蘇らせる、白ワインが成功した時、なんか原点に戻れた気がして、今は酒造りを覚えたての乙女な気分さ、貴女に会えた事を神ネラーに感謝しなきゃ」


 乙女ってツラかよって思わず言いそうになる私を、ほんの僅かに残った理性が止めたグッジョブ!ってかドワーフの神様ってヴィラー様じゃないの?私がクエスチョンマークを顔に出してると


「神ネラーってのは男衆が祀る神ヴィラーの奥様さ、酒の神様って訳じゃないんだけど、昔っから男衆は神ヴィラーを、女衆は神ネラーを祀るのがドワーフの教えさ」


 なーるほど!そこも分けてるんだ、ドワーフって男女仲が悪いわけじゃないけど、お互い独立した考え方を持ってて面白いな。


「そっか、行き詰まったら声を掛けてよ、ヒントなら出すから。」


「ふふっ、やり甲斐が無くなるからやめておくよ、その代わり出来上がったったら味見しとくれよ、ヨーコに認められて初めて完成するようなもんだから。」


 ドワーフ魂だね!そういう所は男も女も変わらないのね。


「責任重大じゃない!でも楽しみね!毎日学べるって素敵、人生を楽しんでるわねアナさん!」


「あははっ!そうだろぅ?今は毎日が楽しくってたまらないよ!」


 アオハルかよ、まったくキラキラしちゃってさ、私もジョブチェンジした時はこんな感じだったなぁ、憧れだけで飛び込んで、この先どんな困難があるかわからない、でも毎日学んで血肉になって、ぷにぷにしていた二の腕が引き締まって筋肉ついて、食べ物の好みすら変わった、挫折なんて想像しなかったし、考えすらしなかった、とにかく必死に技術を学ぶ、それだけに集中していたっけ。


「本当に素敵、そんなアナさんにこれをプレゼントします、チャチャチャチャン炭酸石~!これを樽一杯の水に入れて1時間待つと、炭酸水になります!とりあえず10個くらいあげる、今見本見せるから」


 ヒップバックからウイスキーと炭酸水を出して割る、ハイボールの出来上がり。


「飲んでみて?」


「くぁぁっ!喉が爆発してる、でも美味いねこれ、ウイスキーだろ?香りはそのまま酒精を弱くして飲みやすくしてるんだね、このシュワシュワの爽快感!これは暑い日にグイッと一気に流し込みたいね」


 ハイボールは日本でかなり飲まれている、海外じゃハイボールなんて邪道レベルであまり飲まれてないけど、脂っこい食べ物を強い炭酸で流し込む、日本人にはそれが大ヒット、コマーシャルで見ない日が少なかった。


「面白いねぇ、エールなんかには出ない喉越しだ、これは簡単に手に入るのかい?」


 ダンジョンの26階層には山積みされてたけど、取ってくるだけならすぐだ。


「今は簡単に手に入るかな、この先どうなるかは冒険者次第、ダンジョンが一般解放したら手に入り易くなると思うよ。」


「そうかい!それじゃ色々試してみるよ、ありがとう!」


 アナとの楽しい会話も終わりテーブルをみ……マーチと双子以外酔いつぶれてる、あのしっかり者のネロまでぐったりと!?どうやらネロはメイちゃんにひたすら飲まされたらしい、上位とか関係なく、自分と同じアース様の系統だから嬉しかったようだ。


「メイちゃんまでこんなになって~まぁ最近色々あったもんね、アナさ~ん!送りお願いしても良い?」


「あははっ!みんなだらしないねぇ、わかったよ、女3人、男1人ね!」


 ドワーフの送りとは、酔いつぶれた客を、荷馬車で自宅まで運んでくれるサービスで有料、ドワーフ達は送り賃がチップになるため喜んでやってくれる。


 本日のお支払いは金貨4枚、まぁまぁ飲んだし食った、マーチは肝機能強めの身体だし、マイン、レーラは蜂蜜酒を薄めて飲んでいたからほろ酔い程度、私達4人は荷馬車の後ろを歩いて行く、夜風が気持ちいい、火照った身体を適度に冷やしてくれる、ネロが潰れるとは思わなかったけど、全て話せて気が緩んだんだろう。


 明日からピアノの製作だ、ワイヤーも当たりをつけてる、木材はもちろんユグドラシルの枝、あれが1番良いだろう、鍵盤にはユグドラシルにマンモスみたいな魔物の象牙を被せる予定、手入れしやすしね。あぁこうやって妄想している時が1番楽しい。


 明日は朝起きたら教会に行って、久しぶりに子供達と話して、マザーにも近況を聞いておこう、メルティの家にも行っておくか、ローザにも会いに行く事にしよう、なんたって私にもアレが来る事がわかったんだから、より良い品をより安く作らないとね。


 はぁ、子供産めるのか、これは喜ぶべき事?まだ相手も決まってないけど、そういうのめんどくさいと思う私って異常なんかな、この際種だけもらって自分で……いやその行為がめんどくさい、あぁわかった、性欲が枯れてんだ、イケメン見ても食指が動かないのはそうなんだろう。


 あ~ちょっと工房行こうかな、なんかモヤモヤする時は物を作るに限る、ピアノの図面でもひくか、そうすれば明日から楽だし、うんそうしよう。


 結局集中し過ぎて工房を出た頃には空が薄明るくなっていた。


「おはようネロ、体調は大丈夫?」


「おはようございます、ヨーコ様、先日はみっともない所をお見せして、申し訳ございませんでした。」


「大丈夫よ、楽しかった?」


「はい!皆さんに気付かれないようにしていましたが、はしゃいでしまいました。」


 良いのよ、羽目を外す時は目一杯外す、ずっと優等生じゃつまらないからね。


「「おはようございますなのです!」」


「マイン、レーラおはよう、何を手に持ってるの?林檎?」


「タナカサンとヨシダクンの朝ごはんに入れるのです!」


「いつもタナカサンに取られるヨシダクンにあげるのです」


 タナカサン食い意地はってんのか、確かにヨシダクンより身体大きいもんな、ヨシダクン頑張って!


 ネロが出してくれた朝食をとり、1人教会に向かう、教会に行く途中でカイトを見つけたので捕まえて近況を聞く。


「カイト~久しぶりだねぇ!元気だった?」


「あ!ヨーコさん!お久しぶりです!はいっ元気ですっ!仕事も欠員なく毎日順調です、それから昨日から僕たち、教会の裏側に出来た建物に住んでるんです、新しくて綺麗で、ヨーコさんに拾って貰えなかったらこんな生活は無理でした、本当にありがとうございます!」


 なんだか見ないうちにしっかりしてきたな、ちょっと顔立ちも大人っぽくなって、まだ知り合って僅かだけど男の子って一気に変わるんだなぁ。


「気にしないで、それよりカイトがみんなを導いたんだから、大変だろうけどリーダー頑張るのよ!」


「はいっ!」


 カイトと話していたらゾロゾロと子供達が集まって来た、なんだろう、みんな自信に溢れてるって感じ、女の子達も悲壮感が無くなって、よく笑うようになった気がする、あれっ?ちびっこ?前歯どうした!?


「歯が抜けちったの」


「そっか~大人の歯が生えて来るから心配しないでね、いっぱい食べて大きくなりなよ?」


 ちびっこも最初の頃のガリガリに比べたら、ちょっとふっくらしてお腹がポコン、可愛い幼児体型になってる。


 子供達に頑張れ!とエールを送り教会に向かう。


「朝から行列が凄いな、シスター達も大忙しだ、あれが子供達の宿舎かな?なんか小学校の旧校舎を思わせる佇まいね、流石に忙しそうだから後でまた来よう。」


 思わぬ行列に声を掛けるのを躊躇ってしまった、どうしようかな、予定では教会で小一時間潰す予定だったから、あ!メルティの家にワッペン注文してたの忘れてた、メルティも教えてくれたらいいのに、ちょっと早いけど行ってみっかな~


 市場を抜けてちょっと寂れた感じの商店街へ、まだ朝が早いのに店は開いている、そういや田舎の商店街って朝が早かったな、メルティの実家も例外なく開いていた。


「おはようございます、朝早くからすみません」


「あらまぁ、えっとメルティのお友達の~ヨーコさん!いらっしゃいませ。」


 マルティさん私の名前忘れてなかった、ちょっと安心した。


「以前お願いしていたワッペンって仕上がってますか?」


「はいはい、コチラに」


「わぁ、綺麗に出来てますね、ありがとうございます、あと帽子を作りたいので、単色で通気性のいい生地をお願い出来ますか?色は明るめで2色お願いします。」


 在庫を見ながら生地を探すマルティさん、私は下着の事も聞いてみる。


「あの、下着でわからない事ありますか?」


「え?もしかしてあの下着を作ったのってヨーコさんだったの?」


「はい、メルティに聞いてませんか?」


「えぇ、私が聞いたのは冒険者の方って、もしかしてヨーコさんって冒険者なのかしら?」


 あぁ、親子揃ってポンコツ臭がする。


「メルティが興奮して話していたトイレもヨーコさんの発明?」


「ん~まぁそうなりますかね。」


「自宅のお風呂が広くて大きなお屋敷に住んでる?」


「多分、それです。」


 1つ質問する度近付いて来るのなんだろう、今目と鼻の先に居るんだけど。


「ありがとう!あれは女性を救うわ!試作品を見てくれたかしら」


「はい、拝見しました、しっかり出来てましたね、一応サイズ表みたいなの作ってみたんですが、お胸を支えるカップのサイズ表と測り方です、参考にして貰えたら……どうしました?」


「ヨーコさん、メルティ見てわかると思うけど、私バカだからよくわからないの、今度お針子さん達集めるからみんなに説明して欲しいのだけれど、もちろんお礼もするわ、どうかしら…」


 メルティ見てわかるバカってウケんだけど、まぁ乗り掛かった船だし、そのくらいはしてあげるか。


「今から日程決めちゃいますか、いつがいいです?」


「え?いいの?ありがとう!それじゃあ3日後の今くらいの時間でどう?このお店に集まってもらうから」


「今くらいだと9時ですね?3日後の9時にコチラに集合、分かりました」


 店の外まで見送りに来てくれたマルティさん……いや生地は?見送りいいから生地持って来て!


「あのぉマルティさん、生地の事忘れてませんか?」


「はわわぁ!忘れてたわぁ!」


 本当に可笑しいんだけど、子は親に似るって間違いないわ、結局大銀貨3枚分の生地を購入して店を出た。


 次は教会、最後にローザでコースを組み、再度教会へ


 教会に着いた、早朝ほど忙しくは無さそう、行列も10人程度だから私も並んでみるか。


 待つこと10分で私の番になった、シスター達は全員教会内に居るみたい、前の人がお祈りを済ませ出て来たので私が入る。


「こんにちは~お久しぶりです。」


「ヨーコ様!まさか並ばれて?」


「ルールですからね、最近どうですか?朝チラッと見た時はお忙しそうでしたから、この時間にしたんですが」


 奥からマザーが飛んで来た。


「まぁ~ヨーコ様ようこそ、さぁこちらへどうぞ」


「大丈夫ですよ、顔出しに来ただけですから、まだ並ばれてる方もいますので」


 マザーは少し残念そうな顔をしていたが、仕方ないでしょ。


「それなら後日改めて伺いますね、いつも何時くらいが落ち着きますか?」


「午後でしたら比較的余裕がございますので、申し訳ございません、せっかく足を運んでいただいたのに……」


「大丈夫です、それでしたら予定が無い日の午後にお邪魔しますね。」


 マザーも教会の外まで見送ってくれた、それじゃあ錬金術師会に向かいますか~


 と思ってたら市場でローザとばったり遭遇、少し痩せたのかな?今は錬金術師会の代表だから忙しいんだろう、事務所までの会話で大体の経緯は聞けた、試行錯誤を繰り返し、手探りながらも理想に近付いている様子で安心した。


「結構広い建物なんですね」


「素材の保管等もしていますから、それに以前の方々が見栄っ張りだったので、薄利を多売の方向で進めるつもりですが、どうしても家賃等の経費が……」


「なら、お金持ち用の商品でも作りますか?寧ろ貴族専用とか、内容物を変えて品質に差が出る様な商品ありますよ?」


 まぁ錬金術なら化粧品や香水、シャンプー、リンス、コンディショナー、ネイル等の関係は、素材や用途が分かれば作れる、平和な世の中でお金を動かすのは女性、特に余裕のある女性は迫り来る老いに恐怖を感じて、様々な手を使い抵抗する、そこに関して女は金に糸目をつけないのよ。


 内容物で差をつけるなら間違いなく化粧品、ただ問題はこの世界にメイクの文化が無い、メルティの様な流行りに敏感な年頃の女性が知らないくらいだ、貴族にも浸透していないのだろう。


 庶民にはリップクリームやハンドクリームなど、身近な所から攻めるのがいいだろう、庶民は入浴の習慣が無いためシャンプー等は売れないし、手洗いの習慣もないので石鹸も売れにくい。


 あと意外と売れそうなのは白髪染め、髪に対して平民はあまり気にしないが、エリックの奥さんを見た時白髪を隠すように髪の毛をセットしていた、遠目からはわからないが近付くと丸わかりだ。しかし毛染めにはリスクもある、染料による髪へのダメージや頭皮への影響等、その辺が改善出来ないなら世に出さない方が良いかな。


 あと髪の毛で不思議なのは、この世界では禿げが少ない事、前世の都市伝説的な話しで「ホームレス禿げいない説」と言う話があり、そんな訳あるかと思っていたら、確かにフサフサ率が高かった、洗髪の習慣がないこの世界で禿げが少ないのは、あの都市伝説があながち間違いではないと証明するものだったよ。


 禿げはどうでもいいや、別に私禿げ嫌いじゃないし、自然の摂理みたいなもんだと思ってる、変に隠そうとしてバーコードにする方が恥ずかしいよね。


 さて思考が横道にそれた、この世界の技術で、ありふれた素材、尚且つ美容に役立つ物、化粧水かな、グリセリンはよく市場で売られているオリーブっぽいのから錬金術で手間をかけずに抽出できたし、精油はウチの庭に咲いてたラベンダーとかゼラニウムっぽいのを探して試してみよう、どこにでも咲いていそうだし、そう言えば精油って妊婦に良くなかったよね、そこはしっかり注意喚起しておかないと。


 精製水は錬金術なら簡単に作れるから問題なし、天然物は消費期限もあるから小さなボトル販売にして、空になったらボトルを持ち込み補充する方向かな。


「これ、私が作った物なんですけど、ローザさん、最近睡眠時間少ないでしょ?肌が荒れてますね、これは肌の保湿や回復に役立つ液体です、人によっては合う合わないがあるので注意は必要ですが、試しに使ってみますか?」


 こくんと頷いたローザさんに浄化の魔道具を使って擬似洗顔してから化粧水を肌に馴染ませる、チャッチャッと化粧水を塗った時の独特の音、首筋にも塗っておく。


「これで保湿してくれるから」


 乳液を適量同じように肌に馴染ませる、なれない作業でゴシゴシ塗りこもうとするのを止めて、両手で優しく包み込む様にと指導。


「上手く馴染めば2、3日でも違いがわかるわ、朝と寝る前、顔を洗って水分を拭き取ってからつけてみて、肌がヒリヒリしたり痒くなったら使うのをやめて洗顔するのよ?」


 化粧水と乳液のレシピを羊皮紙に書いて、作り方、使用方法まで書く、植物性のオイルを使った洗顔料のレシピも教える、化粧水用に抽出したグリセリンの使用用途にもなるからね。


 鶏皮等を使ったコラーゲンの抽出方法も教えたよ、錬金術は一度工程を見れば再現がしやすくなる、前にオクトがメルティに「魔法の無詠唱」を教えた時に言っていた「イメージ」が作りやすくなるからね。


 素材がどんな工程を経て、求める形になるのか、私の錬金術は既にゴールが見えていて、尚且つチートがあるため、錬金釜に素材を入れて頭で考えるだけで求める物が出来上がる、だから簡単に色々作っている、だが普通はそうでは無い、素材を理解し必要な成分を取り出す為に、何度も何度も失敗を繰り返す、そうして出来上がった素材を組み合わせ、新たな物を生み出すのが錬金術。


 あとは肌にいい働きをする食事なんかも付け加えた、女性にとってビタミンCと鉄分はかなりウエイトが高い、肌に直結するからさ。


「ローザさんが数日試して効果があったら生産に移行して、順番としては洗顔石鹸、化粧水、乳液、食事法、急がずゆっくりね、ある意味使用者から「もっといい物はない?」って聞かれるまで開発しなくていいまであるわ」


 全く手入れをしてない砂漠みたいな肌に、化粧水や乳液でオアシスを作る、ある程度潤いのある肌を手に入れたら、更に上があるのでは?と思うのが人の業の深さ、そうなったらブランドを作り、それぞれ特色を出す、客は自分にあった組み合わせを作る楽しさと、美しい肌を手に入れる、化粧品の買い物をする為の外出が多くなれば日焼け止めやパック等の商品を展開して、終わりなき美の迷宮に迷い込ませる。


「フェッフェッフェッ、笑いが止まりませんなぁ」


「あの、ヨーコさん?」


 違う!そこは「三〇屋お主も悪よのぅ?」って言葉が欲しかったぁぁ


「ごめんなさい、ちょっと妄想が捗っちゃって、さっきも言ったけど、人によって合う合わないがあるから、必ず手の甲とかでテストしてから販売してね。」


「はい、そうします、レシピありがとうございます、これをオリジナルとして色々試してみます。」


 錬金術師会の建物を後にした私、結構長い時間居たみたい、スライム薬の子供達は居なくなっていて、夕飯の買い物をする人の姿がチラホラ見えた。


「さーて、屋敷に帰ってピアノ作るぞ」


 ピアノで思ったけどこの世界って他に楽器ってあんのかな、ダンゴさんに会ったら聞いてみよう。


 笛関係は縦笛くらいなら問題ない、ピアニカも作れそう、小学生の頃分解してめちゃくちゃ怒られた記憶がある、あとはギターもガワなら行けるけど音はわかんない、形だけなら作れるのは結構あるよ?バイオリンとかだって形にはなるはず、でもどうやって音が出てるのか、そういうのが分からないからなぁ。


 あ~早く帰らないと、工房が私を呼んでいるわ!


 屋敷に到着、ネロが夕食を用意してくれている、助かるわぁ。


「ネロ、2日くらい工房に籠るから、なんかあったらコールしてね、あと2日経っても出てこなかったら、必ずコールちょうだいね。」


「かしこまりました、こちらで何かやっておく事がありますか?」


「ん~特に無いかな~あったらコールするから、今はとにかく外に出れる事を楽しみなさい。」


 今日の夕食はネロの特製ミートパイと具沢山のポトフ?みたいなの、スープは薄い塩味なんだけど具材にはしっかり味が入ってて美味しい。


「ネロご馳走さま、とっても美味しかったわ、今度パイの作り方教えて?」


「はい!喜んで!」


 居酒屋の様な返事をしてくれたネロ、さて私は工房に行きますか!


「みんな、私これから2日間くらい工房に籠るから、なんかあったらネロに言って、タブレット持たせてるからさ。」


「お姉ちゃん行ってらっしゃーい。」


 メイちゃんに見送られ工房に飛び込んだ。


 さて私が母に貰ったピアノの設計図はグランドピアノ、部品数は細かい物を含めると約10000と膨大な数、アップライトピアノの方がコンパクトで部品数が少ないけど、残念ながら構造が大分違うしあまり興味が無かったので、グランドピアノとの差が水平と垂直、ペダルが少ないくらいの認識しかない。


 私の長所であり短所は最初に難しいものから入るので、覚えてしまえば応用が効くが挫折する事も多々あった、しかし興味のある事に対しては挫折を経験した事は無い、これは私の自慢でもある。


 ピアノはザックリ言うとギミックの集まり、様々な部品が連動して鮮やかな音を出している、激しいタッチにも対応する丈夫さと、僅かなズレも許されない繊細さが共存する芸術品だ。


 部品を作り始め、私の記憶がフル回転する、何度も見た部品の動き、どうして音が出るのかまで、見た光景が鮮明に蘇る、今の私に雑音は無く作業音しかしない、身体は暑いのに頭の中は冷静、何度も経験した事がある、これは私がゾーンに入った状態だ。


 どれくらいの時間が経ったのだろう、既に脚と側板、屋根と出来上がっている、ダンパーのフェルトも仕上がった、ダンパーレールやストッパーもいつの間にか作っていた。


「鍵盤外して潜り込んだのが母さんにバレて、しこたま怒られたっけ、その後も何回かしてたけど、あのピアノ、母さんが先生辞めたあとは私の教材だったな。」


 フレームはミスリル、アダマンタイトの2つを合わせた合金製、弦はすべてミスリル合金製にし予備を含めて300本、太さが違う分加工作業は大変だった。


 チューニングピンは贅沢なオリハルコン合金製、折れたら困るからね、ピンはねじ切り加工して予備を含めて250本、フレームにもメス加工してある、この辺はチートに感謝するしかない、機械加工より正確だ。


 弦枕にフェルトを張り付け、ウィッペンはダブルスプリングにした、シングルでも大丈夫かな?って思ったけど柔らかいタッチでも反応するはずだから大丈夫、ハンマーもかなりいい出来、ギミックを確認しながらニヤニヤしてしまう。


 鍵盤は結局象牙にした、思いの外綺麗な白でツヤもある、黒鍵には象牙にオニキスを錬金術で合成、これ他の何かにも使えそうだな。


 ここまで来るのに約100日、ペダルを含めて部品はほぼ出来てるから、後は弦をフレームに張って組み立てだ。


「ふぅ、まだ半分ある、集中しなきゃ、あと防虫の魔法陣仕込んどこ、フェルトとかの虫食い予防で」


 ここからが大変だった、弦を張りハンマーが直角に当たらないといけないのに何度も微調整、何とかそれが終わったらダンパーの動きがおかしい、なんかのタイミングでガイドがズレていた、それも調整して、1つ治すと1つズレるという負のスパイラルを脱出。


 全ての弦を張り終えて、フレームを固定、ペダルの稼働を確認、鍵盤を取り付けて全ての動作確認、音が出る……ちょっと感極まった、もしもピアノが弾けたなら1曲くらい弾いていたかも、調律も何もしてないけど、1音1音確認する、最後に大屋根をつけて支え棒をつけエンブレムを彫る。


 工房内で過ごした190日、長いようであっという間に過ぎて行った、夢中になり過ぎて、3徹してるのに気付かないでフラフラになった、食事の時間が勿体なくて、パンとハム、チーズだけの日がずっと続いた、野菜を食べなきゃってキャベツに塩を振って丸かじりしたり、そんな生活ももう終わる、これを彫ったら終わりだ。


 この世界に、新しい音楽を創り出して欲しい願いから、エンブレムには「GENESIS(創成)」と彫り、私の夢であったピアノが完成した。


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