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閑話 公子と令嬢の内緒話

こんな感じで進めます、という意味を込めて投稿しておきます!


 翌日、ヴェスティンはいつものように授業へと出ていた。当たり前のようにセインドゥールは登校していない。おそらくは皇城で公務を片付けているのだろう。ここ数か月はいつもそうだった。


「おはようございます、公子様」

「あぁ、ファレンティーノ嬢か。悪いけど、ちょっと時間いいかな?」

「もちろんです」


 授業が始まるまでまだ時間があった。公爵令息と侯爵令嬢、この二人の組み合わせは良くも悪くも目を引く。だからこそ都合が良かった。学生会室という場所は。

 二人が連れ立ってやってきたのはその場所。今はセインドゥールもいないため、この部屋に出入りでいる人間は他にはいない。邪魔者は入らないのだ。念のために施錠をしておくことは忘れない。


「話というのは、昨日のことですか?」

「あぁ、話が早くて助かるよ」

「リリアナさん……彼女()転生者、ですものね」


 ルティアナはそう言うと、侯爵令嬢らしからぬ面倒そうな顔をして腕を組みながら備え付けのソファーへと腰を下ろすと、左足を右ひざの上に持ち上げた。俗にいう足を組むという態度だ。このような格好をして座る令嬢などこの世界にはいない。金髪碧眼の令嬢のこのような格好など、誰も見たくもないだろう。尤も、ヴェスティンからしてみれば見慣れたものなのだけれど。


「貴方は座らないの?」

「俺はここでいい。一応、君は侯爵令嬢だから」

「一応、は余計よ」

「なら別の名前の方がいい? ()()さん」

「どちらでもいいわ、()()くん」


 吉川、広瀬。そのような呼び方はこの世界には存在しない。それもそのはずだ。何故ならば、ヴェスティンにも、ルティアナにもここにはない記憶や知識、別の世界で生きた過去があるのだから。

 それを知ったのはまだ幼い時だった。この時はまだ皇太子ではなかったセインドゥールの遊び相手として選ばれていたヴェスティンは、この時はセインドゥールのことを嫌っていた。表情も変わらず、人形のような子だった。教えられたことをすぐに習得し、何事も正確に終えてしまうセインドゥールは、子どもであっても気味が悪いと感じる子どもだった。決して優しく接していたわけではない。そうしていれば、いつかは向こうから捨ててくれるだろうと考えていた。それが覆ったのは、もう一人の母親に子どもが生まれた時だ。突然、膨大な記憶がヴェスティンを襲った。三日間は高熱に魘されたし、その後も呆けていることが多かった。

 その時にヴェスティンは知った。己は別の記憶を持ったまま、生まれ変わったのだということに。読書家でもなく、ゲームなどをしていたわけではないので、わかったのはただそれだけだ。それだけで十分だった。過去に老衰まで生き抜いたヴェスティンは、当時のセインドゥールを放っては置けなくなっていた。子どもらしさの欠片もなく、両親も傍におらず、たった一人で言われるがままに皇太子となるべく生きているセインドゥールを。


「正直にいえば、今でも理解できない部分はあるけどな。俺たちがゲームの世界の住人だなんて」

「住人といっても、それを基にした世界にいるってだけでしょ。それ以上でもそれ以下でもないわ。尤も、リリアナさんはそれを理解していないようだけれど」


 この世界がとあるゲームを基にしていると知ったのは、このルティアナとの出会いだった。十歳にも満たない子どもたちを招いたお茶会で、妙に大人びた子がいたのだ。セインドゥールと同じような達観したような顔をする子ども、それがルティアナだった。


「あんたが教えてくれなかったら、色々と分からなかったことも多かったからさ。それは良かった」

「それは何より。でもあのゲームは別に誰かを追い落とすとか、そういう負の部分もなくて、平和な形で終わるものだったから、まさかリリアナさんが罪を犯すとは思わなかったけれど」

「それはまぁ、俺にも原因があるかもしれない」

「そうね。皇太子殿下にとってのトラウマは、貴方が失くしてしまったようなものだから。とはいえ、皇太子殿下ならば、貴方がいなくてもリリアナさんの手には落ちなかったと思うわよ」

「俺もそう思う。セインにとってはこの帝国が全てだ。いつだってどうすることが帝国にとって良いことかを考えている。そんなあいつが、ほんの少し優しい言葉を掛けられたくらいで揺らぐはずがない」


 実際、セインドゥールと今のような関係になるまでは随分と苦労をした。だからこそわかる。ゲームでは会話や選択肢などで簡単に心を開いていったようだが、人間の心はそう簡単に変わることなどできない。何十年もかけて築いてきた傷を癒すのは簡単じゃない。


「だからこそ苦労もするし、メイン対象だったのでしょうけれどね。他のメンバーなんてトラウマなんてものなかったもの。皇太子殿下だけよ……貴方は例外として」

「あはは、そうだな」


 ヴェスティンの人嫌いは家族関係が原因だった。セインドゥールと似たようなものではあるが、それこそ簡単に絆されるような、解消されるようなことではない。


「まぁ架空の話は置いておいて、だ。あのリリアナは、他にも何か行動を起こすと思うか?」

「どうかしらね。ただ、皇太子殿下に拘っているようには見えたわ。接触は禁じられているし、そもそも皇太子殿下は授業にすら出ていないのだから接触する機会なんて滅多にないけれど」

「悪いな、あんたにこんなこと頼んで。迷惑かけるってわかっていたんだが、それでも今のセインにこれ以上の負担をかけたくない」

「構わないわ。子どもの扱いなんて慣れてるもの。それより……皇太子殿下もいずれ気づくと思うわよ」


 何に、とは尋ねなかった。昨日の会話、セインドゥールはリリアナが言っていたという言葉に反応していた。記憶力がいいセインドゥールならば、突然態度が変わったヴェスティンのことを覚えていても不思議はない。そこに違和感を抱いたならば、何かしらおかしいと感じることもあるだろう。とはいえ、別世界の記憶があるなんてこと、荒唐無稽すぎて普通は想像できないことだ。どれだけセインドゥールが博識であっても、そのような考えなど浮かばない。己が住む場所以外にも世界があるなんてことは。


「リリアナさんの動きを探った方がいいなら、そう動くけれどどうする?」

「セインに近づくような素振りがあったら教えてほしい。それ以外は学生会の方が優先だ」

「……そうね。わかりました。リアード公子様」

「頼んだ、ファレンティーノ嬢」




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