配信魔法を開発したので婚約破棄を中継しますわ!
サラッと読めます。息抜きにどうぞ。
ハンクから呼び出しの手紙が届いた時、私はピンときた。これはきっと私との婚約を破棄するつもりだと。
ハンクは伯爵家の嫡男で家柄は素晴らしく、見た目も良い。婚約が決まった時は私も喜んだものだ。
しかしいざ婚約者として交際を始めてみると、その印象は崩れる。
私のことを大切にしてくれたのは最初だけで、直ぐに他の女に手を出し始めた。本人はバレていないと思っていたらしいけれど……。
そしてつい最近はある男爵家の令嬢に熱をあげているというのだ。周囲には「運命の相手が見つかった!」なんてことを言っているようだ。
「お父様、お母様。そろそろ出発します」
宣言すると、二人は魔信板を取り出した。
「おぉ、ロザリア! ついにこの時が来たか! 魔信板でしっかり見ているからな!」
「ちゃんとコメントもするからね!」
当然のことながら両親は私の味方である。そして、視聴者でもある。
視聴者は他にもいる。
実は今日は私が開発した配信魔法のお披露目の日でもある。両親がもつ魔信板と同じものが、王国内の様々な貴族家、そして王族に配られているのだ。
「では、行ってまいります」
私は大きな目玉を持った蝙蝠の使い魔を飛ばしながら、馬車に乗り込んだ。
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貴族街にある閑静な公園。ハンクが指定した場所だ。
「ご機嫌いかがでしょうか? 私はマーメル子爵家のロザリアです。皆様、絵は見れておりますか?」
私の前を飛ぶ使い魔に向かって話かける。すると──。
『見えておる。これは素晴らしい』
『声もちゃんと聞こえているわよ! ロザリア』
『頑張るんだぞ! ロザリア』
『これが配信魔法か……』
視聴者からのコメントが手にもつ魔信板に流れた。
よし。使い魔の見たもの、聞いたものがちゃんと配信されている。成功だ。後はハンクが現れるのを待つばかり。
少しして、人の気配がした。使い魔が、そちらに首を振る。
『この男はハイランド伯爵家のハンクか?』
『ハンクですわね』
『確か、ロザリアの婚約者だった筈』
『女好きで有名な男だ』
ハンクは使い魔を見て怪訝な表情を浮かべながらも、私の前にやって来た。
「今日はどうしたの? わざわざ手紙で呼び出すなんて。まさか、婚約破棄なんて言わないわよね?」
「えっ……。いや、その……」
『ハンク、戸惑っておるぞ!』
『さては図星だな』
『カカカッ! なんと情けない表情じゃ!』
『いいぞ! ロザリア! もっとやれ』
『ロザリア! 頑張って!』
「私、知っているのよ? 私と婚約してからも色んな女に手を出していたことを」
「何を言い出すんだ? 証拠はあるのか……!?」
ハンクは顔を真っ赤にしている。
「証拠? あるわよ」
隠蔽魔法を解除する。私の背後に一人の女が姿を現した。ハンクの被害者である。
「なっ……! なんでここにいるんだ!」
「私がお願いして来てもらったからに決まっているでしょう? ハンク、あなたは自分の身分を隠して平民を口説き、飽きたらすぐに酷い扱いをしていたそうね?」
「俺はそんなことしな──」
「されました!!」
女が声を震わせて糾弾した。その剣幕に押され、ハンクは狼狽える。
『ウチの娘にも手を出したからな! この男は!』
『此奴、一体どれだけの女を泣かせたのじゃ!』
『おいおい。あれはデニス商会の娘ではないか』
『王国一の大商会の娘に手を出していたのか……』
『なんと愚かな……』
そろそろ止めを刺そう。
「ハンク。あなたは最近、"運命の相手"を見つけたそうね? 確かピーピア男爵家の令嬢。名前はミリーといったかしら」
「何故それを!」
もう開き直ったのか、ハンクは隠そうともしない。
「いいわ。あなたとの婚約は解消しましょう。その運命の相手とやらと、仲良くすればいいわ。ただし、忘れないでね。世の中には敵に回しては駄目な人がいることを。大商会に相手にされなくなった伯爵家に味方する貴族がどれだけいるでしょうね?」
「……」
ハンクは何も言えなくなってしまった。その間抜け顔が王国中に配信されているとも知らずに。
『おおぉぉ! 決まった!!』
『ロザリア、かっこいいわよ!!』
『ハイランド伯爵家との付き合いは考えないといかんな』
『デニス商会との関係の方が優先だからな』
私は使い魔を呼び寄せる。
「さて。本日の配信は如何だったでしょうか? 皆様にはハイランド伯爵家のハンクが如何に愚かな男かをご理解頂けたかと思います。また、本日をもって私は自由な身となりました。良縁をお待ちしております」
そう言って配信魔法を解除した。
ハンクは最後まで、何が起きたのか理解できないままだった。
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「また見合いの申し込みが来たぞ! 配信を見て怜悧なロザリアに一目惚れしたと書かれてある」
夕食後の団欒。お父様は届けられた手紙を見ながら嬉しそうにしていた。
配信後、私の元には様々な縁談が舞い込んでいる。怖がられるかと思っていたけれど、意外とそうではなかったらしい。なんでも、「出来る女」が今は人気だとか。
「そう言えばハンクは廃嫡され、家からも追放されたそうだ」
「当然でしょうね。ハンクのせいで、どの貴族家からも相手にされなくなったのですから」
あの日の配信の効果は絶大だった。たった一日にしてハイランド伯爵家の味方はいなくなったのだ。我ながら配信魔法の力に驚いたものだ。
「ロザリア。焦ることはないのよ。今度はしっかり選びましょうね」
お母様は冷静だ。
「はい。しばらくは仕事も忙しいですし」
つい先日から、私は王城で働いている。国王が配信魔法をいたく気に入り、私に【配信官】という新しい官職を授けてくれたのだ。
配信魔法を如何に治世に組み込むか、国王と検討を重ねる日々。
私は今、とても充実した毎日を送っています。
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