表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

燃え上がる日常、そして…

僕と同居犬の放送も3回を迎え、SNSでの反応、番組進行共におおむね問題もなく順調に見えた

あれから山室は2度ほど健太の部屋を訪れ、カメら資機材の故障チェックをした

山室は部屋を訪れたり、健太と連絡を取る度に

「順調に人気も上がってきています、このままいきましょう」

と言ってくれてはいるが、健太としてもSNS、番組共に人気が頭打ちしている現状を感じてはいた

逆に居酒屋「かっちゃん」はリッキーの飼い主の健太が勤める店として地元での認知度が上がり

訪れた客たちのSNSでの書き込みなどもあり、今月は過去最高の売り上げを記録していた

「いやー今日は客入りヤバかったっすねー」

真二の言葉に

「でもお客さんホント増えましたよね、これもリッキーちゃんと健太さんのおかげかも」

ミキも同調する、店は順風満帆、何も心配することはないのだが、健太には清美の曇った表情が気にかかっていた

竜一もそれは同じようで喜ぶ真二とミキをよそに浮かない表情だった

健太は、と言えば所属する劇団の稽古場でボクイヌが話題に上がり、それが団長の知り合いの目に留まり

映画の端役の話が来ていた

実力ではなく話題、、、そんな気持ちがあり店では健太はその事を話に出さなかった

「おつかれさまでーす」

店の前でそれぞれが解散する中、リッキーに真二とミキが別れを告げる

「じゃあねリッキーまた明日!」

ミキに頭を撫でられ、上機嫌なリッキーを眺めながら清美が健太に尋ねた

「ここのところ役者のほうはどうなの?」

思いもよらぬタイミングで尋ねられた健太だったが、清美が自分の役者人生の行く末を案じてくれているのは良く分かっていた

「実は…」 健太は重い口を開いた

「うちの団長とつき合いの長いキャスティングディレクターが、今小説原作の映画の

キャスティングをやってまして、急遽1人、映画のオリジナルキャラクターの役者が欲しい

という事で声をかけてもらって、、」

清美の顔がパッと輝いた

「え、なになに?じゃあ健太くん映画の仕事が決まったの??」

「一応今回は急いでいるという事で、オーディションではなく、指名という形で」

清美はますます喜んだ

「やったじゃなーい!どんな役なの?なんて映画??」

矢次早に尋ねる清美と反して健太の表情は暗い、その表情に気づいた清美が尋ねる

「それで?何か問題があるの?」

清美の問いに健太は自分の思いを明かした

稽古場でたまたまボクイヌの話になりそれがディレクターの耳に入った事、たまたま番組の

話題で目に入っただけで自分の演技が評価された訳ではない事、健太は自分の今の思いを

正直に清美に告げた、それを聞いた清美は笑って健太に言った

「なーんだそんな事かー」

清美は笑い飛ばした

「健太くん」

「はい?」

「君、意外と余裕があるんだね」

健太には清美の言わんとする事が分からなかった

「もう28歳、役者として食べて行くなら腹くくって本腰入れないといけない

 それは前に言ったわよね?」

「はい…」

「なのに君は、降ってわいたようなチャンスを一生懸命活かそうともせず

 カッコつける自分自身を保つのに精一杯」

肩をすくめながら両手を天に向ける清美に、健太は反論出来なかった、清美の言う事は健太にとって図星の中の図星だった、いい歳してみっともなく足掻く事を恐れ、いつしか役者としての自分の矜持を勝手な形で作り上げ一生懸命もがく事を止めてしまっていた

「世の中、何がキッカケで物事が好転するのか分からないものよ、せっかくのチャンスを

 あなたは掴んだ、だから、やれる事は精一杯悔いのないようにやりなさい!」

バシッ! 清美に強く肩をはたかれ健太は顔を歪めた

「そうだぞー健太、お前が撮影で抜けてる間は店もリッキーも俺たちに任せれば良い」

いつの間にか清美の後ろに立っていた竜一が清美の後を受けて言った

(いつもこの人達はオレの背中を押してくれる)

「そうですね!なりふり構ってる場合じゃないですよね」

健太の目に力強い光が戻っていた

「オレ頑張ります!少しでもいい演技して、オレを使って良かったと言わせてみせます!」

健太の言葉に清美も竜一も大いに破顔して喜んだ

「よし!じゃあ家帰って、しっかり身体休めろよ」

「はい、おつかれさまでした」

リッキーを伴って駆けてゆく健太の背を見送りながら清美がボソリと

「男の子って女とは違った面倒くささがあるのよねー」

とつぶやいた

「もしかしてオレも面倒くさかったりする?」

竜一の問いかけに清美は

「気づいてなかったのー?付き合ってる時なんかそりゃヒドかったわよー」

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

清美の言葉にショックをうける竜一だったが

「でも、だからアタシの事を大事にしてくれるのはこの人だーとも思った」

そんな清美の言葉ですっかり気を良くする竜一だった、清美の掌でコロコロと幸せな男である


あくる日、火の出るような忙しさの中で事件は起こった

「でもよーあれはリッキーの躾がしっかりしてるから成り立ってるだけで別のあの夢原って

 店員が偉い訳でもなんでもないよな」

酔っ払った客が大きな声で健太を悪し様に罵った

周囲の客は冷ややかな目で見守っていたが男は黙ろうとはしなかった

「アイツはリリーフペットでしっかり躾けされたリッキーを預かって話題になってるだけ

 であって、別にアイツが何したって訳でもないだろう」

「何あの人?ヤな感じ」

ミキが嫌悪感をあらわにした

「ミキちゃん、言わせとけば良いから…」

健太にも男の言葉は聞こえていたが健太は気にしない振りをする事にした

「健太さん、あんなの相手にする事はないっすよ」

真二もまた酔っ払いの言葉など意に介する必要がないと思っていた、別にさして気にする

事もない、酔っ払いの世迷言などいちいち相手にしていると疲れるだけだ、という事はこの店

の全員が分かっている事だった

ところが翌日、一同は現代社会の恐ろしさを目の当たりにする事になる

それはボクイヌの公式Xにつぶやかれた一件から始まった

「この夢原って奴、行儀の良いリッキーを引き受けて話題になってラッキーだよな」

この一言を皮切りにボクイヌの公式Xは大いに炎上した

「夢原は無能」「オレならもっとリッキーを幸せに出来る」といった書き込みを始め

話題は徐々に広がり果ては健太が過去に出演した映画の端役にまで及んだ

「夢原って演技微妙じゃね?」「大根役者」など心無いつぶやきで公式Xは埋め尽くされて行った

いち早く事態を把握した山室が

「誹謗中傷、番組に直接関係のない話題のつぶやきは控えてください」

と注意喚起したが焼け石に水であったそんな折、山室から健太のスマホに着信があった

「もしもし夢原さん、公式X見ました?」

「はい、オレも見ました、正直あまり気分の良いものじゃないですね」

健太が言うが早いか山室が

「すみません、想定していなかった事態です、もしなんらか夢原さんに危害が及ぶ

 ような事があったら、即ご連絡下さい」

「わかりました」

「今回の騒動は本当に申し訳ありません、なるべく早く収束するよう努力しますので」

「山室さんは何も悪くないですよ、気にしないで下さい」

電話を切った後も健太はなんとも言えない不安に駆られていた

(店に迷惑がかからなければ良いが、、)

だが、いざ仕事に入ると健太の懸念は的中する事になる

それは健太がホールでテーブルの片付けをしている時に起こった

「ゆめはらくーん、映画のお仕事頑張ってるんだってー??」

三十代と思われるサラリーマン風の男が健太になれなれしく語りかけてきた

「君は芝居が下手なんだからぁ~人の3倍努力しないといけないよー」

見かねた真二が仲裁に入る

「他のお客様のご迷惑になりますので、もう少し声を押さえてもらえますか?」

真二に言われた客はますますヒートアップした

「なんだーこの店、客にしゃべるなってかー、大根役者が勤める店は従業員もダメな奴ばっかだなー」

(なんだと!?)

反論しようとした健太と客の間に小さな影が割って入った

「うるさーーーーーーーーーーーーーーーーい!」

「黙って聞いてればお客さんに反論出来ない健太さんに言いたい放題言っちゃって

 あんた恥ずかしくないの?」

「なんだお前?それが客に対して店員が言う言葉か?」

「わー逆ギレのお客さんがよく言うやつだーリアルにそのセリフ聞く機会があると思ってなかった

 ~有難うございますー」

ミキの悪態は終わらない

「大体、お酒飲んで気が大きくなったからって店員にからんで気分を晴らそうっていう

 根性が気に入らないのよ、いい、うちは焼き鳥一皿500円とかで細々と利益を出してる

 お店なの!少しでも安く提供する為に一生懸命努力しておいしい物とお酒を飲む楽しい場を

 提供してるの!そこにアンタみたいな根性のヒネくれた奴の八つ当たりの相手って仕事まで

 持ち込まないで!」

さすがに見かねたのかいつの間にかミキの後ろには竜一が立っていた

ミキの頭を押さえつつ竜一が

「うちの店員が失礼しました、お代は結構ですので、本日は引き払っていただけないでしょうか?」

と告げた

「スミマセンでした」

健太と真二が頭を下げると同時に竜一の大声が響きわたった

「謝るなっ!!!」

「お前たちは何も悪くない、謝る必要などない」

普段はおどけた雰囲気の竜一の真剣な言葉に健太も真二も息を飲む

サラリーマン風の男は顔を真っ赤にしながら乱暴に音を立てて扉を閉めて出て行った

「ミキちゃん…」

竜一に促されたミキは店の客たちに向かって大きな声で

「お騒がせして大変申し訳ありませんでしたーーーーーーーー!」

と深々と頭を下げたミキだったが店内では拍手が起こっていた

カウンターの中で清美がしきりに満足そうにウンウンと首を縦に振っていた

結局その場にいた客には全員竜一からのおごりという事で一杯の酒が振舞われた

「店長、なんだかすみませんでした、オレの給料から引いといて下さい」

健太の申し入れに

「バカ言え、あのぐらいじゃウチの店はビクともしない、それに…」

竜一は先ほど見せた真剣な顔で

「お前は何も悪くない」

ハッキリと言った竜一の言葉に健太は救われる思いだった

店を出る客が口々に「頑張れー」「役者もリッキーの事も応援してるぞ」と健太を励ましてくれた

今回の事は居酒屋「かっちゃん」というこの店だから大丈夫だっただけなのだ

健太は店で起こった一部始終を山室に報告し、火消しの為に自分が出来る事は何でもやると相談した

山室は自分にまかせてくれ、と言ったが健太の不安は消えないのだった


「あーー今日の店長カッコ良かったーー!」

店を出ながら言うミキに照れ照れの表情の竜一だったが

「いやミキちゃんの方がカッコ良かったよ!」

と真剣な表情で真二に言われ今度はミキが照れる番なのであった

ワイワイと盛り上がる場へリッキーを連れて現れた健太であったが、真剣な表情で

「店長、今日はオレのせいで本当にすみませんでした、あの、もしこんな事が続くようなら

オレ、店を休んでも、、、」

「つまらん事言うな、お前は何も悪くないって言ったろ、気にせずしっかり働け!」

竜一に肩をポンポン叩かれながらも不安そうな表情を浮かべる健太に

「だーじょうぶだって、こんなの一過性のものだから、すぐ忘れられちゃうのよ」

後ろから竜一に抱きつきながら清美が言った

「どどどど、どうしたの?今日はやけに、、、」

キョドる竜一に清美は

「今日は久々にカッコ良かったからね、たまにはご褒美あげないと」

と、いっそう力を込めて竜一に抱きついた

「ほら、な、たまにはこんなのも悪くない」

竜一は満足そうに

「いらん心配はいいから、お前は役者の方精一杯頑張れ!」

「そうそう、映画見に行きますからね!」

真二もミキも声を揃えて言ってくれた、だが、だからこそ健太はこの店が守りたいのだった

「おつかれさまでした」

声を揃えて解散間際にリッキーの頭を撫でてミキと真二が去って行く

(せめて役者を精一杯頑張らないと!)

心の不安を無理やりかき消すように、健太は家路に着いた













ドリームドッグは実は部分的に実話で、作者が見た夢を題材にキャラクターや

ストーリーを肉づけした物です

ある日私が見た夢、それは犬を飼う夢、平凡だけど変わった夢、子犬から成犬

、そして死の間際まで、夢の中で一匹の犬の生涯に触れ、目を覚ました時、私

の頬は涙で濡れていました

作者はその当時犬を飼っていましたが、どうやら彼は夢の犬とは違ったようで

す、でも、もし今後の人生で夢の犬に出会ったら、そんな思いを、物語に載せ

て描いてみました、私が人生で初めて綴った拙い文章です

無駄な表現、セリフ、分かりづらい部分、読み苦しい部分も多々あるでしょう

が、なにとぞ、生温かい目でご容赦下さると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ