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前世は大工女子の異世界生活  作者: 森林木林森
22/49

厄介事は突然に。

 今日はダンジョンはお休み、ドワーフ達と街の宿を建築する、宿は木造の二階建て、ツーバイフォー工法にした、早く尚且つ簡単である程度丈夫、勿論デメリットもある。


「リノベーションなんてしないし、宿屋の開口部もそれ程広くしなくて良いだろうし、防音の概念も無さそうだし。」


 メルティが地方の宿に泊まった時に、隣から男女のいたす声が聞こえたらしいが、特に気にせず寝ていたと言っていた、日本だったら壁ドン案件だ。


 ドワーフ達も建て始めてからは理解が早く、木材加工に関しては私なんかよりも上手だ。


 1階には宿の主の居住スペースに小さな受付カウンターと食堂、共同トイレ4、と個室シャワー4、排水と排泄物は1ヶ所に集まるようにしてあるのでそこにダストスライムを置けば処理してくれるだろう。


 2階は全部客室にしてある、部屋の間取りは8畳のワンルームを8部屋、部屋にはベッドとクローゼット、テーブルに椅子のシンプルセット、宿屋の相場を考えると朝食付きでも精々銀貨6枚程度が妥当。


 さて工事の進捗状況は至って順調、防水シート(蛙魔物の皮)も巻き付け、断熱材代わりの漆喰に似た粘土質の素材を塗る、石灰とかではなく魔物の骨を砕いて粉状にした物みたいだ、保湿、保温効果があり、害虫予防にもなるドワーフ製の優れもの、内外に壁パネルをはめ込み固定、外側には断熱材として使用した素材に、ルートラットの骨を錬金した防水素材を薄く塗っていく。


 完成した宿屋のチェックをする、突貫工事の割には中々の出来、床もサネ加工したので隙間も無いし、サネ折れして凹んだりもしていない、最後に木材から取れる樹脂と植物油を配合したニスを塗り乾かす。


 窓部分はサッシの技術を使用した、こちらの世界の窓は観音開きしか無い、硝子は有るので窓の作り方を教え、サッシを使った引き違い窓にし、コーキング剤代わりに靴のソール剤を使用、配合比率を変えればよく伸びるからね、カーテンレールはポールにリングのタイプにして部屋も完成。


「うん、及第点だ、これをベースにしてドンドン作って行こうか!」


「「おうっ!」」


 1軒出来たら後は早い、昼前には既に3軒の宿屋が完成、丁度昼時なのでメルティの様子を見てから昼食代わりに軽食を作ろう。


「メルティ体調はどう?」


 馬車内で横になってるメルティ、こっちを振り向き


「ヨーコのお薬効くね、飲んだらかなり楽になった」


「起きれるなら来る?今からお茶にするけど、お腹空いてるなら軽く何か作るよ?」


「ははっ、ヨーコがお母さんみたいだ、うん起きる、喉も乾いたしお腹も少し空いてる。」


 メルティは比較的アレが重い方だ、2日目の今日は特に辛そう、私特製のゆるふわ腹巻を着けてる。


「これも暖かくて痛みが和らぐね、ヨーコもアレの時はこれ着けてるの?」


 そもそも私アレが無いのよ、多分生殖機能が無いからかもだけど、あの人に抱かれてぇって性欲も全く無いし、前世も今世も子供は産めないな~


「うん、なるべく冷やさない様にはしてるよ、私軽めだからさ、メルティみたいにあんまりならないのよ。」


「うわぁ~良いなぁ羨ましい、お母さんもそうなんだよ、軽いから私が痛がってるの見て、最初はお芝居してるって思ったって。」


「ふふふっ、それはメルティの日頃の行いの結果ね」


 私のポカポカと背中を叩いてくるメルティ、にこやかにそれを受け止める私……だが地味に痛てぇ。


 軽食は卵サンドと野菜サンドにオニオングラタンスープ、キッチン小屋で作っているとメルティが


「ヨーコは素敵な奥さんになりそう、ねぇねぇ、ヨーコって彼氏居るの?」


「居ないよ~」


「やっぱりかぁ、ヨーコって男の人が近寄り難いんだろうね、綺麗だしかっこいいし、大人だし憧れる。」


「な~に?メルティ、おだてても食事しか出ないわよ?」


「ううん、本当に憧れてるんだよ、私の理想の未来図みたいな?」


 メルティが顎を両手で支えて頭を横にフラフラ振りながら


「私さぁ、ガトーっちのパーティーに入る前にちょっとトラブルがあってね、男に襲われた的な?最後まではされなかったけど、しばらく男性不信になって、今は平気なんだけどね。」


「どこのどいつよ、ボッコボコにして一生アレが役に立たないようにしてやる。」


「あはは、大丈夫、衛兵に連れて行かれたから、ティンダーにはもういないよ。」


 メルティの話では、まだ駆け出しだった頃、クエストで世話になったのがきっかけで共に行動する様になったらしく、男2人にメルティともう1人の女性の4人でパーティーを組むことになった。


 最初は順調で、4人の仲も良くクエスト以外でもつるんでいたそうだ、最初の異変はもう1人の女性が結婚すると言ってパーティーを抜けた辺りからだったらしく、後でわかった事だが彼女は3股していて、その相手にパーティーの2人も居たらしい、パーティークラッシャーじゃん!遠征先でも夜に部屋を抜け出し、どちらかといたしていたようだった。


 彼女が抜けると男2人からの距離が急に近くなり、若干怖さを感じていたが、仲の良かった頃の思い出がメルティを縛り付けていて、それを口に出せなかったそうだ、そんなある日クエスト終わりの打ち上げで軽くお酒を飲んだメルティ、いつもより飲んでないはずなのに酔っていて、家まで帰れない状態だった、男2人は自分達の宿でメルティを休ませると言って連れて行かれたらしい。


 そして、部屋に入るなりベッドに押し倒されたメルティ、酔っていて抵抗する事も出来ずに口を押さえられ、ローブを破かれ1人が身体の上に乗り、下半身を顕にしたのを見てメルティは力を振り絞り暴れた、宿の壁に足が2度3度ぶつかった時隣の部屋から怒鳴り声「うるっせぇ!」その声に2人は慌てたのか口を押さえていた手が離れた、その瞬間「助けてぇっ!誰かっ!」メルティが叫び声を上げる、すぐに隣の部屋から人がドアを蹴破って入って来た。


「おいっ、てめぇらそのまま動くんじゃねーぜ、動いたら殺すぜっ!」


 男の声に殺気がこもっていたのか、2人はその場にへたり込む、その隙にメルティは破かれたローブで身体を隠し入って来た男の後ろへ逃げ、宿の主人も声を聞いてすぐに衛兵を呼んでいた為2人はそのまま連行されて行った、その後メルティは宿の女将さんに介抱されて、その日のうちに実家に帰った。


「とまぁそんな事があってね、大人のヨーコに聞きたいの、初めてってどんな感じ?」


「え?その流れでそれ聞くの?ってかメルティって……まだ乙女?」


「そうだよっ、純血のピチピチ未使用だよ!でも最近そういう事も覚えなきゃってさ、その時だって知らないから怖かったんだし、知ってれば「あ~あヤラれた」で割り切れたじゃん?それにそろそろ17だし、同い年くらいの子は結婚だってしてるしさ~」


「メルティって17だったの?ってそろそろって事はまだ16?酒飲んで良いの?」


「うん、今16歳だよ?お酒?13歳過ぎて成人の儀が終わったら飲めるよ?ヨーコも同じくらいでしょ?」


「21設定…じゃなくて21ですが、まぁそのくらいの歳なら興味持って仕方ないか、けど私もそんな経験豊富じゃないからあんまり参考にしないでね」


 メルティってメンタル強いのか弱いのかわからん、若さゆえなのか、日本なら思春期後期だし、けどなぁ初めてって言われても……大分昔だしなぁ、まぁ覚えてるっちゃぁ覚えてる、相手が速かったからあっという間だったけど、なんて説明するべきか……うん。


「まぁ恋愛小説に書かれている様なロマンチックに「幸せ」なんて感情は無かったよ、痛いし重いし恥ずかしいし、早く終われって思ったかな、でもね私の時はそろそろかなって心構えが出来てたし、男の部屋に行った時には「あ~今日か~」みたいな感じだった、下着は変じゃないかとか、そっちばっかり気になったよね、結果最初はそんな良いもんじゃないだね。」


「えぇ~そんな夢も希望も無くなるじゃん、でも最初だけなの?そんな感じって、その後は?どれくらいで気持ち良くなるの?」


「ちょっ!ちょっと待とうか、とりあえず出来上がったからそれ食べてよ、全く何の話しさせんのよ、そういうのは自分で経験して学ぶの、わかった?」


 メルティはスプーンを咥えて「むぅぅ」とか言ってる、でも前世で考えたらこのくらいの子供が居てもおかしくないんだよね、性教育か、もっとその辺を周りの友達に聞いとけば良かったな。


「やっぱりヨーコは経験済みだった、勿体ない事したねその人、私が男だったら絶対手放さないで、毎日愛してるって言ってチュッチュするよ!」


「もう、いいからそういう話は、食べたら薬飲みなさいよ、ちゃんとアレも交換してる?ちゃんとするのよ?」


 興味津々のメルティ、こりゃまだ終わんねぇなぁ、その後もメルティの質問攻め、だから開き直ったよ、全部喋ったし説明から何から何まで、年頃の女の子もった親の気持ちがよく分かったわ、え?何を教えたかって?メルティの相手になった男にしかわかんねーよーな事だよっ!


「それじゃ私はドワーフの所に居るから、ちゃんと休んでるのよ?」


「は~い」


 ドワーフの所に戻った私はホテル建設の現場に向かう、ホテルは高級感のある物を建てる予定、宿泊料金も宿屋の倍以上、スイートルーム、ジュニアスイート等の部屋も用意しておく。


 当初RC4階建てを2棟想定していたが、ドワーフに10階建ての模型を見せたら目の色が変わったので、予定を変更し試しに高さ30メートル想定で8階建てに大幅な変更をした。


 建て方も今後のことを考え、SRC構造にした、しかし私の経験した建築はRCまで、鉄骨を使用して5階以上のSRCは未経験、頭ではわかっていても実際に必要な鉄骨の本数、鉄筋の張り方やコンクリの厚さに至るまで何度も計算をした、現在は建物の地下部分、土台部分の工事中、予算に関してはエリックに相談をして1棟に掛かる予算として白金貨5000枚と報告してある。


 リトルティンダーのランドマークになる予定なので気合いも入っている、鉄骨で骨組みを組み、周りを鉄筋コンクリートで固めて行く、1番心配なのは地盤による傾斜、だから魔法陣様を使用したよね、今回は私が魔法陣を描いたけど、次回からはドワーフの魔法使いにやらせる、王族の工期に間に合わせるには魔法も魔法陣も全開使用、安全性が大事だからやり過ぎくらいが丁度いい。


 宿屋隊の建築が終われば次はクランハウスだ、クランハウスはRC工法の3階建て、1階は共用区にしてキッチンや食堂、会議用の大部屋、風呂、トイレを、2階に多目的ルーム、個室トイレを6、これはクランメンバーの宿泊部屋としても使える仕様で12部屋、3階は幹部部屋として6部屋、幹部部屋だけはトイレシャワー完備にしてある、屋上もあり、外からは見えない仕様にしておいた。


 造りは変わらないが外装デザインをドワーフにもやらせた、奇抜なデザインは却下したが、中には目を見張る様なものもあり、私も勉強になっている。


 結果私のデザインのクランハウスが5棟、残り25棟をドワーフのデザインにした、中身が一緒でも私はテラスや裏庭にウッドデッキ等、住む人の快適さに重点を置いた。


「私はしばらくダンジョンお休みかな~、ある程度目処が付いたらティンダーにも戻りたいし、ネロ達大丈夫かなぁ。」


 そんな事を考えながら周囲を散策、3ヵ所作った出入口には観音開きの門がついていた、門の下にはレールが敷かれ、その上を門が走る、ドワーフ達が頭を悩ませていたベアリングも、錬金術で正確な球体が作れる事を教えたら一気に活用し始めた。


「真似から学べる新しい活用法、それが形を変えて別の物に生まれ変わる、どんな道具も機械もそうやって進化して行く、自分が子供の頃あったら良いのにって思った物が、自分の産んだ子供の時代にはある、乗り物や生活用品、家電とか目まぐるしく変化する、いずれこの世界にもそんな変化が来るんだろうな。」


 さて、そろそろみんな腹を空かせて帰って来るかな、今日は何作ろうかな。


「こんな所に居たかヨーコ、実はちと厄介な案件だ、来てもらえるか?」


「グランドマスター、厄介と聞いて一気に距離を取りたい気分なんですが……行かなきゃダメですか?」


 いやいやながらも、グラマスの後ろについて行くと、何やら大層ごちゃごちゃした馬車が止まっていた。


「紹介する、こちらはイーグル王国王太子殿下のホーク様だ、ホーク様、こちらがエレメントのヨーコです。」


「初めまして、エレメントのヨーコと申します、どうぞお見知り置きを。」


 片膝をついて胸に手を当て一礼、はぁ確かに厄介事だわ。


「エレメントのヨーコ、先触れも無しに訪ねて済まなかった、私はどうしてもダンジョンをこの目で見たくてな、其方達の活躍をタブレット越しに見ていて気持ちを抑えきれなかった。」


「ホーク様は明日ダンジョンに入りたいと仰っておられる、俺は危険だと反対をしたのだが、エレメントがいれば大丈夫だろ?と言われてな、ヨーコはどう思う?」


 どこまで言って良いんだろう、多分グラマスからしたら断って欲しいんだろうな、ん~なんて断るか……。


「はい、確かに私達が同行して、10階層くらいまでなら何事もなければ行けるでしょう」


 殿下の顔に笑みがでる。


「ですが、殿下はこの国を背負って立つ御方、御身に万が一の事があれば私達は罪人になるでしょう、その万が一があるのがダンジョンです、そこで不敬を承知でお伺い致します。」


 近衛騎士だろうか?今の言葉に対して手を剣の柄に持って行った、でも知ったこっちゃない、コレは言わないと引かないから。


「殿下以外にイーグル王様のご子息はいらっしゃいますか?」


「不敬だぞ女っ!黙って聞いていれば冒険者風情が殿下に何たる言葉を!!」


 近衛騎士が剣を振りかざし斬りかかってきた、直線的な剣筋だ、避けて下さいと言わんばかりに、私は身体を半身ずらして剣を避け、近衛騎士の肘を蹴りつける、ビキッっと乾いた音がして持っていた剣を放り出した。


「失礼しました、騎士様の腕に蜂が止まっておりましたので、毒蜂だと思い退治したのですが、他の騎士様は大丈夫でしょうか?毒蜂に刺されたら命を落としかねません、退治しても?」


「バカ、よせっ!」


 騎士達に向かい歩き始める私をグラマスが止めに入る、私はグラマスを一本背負いで投げる、ずぅんと音を立て背中を着いたグラマス、私は止まらない、剣を向けた騎士も止めなかった騎士も一緒だ、殺されても一矢報いてやる。


「可憐だ、やはり貴女は素晴らしい。」


 後ろの方でなんか聞こえた。


「エレメントのヨーコ!私の妻になってくれないだろうか!!」


 剣を抜く寸前の騎士達も、ヤル気満々の私も、投げ飛ばされたグラマスも固まった。


「「「えぇー!」」」


 一斉に発せられる驚きの声。


「ははっ、お戯れを。」


「冗談ではない、私は最初に見た時から其方を見ていた。」


「ごめんなさい。」


 即答だよね、やだよ時期王妃とか妾とか絶対に嫌っ!


 私は項垂れて、ヒップバッグからポーションを取り出して、怪我をさせた騎士にかける。


「ごめんなさい、貴方も大変なのね。」


 騎士は顔を引き攣らせながら剣を拾う。


「それじゃ後は若い人同士で」


「ちょっと待てグランドマスター、お見合いみたいな事言って立ち去ろうとすんな!どういう事かちゃんと教えて欲しいのだけれど。」


 肩をガシッと私に押さえられ、逃げられない状態のグランドマスター。


「いや、俺が聞きてぇよ」


「んじゃ聞いてよ、聞きたいんでしょ?私には意味がわからないから。」


「うっ」て言いながらグラマスが殿下の方を向く。


「ホーク様、彼女はこの王国では平民です、身分が合いません、どうかご再考を。」


「それならば伯爵家辺りに養女にしてもらい、それから輿入れする方法もあるだろう?」


「それは無茶ですよ、強引過ぎますホーク様、下手をすれば国が割れます。」


 あんまり駄々こねるとアレが発動しちゃうよ?腕時計してるみたいだし。


「エレメントのヨーコはどう思っているのだ」


「お断り致します。」


「即答だとっ!?何故だ、悪い様にはせぬぞ?贅も尽くせるし、何不自由ない生活を約束する!」


「果たしてイーグル王様も同じ考えなのでしょうか?」


「うっ……それは……」


 こ~いつ王様の許しもなく、んな事言って来たのか?私はタブレットを取り出した。


「イーグル王様が同じ考えでしたら、私達はこの国を出ます、確認しても?」


「ちっ、父上にはまだ言っていない、其方の気持ちを先に聞かないとな」


「お断り致します。」


 取り付く島がない様に一択回答、それであーだこーだ言われたらマジで他の国に行く。


「ホーク様、諦めるのも大事でございます、貴方様の双肩には多くの国民の全てがかかっているのです、言い方は失礼ですが、この様な町娘に現を抜かしていては如何かと。」


 良いぞグラマス!頑張れ!


「ではこうしましょう、彼女はどうやら自分よりも強い男でないと靡かないと聞いております、ホーク様が模擬戦で勝てば良いのです、勝って己の武を示せば彼女の気持ちも変わるかも知れませんぞ?」


 ドヤ顔でこっちを見るグラマス、何訳分からん事提案してんだ、私は手加減しないわよ?そしてその顔でこっち見んな。


「我が近衛の騎士達よ、我こそはと思う者はいるか?」


 んだよ、殿下相手じゃねーのかよ、逃げてんのか糞ガキ!


「では私が。」


 1番奥にいた近衛騎士が前に出て来た、あれ?女の人?


「アリエルか、確かに其方ならば……。」


「ホーク様、それでは趣旨が変わってしまいます、ホーク様がお立ち会い下さい。」


 グラマスがちょっと焦ってる、彼女強いのか?


「グランドマスター、私は構いませんよ、ただ、こういう事は今回限りでお願いしたいのです、宜しいですか?」


 殿下はコクコク頭を上下している、グラマスが書面に残すと言って羊皮紙を取り出し、お互い勝利した後の条件を書き記した。


「ヨーコ大丈夫かぁ?アリエルって伯爵家の次女だが騎士団は別として、近衛じゃ1番の実力者だ、負けたら責任取れねぇからな。」


「ん~大丈夫かな?多分、それから後で説教するので逃げないで下さいね。」


 グラマスは「えっ?何で?」って顔してるけどお前が事前に止めんだろ、焚き付けてどうすんだよ!


「模擬剣が無いから、お互い真剣で良いわよね?」


「私は構わない。」


 アリエルも納得してくれた。


「お互い殺すのは無しだ、わかってるな?怪我程度なら治せるが死人は生き返らせれねぇからよ。」


 お互い向き合って、模擬戦が始まった。


 まず斬りかかって来たのはアリエル、綺麗な剣筋だ、だから読みやすい、私だって日々マーチ達と時間を見つけては鍛えている、今ではジューンには敵わないけどマーチとオクト相手なら5本中1本は取れる様になったのだ。


 その後もヒラリヒラリとアリエルの剣を躱す、サーベルタイガーの方がよっぽど速い、アリエルも少し焦って来たのか、剣筋が甘くなって来た、避けてるだけじゃ決着がつかないので私も少し攻撃をする、アリエルは上段から渾身の振り下ろし、剣でいなしていざカウンターって時に脇から魔法が飛んできた、私は咄嗟に避けれたが、顔を狙って来た魔法、放ったのはさっき腕を折ったヤツだ。


「アリエルさん、楽しかったわ、ちょっと水を差す阿呆がいたからお仕置しなくちゃならないの、ごめんね。」


「奇遇ですね、私もです。」


 アリエルの横薙ぎを躱して首筋に剣を添えた。


「勝者ヨーコ!」


 その声と同時に2人とも素早く踏み込み私が右から、アリエルが左から、魔法を放った騎士をぶん殴る。


「グランドマスター、見えてましたよね?魔法、横槍入れる恥晒しな騎士もそうですけど、注意して中断しないグランドマスターも同罪です、私の怒りのパンチを受けて見ろ、覚悟!」


 観念したグランドマスターは歯を食いしばり力を入れる、「必殺パーンチ」と叫びながら私はグランドマスターの股間を蹴り上げた。


「うぐっぐっぅっ!おまっ!蹴りじゃねーかっ!しかもっ!」


「お立場は理解しているので、コレで勘弁してあげます。」


 その場に悶絶して蹲るグランドマスターと、殴られて失神した近衛騎士、アリエルが殿下に説明しているが、殿下の腰が引けている、他の近衛騎士もなんだか内股になってグランドマスターを見ていた。


「エレメントのヨーコ、約束だ、仕方ない、私は其方を諦めよう、それと私の近衛がすまなかった、騎士の風上にも置けぬが私を思ってした事なのだろう、許して欲しい。」


「はい、ホーク殿下、先程の一発で私の気はすみましたので平気です、殿下はどうか素晴らしい王になって、私を後悔させて下さい。」


「あぁ、必ず後悔させて見せよう。」


「はいっ!」


 笑顔で殿下と握手を交わし、アリエルとも握手した。


「ヨーコさん、お強いのですね、もし機会がありましたら、また手合わせをお願い致します。」


「はい、その時はどうぞよろしくお願いします。」


 元々近衛騎士の剣は護りの剣って誰かに聞いた、倒しに行くのではなく、主君を護る剣、自己犠牲を美しいとは思わないけど彼女の剣は美しかった。


 結局殿下達は1泊して行く事になった、私は新築の宿にベッド等をドワーフに運び入れてもらって、殿下を案内し設備の使い方を教えた。


 その後、ダンジョンチームが合流した、メルティはずっと馬車で寝ていたらしく、あの騒動に気付いていなかった、経緯を全員に話したらかなり引いていてガトーが「不敬罪……」とブツブツ呟いていたよ、ダンジョンチームは帰りがけに「肉屋さん」に寄って大量の肉を持って帰って来たので、今日は殿下達と近衛を交えてバーベキューだ!


「殿下、賢王になるには市井の生活も学ばなければですよ、さぁこちらへ、自分の肉は自分で育てるのです!」


「それは学ばなければ!近衛よ、お主らも来い、肉を育てるらしいぞ!」


 楽しんでくれてるみたいだ、近衛騎士は殿下を護衛する為酒は飲めない、でも腕時計をしてるから平気っぽいけど、嫌がる近衛に飲ませるのもアレだから、殿下にはワインを飲ませた、やっぱりバッカスの酒はかなり上質らしく、殿下でも美味いと言っていた。


「はぁ、楽しいなぁ、私も王族でなければこうやって仲間と酒を酌み交わし、デカい肉に齧りつき、冗談を言い合っていたのであろうな、もしかしたら冒険者になって様々な場所を旅していたかも知れぬな。」


「殿下は冒険がしたいのですか?」


「冒険と言うよりは、色々体験してみたい、コレ(腕時計)が来るまでは食事は冷たく、どこへ行くにも護衛が付き、聞きたいことも聞けず、言いたい事も我慢してきた、だからダンジョンが見つかり、冒険をする其方達が羨ましかったのかも知れぬ。」


「なるほど、ではせっかくですので明日ダンジョンに行きますか、もちろん私達とですよ、近衛騎士様からは4名選抜してください。」


「良いのか?迷惑では?」


「別にあの時は意地悪で言った訳じゃないんです、殿下のお気持ちを確認したかっただけなのです、生半可な気持ちでは本当に怪我をしてしまいますからね。」


「そうか、それはすまなかった」


 冷静に話せば良い奴じゃん、エリックも人格者って言ってたし、まぁ最初の行き違いはあったけどね。


「流石にレッドドラゴンの階層までは難しいですが、10階層くらいまでなら大丈夫かと、勿論勝手な行動は控えていただきますが、どうしますか?」


「ならば、其方等に負担のない所まで頼む。」


「かしこまりました、それと殿下、こちらを、即死無効のアミュレットとライカ様のアミュレットでございます、念には念を、それとダンジョン内はかなり歩きますので履き物もこちらで御用意致します。」


「うむ、かたじけない。」


 その後殿下はガトー達から今日の戦いや宝箱の話しを聞いて、風呂に向かった、殿下達に人数分のタオルとバスタオルを渡した後に


「ヨーコさん、今日はありがとう、殿下も大変喜んでらっしゃった、それと彼が……」


 アリエルの視線の先にはさっきぶん殴った近衛騎士。


「ヨーコ殿、済まなかった、殿下は一切関係ない、私の独断で卑劣な行為をした、許して欲しいとは言わないが、謝罪だけは受け取って欲しい。」


「私はさっきの一発で許してるわ、それに貴方の行動にしても、正しいとは言えないけれど、殿下への忠誠心からの行動だと思ってる、だからもうこの話は終わりにしましょう。」


 近衛騎士は頭を一度下げ、戻って行った。


「ねぇアリエル、貴女お風呂入るでしょ?近衛騎士の皆さんも入るみたいだし、一緒に入らない?男女別れてるから平気よ?それと呼び捨てで良いよ、アリエルの方が立場は上なんだから」


「ふふっ、そうね、でもヨーコと一緒に入ったら殿下にヤキモチ妬かれそうね」


 アリエルとお風呂の約束をして、私はグランドマスターに一応謝りに行った。


「全く、潰されたかと思ったぜ、んでちょっと見ていたが、随分ホーク様と仲良くなったんだな」


「仲良くって言うよりは、お互い心を開いたって感じです、少なくとも先程の殿下は等身大の殿下だったかと、ですから希望だったダンジョンにも明日行きます、まぁ上層ですけどね。」


「すまんな、無理を言って」


「問題ありません、気にしないで平気です。」


 グランドマスターの所から戻ると、ちょうどメルティがお風呂から出て来た、彼女はシャワーだけ浴びて出て来たようだ、湯船に浸かれないのは可哀想だけど仕方ない。


「ヨーコ、待たせた」

「大丈夫、今来たところよ!」


 やってみたかったんだよね、このやり取り。


「じゃぁ行こっか~」

「お姉ちゃん私も~」

「メイちゃん?待ってたの?」

「うん!」


 お風呂に行く前に、毎回恒例ゲーム部屋観察、あれ?殿下居んじゃん、んで目の前で真っ白になってるグランドマスター、初心者と思って勝ちに行ったら返り討ちにあった感じか、笑える。


「殿下が楽しそうだ、良い息抜きになれば良いなぁ。」


 脱衣所でまたビックリ、アリエルは胸にサラシを巻いていた、しかもちょっと大っきい、くっ!サラシで押さえていたのか、胸の大きさでマウントを取りに行って負けた、人の振り見て我が振り直せ、その言葉が私にグッサリと刺さったよ。


 敗北感を味わいながらお風呂を出た私、焚き火の所でガトーが酒を飲んでいたので、気になってた事を聞いてみた。


「ねぇガトー、昔どっかの宿屋で女の子助けた事ない?」


「んあ?ん……あ!あぁ、あいつはわかってねぇから言うなよ。」


「え?あの子気付いてないの?」


「そんだけショックだったんだろ、そん時一緒に居た女房に、デリケートな部分だからそっとしとけって言われてっからよ。」


「え?ガトー結婚してたんだ!マジかわかんなかったよ!子供は?」


「おぉ、ガキは男と女、でかい方が男で今5歳だ、チビは3歳」


「ちょっと!今度奥さんと子供紹介してよ」


「あぁ、今度な」


 あ~この返事だと私が行かないと紹介しないな?よし、ティンダー行ったらお菓子たくさん持ってガトーの家凸してやる!!男の「今度な」って言葉で今度があった試しは無い、私は前世で学んだのだ。

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