第一章【プロローグ】 これは世に埋もれた物語
「―――彼女は、この紛い物のみたいな僕の人生に現れた、たった一つの光なんです!―――」
「―――君はね、私にはなーんの影響も及ぼさない。でも、そこが君の良さだよ!―――」
自身への影響を第一に考える二人が出会ったのは、まるで絵に書いたような理想のパートナーだった。
紛い物の日々と作り物の事実を求めて、二人の関係は発展してゆく―――
これはtrueENDを目指す、世にありふれた物語。
(―――夢って、なんだと思う?―――)
いきなりどうかしたの?
(―――ふふっ、確かにね。君には、ちょっと早過ぎたのかもね。―――)
その言い方から察するに、どうやら僕は答えを間違えたみたいだね。
(―――間違えたって思うなら、私に対するしかるべき態度があるんじゃないかな?―――)
そうだね。来週あたり君の荷物持ちにでもなって、奉公させてもらうよ。
(―――よろしい。じゃあ、そろそろ行こっか。ここももう閉まっちゃうそうだし。―――)
◇◆◇◆◇
すっかり日が落ちて、街行く人は暖かい我が家へと足を急がす。そんな中、我関せずと少年はカフェに佇んでいた。
少年は知っていた。今、自分が手にしている小説のような日々は、現実には起こりようもないことだということを。
少年は知っていた。他人が、自分が好む世界を好いてくれるというのは、全て押し付けがましい幻想であることを。
少年は気付かなかった。彼女が、自分の人生を大いに変えると、信じて疑わなかったから。
少年は気付けなかった。自分と彼女の間には、圧倒的な差があることを。
すっかり日が落ちて、街行く人は暖かい我が家へと足を急がす。その流れに溶け込むように、少女は歩いていた。
少女は知っていた。今、自分が置かれている状況は、長くは続かないことを。
少女は知っていた。みんなが、自分に求めている姿は、もっと美しく、強く、凛々しい姿であることを。
少女は気づかなかった。彼が、自分の人生には全く影響を及ぼさないと、信じて疑わなかったから。
少女は気づけなかった。自分と彼の間には、大きな差があることを。
◇◆◇◆◇
これは物語。作り物と紛い物の織りなす、世にありふれた恋の、物語である。
ご精読、ありがとうございます。これからも、この物語を楽しんでいただけたら幸いです。