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前世は大工女子の異世界生活  作者: 森林木林森
15/49

全員揃ったね

 いやぁエリックの馬車を男ドワーフの工房で作った時は大惨事になりそうだったよ、へばりついて離れないからさ、最終的に鉄拳制裁して引っぺがしたよね、仕方ないから予備の部品を取り出してそれと同じもの作らせたり、ドワーフの中にも錬金術師が居るからスライム薬を作らせたり、作ってる最中に靴に興味持ち始めて質問攻め、だからやっぱり鉄拳制裁。


 ちょっとぐったりしていたら3人が帰って来て、お土産のワイバーン肉1頭分を持って来た、まだネロは体がないので物質に直接干渉出来ないから私が料理して振舞った、それから工房に行き明日には仕上がるマーチ達の体の最終チェックしたり、みんなのベッドや椅子、机、ネロ達のメイド服、部屋着、普段着、マーチの装備等に加えて大理石っぽいので浴槽もガツガツ作って中々ヘビーだった、食後のジューンに温泉引けないか相談したら、問題なく出るけど土地柄熱くない冷泉で、こうなりゃボイラーでも作るかって工房に潜って現在に至る。


 ボイラーと言ってもかなり簡易的な感じで火の魔石を中心にして螺旋を描いたパイプを2本通す、風呂場の蛇口を捻ると魔石が反応して高温になりパイプ内の冷泉を暖かくする、シャワーの方は真水を使うから別の配管をボイラー経由で風呂場に引いた、給水は魔法陣様々で「吸い込み」と「吐き出し」の魔法陣でポンプを作ったのでそれをボイラーに直結、井戸水は浄化の魔法陣でいつも清潔ピロリ菌無しのパーフェクトウォーター。


 トイレもタンク型の水栓にしたよ、紙が貴重だからウォシュレット付きの温風乾燥付き、宿だとそれ用の葉っぱが置いてあったから使う時躊躇したよね。


 排水はキッチンと分けてキッチンからの排水は浄化の魔法陣を付与した排水管から脇の小川へ、お風呂とトイレの排水は浄化の魔法陣付与の浄化槽を作った、浄化槽の水は庭の芝生や花の水やりにリサイクル。


 みんなが手伝ってくれたから半日で作業終了、つくづく思ったのは桶は桶屋だ、専門家に任せた方がいい、大工時代の記憶と図面を見ただけで把握してたつもりだったけど、実際見るのとやるのは大違い、特に排水管や浄化槽の設置にはメイちゃんの土魔法が無かったら庭中穴だらけにする自信があったくらいだ、見えない地下の仕事は大変だったわ本当に。


 そんなかんなで完成したお風呂に私、ジューン、メイちゃんで入る事にしたよ、ボイラーが思い付きで作った割にはいい仕事をしてくれている、出口で混合栓にしたけど温度調整も上手くいってる、魔石と魔法陣は凄いねぇ。


 お風呂に給水している間に工房でシャンプー、トリートメント、ボディソープを本格的に作る、今までは汗を流して浄化していただけ、実際浄化すればシャワーすら必要ないんだけどそこは気持ちの問題で、前世の記憶でルーティンになっているのさ。


 工房を出た頃にはお湯が半分溜まっていたのでソワソワしてるとメイちゃんが横に来て一緒にソワソワしてくれた、可愛いなぁ本当に。


「それじゃ行きますか助さん格さん、いざお風呂!」


 私のボケなど華麗にスルーされて脱衣場で3人スッポンポンに、ジューンがやっぱりすげぇ、自分が作った体だけどボリュームと言うか圧倒的存在感と言うか、ジューンが私の視線に気付き「触りますか?」とか言って来たけどそれ男とかに言っちゃダメだからねっ!私は触るけれども!失礼しますっ!いやぁ凄いとしか言えないね、これだけの質感は中々無いよ、作った私を褒めてやりたいわ!


 顔を入念に洗う、前世からの癖でブスでも肌は綺麗にしなきゃと中学生から続けてる、それから頭と身体を洗いいざ湯船へ。


「ふぇぇぇ~いぎがえる~お肌ちゅるっちゅるだぁ~」


 まさに至高とはこの事でしょ、メイちゃんもジューンもトロ~ンとしてる、この気持ちよさはホムンクルスだろうと一緒なんだな、しばらく3人で雑談して風呂から出る、もちろん最後に真水のシャワーで身体を流してから、身体を拭いてメイちゃんの髪の毛を乾かして、冷やしたアイスティーで乾杯、少し甘くしたアイスティー、食道から胃へ流れていくのがわかる、牛乳でも良かったけど非加熱の牛乳は怖いからこの世界に来てまだ牛乳は飲んでない。


『お風呂は気持ちいいのです?』

『私達も入って良いなのです?』


 マインとレーラがふよふよと周りに来て聞いてきたから


「1日の終わりに入ると気持ち良くてぐっすり眠れるの、明日には一緒に入れるからね、もう少し我慢してね。」


『『はいなのです!』』


「オクト、貴方も入ったら?」

「いや、俺水はちょっとさ、体があるから大丈夫なのは理解してんだけど、まだ気持ちがさ。」


 私はオクトの気持ちを汲んで浄化の魔道具を使った。


「どう?初めてのお風呂は」

「暖かい水に浸かるのはあまり経験がありませんでしたがこの体のせいか、とても心地良いです、また入りたいですね」

「メイも気持ち良かった、それにお姉ちゃんと一緒で楽しかったぁ~」


 良かった、2人とも好印象だ、お風呂仲間が出来て嬉しいよ。


 各部屋には既にベッドが設置されている、お風呂に入る前にオクトにお願いしておいた、私の部屋もみんなと代わりないストイックな部屋、これから色々作ったり買ったりして個性を出していきたい。


 夜中メイちゃんが部屋にやって来た、話を聞くと寂しくなったらしい、確かに初めての1人部屋心細くなったんだね、前世も妹がよく来たっけな、その度にこうやって小さなベッドに2人で向き合って寝てたっけ、メイちゃんの体は私より2歳年下設定だけど心はまだ子供だもん。


 翌朝誰かに髪の毛を触られる感覚で目が覚める、メイちゃんが目の前にいて私の髪の毛を触っていた。


「お姉ちゃんおはよう~」

「おはようメイちゃん。」


 まだ朝は肌寒い季節、寝室から1階に降りると暖炉には火が入っていた。


『おはようございますヨーコ様、メイ様』

『『おはようございますご主人様なのです』』

「おはよネロ、マインにレーラも、おはよう、貴女たちの体は今日の夕方に出来るからもう少し待ってね。」


「おう、ヨーコおはようさん、今日も市場か?」


 オクトが暖炉に薪を放り投げて今日の予定を聞いてきたので


「そうね、子供達の事は教会に任せてるから教会には行くつもり、オクト達はどうするの?」


「昨日の帰りにメイが大峡谷でダンジョン見つけたからちょっと潜るつもりだ、多分だがあのワイバーンもそこから来たんじゃねーかと思ってな、狼男でも誘って偵察に行ってくる。」


「狼男って誰よ、まぁいいわ、でもダンジョンって珍しいんじゃないの?」


「あぁ珍しい、多分街の連中は気づいてねんじゃねーかな、入り口が崖の壁面にあったから、マーチに今覗きに行ってもらってる。」


 ダンジョン、ダンゴからこの街に来る途中で話が出たっけ、確か神が作った遊技場とも呼ばれ、様々な未知のアイテム、希少金属、レア魔物、その深さは未知数で時が経つほど大きくなる、未知のアイテムは誰が作ったのか様々な謎はあるが訪れた者に富と名声を与える、ダンジョン内で魔物を倒すと死体は残らず魔石と運が良ければ関連したドロップ品を落とす、まるで何処かで誰かが運営してんだろと思えるような不思議空間だ。


「へぇ~ちょっと興味あるかも、崖の壁面って事は普通には入れないよね、どうすんの?」


「んなもん、上からロープで降りるしかねぇだろ、ただ場所が大峡谷でも深い所で結構降りるから、最悪メイに足場作ってもらいながら降りるかだな。」


「メイちゃんよく見つけたねぇ」


「あそこの橋渡る時に魔力の溜まった場所があったのは前から知ってたの、帰る時に思い出してオクトに教えたの」


 メイちゃんは大地母神の系列だから大地の事には詳しいのかもね、昨日の話といい最近メイちゃん大活躍だ。


『お待たせ~あれ結構古いダンジョンだよ、少し入った感じだと多分メイが生まれる前からじゃないかな、ボクもあれは把握出来なかった、メイのお手柄だ、魔物も数はかなり居たよ中々難易度が高そうだね、総階数は50階以上あるね、サーチの風が戻って来なかったから。』


 マーチが珍しく興奮してる、ダンジョンって精霊達にも楽しいものなのかな?


「ダンジョンは金になる、大峡谷のこっち側の壁面だからこの街のエリアだ、時間も2時間あれば着くからティンダーとしては宝の山だな、そういやヨーコの友達は今居ないんだろ?報告した方が良いんじゃねーの?」


 あ、そうだティンダーの街に関わる事だからエリックに報告しなきゃだ、ガトー達を連れて行くのはその後が良いはず、冒険者ギルドの利権なんかも絡むだろうし、先にエリックに報告してからが正解だろうね。


「そうだね、間違いなくエリックに先に相談した方が良い、あの人そういう情報の処理の仕方が上手いと思うから、オクトには悪いけどダンジョンはその後ね。」


「まぁそうだろうなとは思ってたから大丈夫だ、んじゃ今日はヨーコの手伝いでもすっかな。」

「私も手伝うよ~」


 ありがたい、今日はキッチンの改装をする予定だったから手が多いのは助かる。


「ありがとう、そういえばジューンは?」


『まだお休み中です、お声がけしてきましょうか?』


「大丈夫よ、きっと昨日のお風呂が効いたんだと思うわ、休ませてあげといて。」


 それからすぐに目を擦りながらジューンが降りてきた、予想通りお風呂でリラックスできたみたいだ、水属性だもんね。


 ジューンの身支度を整えて出発する、マーチはもう一度ダンジョンを覗きに行って来ると飛び去って行った。


 私達の屋敷から教会に行くには市場を抜けて行くのが近道で、せっかくだから市場で朝食をとることにした。


 市場に入ると色んな屋台から声が掛かる、その中でも一際熱心に声を掛けて来たのはフライドポテトおじさん、中々の繁盛振りで娘さんを売り子でアルバイトさせてるらしい、おじさんは黙ってフライドポテト4人分渡してきて「味見してくれ」と言ってきたからありがたく貰った。


「油が少ししつこいかな、交換しないとカラッと揚がっても匂うし、油をしっかり切るのも忘れないでベチャってなって口当たりが悪いから、油にコストがかかるけど生命線だから、適度に交換した方が良いよ。」


 おじさんは熱心に私の助言を聞いて頷いていた、エールやワインにも合うからね私も大好きだからポテト、頑張って欲しい。


 ポテトを食べながら市場を散策、食材なんかも見た事無いものばかりだけど、神眼先生がその辺は仕事をしてくれるから安心。


 結局朝食とは呼べないがポテトを食べてモタれたので買い食いは終了、教会を目指し進む、広場は少し小高いので街を見下ろせる、遠くに子供達の服が見えた、今日もやってるね!


 子供達の様子を見て教会に向かうと行列が出来ている、なんの行列かと並んでる人に聞くと


「教会の女神様に祈ると身体が軽くなるんだ、あの婆さんなんか曲がってた腰が伸びちまってな、女神様の御加護だって噂になってよ、アンタらも並ぶならこの後ろだぜ!」


 うーん、やり過ぎたかも、50人は並んでるし、今日は諦めるか......。


「はっ!ヨーコさん!」


 諦めて教会を去ろうとしたらシスターに見つかり呼び止められた。


「あ、ども」

「お待ちしておりました、どうぞ中へ」


 いや並んでる人に悪いじゃん、こっち見てるし~


「こちらの女性はこの教会の恩人で信仰深き方です、皆様ご理解を。」


 そう言って行列に頭を下げるシスター、行列の人も罵声を浴びせるどころか感謝の声すら聞こえる。


「皆様は敬虔なライカ様の信徒でございますので、どうぞこちらにおかけになって下さい、今シスターマーサを呼んできますので。」


 教会脇の宿舎?みたいな建物の中に案内された私達、以前は居なかった10代半ばくらいの修道服を来た女の子からお茶をいただいた。


「ヨーコ様、お待たせいたしました、御覧になって頂けましたでしょうか、皆さん信仰を忘れて居なかったのでしょう、連日早朝より「奇跡のライカ様像」に祈りを捧げに来て下さります。」


「奇跡のなんですか?」


 マザーは興奮したように話をしてきた、祈れば身体の不調が良くなり、疲れも取れる、夜になると女神像が淡く光を放ち幻想的な姿になるなど、あ~やり過ぎたわ、完全に癒しの観光スポットになってるわ。


「なんだかご迷惑をかけてしまってすみません。」


「とんでもございません、私達は救われたのです、ライカ様にもヨーコ様にも、先程の彼女は修道女見習いとして今は居るのですが、身体が弱く縋る思いでライカ様に祈ったところ、たった1日で走り回るまで回復したのです、今は救って下さったライカ様の為にと、彼女の希望でこちらでお手伝いをして貰っております」


 更に話は続き、そんな女性が後を絶たない、何故か女性の方が祈りの効果が強いそうだ、まぁ女神様だからね、教会が再開してから2日しか経ってないはずなのに人の噂は拡がるのが早いねぇ。


「それじゃお忙しいでしょ、子供達の面倒は私が」

「私共がヨーコ様に頼まれた事でございます、それを蔑ろにする事はございません、スラムの子らも協力してくれておりますので、そちらはお任せください。」


 言い切る前に言い切られた、まぁ助かるけどさ、私はヒップバッグからスライム薬を5000錠マザーに渡し教会を後にした。


「あの場所は気持ちいいな、俺も来るかな。」


「オクト?」


「確かに神気に溢れておりましたね、神が降りたのでしょうか、私達にも安らぎと力を感じました。」


「うん、ホワァってしたね、母様みたいだった。」


「どゆこと?」


「聖地化したんだろ、じゃなきゃあんな力は感じねぇ、俺達にも力が伝わるんだ、相当だし微精霊達が集まってるのがその証拠だ。」


『ライカ様が1度憑依したみたいだね、多分あの女の子は神気を浴びたんだよ、だから身体が一気に良くなったんじゃないかな?』


「ちょっとライカ何やってんのよ~~!!」


 空に向かって不満たっぷりに叫ぶ、チラッとライカがてへぺろ☆してる姿が頭に浮かんだ、あのチョロ女神めっ!


『んで、ヨーコに悲しいお知らせを一つ......』


「えっ!誰か死んだ?エリックとか?エリックとか?エリックとか?」


『エリックって人がヨーコの中で真っ先に死ぬ人認定されて可哀想な気がしてならないけど違うよ、ほらあの時ライカ様だけじゃ無かったよね作った神像。』


「まさか......。」


『うん、残念ながらその予想は当たってるね。』


 ヴィラーまでっ!何やってんのさあの2柱は!


「うん、職人街に近付くのは当分止めよう、ただでさえ暑苦しいドワーフが興奮して更に暑苦しくなるのは目に見えてるから。」


 私は足早に市場を抜けて屋敷に戻ることにした。


 屋敷に戻ってもやる事はある、キッチンの改装はネロの意見を聞きながら工房に入って作り出て設置、入って作り出て設置を繰り返し、所々レトロな最新型キッチンの出来上がり。


 まぁなんという事でしょう、竈を使っていた古臭いキッチンが、火の魔石を使ったコンロが4基、煮込み料理や炒め物、揚げ物、なんでも来いとばかりの風格、その横には大型のオーブン、グラタン、ピザ、ローストビーフにパンも焼ける、更に横にはなんでも洗える大型のシンク、そして振り返ると広々とした作業台、下部には食材を冷やすコールドスペース、壁には大型冷蔵庫と冷凍庫が並ぶ最新鋭でちょっぴりレトロなキッチンの出来上がり。


「こんなもんかな、どう?ネロ」


『はい、素晴らしいですね、こちらで仕事をするのが楽しみでございます。』


「んじゃそろそろ工房行こうか、マーチー!マイン、レーラもおいで~」


 集まった精霊達を集めて工房にGO。


「マーチ、とっくに出来てたのに待ってもらって悪かったね」


『大丈夫だよ、ボクが手本を見せた方がブラウニー達も安心出来るだろうからね。』


「そう、ありがとう、それじゃ今服を着せるから、着替えが終わったら受肉してね。」


 マーチの培養機から培養液を抜き体を拭き取る、そして服を着せたら。


「良いわよマーチ。」


『うん、外で待ってる。』


 マーチは体に入った瞬間工房から消えた、同様にネロ、マイン、レーラの順に受肉した。


「これで全員の体が身体になったわね。」


 静まり返った工房を見て歩く。


「1人だなぁ」


 そして工房の外に出た。


「「「ありがとうヨーコ!!」」」


 みんなが勢揃いして声を上げた。


「えっ?なになに?どうしたの?」


「ヨーコがみんなに身体をくれたからそのお礼さ、流石に時間が無くて料理は市場やギルド食堂の物だけどね」


 テーブルには所狭しと料理が並び、私がよく注文するワインのボトルが並んでいる。


「ははっ、なんだよ、みんなして、精霊にサプライズの考えがあるなんて知らなかったよ、泣きそうだよ。」


「「泣かないでくださいなのです。」」


 触るな、優しく見るな!その温もりでダムが決壊しちゃうだろ、あ~あ、止まらなくなっちゃったよ、もう。


「ヨーコは笑ってんのか泣いてんのかどっちかにしグフッ!ジューンなにを......」


 オクトの身体が綺麗なくの字に曲がった、ジューンは残心をとってる、完全に殺る気じゃん、ホントにウケる。


「あははっ!オクトにデリカシーってもんがないからジューンにボコられてやんの!バカだなぁ本当に、みんな!ありがとう、これからもよろしくっ!」


「お姉ちゃん飲むぞーは?」


「あ~んじゃ飲むぞ~乾杯!!」


 いやぁ、そっからはあんまり記憶がない、しこたま飲んでしこたま食べた、メイちゃんが双子に「幸せイコール美味しいだよ」とか教えてるの見て癒されて、オクトとジューンにひたすら飲まされてるマーチを見たり、人の動きじゃないとすら思えるような速さでみんなの世話をするネロに感心してから、私はボトルを手に取りマイクにしてアニソン歌ってみたり、ジューンが脱ぎ始めたから止めたりと、とにかく騒いだよ。


「あぅぅ、あったま痛てぇ、完全に二日酔いだよ、きっつ......どうやって部屋に来たのか忘れた。」


 私はヒップバッグから胃薬と二日酔い覚ましの薬を人数分出して飲んでから各部屋を回った。


「おはようございますヨーコ様、お食事は受け付けないと思われますので、庭のハーブで淹れたハーブティーをどうぞ。」


 良かった、ネロはしっかりしてる、脇からマイン達が顔を出して様子を見てる、ニコッと笑顔を見せたら笑い返してくれた。


「おはようヨーコ、薬ありがとう、初めての経験だよ気持ち悪いのは、身体を持ったと実感した。」


 マーチの後にメイちゃん、オクトが降りてきて最後にジューンが降りてきた。


「みんなおはよう、しばらくしたら薬が効いてくるから、ネロ、みんなにも同じ物をお願いね。」


 ネロの淹れたハーブティーをマインとレーラが運んで来た、配り終えるとペコッと頭を下げて可愛いんだけど、なんかそれはとネロに言ったら「上位の者を敬うのは当たり前」と言われた、マーチ曰くブラウニーは特に上下関係に厳しいらしい、それでもネロ達は柔軟な方だと。


「ヨーコ、ダンジョンはどうする?報告するにもまだ時間かかんだろ?」


 オクトが言ったすぐにネロがすっと近寄ってきた。


「来客でしょうか、今外に馬車が止まりました、ヨーコ様私共が対応してもよろしくですか?」


 誰か来たみたいだ、ネロにお願いをして報告を待つと


「お客様はエリック様と仰っておりました、お通し致しますか?」


「あちゃ、それ街の偉い人、すぐにお通しして、お茶とお菓子もお願いね。」


 私は慌てて玄関に向かった。


「ヨーコ、先触れも無しにすまぬ」


「いえ、こちらこそ、どうぞ中へ。」


 偉い人が来た時用の応接室にエリックを案内して、オクト達に声を掛けた。


「ダンジョンの説明を私じゃ出来ないから呼んだら来てくれる?」


 オクト達に了解をもらってから応接室に入った。


「ごめんなさい、エリックお待たせしました、今日はどうされました?」


 イキナリ来るんだもんびっくりしたよ。


「うむ、まず突然来てしまった事を詫びたい、すまない。」


「大丈夫ですよ、それで?」


 エリックはゆっくり話し出す、王都までの馬車の快適さや王城での事、調子に乗って馬車の注文を安請け合いしてしまった事など


「全く問題ないですよ、ドワーフ達も必死に技術を取り入れていると思いますし、数ヶ月後には何台か完成するんじゃないでしょうか。」


「それとだ、ヨーコの作る魔道具には魔石が必要なのだろ?実は今魔石が枯渇しているのだ、以前まではこの辺りにも魔物が多くそれ程頭を悩ませて居なかったのだが」


 私の作る魔道具には必ず魔石を使用する、メインの動力源だったり予備の動力源だったり、以前エリックに話した事を思い出した。


「そうですね、錬金術にも魔石を使う事も多々ありますし、今後はもっと必要になるでしょう。ちょっとお待ちください。」


 私は席を立って外に出ると吸血石を持って戻った。


「これは吸血石と言って討伐した魔物の血抜きに使うつもりで作った物です、先日私の仲間がワイバーン討伐に行きこれを使いました、5匹分の血を吸わせたのがコチラです。」


 真っ赤に染まった吸血石をエリックに見せると顔色が変わった。


「魔石そのものでは無いのか?しかもワイバーンを討伐?相当な実力が無ければ......。」


「私の仲間ですからね、それよりもワイバーン討伐の帰りに偶然あるものを見つけたのです。」


 吸血石を手に持ち眺めていたエリックの動きが止まる。


「あるものとは?いや、ちょっと待て、深呼吸する」


 すぅーっと音が聞こえるくらいの深呼吸をしたエリックが「よし、良いぞ」と言ったので


「ティンダー領内でダンジョンを見つけました、しかもかなり大きいサイズの、仲間が言うには300年物とか言ってました。」


「ダダダッダンジョンだと!」


 エリックが座っていたソファーから立ち上がり絶叫した。


「私は直接見ていないので説明は出来ませんが、仲間をお呼びしても?」


 エリックはこめかみに指を当てグリグリしている。


「その前にこっちを片付けよう」


 吸血石を指差したのでレシピを渡して説明をした、しかしこれを作るには毛嫌いしている錬金術師会を使わなければならない、ただ、組合に入っていないドワーフや見習い錬金術師でも錬金釜があれば作れると言ったら解決した、ドワーフにスライム薬も作らせている事を教えたらエリックの顔がニヤリと黒い顔をした。


「流石ヨーコだな、ドワーフには貸しがあるから上手く使おう、見習い錬金術師にも作業はさせ易いだろう、何せ組合費が錬金術師会は高いからな、恩恵は僅かしかないくせにな、よしこの際だ錬金術師会をぶち壊すか!」


 目に殺意が見える、メラメラと燃える火が目視できるほどに。


「手が必要ならほかのレシピも公開するから声かけてくださいね、それじゃダンジョンの方の話をしますか?」


 その瞬間エリックの目から闘志が消えて怯えた子羊のような目になった。



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