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前世は大工女子の異世界生活  作者: 森林木林森
29/49

ネロ

 カレーフェスティバルから一夜明け、宿の食堂にはまだほんのりカレー臭、ちょっと言い方が悪いな自爆する、言い直してカレーのかほり、窓を開け入り口の扉も全開にして空気の入れ替え、排気ガスの匂いなんてこれっぽっちもない澄んだ空気、爽やかな朝だ。


 昨日あれだけヘビーな食事だったから、今日はさっぱりとした方が良いだろう、さっぱりし過ぎるのも物足りないとクレームが来そうなので、悩むところだ。


「やっぱり和食が良いかな、無難に焼き魚にご飯と味噌汁、昆布出汁のだし巻き玉子、大根おろしにほうれん草のおひたしで行くか、余った大根の葉を細かく切って、塩揉みして漬け物風も添えてみよう。」


 ジューンとメイちゃんが起きてきたのでちょっと手を借りて、私は工房で米を炊き昆布出汁を錬金で抽出、米が炊けたら外に出て、出汁を使って味噌汁と卵焼きを作る。


 味噌汁の具は余ったじゃがいもと人参、味噌汁の仕上げに醤油を軽く入れると深みが増す、だし巻き玉子は卵焼き用のフライパンを作ったので簡単に作れる、少しずつ卵液を追加しながら巻いていく、メイちゃんはこの作業が好きな様でいつも横に来ては、真似をしながらシャドー卵焼きをしている。


 ジューンに頼んだ大根おろしも出来たので、水気を少し絞って焼き魚の横に添えた、あとはおひたし、茹でてから冷水で〆て水気を切る、鰹節が欲しいところだがないので、すりゴマを一摘みパラリと、大根の葉の塩揉みはシャキシャキした歯ごたえがたまらない。


 この世界の大根が前世と同じなら、消化酵素を出してくれるので大食いした翌日には持ってこいだ。


「親方なんか二日酔いの日は必ずコンビニで大根おろし買って、食べると言うより飲んでたな、普通に胃薬飲めば良いのになんでも民間療法で治すような人だったっけ。」


 風邪は他人に移せば治るとか、怪我をしたら野山に行ってドクダミを摘んできて細かくして付けたり、1回笑ったのは明らかに指折れてるのに、ドクダミをすり潰して指に巻いて仕事して、翌朝腫れ上がって病院に連れて行かれた時は大爆笑だった、そこまでドクダミ万能じゃねーだろって職人仲間と一緒に冷やかしてたっけ。


 でも後で調べたらドクダミって、浮腫みを抑えたり便秘に効いたり、抗菌作用もあるって知った時はビックリした、流石に骨折には効かねぇけど。


 おばあちゃんの知恵袋って言ってたっけ、でも親方のおばあちゃん大正生まれなんだよ、薬の発達してない時代の知恵袋を令和になってまで信じてるんだからピュアだったんだろう。


 私も緊張すると手の平に「人」って漢字を書いて飲み込むオカルトを信じてたから人の事は言えないか。


 そんな回想にふけっていたら、ゾロゾロと男性陣が降りてきた、和食だから箸を使えば食べやすいがみんなナイフフォークで食べている、唯一マーチだけ器用に箸を使っていた、私のを見て真似したらしい、天才か?


 みんなの朝食も終わり、帰り支度を始める、私は最後に現場を一周してから帰ると伝え、監督ドワーフと打ち合わせする為、社宅の現場に向かった。


「監督~ちょっと良い?」


「おいっ!今行くぞおいっ!」


「現場は問題ないと思うんだけど、私が居なくなるとご褒美が無くなるじゃない?面倒かもしれないけど、ティンダーまで取りに来てくれたら毎日30樽くらい渡すよ?どうする?」

「行かせるぞおいっ!どこ行けばいい!」


 この反応、やっぱコイツら酒目当てだったか、まぁその方がやりやすいけど。


「私の屋敷の場所知ってる?」

「おうっ!知ってるぞおいっ!」

「なんで知ってんのよっ!」

「儂の親父が建てた屋敷だぞおいっ!ずっと空き家だったが酒女神が買ってくれたって、ラルクから聞いてるぞおいっ!」


 マジかよ、監督パパがイギリス積み知ってたのか!私はあの家の建築技術が高等技術だとめちゃくちゃ熱く監督ドワーフに言うと


「あれは親父の代表作だぞおいっ!儂の尊敬する親父が、更に尊敬する酒女神に褒められた、儂は両方から学べる幸せ者だぞおいっ!」


「監督のお父様は?」


「2年前に死んだ、だが絶対喜んでるぞおいっ!酒女神に認められ、自分が建てた家に住んでもらっている、儂は自分の事のように誇らしいぞおいっ!」


「そっかぁ、色々話ししたかったなぁ、偉大な建築家に敬意を。」


 私が両手を組み、こちらの世界の祈り方で祈りを捧げる。


「儂もいつか向こうに行ったら、ここの建築を任されたって親父に自慢する、親父の為に祈りを捧げてくれた事、感謝する。」


 おいっ!どこ行った!まぁ真面目な雰囲気だから茶化さないけど


「お酒は屋敷に用意しておくから、メイドにも言って置くよ。」


「あのブラウニーはまだ居るのか?」


「ネロの事知ってるの?今はメイドとして屋敷を護ってくれてるわ、現場が終わったら遊びに来なさい、しこたま飲ませてあげるから」


「おうっ!必ず行くぞおいっ!」


 ドワーフのいい所はこういう所、深く聞いて来ない、踏みこんじゃいけないラインをしっかり守ってくれる、良い奴らだよ本当に。


「今日の分まではいつもの所に出してあるから、終わったら持って行ってね、それと空樽も忘れず持って来てよ?じゃないと困るからさ」


「わかったぞおいっ!」


 監督ドワーフとの意外な繋がりに驚いたけど、こういうのも何かの縁ね、大切にしなきゃ。


 教会にも軽く顔出しして拠点に戻った、既にタナカサンもヨシダクンもスタンバイ、2頭の首筋を撫でてから馬車に乗り込んだ。


 馬車に揺られて40分くらいするとティンダーの城壁が見えてきた、なんだろこの世界に来てそんなに経ってないのに懐かしく感じる、近付く城壁を見て感傷に浸ってしまった。


 ティンダーに入ると衛兵さんが手を振ってくれている、子供達はもう終わったのかな?あ、居た、頑張ってるねぇ。


 私達はまず屋敷に戻り、オクト達がグランドマスターからもらった申請書を持ってギルドに行くそうだ。


「おかえりなさいませヨーコ様、皆様。」

「「おかえりなさいませなのです!」」


 屋敷に着くとすぐにネロ達が出迎えてくれた、双子も元気いっぱいで安心した。


「ネロ、変わった事は?」


「特にございません、2度程来客がありました、商人のダンゴ様とドワーフ酒場のアナスタシア様です、ダンゴ様はすぐにお帰りになりましたが、アナスタシア様からはお手紙をお預かりしております。」


 ネロから手紙を受け取り中を読むと


 ~新しい酒の事で相談がある、何時でも構わないから顔出しして欲しい~


 なんだろ?新しい酒だからウイスキーの事よね?まぁどちらにせよ、早いうちに顔出しするつもりだからいっか。


「じゃ、俺達ギルドに行ってくっから、終わったらすぐ帰ってくる、ヨーコはちょっと休んでてくれ。」


「はーい、工房に入ってるかもしれないから、部屋に居なかったらコールして。」


 オクト達を見送り、リビングで寛いでるとネロがお茶を淹れてくれた。


「ありがとうネロ、ねぇネロには何かやりたい事ってない?制約とか抜きにして」


「はい、私はこのお屋敷と皆様の傍に居れたら満足でございます。」


 優等生的回答だなぁ、あ、そうだ


「そう言えば、この屋敷を建てた人の息子さんと仕事一緒にしたよ」


「えっ!お会いしたのですか?屋敷を建てられた方は?」


 いつも冷静なネロが少しだけ興奮?しているような感じがする。


「あ~建てた人は2年前に亡くなったみたい、私があったのはその人の息子さんで、その人に建築をお願いしているの。」


「そう……ですか……」


「でもね息子さんはネロの事覚えていたわよ?あのブラウニーはまだ居るのか?って。」


 ガチャンと持っていたティーポットを落としてしまったネロ、ビックリした。


「しっ失礼致しました!今すぐに片付けますので」


「ネロ、落ち着いて、大丈夫だから、落ち着きなさい。」


 慌ててガチャガチャと片付けようとしているが、いつものネロじゃない、悪い事しちゃったなぁ。


「申し訳ございません、ご主人様……失礼します。」


「しっかりしなさい!私はヨーコよ、ご主人様じゃなくてヨーコ、ネロ、隣りに座りなさい。」


「片付けがまだ……」


「いいから座るの。」


「はい……」


 ちゃんと話しを聞かなきゃダメだ、こんな怯えたネロは初めて見るから。


「ネロ、私に言える事だけ言いなさい、何があったの?」


「はい……。」


 そこからのネロの話しは衝撃的だった、なんとネロは元人間でこの屋敷に仕える若いメイドだった、小さい頃口減らしで奴隷商人に売られ、流れ流れてこの屋敷の使用人として買われた、屋敷では失敗が多く、いつも叱られて食事抜きも多々あった、そのせいか体調がどんどん悪くなり、病気を嫌った屋敷の主人により馬小屋に閉じ込められたそうだ。


「ネロ、辛いことを聞いてごめんなさい、でも私は貴女にそんな仕打ちはしないから安心しなさい、どんな内容でももう貴女は私の仲間なの、誰がなんと言おうともね。」


「私は罪人です、償えるなら償いたい、全てを語りますのでお聞き下さいますか?」


「そんな事心配すんな、あのね、誰しも間違いがあるの、今日、なんでも知ってる偉大な大精霊も間違って怒られたの、ネロは間違いを正したいのよね?」


「はい……」


「なら聞くし助ける。」


 馬小屋で餓死寸前の所を、この屋敷を建てたドワーフ、監督ドワーフの父に見つけてもらい、彼が屋敷の主に内緒で食料をわけてくれたおかげで、僅かにその生を伸ばせた、その後暖かくなり体調も良くなった彼女は再び屋敷で働く事になる。


 生死をさまよった辺りから、彼女には不思議な物が見える様になっていて、それは小さな子供サイズの光の玉、その光の意識と言うか、考えが何故か自分とリンクし、失敗が無く褒められる事が多くなる。食事もしっかり食べさせてもらえて、最初は天使だと思ったそうだ、そのうち光の玉と意識が重なり合う彼女は正体が気になったので教会の神父に不思議な光の事を話した、光の玉の正体はブラウニー、家精霊とも呼ばれる家の守護精霊で良い精霊だと知る、それを聞いて安心していた彼女、しかし段々と自分の意識が自分では無いような感覚に陥る事が多くなり、ブラウニーに対して警戒心を持つようになる。


 ある日、屋敷のメンテナンス中に自分を助けてくれたドワーフが弟子と一緒にやって来た、当時受けた恩のお礼がしたくて彼女はドワーフ達の世話を焼く、ドワーフからも邪魔だと言われてしまう程に、メンテナンスも終わりに近付いたある日、彼女は突然意識を失った、意識は無いのに思考が働く「あぁこのまま死ぬのかな」と思った時に弟子の1人が見つけてくれて一命を取り留めた、今思えばそのずっと前に自分は死んでいたのだとネロは語った。


 倒れた日の夜、不思議な夢を見た、光の玉が自分の身体に入ってくる夢、しかし夢の中で彼女はそれを拒んだ、光の玉は悲しげに消え自分も2度と目が覚めなくなってしまった、完全に肉体が死んだのだ、そして死を理解した時再び光の玉がやって来てこう言った。


『貴女に生きてもらいたかった、本当にごめんなさい、貴女の魂に私の魂が濃く混ざってしまったので、力をわけてあげたかったけど間に合わなかった、貴女に生きる可能性をあげたい、幸せになって欲しい、辛かった思い出を消し去る楽しい生を謳歌してもらいたい、私の中の遠い記憶、淡い記憶の中に貴女を小さな頃から見ていた私がいる、小さな貴女が初めて私に触れた時貴女を守ると誓った、貴女の傍にいる為にブラウニーの一部になった、それでも救ってあげれなかった私を許して、今私に残された力を全て貴女にあげる、この屋敷の人はもう居なくなる、新しい主人が良い人であることを願うわ、私の愛しいネロ、貴女の幸せを心から願ってます。』


 そう言って、光の玉が自分と重なった時、色んな記憶が入って来た、その中に赤ん坊の周りをクルクル回るとても小さな光の記憶が見え、何故か涙が出るほど愛されていると感じたそうだ、その記憶の後半に見た事のある光景があり、泣きながら奴隷商人に売られる自分がいて、酷く悲しむ感情が流れてきて、振り上げられた大人の手を光が防ごうとしてくれたが、すり抜けて小さな自分に当たる、その光景から流れて来た感情は自身の無力さだったそうだ、その後この屋敷のブラウニーと同化した光は、馬小屋の私を助ける為、精霊の見えるドワーフをネロの元へ案内し、彼女を救って欲しいと懇願していたんだと、最後に目を瞑り眠る自分の姿が見え、何度も何度も身体に入り込んでは、力を失っていく光、それでも自分は目を覚まさない、それを見た時の感情には確かな決意が感じ取れた。


 ネロが光の玉と融合してすぐにこの屋敷の住人が居なくなり、生活の中で貰えていた僅かな魔力の供給も無くなって、少しずつ自分が消滅に近付いていると感じ始めたある日、いつか見たドワーフの弟子が屋敷を訪ねて来たので、ネロは影からその様子を見ていたそうだ。


「おいっ!ブラウニー居るか!生きてるか!おいっ!儂の魔力を持って行け、屋敷は儂がメンテナンスする、次の主が来るまでの辛抱だ、親父の屋敷を護ってくれ」


 大きな声を張り上げて彼女を呼ぶドワーフ、ネロはドワーフの周りをクルクル回ったが、ネロの姿は見えていないようだった、言われた通り魔力を少しだけわけてもらい、屋敷を護る最低限の魔力を補充して耐え忍ぶ毎日だったそう、ドワーフはその日限りではなく、それから毎週の様に顔を出してくれて、ネロは毎回彼から魔力を少しだけもらって屋敷を管理していたんだって。


「そのドワーフって私の知ってる監督ドワーフかな」


「多分そうかと」


「アイツ本当に良い奴ね、今度会ったら褒めてやろう。」


 その後、屋敷には立ち入り禁止の立て札が立てられ、バリケードまで作られてしまった、ドワーフも敷地に入れなくなり、敷地外から魔力を吸収出来ないネロはどんどん弱っていき、精々あと5日くらいしか存在出来ないと思った時、自分よりも強大な力を持つ存在が敷地に入って来るのを感じた、新たな主の登場、無限にも感じられる魔力と周りの大精霊達の気配、ネロはすぐに玄関に行き湧き上がる感情を抑え問う。


「貴女が新しいこの屋敷の主かと」その後、自身の名を名乗り契約が成立、失った力を取り戻すかのごとく魔力が入り込んできた、新しい主は自分に体を作ってくれると、これで自分の一部になった光との約束が果たせる、仮初とは言え、実体を持ち活動出来ると言うことは、生き返ると同意なのだから。


「それが私だったって事ね?」


「はい」


「ネロは何も罪なんて犯してないじゃない、ずっと傍に居た光との約束も守ったし、なんでさっき罪人だって言ったの?」


「それは、私がブラウニーでありブラウニーでは無いからです、信頼するヨーコ様に嘘をつきました、いつか話さなければと思いながら、身体を与えられ喜んでいる私がおりました、精霊にとって契約者に嘘をつくそれは罪です。」


 下を向き少し震えているネロ。


「そっか、ならその罪を許します、貴女の主である私が許すの、それに対して文句を言う奴が居るなら神相手でも戦うわ、私にもそう言ってくれた子が居るの、私の為に神相手でも戦うって子が、だから私はネロを許します、はいこれで問題解決!」


 断罪されると思っていたのか、ネロは信じられないといった表情で私を見る、そして


「なるほど!ネロは守護精霊とブラウニーの合成体なんだね、だからブラウニーのくせに力が大精霊並に力が強いんだ、全ての謎が解けたよ。」


 ブラウニーのくせに?ちょっと嫌な言い方、ネロが何も言わないので私も我慢しよう。


「マーチ?聞いてたの?いつから?」


「少し前からね、ほらボクって気配消せるから、流石のネロも自分より上位精霊の本気隠蔽には気づかなかったみたいだね。」


 我慢なんて無理だ、なんかマーチのネロに対する言い方がムカつく。


「マーチ、ちょっと座りなさい、違う、そこじゃない誰が椅子に座れと?私の前に来て正座、ほら早くなさい。」


「えっ?なんで?」


「今説明してあげるからはよ座れ、正座!」


 そこからは本気で説教をした、盗み聞きした上に自慢げにそれを言って、バカにしたような発言、私は許しません!


「ヨーコごめんなさい。」


「謝る相手が違うっ!」


「はい!……ネロ、すまない、君の気持ちを理解しない発言、反省してる」


「いっいえ、私は言われて当然の……ヨーコ様睨まないで下さい、マーチ様を許します、もうお立ちになって下さい。」


 その後すぐに双子とオクト、ジューン、メイちゃんがリビングに入って来た。


「だからダメって言ったじゃん、私とジューンは止めたんだよ!入り口でマインとレーラが、大事な話ししてるから入っちゃダメって言ってたのに!」


 偉いじゃない双子、ちゃんと理解して気を使ってくれたのね。


「えぇ、ヨーコがそういうのを嫌っているのを知ってますから、ねぇマーチを焚き付けたオクト?」


「すみませんっしたぁ!!全っ部俺が悪い!煮るなり焼くなりしてくれ!」


「似ても焼いても食えないんだから何もしないわよ、次からは堂々と入って来なさい、みんなの屋敷なんだから、この際だから言っておくけど、みんなに対して私は隠し事がほとんど無いの、だからと言ってみんなが私に全てを話せとは言わない、でもこれだけは忘れないで、()()()()()()()が真剣に悩み、困って話ししているのを茶化したり、馬鹿にしたりするのは許さない、その仲間にはここに居る全員が入っているの、わかった?」


「「「はーい」」」


「返事は短く!1回で、わかったかっ!」


「「「「「はいっ!」」」」」


「よしっ!それじゃこの話は終わり、それでギルドはどうだったの?」


「あぁ、エレメント全員の冒険者ランクがBになった、ガトー達と一緒だ、ダンジョン発見の加点、先行攻略の加点、王太子殿下からの推薦に、グランドマスターからの申請、通常ならAランクにしてもおかしくないが、早すぎるって理由でBランクに収まった。」


「それから、イーグル王からの褒美の品も受け取りました、1人当たり白金貨500枚、内訳はレッドドラゴン討伐に白金貨30枚、ベヒモス討伐に白金貨70枚、アイテムその他の献上品で白金貨400枚、エレメント全体で白金貨2500枚、それとこれはギルドから貰ったリトルティンダーのクランハウス譲渡書です。」


 凄い金額なんだろうけど、時計代金で白金貨5000枚入って来てるから、イマイチ実感が無い。


「んじゃお金はエレメントの金庫番のジューンが持ってて、パーティーに掛かる金額は全部そこから出すようにしてくれる?」


「えぇわかったわ。」


 ギルドの件はだいたい大丈夫、次はあの問題ね。


「ネロ、マインとレーラをリビングに呼んでくれる?」


「はい、かしこまりました、呼んでまいります。」


 さて、どう話すべきか、切り出すべきか。


「お待たせいたしました」

「「しましたなのです」」


「3人に大切な話があります、座ってもらえる?」


 少し緊張した面持ちで、私の対面に座る3人。


「今後私達はこの街だけじゃなく、リトルティンダーやその他の場所に行く事もあるの、この屋敷を長期で離れる依頼を受けたりもするでしょう、ネロ達が屋敷を護ってくれてるのは心強いわ。」


 制約の事もあるし、動けないのもわかってる。


「でもネロ達はそれで良いの?この小さな世界の中だけで見聞も広げられず、私が死んで次の主が来るまでここで待ち、弱って行く自分を見て満足?制約があるから?確かに精霊の制約やお役目はとても大切なんだと理解しているつもり、けど私が求めるのは制約に縛られた人形じゃなくて、自分の意思で意見が言える友人であり家族、勿論ネロ達の生き方を否定したりはしない、良く考えて欲しいの、それと……」


 ついでだから釘を刺しておこう。


「メイちゃん、あの時の私に対する言葉、とても嬉しかった、愛されてるって心から思った、だから私からも1つ「約束」をしたいの、私が死んでも貴女は消えちゃダメ、私の後を追って来るなんて私は絶対喜ばないし迷惑なの、私が望む約束は「私を忘れない」これを約束してくれるなら例え魂の欠片になってもメイちゃんを覚えてる、みんなを忘れない、だから私の死だけで私を終わらせないで、ずっとみんなの中で生きていさせて、そしていつか私みたいな変わり者が現れたら、今みたいに手を貸してくれる?」


 あの時、この子は一緒に消えるって言っていた、でもそれはダメ、絶対。


「ヤダッ!お姉ちゃんが居ない世界なんて考えられない、私1人で寂しい、一緒に逝くもん!」


「メイ、貴女は1人じゃないでしょ?私達が居るじゃない、ヨーコを知る私達が、私達じゃ不満かしら?」


 メイちゃんがジューンを睨む。


「ジューンはズルい、そんなのわかってる、みんな大好きだし大切、でもお姉ちゃんは私に目的と目標をくれた、お母様でも出来なかった事をしてくれた、大好きな人と一緒に終わりを迎えるのはそんなにいけない事なの?」


「全然悪い事じゃないよ、でもヨーコはそれを望んでいない、精霊使いが荒いよね、何万年でも生きるボク達に自分の事を忘れるな、終わらせるなって言ってるんだから、ある種の呪いだよね、とても優しい呪い、この呪いがある限りずっと今の事を思い出せる、メイはヨーコを忘れたいのかい?」


「マーチもズルいよ、忘れたい訳ないじゃん、こんなにキラキラした毎日、忘れたくないよっ!」


「俺が100年くらい前イタズラ半分で受肉した時、たった10年だったが関わった連中は俺の中でまだ生きてるぞ、食った物の味、触った感触、感じた匂い、全部残ってるし忘れねぇ、最近気付いたんだけどよ、ガトーは俺が前に受肉した時、一緒に冒険者やってた狼男に雰囲気が似てたんだ、酒飲んだ時にそれとなくガトーの親父とかの話しを聞いたら、どうやら狼男はあいつの爺さんだったみてぇだ、俺に冒険や酒の飲み方、金の使い方を教えてくれた親友、嬉しかったぜ?なんかアイツと一緒に馬鹿ばっかりやってた頃の事思い出してな、こんな事もあるのか?って笑っちまった、メイと仲のいいお嬢の子供とか見たくねぇか?本当に不思議なくらい似るぞ?」


 おぉぉっ!すっげーな!ガトーとオクトの気が合うなって思ったら、そんな縁があったのか、でもオクトは嬉しかったんだろうな、いつも暇さえあればガトーと一緒に居るもんな。


「それはちょっと羨ましい、違う凄く羨ましい、んじゃお姉ちゃんが子供生んだら私が育てる、名前も付ける、色々教えてあげたい、そういう事なんだねお姉ちゃんの言ってた事、そっか人は増えるんだ、繋がるんだ、わかったお姉ちゃん!子供作って!凄くいっぱい沢山100人くらい!」


「無理っ!100人なんて私が死んじゃう!それに……はぁ、ライカに聞いてみるか~私子供産めんのかな~」


『ウメルヨ』


「はえっ?ライカ!?って本当に?」


『だってそういう身体ですもの』


「でもアレ来ないよ?」


『ヨーコの身体は成人サイズだけど、生まれたばかりの赤子と一緒ですもの、あと数年経てばそういう身体の変化も出て来ますよ?』


 マジかよ、まだこの身体は初潮前って事かよ、え~アレが来んの?ヤダなぁ…。


「ってかライカ暇なのね、呼んでも無いのに来るなんて、もしかして私達の事ずっと見てるの?前世ではそれストーカーって言って、犯罪なんだよ?捕まりたいの?臭い飯食いたいの?」


『ねぇ~マブダチィ~私に当たり強くない?ヨーコが私の名前出すとアラームが鳴って見れる様になってるの、そういう仕様なの、便利でしょ?呼べばすぐ来る神様って居ないわよ?』


 くっそ嫌な仕様だな、そしてやっぱり暇なんだな、あれか?名前の出せないあの人的な?どんだけ暇で構ってちゃんなんだよ、過保護って事か?面倒くせぇなぁ。


「お姉ちゃん赤ちゃん産めるね!良かったね!それなら私はずっとずーっと消えないよ、お姉ちゃんの子供達をずっと見守る!魔物の倒し方教えたり~卵焼きの作り方教えたり~楽しみだなぁ100人の子供達。」


 こっちはこっちで変なスイッチ入ったし、やぶ蛇だった~でも100人は無理だぞ、私ガッバガバになるわ。


「話しが横道にそれたわね、ネロ達に私が言いたいのは、私達と一緒に世界を見て回らない?美味しい物を食べたり綺麗な物を見たり、時には冒険したり、貴女達の中にも私を深く刻みたいの、制約の事とかよく分からないけど、多分今の主である私がそれを望めば、大抵は可能なんじゃないの?」


「それもありますが、本人達が望まなければ叶いません、精霊の理や秩序を曲げる行為なのです、ヨーコだけではなく、自身の持つ属性の上位の存在の協力も必要です、幸いここにはネロの上位精霊であるメイと、マイン、レーラの上位精霊マーチが居ます、更にその上の存在である神ライカ様が見守っております、中位精霊である彼女達の制約を変えるには出来すぎた状態です。」


 ジューンの説明だと、ライカも役に立つって事か、なら使ってやるか。


「それじゃ本人達の気持ちを聞いてみましょうか」


「マインは生まれたばかりなのです、正しい事も間違ってる事もわからないのです、そんな私達もご主人様達とずっと一緒にいれるのです?」

「レーラは人間が好きなのです、みんな優しいのです、色々な人に会ってお話ししたいのです、ご主人様、私達も連れて行って欲しいなのです。」


「わかったわ、私からお願いした事ですもの、大歓迎に決まってるわ!」


 ハイタッチして喜ぶ双子、その様子を見るネロは


「私はずっと孤独でした、私もメイ様が仰った通り、ヨーコ様のお子様のお世話もしてみたい、知らない世界を見て回りたい、何より生きているという喜びを感じたい、私の中のもう1人の私もそれを望んでおります、どうか皆様とご一緒させていただく事をお許しください。」


 うんうん、良かった~ネロ達が一緒ならめちゃくちゃ助かる、ウチの子達、それぞれに特化し過ぎてメルティ並に不器用なのよ。


『彼女達の意思は決まった様ね、私から1つ提案です、貴女達の制約は私が決めます、今後「ヨーコに関わった全てと生きなさい」それを制約とします、それならヨーコの血筋は勿論、創作物、マーチ達、王国など広い範囲で活動出来るでしょう、更に貴女達の存在を私達の権限で進化させます、この世界初ブラウニーの上位精霊、属性は友愛と守護、名前は守護大精霊(グランガード)、ネロを初代女王とし、マイン、レーラを補佐とします。』


 なんかわかんない間に劇的変化、腐っていてもポンコツでも戦闘力3でも、ライカは神様なんだ、ん?ちょっと待て「私達」って言ってたな、アース様かヴィラー様も居るのか?


『属性神は私とアースの2柱が暫くは受け持つわね、ネロ達には私の友愛とアースの守護を属性にしたから、メインの属性では無いから、特化したマーチ達みたいに強力では無いけれど、それぞれのサブ属性だから、合わせれば決して引けを取らないわ。』


 ハイブリッドって事かな?


『ヨーコに刺激されて私達も新しい事をする事にしたの、ヴィラーなんて工房に籠りっきりよ、今はまだ強大な力では無いけれど、融通の効く属性だから上手く使ってね。』


「なんかそんな大判振る舞いで大丈夫?後で取り消しとかしないでよ?」


 後になって「ごめーん!上司からストップが掛かったからあれ無しで」とか言わないでよ?


「ネロ、なんか色々劇的過ぎてついて来れないかもだけど、大丈夫?」


「わたっわたたっわたたたしがじょじょ女王……」


 なんかいつも冷静なネロがどっかの神拳伝承者みたいになってるよ、アタァ!


「「ネロ様壊れたなのです??」」


 こっちは訳分からず通常運転か、でも制約からして自由度は高そうだ、私が例え死んでも活動は出来そうだね。


 マーチ達もポカンとしてるし、そうなるわな、私ですら情報過多でパンクしそうなんだから。


「とりあえずお礼しとくね、ネロ達は暫く回復出来なそうだから、あと似合ってるよドレス、ワザと顕現して見せに来てるでしょ、そういう所可愛いよねライカって、また作ろうね。」


『似合ってる?そうかしら?私の中で1番似合わないと思ってたんだけど、まぁ元が良いからね。』


「可愛くねぇな、2度と作らねぇぞ?」


『ごべんなざい~何回も着替えて1番似合うのを着てきました~強がってごべんなざい~!』


 本っ当にポンのコツ!早くイケメンの男神引っ掛けて非処女神になりやがれ!


 そんなライカの姿を見て「あちゃ~」と額に手を当てるマーチ、そりゃ自分の属性神のあんな情けない姿見たくないよね。


「それじゃ、新しいネロ達の歓迎を兼ねて今日はアナの店に行こうか、手紙ももらってるし、ついでになっちゃうけど。」


「良いねぇ!そうしようぜ」


「「「異議なーし!」」」


 思わぬ事実に思わぬ結果、なんだか私に都合が良すぎるけど、悪い事じゃないから甘んじて受け入れよう。

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