第二章【第三話】「『名前に『越』と『村』がつく奴の中高のあだ名は一つに決定される』の対偶命題を答えよ」(49文字)
「―――彼女は、この紛い物のみたいな僕の人生に現れた、たった一つの光なんです!―――」
「―――君はね、私にはなーんの影響も及ぼさない。でも、そこが君の良さだよ!―――」
自身への影響を第一に考える二人が出会ったのは、まるで絵に書いたような理想のパートナーだった。
紛い物の日々と作り物の事実を求めて、二人の関係は発展してゆく―――
これはtrueENDを目指す、世にありふれた物語。
結果としては、この怪奇はどうにもならなかった。
【少年】の記憶にあったあの五人の日常は、【少女】の声かけによって始まったためか、今回は誰にも声をかけられる事無く始業式が終わってしまった。決して、『君すい』では飴を主人公に渡す子がいたことを忘れていたわけではない。天地神明に誓って、断じて無いッ!
そんな訳で、【少年】は、久々のぼっち生活を全力で満喫していた。べべべ、別に、メッセージアプリのIDを覚えていたからといって、フレンド申請なんてものは送ってねぇし。ちょっとDMの「宛先:」っててとこに気分で適当に打ったら、たまたま、偶然、本当にまぐれで春とか言う奴にメール届いただけだし。「一ヶ月以上返って来てねぇから、多分迷惑メール扱いされてんだなー、はは。」くれーだしよ。教室で春が、「知らんやつからメール来たんだがw」とか「怖くねw」とか言い合ってたのなんかちっとも気にして無いんだかんね! うぅ…
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そして時間は流れ、世代は交代する。【少年】は現在、明後日に控えている中間テストに向けて猛勉強中。この香龍学園は入試の際にそこそこ高い偏差値を要求される。つまり、必然的に学校も一定の勉強量と結果を要求し、生徒がそれに応えられなければ情け容赦なく落第とする。そうなれば生徒も勉学に励まざるを得ない。その環境下で、【少年】は今まで成績(と二次元)を頼りに生きてきたのだ。
【少年】は現在、古文の授業で扱った教材の出典である『大鏡』を全文読解中。
香龍学園の定期テスト期間は文理合同年五回、四日間ないしは五日間あり、それぞれ二〜四教科の試験となり、中間テストは全十二科目、期末テストはなんと全二十二科目にも及ぶ。副教科はテスト期間外に、期末試験の時にのみ行われるため毎日四教科ずつ、とまではならないものの、生徒にとってかなりの負荷となる。
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「今度こそ、今度こそ学年一位に僕はなる!」などという、告白でもすんのかお前?って感じのことを先日読み始めた五つ子ラブコメの主人公を思い描きながら、【少年】は「源大納言重光卿御娘の腹に、女君二人、男君一人おはせしが、この君たちみな大人び給ひて」を「源大納言重光卿のお産みになった方に、女君二人、男君一人がいらっしゃったが、この君たちが皆成人なさって」と訳していていた。
【少女】の容姿をした、(比較すると)ちょっとだけ、本当にちょっとだけ、出るとこ出ている【妹】に一瞬気を取られかけたが、「ああ、風呂ね。アイアイサー。」とだけ早口に答えると(【妹】はまだ何も言っていないが)、風呂に向かって50m走9秒の鈍足で風呂に向かった。
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【少年】の心中は、大荒れだった。
((やばいやばいやばいやばいいいやぱいいいやぱいいいやぱいいいやぱいいいやぱいいいやぱいいいやぱいいいやぱいいいやぱいいいやパイいいやパイいいパイ……))
厳しい定期テストを目前にした、ガリ勉の【少年】は……ドギマギしていた。脳内でまどマギもしていた。
今まで、「【妹】にはどんな感情も抱かない」と言うのは【少年】の中でもフィクションの中でも共通している、数少ない事柄だった。それが、今、崩壊しようとしている。
((絶対に、最終戦線は死守せねば…))
そんな、「『最終戦線』とか言ってる時点で、お前はもうお終いン・ザ・ミラーなんだよ…」とマインドBは囁く。【少年】は、この世界の「理解者」たる【少年】だけは知っている。この後、何が起こるのかを、知っている。
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参考:『大鏡』
引用:編著:黒川行信『体系古典文法 九訂版』(2022、数研出版)
ご精読ありがとうございます。




