サイバー課にて
「サイバー課なんて子供の頃にゃSFにしか出てこなかったのにな。大人になったら自分の職場にあるなんて……時代はめちゃくちゃ早く進むもんだな」
「まったく、せっかくボスが捕まったんだから、そんなに急ぐこともないでしょうに……」
伊賀はデスクに向かい、特殊詐欺集団・デクの情報をパソコンで調べていた。その脇に興味深そうに藤原が画面を覗き込んでいる。
二人は駅で別れたが結局、署で合流したのだ。
「じゃあ、帰ればいいだろ? まだこの課にも人がいるし」
警察署のサイバー課にはまだ人が疎らにおり、皆、スマホで会話しながらパソコンの画面をみていた。
「皆さん、現在進行形で調査してるんですって、調べ物くらい僕がやりますよ……元々、サイバー課でしたから」
「エリートじゃねぇか。なんで捜査の方を……」
「やりがいが欲しかったんですよ。ネットの向こうのリアルな現場の方が人助けして、僕はそれをただ見ているようでね。それだと一枚フィルターがかかっているというか……」
「おっ! 伊賀、わかってるねぇ」
「だからできるだけ捜査に熱心な人の下につきたいって上にいってあるんです」
「相思相愛じゃねぇか」
藤原は伊賀の目の前に拳を突き出した。
「まったく、冗談じゃない。僕にそのケはありませんけどね」
藤原の拳に伊賀は自分の拳をタッチした。
パソコンの画面には特殊詐欺集団の情報が出ていた。
そこには出久根郁夫を頂点とした組織図があり、デクから聞き出した人物が名簿となってまとめられていた。ほぼ名前と年齢、住所、職業が割り出されているなかで一人『三浦エリ』だけは住所と職業が書かれてはいない。そしてその三浦エリが行っていた組織での仕事はデクたちの得た金を暗号資産や仮想通貨に変え、足のつかないようにする仕事だった。
「伊賀、どうみる?」
伊賀はしばらくディスプレイに映る文字を睨んでいた。
「三浦エリはデクを信用してなかった。だから個人情報をデクには一切知らせなかった。もしくは個人的に犯罪を行っていた職業犯罪者? もしくは別の組織があり、そこから委託されているか? ……とにかくデクに雇われて仕事をしていた。だがデクは三浦エリを掌握しきってない。だが一時的にせよ金銭をすべて渡していたことから絶対的には信頼はしている。三浦エリはデクを裏切らない、裏切れない……となると、三浦エリはデクに弱みを握られているか、絶対に裏切らないなにかがある。もしくは依頼されたら裏切らない職業犯罪者か」
藤原は伸び始めた顎髭をさすりながら「まずは『三浦エリ』だな」と目を細めた。その眼光は熊を狩る狩猟犬のように獰猛だった。
「で? 口座から個人情報は割出せねぇか?」
「……昨日今日では無理ですよ」
藤原は一時悩むと「じゃあ、デクの行きつけの店や場所を調べないとな」といった。
「それよりスマホの通信記録を調べた方が……」
「いや、おそらく二人は足のつかないように直に会っていた。三浦エリは慎重だ。互いのスマホに情報はないだろう。そしてパソコンは自分のパソコンは使ってないかもしれない」
「また勘ですか?」
「ああ。やはり、こいつさえ捕まえれば、あとは楽勝だ」
伊賀の呆れた声に藤原は自信満々にこたえた。




