【短編】正義のヒーローに婚約破棄されたヒーラーは司令の兄と共に亡命し、魔族の親玉と結婚して幸せに暮らしました。
「フィーナ・ステッラベル!君との婚約を破棄する!」
その日私は、正義のヒーローから婚約破棄された。なお、一応この光の国の王子でもあるのだが、正義のヒーローも務めているのである。金髪にアメジスト色のたれ目のイケメン、アンドリュー・スパークリング。それがたった今他人になった正義のヒーローの名前。ヒーロー名はスーパー・クリング。店かよ。ついでにヒーローの姿の時は専用の装甲を身に着ける。
「そして俺は、このローラと婚約を交わす!ローラは素晴らしい聖なる乙女だからな!」
「やだっ、ドリューさまったら♡」
そう、アンドリュー・スパークリングの隣で頬を赤らめている美少女は、ピンク色のふわふわの髪にブルーの瞳を持っている。本名はフローラ・ビウィッチング(笑)。光の国ヒーロー育成課ヒーリング部に属するヒーラーだ。
「そうですか。じゃぁ、私はここのヒーリング部の仕事、辞めますから」
「いや、何故そうなる」
と、アンドリュー・スパークリング。
「え?あなたのこと嫌いなので、顔合わせたくないんです」
私はこのひとのヒーリング担当としてヒーリング部に所属していたヒーラーだったのだから。このひと、やたらと魔族と戦闘して怪我するのよね。何かカッコつけていいところを見せて、民衆の人気を取ろうとしているの。人気が出たら目立つから。目立ちたいのよ、要は。
「いや、ヒーリングは元通りしてくれ。君の才能は惜しいからな!このままヒーリング部に置いておいてやろう!」
「きゃっ、ドリューさま優しいっ♡」
「いや、意味わかりませんし。そもそも、何で浮気しやがって婚約破棄しやがったひとのヒーリング担当しなきゃならないんですか。そこの新しいビッチさんにお願いしてください。ではさよなら」
「貴様、何てことを!せっかく温情をかけてやったのに!貴様など出て行け!」
「ひどい!私の苗字はビウィッチングなのにぃっ!」
後ろでなんやら騒いでいるが。ビッチだからビッチと言ったまで。何が悪い。私は無視して職場を後にした。
***
「―――てなわけでシル兄さま、亡命しましょ」
「そうだな。フィーナのいない光の国なんていても意味はない。司令なんて、辞めてやる!」
こうして、光の国ヒーロー育成課司令、ぶっちゃけ総司令はおじいちゃんで現在静養中のため、実質的なヒーロー運営のトップ・司令官、シルベスター・ステッラベルことシル兄さまは妹の私と共に闇の国に亡命したのであった。
***
闇の国は魔族の国である。光の国からは悪の帝国と呼ばれているが、王政である。闇の国に入った瞬間、私のグレーの髪の左右に金色の羊のような角が生えた。因みに瞳はピンク。
シル兄さまはダークブラウンの髪にヘーゼルブラウンの瞳のため、あんまり似ていない。
そして闇の国でシル兄さまは即宰相&参謀に就任した。
何でも元々話は来ていたが、私のことがあって考えあぐねていたらしい。
更に驚いたことに、闇の国の王さま、通称魔王さまは私の幼馴染みだった。本名はルーカス・トゥウィンクリング。愛称はルカ。本人はちょっとかわいいその苗字を恥ずかしがっていた。彼曰く、私は昔、闇の国で生まれ育ったが、私の力目当てに光の国が私を攫ったのだそうだ。
そう言えば、何となく幼い頃に黒髪の男の子と遊んだ記憶があるような。
因みに魔王さまことルカは別名悪の親玉とか魔族の親玉呼ばれているが、光の国でのイメージ的なところだけで、賢王である。
闇の国が長年光の国に侵攻し、ヒーローたちと魔族たちが激戦を繰り返していたのはそう言う理由だったのだ。
魔王さま、黒い髪にダークブラウンの歪んだ魔族角、赤い瞳を持つ美しい顔立ちのルカは私が国に戻ったのならと、その魔力で闇の国を閉ざしてしまった。もともと国を開いていたのも、滅ぼさずに地道に侵攻していたのも全て私を奪還するためだったらしい。
そのためにシル兄さまにもコンタクトを取っていたのだとか。
人間ではあるものの、頭脳明晰なシル兄さまを迎えた闇の国は栄えに栄えた。魔王四天王のみなさんも優しいし。
「そう言えば、光の国はどうなったのかな?」
「フィーがいなくなったのだから、衰退しているだろうね」
と、ルカ。
「そう言えば、私の力を求めていたって聞いたけど、結局何だったの?」
「フィーは、豊穣と繁栄の加護を持つ巫女なんだ。光の国はそんなフィーを不当に奪って、ヒーリング魔法を王子に使わせていたんだろう?フィーがいたことで、光の国は豊かになったが、失った挙句に君に酷いことをしたのだから、衰退は目に見えているだろうさ」
「なるほど、そう言うこと」
「でもこれからはフィーは俺が守る。そして、幸せにするからな」
「うん、ルカ」
こうして、私はヒーロー(※王子でもある)に婚約破棄された私は、ルカと結婚して幸せになったのだった。
※補足ですが、むざむざとフィーを逃がしてしまったドリューは国王から大目玉を食らいました※