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人外伝  作者: 射織
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プロローグ

 まず始めに、(ひいらぎ)真人(まひと)は不幸体質である。



 その少年は明日の高校入学に備え、自室で勉強をしていた。

 明日は入学式と教科書配布のみで、勉強をする必要は全くもってないのだが、彼はまるでテスト前のように勉強をしていた。それは彼が三年前からずっと続けてきた日課であり、彼が明日から通う高校の試験に合格できた一番の理由であった。



 国立干城大学付属高等学校、通称干城高校。

 全寮制の学校であり、そこは海に囲まれた島国アステリアを敵から守るための兵士を育てる、国で唯一の学校である。

 この学校ができたのは七百二十年ほど前、人間と人外が決定的に敵対したあの戦争に遡る。



 戦争が起こる百年ほど前、人間によく似ている「人外」が突然変異により増え始めていた。初めは人間たちもそのことについて関心を示さなかった。それほど数が多くなかったからだ。

 しかしだんだんと増えていく人外たちに、人間は次第に恐怖を覚えるようになった。人間たちは人外たちを追放し、平和を得ようとしたがそれは逆効果であった。追放された人外たちは手を組み、人間との全面戦争を起こした。

 当初は数の少ない人外が負けると思われていたが、その圧倒的な強さにより、戦況は停滞していた。荒れていく土地や人間も人外も関係なく死んでいく光景を見た女神、アステリアは戦争を終わらせようと決意し、その命を賭して大海原に小さな島国を創造し、大結界を張った。ほとんどの人外たちはその島に逃げ込み、戦争の終結を求めた。人間は要求に応じなかったが、その結界は爆弾などの飛行物を通さず、仕方なく送り込んだ兵士は皆人外の強さにより倒されていったので、ついに人間側は人外を制圧することを諦めた。

 これで戦争は終わりを迎えたが、いまだ島国には人間の軍隊が送り込まれてくる。

 その対処のためにできたのが国立干城大学、そして干城高校なのだ。



 その少年は人間であるが島国生まれであり、そして種族によって差別されることもなく、穏やかに平和に島国で過ごしていた。そんな愛すべき故郷のために役に立ちたいと思った彼は兵士を志し、そして今に至る。

 明日の入学式に心を踊らせながら部屋の電気を消し、ベッドに潜り込んだ。時刻は十二時を回っている。少し夜更かししすぎた、と反省し、彼は目を瞑った。





 真人は心地よい日差しとともに目が覚めた。こんなに気持ちの良い朝はいつぶりだろうか、そんなことを考えながらゆっくりと上体を起こした。彼の住むアパートには自然が多く取り入れられており、そのため小鳥の泣き声も聞こえる。まるで物語の冒頭のようだと呑気なことを考えながら時計を見た。目覚まし時計はまだなっていないので、真人はまだ朝早い時間だろうと思っていた。



 もう一度言おう。柊真人は不幸体質であると。



「九時……!?」

 ()()()()昨日は遅く寝て、()()()()目覚まし時計の調子が悪く、()()()()両親は仕事に行って、()()()()妹が友達の家に泊まりにいっているばっかりに、彼は入学式の日に寝坊してしまった。

 先ほどまでの心地よい朝が一変、真人の額には脂汗が滲む。昨日夜更かしなんてしたからだ、と昨日の自分を責め、彼は急いで荷物をまとめた。幸い昨日までの自分がある程度まとめておいたのと、大きな荷物はすでに学校に送ってあるので救われた。もしそうでなかったら、と今度は冷汗が垂れる。

 朝ごはんを飲み込み、乱暴に歯を磨いた後、新品の制服に着替えた。その制服が届いたときは妹に何度も自慢した。

 姿見で自分の身なりを確認し、黒い髪の毛が乱れていることに気がついた。仕方ない、と近くにあった安物の櫛をポケットに入れ、リュックを背負って玄関に向かった。

 扉に貼った忘れ物チェックリストを確認し、外に出た。家の鍵はポストに入れた。しばらくはここに帰ってこれないと思うと寂しい気持ちもあるが、今はそれどころではない。入学祝いに家族からもらった時計を見ると、時計の針は九時十七分を指していた。

 入学式は十時からだ。急いで電車に乗ればまだ間に合うかもしれない。そう考えて真人は走り出した。運動は大の得意であった。



 家から走って駅まで三分、そこから電車で二十五分、最寄駅から学校までは七分ほどなので、おそらく何事もなければ間に合ったであろう。

 九時二十分に駅のホームについた真人は思わず情けない声を漏らしてしまった。目つきの悪い両目を大きく開き、何度も見間違いではないかと疑った。

 しかしいくら目を擦ろうとも、瞬きをしようとも、ホームの電光掲示板に光るのは「運行休止」の文字だった。

「あれ、君。干城高校の生徒さんかい」

 茫然と立ち尽くしていると、少し離れたところから声をかけられた。周りを見てみると、そこにはドワーフの駅員がこちらに向かっている姿があった。

 運行休止になっているせいか、真人と駅員以外、ホームには誰もいない。自分の能力で目的地に向かったほうが早いからだ。

「は、はい。あの、運行休止って……」

「ああ、すまんねえ。機材トラブルで電車が止まってしまって。かれこれ二十分はこの状態なんだ」

 申し訳なさそうに頭を掻き、駅員は後ろの方を見た。数名のドワーフたちが電車の部品を修理している。

「あとどのぐらいで発車しますか?」

 真人がそう聞くと、駅員はもっと強く頭を掻き、ペコリと頭を下げた。

「次に来る予定だった電車がここの駅を飛ばして走っていったものでね……次の電車が来るのは五十分後だね」

 今までずっと走っていた疲れが一気に足に溜まったかのように、ヘタリと床に座り込みたくなった。寝坊なんてしたから……そもそも昨日遅くまで起きていたから。そうやって後悔をしていると、駅員が強く腰を叩いた。

「なぁに、そんなに暗い顔をするんじゃない。学校にはこっちから連絡しておいてやる。電車が来るまで世間話でもしよう」

 そう言った駅員に甘え、真人は駅員とベンチに座り、電車が来るのを待った。



「入学式の日に寝坊とは、それは災難だったねえ」

 ベンチに座りながら話す間に、だんだんと気持ちも落ち着いてきた。隣に座っている駅員は、優しく真人の話を聞いてくれる。

「はい……昔からそうなんです。なぜかとことん運が悪くって……」

「まあ、入学式なんてそんなに楽しいものではないさ。私は高校の入学式が退屈でね。途中で抜け出したんだ」

「え、怒られませんでしたか?」

「もちろん、こっぴどく怒られたさ。まあ、私が言いたいのは……そんなに落ち込むな、少年。入学式なんて退屈な行事、サボれてラッキーとでも思っておけ。明日からまた頑張れば良い」

 そう言って駅員は立ち上がった。

「ほら、電車が来た。行っておいで」

 駅員に押されて電車に乗り込んだ。ほとんど誰も乗っていない電車はどこか特別感がある。

「はい、ありがとうございます。行ってきます」

 手を振ってくれている駅員に手を振り返し、電車は出発した。あの駅員のおかげか、いつもより景色の流れるスピードが速く感じる。駅員からもらった飴を口に放り込み、真人は決意した。

 こんなに優しい島国の住民を守るため、立派な兵士になると。

柊真人


種族 人間

身長 171cm

体重 66kg

好物 焼肉

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