大胆!
ピンポーン
耳慣れた呼び鈴の音が健太の部屋に響き渡る、リードをつけたリッキーもどこか
ソワソワと落ち着きがない
「こんにちはー」
健太の耳に聞きなれた女性の声が聞こえてきた、はて?何故、、、
ドアを開けると山室と清美が並んで立っていた
「あれ?おカミさん、なんで??」
疑問を投げかける健太に
「当然でしょー今日は健太くんの晴れ舞台への出発の日なんだから」
今日は健太が出演する映画の撮影の為に鹿児島へ出発する日だった、2日間に及ぶ撮影に際して
リッキーをリリーフアニマルに預けるべく山室に送迎をお願いした健太だったのだが
何故か清美まで現れたのであった
「さ、行きましょうか」
山室は全く問題ない、といった様子で清美の存在に疑問すら持たないようだった
「ほら、リッキーは預かっててあげるから荷物積んじゃいなさい」
清美に促されるまま健太はいそいそと弁天TVの車に2日分の荷物を積み込んだ、といって
大した量ではないのだが
「じゃあ出発しますよー」
後部座席でリッキーと並んで座っている健太は助手席に納まる清美に向かって言った
「オレももういい歳なんだから見送りなんて良かったのに」
「何言ってんの!こういうのは結構大事な事なのよ」
清美がこう言い出したらガンとして聞かない事は健太にも分かっていたのでもう言わないでおく
「夢原さん、頑張って下さいね、応援してますから!」
「そうですね、番組の為にも頑張ってきます」
「いえ、番組ももちろん盛り上げていきたいですけど、僕は個人的に夢原さん応援してます」
山室の意外な言葉に健太は少し驚いた
「僕は今回の番組制作を通じて、夢原さんには助けられっぱなしです」
山室に言われ健太は
「そんな事はないでしょう」
明るい口調で返したが
「もちろん炎上騒動の時も助けられたのですが、それ以前にリッキーの事でも助けられているんです」
「どういう事ですか??」
「実は当初、ボクイヌの枠は半年、と決められていました、企画を持ち込んだ当初、リリーフアニマルにはリッキー以外の子犬が居なかったんです、でも、うちの上層部は番組的に映える子犬を使いたがった」
健太には合点がいった
「ですがリッキーはあの調子で、僕は正直、半年では打ち解けるのは無理、と思っていました」
「5ヶ月かけてなんとか打ち解けてもらい、残りの1ヶ月、共同生活が撮れればなんとかなる、そんな思いでした」
「大貫さんにその展望を話すと、そんな甘いものではない、半年では到底期間が足りない、と言われてしまい途方に暮れていたんです」
「ですが夢原さんは誰にも想像もつかない方法でリッキーと打ち解け、楽しい共同生活の映像を提供してくれました」
「動物と人間の触れ合い、それこそが僕が撮りたかった番組です、夢原さんは見事に
それを実現してくれました」
「ありがとうございます、あなたとリッキーじゃなかったらボクイヌの実現は不可能せした」
健太は褒められて悪い気はしなかったものの、手放しで自分の手柄だという気もしていなかった
「止してください、あれは、たまたまです」
「いいえ、きっと夢原さんとリッキーじゃなければあんな奇跡みたいな事は起こりませんでした」
「だから夢原さんには栄光を掴んで欲しいんです、勿論リッキーにも幸せになって欲しい」
柄にもなくく語った山室だったが、照れくさかったのかそれ以来黙ってしまった
だが助手席の清美は満面の笑みを浮かべていた、まるでわが子を褒められたような
晴れやかな気持ちだった
リリーフアニマルに着くといつもの3人が出迎えた
「こんにちはーリッキーをよろしくお願いします」
健太が言うと美晴が
「不思議ですね、うちからお願いしてお預かりしていただいてるのに、まるで本当の飼い主さんみたい」
「そういやそうでしたね、オレがお願いします、ってのはお門違いか、、」
笑いながら話す健太に美晴は大真面目に言った
「夢原さんはどこの誰よりもリッキーの飼い主です、この世界で働いてる私が保証します」
真っ直ぐな目で美晴に見つめられ健太は思わず目を逸らしてしまった
「そうですよ、リッキーには夢原さんしかありえないです」
信子も同意を示した
恵子は黙ってウンウンと首だけで頷いていた
電話では割とハキハキ喋っていたのに、普段はあまりしゃべっているところを見ない
「さぁ電車の時間に遅れます、出発しましょう」
山室に促され健太が立ち上がった
リッキーは不穏な空気を感じとったのか小さな声で鳴きだした
キューンクゥーン
やはり分かるのだろう、リッキーの場合、健太が仕事している時も、お留守番ではなく一緒に
出かけていたのだから
キューンキュゥゥン
リッキーの寂しげな声は止まらなかった
「さ、健太くん、行きましょう」
清美に言われるもどうしても気になってしまう
しばしの別れだが犬にはそれが分からないのだ、そしてこんな事もあろうかといつの間にか出した
ハンディカムでちゃっかり動画を撮っている山室がなんとも言えない
意を決して扉に向かう健太の背中にリッキーの悲痛な声が聞こえてくる
キュィィンキャイィン
扉を開け外に出た健太は後ろ髪を引かれながらも扉を閉じた
だが歩き出せずにいた
「心を鬼にしなさい、もう時間もないし…」
清美に言われたがどうしても足が前に出ない
しばしの沈黙の後再び健太は扉を開けリッキーの元に駆け寄った
しゃがみ込みリッキーを抱きしめる健太の背中に美晴の声が降ってきた
「困ります夢原さん、そういう事をされるとゴネたら飼い主が戻ってくるとリッキーに誤解されます」
「そうよ夢原さん、気持ちは分かるけど」
美晴の叱責に信子も続いた
…
…
…
健太はしばらく沈黙した後、大きく息を吸い込んでから口を開いた
「美晴さんっ!!!」
「オレとLINE交換してください!」
駅へ向かう車の中で山室も清美もずっとニヤニヤしっぱなしだった
「大きな決断したわねー健太くん!」
「いやーいい動画が撮れた」
2人は各々に感想を口にした
「もう止めてくださいよー」
健太は言うのだが2人は止まらない
「次の放送で発表しちゃって良いですかね?」
「いきなりじゃツマんないでしょ、もっと引っ張らないと…」
口々に勝手な事を言っている
「でも感動しました!お仕事頑張ってきて下さい、待ってます」
山室は目を輝かせて言った
「そうね!まずは今回の映画、頑張ってきなさい」
清美ももはや茶化した態度ではなく、いつものおカミさんモードだった
駅に着くと健太はいそいそと荷物を降ろし始めた、電車の時間が迫っていたのだ
「健太くん」
清美に呼び止められ健太は振り返った
健太の前に立った清美は健太のブルゾンの襟を直しながらいった
「いってらっしゃい!今日の健太くんとっても良い目をしてるわ」
それ以上は何も言わず清美は微笑んで手を振った
「行って来ます!山室さん、送ってくれてありがとう、精一杯頑張ってきます」
荷物を抱えて健太は走り出した、改札を抜けると、目の前のホームにちょうど乗り込むべき車両が
滑り込んできたところだった
小走りで目の前の車両に乗り込み、ちょうど空いていた空席に座り込んでしばらくすると清美からの
LINEが飛んできた、健太が画面を確認すると
「あの時健太くん焦って(美晴さんっ!!)って呼んでたよ、プププ」
清美の指摘であわてて思い出してみる、が後の祭りだった
(しくじったー)
電車の中で顔を真っ赤に染める健太だった
ドリームドッグは実は部分的に実話で、作者が見た夢を題材にキャラクターや
ストーリーを肉づけした物です
ある日私が見た夢、それは犬を飼う夢、平凡だけど変わった夢、子犬から成犬
、そして死の間際まで、夢の中で一匹の犬の生涯に触れ、目を覚ました時、私
の頬は涙で濡れていました
作者はその当時犬を飼っていましたが、どうやら彼は夢の犬とは違ったようで
す、でも、もし今後の人生で夢の犬に出会ったら、そんな思いを、物語に載せ
て描いてみました、私が人生で初めて綴った拙い文章です
無駄な表現、セリフ、分かりづらい部分、読み苦しい部分も多々あるでしょう
が、なにとぞ、生温かい目でご容赦下さると幸いです。