第一章【第八話】「いともたやすく行われるえげつない妄想」
「―――彼女は、この紛い物のみたいな僕の人生に現れた、たった一つの光なんです!―――」
「―――君はね、私にはなーんの影響も及ぼさない。でも、そこが君の良さだよ!―――」
自身への影響を第一に考える二人が出会ったのは、まるで絵に書いたような理想のパートナーだった。
紛い物の日々と作り物の事実を求めて、二人の関係は発展してゆく―――
これはtrueENDを目指す、世にありふれた物語。
翌日、【少年】は担任に頭を下げ、五分ほど教師による励ましを受けたのち席についた。横の千綿さんの席にはいつもの面々がおり、週末の予定について確認しあっていた。なんでも遊園地に行くとかで、【少年】もお誘いに預かったのだ。【少女】だけは先約があると言って来ないらしいが…。
「うん。楽しそうだね。行くよ。」
【少年】は気づかなかったのだ。春と千綿が怪しく光ったことを。そして後に知ることになる。ラブコメ(擬き)における外野が、二人(?)にどれほど多大な影響を与えるのかを……
◇◆◇◆◇
みんなで遊園地に行く日の前夜、【少年】たちは緑色のメッセージアプリであれこれとやり取りをしていた。そこで【少年】は、七子もメンバーに加わったことと、明日の天気が「晴れのち曇りところにより雨」であることを確認し、床に就いた。
◇◆◇◆◇
「な…んだ…と(定期)」
少年は、最寄りの駅からすぐそこのショッピングモールの待ち合わせ場所である噴水のある休憩スペースに辿り着き、呆然としていた。
約束の時間より二十分早く到着し、一番乗りを果たしたところまでは良かった。のだが、そこから七子しか到着しないまま、約束の七時半になってしまったのだ。
昨夜連絡していたメッセージアプリを開くと、春と千綿のドタキャンを知らせる二通の新着メッセージが届いていた。
((二人とも、ドタキャンって…やってんなぁ…))
◇◆◇◆◇
席替えの一件以来、七子と【少年】の接触頻度は跳ね上がっていた。しかし、それは決して偶然でも運命でも宿命でもなく、春と主に千綿による「引き合わせ」だったのだ。しかし、いくら【少年】がガリ勉でも、この物語がラブコメとして成り立っていない以上、ラブコメ主人公の固有スキル『鈍感』や『難聴』、必殺技の『都合のいい解釈』は使用できない。そう、現在の【少年】はショウ・タッカーの言う「勘のいいガキ」だったのだ。さらに言うなら、この状況もなんとなく予測しており、リュックの中には『高校生のための恋愛ガ●ドブック』がちゃんと入っている。この後に、七子が【少年】に対して、異様に当たりがキツくなったりするのだろうか、いやない。
◇◆◇◆◇
よくもわからない現実逃避をしながら、【少年】は二人に「お大事に」を送信し、七子の方を見た。以上なまでにその顔を赤らめている七子に、「どうしよう?」と問いかける。七子は、しばしの逡巡ののち
「楽しみに してたし私は 行きたいな 七子」
と書かれた短冊を渡した。
「わかった。僕も楽しみにしてたし、行こっか」
そう答えた少年は、「飲み物買ってくるよ。何がいい?」とだけ尋ね、「ありがとう」と「お水をお願い」を受け取って、その場を後にした。
【少年】は思った。
(これで、冷たい水持ってったら、もしかして「はぁ? お水っていった常温に決まってるでしょ ったく こんな簡単なこともできないなんて 使えないわ 役立たず(feat.雪白七子/CV.竹達彩奈)」って罵ってもらえるかなあ?)と。
ご精読ありがとうございました。