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前世は大工女子の異世界生活  作者: 森林木林森
14/49

領主エリックの苦難。

 私の名はラルク・フォン・エリック、30歳、歴史の古い侯爵家の嫡男として生まれた、学生時代の成績は首席で卒業と同時に王都の生産省に配属となった、私自身、他人を使う事に長けており、部下達はもちろん、緑の公爵からの信頼も厚かった、29になった頃、かねてから評判の悪かったティンダーの領主家が王族の逆鱗に触れ取り潰しとなり、その後釜に緑の公爵様の推薦もあり私が着くこととなった、当初は若輩者が等の陰口もあったが、今ではティンダーはラルク侯爵の領地と認められている。


 領主になり約2年、年齢も30を過ぎ周りから侮られる事も少なくなって来た、領地経営も落ち着き、あとのネックは前領主の負の遺産であるスラムだけとなった。


 そんなある日、当家の御用商人の1人であるダンゴが素晴らしい物を持ってきた、「腕時計」と呼ばれるそれはとても精巧に作られており、ある種の芸術品と言っても過言では無かった、ダンゴはその他に今まで聖皇国頼みだった砂糖の精製法を持ってきた、それは驚くほどありふれた素材で作られており、聖皇国の砂糖に引けを取らない物だった、私はすぐにそれを教えた者を連れて来いとダンゴに言ったが、どうやらその者はこの国の者ではなく、更にはあの秘密めいた北の帝国からダンジョンの罠によって飛ばされてきた者だと、それを聞いて私はダンゴに信頼関係が築けたら会わせろと伝えた。


 ダンゴから連絡が来たのはそれからすぐだった、ダンゴと日時を決めその日はやってきた、今思えばこの胃の痛みの原因だったのだが……。


 目の前に現れたのは人とは思えない程美しい女性だった、気品ある顔立ち、スラリと長い手足にバランスの良いボディライン、多分帝国の正装なのであろう、見た事のない黒の服装はそれだけでも目を引いた。


 話してみると年相応な対応をする普通の女性で、私から友になると言った時の微笑みは天使にも悪魔にも見えた、その後は砂糖の取り引き条件や工場、出資条件等の意見を出し合い、本丸である腕時計の話をした。


 芸術品とも取れる腕時計だが、唯一難点がある、全て同一のデザインなのだ、新しい物を売る前に王族に献上するのが王国貴族のルール。


 王族が身に付けているものと同じ物を身に付けるのはタブーであり私の悩みになった、そこでダメ元で彼女に王族専用のモデルを作れないか頼んでみることにした、ダンゴの話では、偶然彼女が師事していた方の工房にあった物を組み上げただけだと聞いていたので「作れません」そんな返事を覚悟で頼むと二つ返事で「作れますよ?なんなら毒無効とかつけちゃいますか?」私は全く意味がわからなくなり隣にいたダンゴの頭を強く叩いてしまった、だが私は安心した、これで悩みは解決すると。


 結果悩みは倍以上になって私に押し寄せてきた、依頼した王族専用の腕時計はケースの出来からアーティファクト級で中を見てすぐに判断した「これはヤバい」直感的に世に出してはいけない物と。


 まさに芸術品の中の芸術品たる風格、金色に輝く腕時計、ケースの内張りが黒であったのもあり際立つ美しさだった、追加で何となく頼んだ公爵達の分も美しく、理想の遥か上を行く出来だ、その全て王家はもちろん公爵家の紋章が浮かび上がる仕掛けがされており、更には毒無効を始めとした様々な効果も付与されている。


 その後も時計の話を詳しく聞いていると彼女は1本の時計を何気なく出した、私専用だと、そして付与されている効果を聞いて思わず突っ込まずにいられなかった、様々なバフ効果に姿を消す効果、更には認識を阻害するなど、その全てではないが半数はロストマジックと呼ばれる現存しない魔法効果で震えが止まらなくなる、その後の彼女との話し合いは冗談を交えた雑談で終了し解散となる、しかし後日ある出来事があり再度呼び出す事になった。


 私の元にその報告があがって来たのは話し合いの翌日で、スラムの輩をバッタバッタと倒す女性がスラムの子供を使ってダストスライムに何かしていると言う話だ、何か一瞬彼女の事が頭に浮かんだが気を取り直し部下の報告を聞く。


 報告によるとダストスライムの悪臭が、スラムの子供らのおかげで街から消えつつあるとの事だった、良い事ではないかと喜んだのは一瞬で、その女性は自らの私財を投じてやっているらしい、それは領主たる私がやらなければならない事だろう。


 スラムの子供らの評判も高く、女性の言いつけに素直に応じているのとの事、嫌な予感がしたが、私はその女性の特徴を聞いた、髪は金髪でスラリとした体型、見た目はとても美しく、スラムの輩をのした時にはその髪が逆立っていたそうだ、その様子から市井の者達の間で「怒髪天の乙女」と呼ばれていると、なら違うなと胸を撫で下ろしたが後に後悔をした。


 領主が話し合いの為市井の一商会に出向く事はあってはならない事で、必ず領主邸に呼び出すのがセオリーである、しかし今回の話し合いは新たな事業としてティンダーの名を王国中に広めるものだ、それに「怒髪天の乙女」が行っているスライムの浄化も気になる、私自ら乙女には交渉せねばなるまい、そう思い乙女がいると聞いた市場脇の広場に着く、確かに揃いの服を来た子供らがスライムに何かを与えていた、乙女の姿を探していると、どこかで見たような後ろ姿、初老の女性と何やら密談しているようだ、私はタイミングを見計らって近くに行くと「領主には貸しがある」と聞こえたのですぐに声を掛けた。


「怒髪天の乙女」とはやはり彼女の事だった、乙女じゃないぞと叫びたかったが、その日一番の我慢をしたのは秘密だ、彼女と密談していたのは封鎖された教会のシスターだった、私にとっては好都合で教会の再開に関して稟議や嘆願が来ていたのですぐに話を進めた、領主自らが立ち話でする内容ではなかったが確かに彼女には借りがある、私は早急に教会を解放する事にした、シスターに当面の資金も渡し、ドワーフ達に修繕依頼も済ませた、翌日に彼女を呼び出し、あの腹が立つ錬金術師会の面々も呼び出す事になった。


 実に愉快痛快だった、調子に乗っていた錬金術師会の面々は真っ青な顔をして出て行くし、そのうちの1人が腕時計の効果によってその場に倒れた時は心の中で笑い転げていた、目の前でその効果を確認出来たのは僥倖だった、あれ程の効果があるなら王太子の身の回りにも邪な者は近付けないだろう、去り際に彼女はスライムの薬のレシピを渡してくれた、また私の政治の武器が出来たと喜んでいると最後に「来週誕生日なんだって?ダンゴさんから聞いたよ、だからプレゼントにエリックの馬車を作ってあげるよ、明日持ってくるね」と、普通ならとても喜ばしい言葉だったが去り際の笑みがとても黒く見えて少し身震いした。


 そして今、私はとてつもなく後悔している、何故あの時断らなかったのかと。


「エリックとその家族専用だから王族にあげちゃダメだよ、一応注文が入っても対応出来るように職人街のドワーフ達には見本と設計図を渡してあるから、そっちで作った物を王族に献上してね、これはあくまでも試作機だから、中は少し空間拡張出来るようにしてあるけど停止中じゃないと機能しないから気を付けて、それから~etc」


 何を言っていたのか忘れてしまった、覚えているのは魔物避けの効果はあるが野盗避けにはなってない、代わりに象が踏んでも壊れない、象とはなんだ?その他にも中にはクーラーボックス、ビートボックスと言うのがあり、中に物を入れると冷たくなったり暖かくなったりする?冷暖房完備だけど各座席にシートヒーターが付いているから今の季節ならそれで大丈夫、何が大丈夫なのだ?シートはリクライニングするから疲れたら寝れる、リクライニングとは何だ?


 まるで呪文の詠唱を聞いているかと思うほど何を言っているのかわからなかった、そして試運転、馬車が揺れない、いや、揺れるのだがその揺れを感じにくい、ボディと車軸を繋ぐ場所にサスペンションなる物が付いているらしい、シートの脇には深い窪みがあり、飲み物を入れた容器が入っていた、しかしその表面は揺れていない「耐震加工して揺れ減少の魔法陣付与した、本来ならそれを馬車に付与したら良いんだけど他の魔法陣効果を相殺しちゃうからそこだけにした。」謎しかないが確かにこれなら片道8時間の王都までの道程も快適だろう。


「それから御者席でここに魔力通せば軽量化の魔法陣が作動するから今の倍以上のスピード出るよ、一頭引きの場合でも二頭引きくらいのスピード出るから気をつけて、御者席にはシートベルトが付いてるから必ず閉めてね。これ装置の使用説明書だから、ちゃんと読んで下さい。内蔵されてる魔石はワイバーンのを使ってるから普通に使うなら4年から5年は行けるはず、交換はドワーフに頼めばやってくれるから、タイヤは使用頻度にもよるけど1年毎に交換した方が良いよ。」


 胃が痛い……。今私はどんな顔をしているのだろう、隣に座っている妻もずっと一点を見つめて固まっている、私もそれしたい。


「以上、高性能馬車、モデル名「大統領」の説明でした、ちゃんとこれで王都まで行ってね!エリックの家の紋章もしっかり彫ったからさ!気をつけてね~」


 嵐の去った後とはこの事なんだろう、隣の妻は「おしりが暖かいわ」と呟き、愛娘と長男は向かい合った席ではしゃいでいる、対面の席は前に回転するらしい、良かったな馬車酔いがなくなるぞ……私は別の意味で気持ち悪い。


 今回これを使うのはよそう、そう決めて今までの馬車に乗り、気を取り直して進み始めた、貴族街を出る前に無言のまま妻が睨むので引き返し「大統領」に乗り換えた、もう少しで家庭の危機だったのだよ、初めて見た妻の「は?さっきので行かないなら私は行かない」と無言の抵抗、正直怖かった。


 大統領に乗り職人街を通過すると、ドワーフ達が道の両脇に整列している、何事かと思って見ていると槌を胸に全員が一礼している、確かドワーフの「最大の敬意、盟友の証」のポーズ、異種族にそこまでやられたのならやり遂げねばならんな。


 快適だ、もうこれ無しでは王都に行きたくないとすら思える、素晴らしいの一言に尽きる、説明書を読みリクライニングの意味がわかった、これは楽だ、実際妻は隣で寝息を立てている、背中も暖かい、これは眠ってしまうのもわかる、妻にブランケットをかけて更に説明書を読む、読書灯なる物が付いていて外に比べて暗い馬車内でも快適に読める、秀逸すべきはこのスピードだ、御者席にいるシューハッマの方から時折奇声が聞こえるが根っからのスピード狂、限界の向こう側の景色を楽しんでいるのだろう。


 馬具にも細工がしてあるらしく「疲労軽減」の効果があるようだ、普段ならば馬が潰れてもおかしくない速さで進んで居るのにシューハッマから休憩の合図がない、何時もより早く流れる外の景色、既に王都は目と鼻の先、出発してからまだ3時間も経っていない。


 すれ違う馬車が増えて来て、シューハッマも馬車の速度を落としいつもの速度になった、予定していた時間より半分の時間で到着しそうだ、だいぶ早いが王は会ってくれるだろうか、早文を飛ばしているがかなり大袈裟に書いてある、そのくらいがちょうどいいのだ、これをまともな感情で受け入れる事は出来ないだろうからな。


 王都の別邸に到着後、妻たちと別れ王との謁見の為城に向かう、言い方は悪いが長く続いた諸国との戦も終わり、王は常に暇を持て余している、そんな中伝説級の品と書いた私の手紙を読んだ王は手ぐすね引いて待って居るだろう。


「エリックではないか、久しいな、随分と早い到着だな、昨日にでも出たか?」


「エメラルド公爵様、お久しぶりでございます。」


 目の前には私の前の上司で兄と慕う存在、緑の公爵エメラルドがいた。


「何やら流れ者の賢者に色々作らせたそうだな、今日は私も王に呼ばれてな、楽しみにしているぞ?」


「はい、エメラルド様も目を疑う品をご用意しております、楽しみにお待ちくださいませ。」


 その後公爵と今年は不作になりそうだから食料を蓄えておけとアドバイスをもらった、不作か、子供の頃の大凶作を思い出すな。


 王城の受け付けをしていると、後ろがザワつく、何かと思って振り返ると


「ラルク卿、先程物凄い早さの馬車を見かけたのだ、卿の紋章が彫られていたが間違いないか?」


 真っ赤なその髪を靡かせ目をギラつかせているのは武門の名家、赤のルビー公爵だ。


「ルビー公爵閣下、お久しぶりでございます、はい、あの馬車は現在開発中の高性能馬車「大統領」の試作機でございます、まだ未完成の為お譲りする事は出来ませんが、完成後王の許しが出た際には真っ先にお届け致します。」


「ほう?卿もわかっているのだな、素晴らしいな、後で構わぬから試作機に乗せて貰えぬか?」


「エリック、それなら私もお願いするよ、ちょうど馬車を新しくしようと思っていてね、良い品だったら私も購入しようじゃないか。」


「はっ!ありがとうございます、必ず御満足いただけると思われます。」


 これは自信がある、間違いなくこれは売れる。


「へぇ、エリックが自信満々に言うって事は相当だね。」


「なんと、そうなのか?それは楽しみだ、期待しているぞ。」


 それからは流れの賢者(ヨーコ)の事を聞かれたが既に他の街に出てしまったと濁しつつ、様々な知恵をもらったとアピールもしておいた。


 謁見前の控え室に入るなり、王がお待ちだと呼びに来た、どんだけ暇なんだよ、もしくは楽しみにしていたのか?私は高鳴る鼓動を落ち着かせ謁見の間に向かった。


 謁見の間に入る前に宰相である紫のパープル公爵に品物を預け入室。


 王は私の入室後にやってくる、それまでは立って待たなければならない、この時間が一番嫌いだ。


「イーグル王の入室である、面を下げ!」


 王が椅子に座るまで頭は下げたままでいなければならないが、ここは玉座の間では無いので比較的フランクな場所だ。


「よい、おもてをあげよ、ラルクよ久しいな、今日は楽しみにしておったぞ?余を満足させるものであれば良いがな、文にあったように流れの賢者なる者から様々な知識を得たようじゃな、此度持って来た物もそうか?発言を許す」


「はっ、この度お持ちした物は賢者様に知識をいただいたうちの一つにございます、制作者は賢者様本人で様々な地域を巡り、この王都を見て、イーグル王をイメージして作られた一品にございます、王自らご確認下さいませ。」


 宰相が献上用の押し車を呼び王の横に着く。


「ほうっ!素晴らしい装飾だな、王家の紋章を宝石で形取るとは、中々ではないか、それでは中を見てみるか。」


 イーグル王がケースを開く、そして固まった、横にいるパープル公爵もその目を見開き硬直している。


「うっ美しい、これはなんじゃ!時計か!?これほどの技術がこの世にあったとは、ええい、ラルクよもう良いこちらに来て説明をしろっ!!」


「はっ!お近付きになる事をお許し下さい。」


 それからは王の質問攻め、途中で王妃と王太子まで呼び出し謁見の場がまるで宴会場のようになった、腕時計をしてうっとりする王の横では鑑定士によって付与された効果に喜ぶ王妃、王太子はどう見せれば格好が付くのか様々なポーズを取っていた。


「イーグル王様、我々にもあるらしいのですが……」


 王のはしゃぎっぷりを見た宰相パープル公爵が王にボソッと呟くと、イーグル王は一つ咳払いをして、各公爵を呼び出した。元々血族だからか気楽な感じで公爵達が入って来た、王はこれでもかと見せびらかしてから、それぞれの公爵に品物を手渡す、一番喜んでいたのは魔法省トップのサファイア公爵、魔力アップと威力アップのバフは喉から手が出る程欲しかったようでその美しい時計にキスまでしていた。


「実は更に細工がしてありまして、暗くなると紋章が浮き上がるのです」


 王の命令でカーテンが閉まると


「なんと美しい、元より美しいが幻想的でありながら誇らしくも感じる、久しぶりに旗を掲げてみたくなりますなぁ!」


「実は魔力を通すと士気向上の効果があるそうで、その効果は通した魔力量によって違いがあるそうです」


 ヨーコに他には無いかと聞いた時にゲロした隠しコマンドと言うやつらしい。


「賢者殿は素晴らしいな、我が領地にも来てくれぬかな、歓待するのだが、ラルク卿、そこまでの人物何故引き留めなかった?」


「はっ!当初引き留めを試みましたが、賢者様より「流浪の民のように平和になった世界を巡りたい、邪魔されるならまた人知れず隠遁するまで、巡り巡る風のように生きたいのでな」と言われまして、平和の礎となった王国には感謝していると、戦で命を落とした者達を供養しながら旅をしたいと言われましたので」


「そうか、確かにな、今の平和は少し前までは考えられなかった、我々も賢者殿に倣い故人を偲ばなければな。」


「賢者殿は浮かれていてはならんと忠告しているのだろう」


「皆の者、これは賢者の意思であろう、この平和を長く続ける為努力しようではないか、良いな?」


「「「「はっ!」」」」


 なんか良い風に取ってくれているが、当の本人は多分今頃酒でも飲んでいるのだろうな。


「イーグル王様、もう一つ賢者様からいただいた知識がございます、その脇にある袋の中身がそれであります。」


 王は中を覗き込み鑑定士に見せる。


「砂糖でございます。」


「砂糖だとっ!」


 王の声に一同が固唾を呑んでいる。


「ふむ、確かに甘い、砂糖だな、これの精製法等はあるのか?」


「はっ!現在ティンダーの商人ギルドを中心に動き出しております、王城と四公爵様方にはそれぞれ年間1000キロを上限に提供する予定でございます、ただし精製方法は10年の契約で秘匿させていただきます、これは賢者様とのお約束で私も契約致しました、精製法を口にも書面にも出せませんが、今まで高額だった聖皇国の砂糖に依存すること無く比較的安価で流通出来ると考えております。」


「よし、聖皇国にはかなり足元を見られていたからのぅ、この件はラルクに一任する、エメラルド!ラルクが手に負えぬ場合はお主が力になってやれ。」


「はっ!」


「ラルクよ、もうないか?」


「はっ!他の知識は現在開発中でございます、完成次第献上させていただきます。」


「うむ、楽しみにしておるぞ。」


 その言葉で王は謁見の間を出て行った。


「ラルク卿、これから大変だな、だが我々も期待している、手が欲しい時はエメラルドばかりじゃなく我々を頼ると良いだろう。」


「ルビー公爵閣下、ありがとうございます、こちらはご子息様にどうぞ、皆様の分もございます、次期御当主様の腕時計でございます。」


「「「「わかっているではないか!」」」」


 謁見の間から出るとパープル公爵が書類を渡して来た。


「これはイーグル王と我々からの礼だ、ティンダーの発展は我が国の発展に繋がる、心してな。」


「はっ!」


 控え室に戻り帰り支度をしているとルビー公爵とエメラルド公爵、サファイア公爵までが来た。


「卿、馬車を見せてくれぬか?」


「はい、すぐに準備いたします。」


 王城の外にある貴族専用の馬車置き場、そこで20分後に集まる予定だ、多分みんな腕時計を眺めながら来るのだろう、その姿を想像しただけで笑みが零れた。


 一番最初に来たのはエメラルド公爵。


「むっ!少し早かったか?」

「いえ、2分程でございます」


 その後はルビー、サファイアと続き何故か王太子まで来てしまった。


「太子殿下もでしょうか?」


「すまぬラルク、ルビー達が楽しそうだったのでな、着いてきてしまったのだ、許せ」


「とんでもございません、歓迎いたします、さ、どうぞご覧下さい。」


 それぞれが思い思いの場所を見て質問攻めにあう、私は説明書を片手に一つ一つ説明をする。


「賢者様曰く、これはフルスペックと言うものらしく、これが上限と仰っておりました。」


「素晴らしいとしか言えんな、これ一つあれば護衛など要らぬではないか、それに室内が暖かく快適だ、ラルク卿我々を乗せて王城を一周してくれぬか?」


「かしこまりました、私は御者席におります、外からになりますが極力質問にはお答え致しますので。」


 シューハッマに手綱を握らせ横から中を覗き込む様に座った。


「揺れぬな、座面が倒れると足元が上がるのだな、これは楽だ」

「ルビーよ気付かぬか?尻と背中が暖かいぞ?」

「この車内は冷えるのか?もしそうなら暑い時期の領内視察であの蒸し風呂のような暑さがなくなるのだな!」

「これで外遊などしたら他国の太子から羨望の眼差しが……。」


「「「「欲しいっ!」」」」


 全員揃ってそんな声があがった。


「これは売るのだな?私は絶対買うぞ、卿よ、先程言質は取ったからな王の次は私に持って来るのだぞ!」

「それじゃ私は2番目にラルクに頼んだからルビーの次だな、私も買うよ、もちろんフルスペックでね。」

「くっ!貴公ら狡いぞ!サファイア領はティンダーに一番近いのだ、私は口が堅いぞ、だからこっそり持って来てくれ、頼んだぞ!もちろん私もフルスペックで。」

「卿等は恥を知らぬのか?ラルク卿、王族に献上するのは1台でなくても良いのだぞ?この時計のように個人にでも良いのだ、私が王になった暁には悪いようにはしないぞ?」

「「「殿下こそ恥を知れ!!」」」


 まぁこうなることはわかっていたからな。


「それではルビー公爵閣下には申し訳ないですがここは同時にお届けいたします、殿下の分もご用意して献上させていただきます。」


「むぅ、卿が言うなら仕方がないな」


「「「わかっているではないか!」」」


 お前ら仲良しかよ、帰ったらドワーフとヨーコに頭を下げるか……だがこれで政治面では大きくアピール出来た、パイプも出来たヨーコには感謝だな。


 因みに時計の礼として渡された物は白金貨70000枚と塩1000キロ、胡椒が500キロ、小麦2000キロ、ミスリル500キロ、鉄1000キロだった、ティンダーは資源開発しても木材しか取れない土地、白金貨は王族から、塩はサファイア公爵、胡椒はルビー公爵、小麦はエメラルド公爵、パープル公爵からは鉄と希少金属ミスリル、品を見て礼を決めるので満足して貰えたと同時に開発に力を入れろとの意思表示かも知れない、帰ったらスラム問題を解決させねば。


 ~~~~~~~


 この後半年程で、王族専用車「王冠」高級仕様「威厳」高速仕様「空の線」がラインナップとして世に出された、「大統領」はラルク家専用の絶版モデルとなったがその機能を上回る物はしばらく出なかった、そして更に数年経ちドワーフ達が各大都市(街)に移り各都市で開発した馬車のスピードを競い合う「馬車1」通称「B1」が王国の娯楽として楽しまれる様になり、王都で大規模な大会が催された、その初代チャンピオンはシューハッマが操る高級スポーツ仕様「跳馬」だった。

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