最終章 夢の犬 その7
日常系って人気無いですよね、でもハートウォーミーな話が好きなんです
仕事中、ふとした時に思いつくシチュエーションにストーリーとキャラクターを
肉付けして背景を描写する、この手法しか今のとこ持ち合わせていないのですが
なるべく山あり谷あり、読み味のある物語になるよう努力してます
温かい目で読んでいただければ幸いです。
「老けたな~リッキー♪」
そうは言いつつも、久々の再開に心中デレデレなの
が見て取れる
「大将、申し訳ないけど食事の間リッキーを裏庭に
お願い出来ないかな?」
「なんなら居間で一緒にTVでも見ててあげようかね
(笑)」
思った通り、万福の大将はリッキーの訪問を歓迎し
てくれた、昔っから変わらない、大の犬好きだ…
「リッキーはオヤツとか食べられるかい?」
「えぇ、まだ食事は自分で取れますよ、食は大分細
くなりましたがね」
「そうだな~ちょっと痩せちまったからな…」
「ま、心配せずに行ってきな、オレも今は店にほと
んど出ねぇからな」
あれから万福は、健太と美晴の騒動の影響や、グリ
とグラの人気も相まって、地元では有名なラーメン
店として、観光雑誌にも度々取り上げられ、すっか
り人気店の仲間入りを果たしている
商店街の中でも”居酒屋かっちゃん”と”万福”はその
人気を二分する人気店として君臨していた
「じゃあ、ちょっと行ってきます」
「すみませんがお願いします…」
健太と美晴が手を振るのを、縁側に腰を下ろした大
将と、眠たげな表情で伏せているリッキーが見送っ
た
ガララララ
入口を開けると、とたんに喧噪が耳に飛び込んでく
る
「いらっしゃ~い♪」
威勢の良いミキの挨拶が耳に懐かしい
「あ~健太さん、美晴さんも、ってか家族全員かな
?今日はどうしたの?」
「たまには外食!って事でここを選んだ(笑)」
「うれしいっスね!さ、どうぞどうぞ」
真二も久々に夢原家の面々と会えたのが嬉しいよう
だ
「久しぶりね~千晶ちゃんも健助くんも」
ミキに言われてやや人見知り感を出しつつも、自分
がしっかりしなければ、と気を引き締めたのか千晶
が
「お久しぶりですミキさん!」
と少々大人びた挨拶を返す
「久しぶり~ミキおねえちゃん」
それにつられ健助もしっかりと挨拶を返す
「しっかりしてきたわね~千晶ちゃん何年生になっ
た?」
「4年生です!」
元気に答える千晶…
「アタシが4年生の頃だったらうっかり”おばさん”と
か呼びそうだわ…」
と漏らすミキに、一同が大ウケした
”かっちゃん” での食事のつもりだったが、当初の
予定通り、美晴の慰安という意味では羽を休めても
らえたかな、と思う
が、子供たちは ”万福” のラーメンを食べたがり
結局、腹八分目にしておいてシメにラーメンを食べ
に行く、というサラリーマンのようなハシゴをする
事になった
「ラーメン食べたいみたいだから程々にして食べに
きました」
「く~嬉しい事言ってくれるね…」
大将はいたく感激し、千晶と健助が2人で1杯のつも
りで注文したラーメンは自動的にチャーシューメン
にグレードアップしていた
帰りの車の後部座席で、リッキーを真ん中に千晶と
健助が両脇を固めつつも寝息を立てている
「あらあら、やっぱり寝ちゃったわね(笑)」
「少しは骨休め出来た?」
「えぇ、とっても!今が一番癒されるけどね…」
後部座席を見やりながらそう呟く美晴…
「いつもありがとね…」
ボソリともらす健太に
「こんな事言ってくれる旦那に恵まれてラッキーよ
ね♪」
とニッコリ笑顔を返してくる美晴…
(オレの方こそ恵まれてる…)
そうは思えどなかなか口には出来ない、男とはつま
らない生き物のなのだ…
撮影も大詰め、釈放された宗像(優斗)は、姉であ
る美智子(詩織)に頼み込み、自身が留置されてい
た警察署へと向かう、大垣の死を聞かされた宗像は
どうしても仏壇に手を合わせたいと懇願するも、警
察官の自宅など教えられない、と拒絶される
そこへ署に戻った光岡が現れる、といったシーンだ
「気持ちは分かるが警察官のプライバシーに関わる
事は教えかねる」
「そこをなんとかお願い出来ませんか?今こうして
いられるのも大垣さんのおかげなんです!」
必死に食い下がる宗像、だがいくら頼まれたところ
で、警察としても警官の住所など教えられるはずも
無かった、と…
「だったら、一緒に墓参りに行かないか?」
後ろからかけられた聞き覚えのある声、間違いない
この声は…
「光岡さん!!」
それは自身の取り調べに当たった刑事、宗像は感じ
ていた、この刑事が自分を信じてくれたからこそ、
今ここにこうして出て来られている
美智子が頭を下げる、光岡とは何度も顔を合わせて
いた、そして、彼が輝夫の無実を信じてくれている
事も、また、大垣に助けを求めた事も知っていた
「是非、お願い出来ますか…」
「カーット!」
ここからは場面が変わる、墓場での撮影、そしてク
ライマックスの優斗の泣き演技…
セットが変わる為、今日の撮影はここまでとなる…
「うわ~いよいよ明日ですよ…大丈夫かな~オレ…」
優斗が弱気な言葉を漏らす
「なんだオイ、自信がねぇのか?泣き演技」
神谷に茶化され、いつものように強気な返事をする
のかと思いきや
「だって~、健太さんと花村さんの泣き演技の後っ
スよ~、ハンパな演技じゃみっともないじゃない
ですか…」
「いいからまず飲め!ホラ」
そう言いつつ優斗のグラスに神谷がビールを注ぐ
「グイッといけグイッと!」
神谷に促され一気にグラスを開ける優斗
「いいか宗像!大垣は命をかけてお前を冤罪から救
ったんだ」
優斗を役名で呼ぶ神谷、いや、そこに居るのは大垣
の盟友 ”神崎” だった
「オレの親友は何者かに刺されて死んだよ、お前さ
んを自由にする為にな!それに対するお前の態度
が中途半端な物ならオレは許さねぇ」
居酒屋でするには、およそ似つかわしくない会話だ
だが、優斗の胸には刺さる物があったようで
「大垣さんには感謝してます!それはもう、言葉で
は語れない位に」
優斗も負けじと宗像として応える
(何だこれ??でも…)
心なしか、引っ張られている優斗の演技が、自然、
と言うか肩の力が抜けて見える
撮影環境じゃないからだろうか?いずれにせよ、優
斗のこの自然な 演技を引き出したのは神谷の力だ
ろう、さすが風岡としのぎを削る名俳優、、、
「う~ん、ちょっとは自然になってきたが、まだ作
った演技なんだよなぁ…」
「芝居がくさい、って事ですか…?」
優斗が不安げに神谷に尋ねる
「いや、お前の芝居は元々悪くない、ただ、憑依型
の夢原や詩織ちゃんと違ってお前は明らかな没入
型だ、タイプが違う、だがな!なんと言うか自身
の良さを活かす事は得意でも自分自身くささ、と
言うか ”北原優斗” が抜けきってないんだ」
「オレの演技じゃ、この役は演じきれない、です、
か…?」
一層不安そうな表情になった優斗が、恐る恐るとい
った表情で神谷に尋ねる
「いや、そんなハズがない、ただ、まだ役への入り
込みが浅い、かな…」
「そうなん、ですね…」
神谷の言う事は最もだった、優斗の演技は悪くない
ここ最近の若手の中ではピカイチだ、だが、クライ
マックスで演じる感情の爆発、その為には今よりも
もっと深く、役に入り込む必要がある
それには ”北原優斗” を多く残していては邪魔に
なるのだ…
「まぁ、さっきの演技は悪くなかった、そうやって
明日まで宗像のつもりで過ごしてみるのもいいか
もな…」
そう言って神谷は席を立つ、タバコを吸いに表に出
るのだろう
健太も疑問を残していた
(話がしたい!)
そう思い神谷の後を追う…表の喫煙所に行くと
「よう、タバコは吸わねぇだろうに」
神谷に図星を突かれた
「ちょっと2人でお話がしたくって」
健太は尋ねた、自身が「真夏の夜空」で風岡に引っ
張られた経験を、どうしたら優斗を同じように導け
るかと、すると…
「ハハハ、なんだ、無意識だったのか?」
神谷には笑われてしまった
健太が呆気に取られていると
「もうやってたじゃねぇか!泣き演技の時、あれだ
よ!あれ」
「あ、、、、、、」
健太にも分かった!「真夏の夜空」でのあの感覚、
風岡の演技に引っ張られ、まるで自分が演じるキャ
ラクター自身になったかのような没入感…あの時感
じた ”アクターズハイ” とも呼ぶべき共感!
「オレも見たが、凄みのあるいい ”泣き” だった
、花村さんにも言われたろ、引っ張られて泣きが
楽だったと…あれはアスリートでいう所の ”ゾー
ン” ってやつだ…」
全て合点がいった、で、あればやる事は一つだ!!
「ありがとうございますっ!」
まるで最敬礼のように大きく腰を折ってお辞儀した
(すごい!やっぱりオレなんてまだまだだ…)
悔しくもあり、羨ましくもあり、また楽しくもある
世の中にはまだまだ上がいて、自分はまだまだ成長
途中であった!
全くもって思いあがってるヒマなんてない…
踵を返すと再び店内へと取って返す
「ハハハ、暑苦しいねぇ、どうも…」
そう言いつつ神谷の口角は上がっていた
(オレが引っ張り上げるんだ、あの時風岡さんが、
オレにそうしてくれたように!)
決意も新たに席に戻った
「あれ?光岡さんってタバコ吸いましたっけ?」
当の優斗は健太の胸の内を知らず、宗像になりき
って呑気な事を言っている
「吸わないって、夜風に当たってきただけだ…」
武者震いがしてくる、この気の良い若者を、なんと
か引っ張り上げてやりたい!あの時見た景色を見せ
てやりたい!オレがやるんだ!
これをやり切ってこその主役、これが出来てこその
主役の器なのだ!
改めて風岡や神谷との差を感じた、当たり前にこれ
が理解出来ているのだ、肌で感じて実感として…
頭が下がる…一体どれほどの場数、情熱を持ってこ
れを身に着けたのだろうか
”傲慢になれ” 主人公らしく、その傲慢なほどの感
情の爆発が、優斗を押し上げる手助けになる
「明日はしっかりついて来い!覚悟がいるぞ」
自分には似合わない程の強いセリフ…
だが、これで良い!!
ドリームドッグは実は部分的に実話で、作者が見た夢を題材にキャラクターや
ストーリーを肉づけした物です、ある日私が見た夢、それは犬を飼う夢、平凡
だけど変わった夢、子犬から成犬、そして死の間際まで、夢の中で一匹の犬の
生涯に触れ、目を覚ました時、私の頬は涙で濡れていました、作者はその当時
犬を飼っていましたが、どうやら彼は夢の犬とは違ったようです、でも、もし
今後の人生で夢の犬に出会ったら、そんな思いを、物語に載せて描いてみまし
た、私が人生で初めて綴った拙い文章です、無駄な表現、セリフ、分かりづら
い部分、読み苦しい部分も多々あるでしょうが、なにとぞ、生温かい目でご容
赦下さると幸いです。




