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PHANTOMEE  作者: カミムラカミウ
1章 夢見たステージへ
12/92

ーー11 その出会いは幸か不幸かーー


「あんた何してんだ?」



「…」



「おい、道でも迷ったのか?」



え、何これデジャビュ?さっきもこのやり取りあったよね?騎士エリアまで一時間も掛けて歩いてきて、着いてからも移動があったから疲れてきたんだな。そうだ、これは幻聴幻聴…



「何言ってんだ、幻聴なわけないだろ?」



幻聴じゃなかった!しかも口に出てた、恥ずかしい隠れたい。



「はい、何でしょうか…」



「何って、あんた道に迷ったのか?」



「道にも迷ってないし通行証も持ってますし怪しい者ではないのでどうか気にしないでください。…後念のためですが、俺は男です。」



「お、おう。迷ってないなら良かった。じゃあ、何か困ったことがあったら言ってくれ。」



ぶっきらぼうに返答したにも関わらず、思ったより優しくしてくれた青年に驚く。てっきりマティのように言葉を続けてくるかと思い、冷たく話してしまったのだ。謝ろうとするが、青年は言い終わるとすぐに第二師団の列に入っていく。



第二師団の騎士様だったのか!冷たく突き放したのが、却って申し訳ないことをした気分だ。



青年に目を向けると、真剣に訓練をこなしている。早く立ち去ってほしかったため顔をしっかり見ていなかったのだが、改めて見ると好青年だし綺麗な黒髪にも目が引き付けられる。



そのまま見学を続けて、立ったままでは足が辛くなってきた頃、午前中の訓練が終了した。



午前中に行ったのは素振りと足さばきのみだったが、足さばきはあまり意識してこなかった技術で、素人目でもいくつか種類があると知れてかなり勉強になった。後は午後の戦闘練習も見学して内容をまとめれば、イーサンの課題も一先ず終わるはずだ。



それにしても、午後の訓練までどこで暇を潰そう?訓練所や食堂は騎士が使うはずだから迷惑にならない場所は――



「あんたまだいたのか?」



「騎士様っ…!午前訓練お疲れ様です!」



「騎士様って、照れるから止めてくれ。俺はロタァート。あんた、あの後からずっといたのか?」



「あ、俺リデルって言います。そうです、今日は第二師団の見学に来たので。午後の戦闘練習も楽しみにしてます!」



「リデルか、よろしくな。第二師団を見学したいなんて、珍しいもの好きなんだな。誰かを見にきたのか?」



「あ、誰かを見たくて来たってわけじゃなくて…ただ第二師団の練習を見たくて、来ただけなんです。」



「本当か?…それなら余計に珍しいな。大抵見学と言ったら、他の師団への引き抜きのために来るんだ。しかも第二師団はそういうの珍しいから、皆もしかしてって張り切ってたよ。」



「それって、俺お邪魔しちゃってました?」



「ははは全然!むしろリデルがいてくれて良い刺激になってたよ。普段から手は抜いてないけど、中だるみする奴もいるからな。午後もしっかり見張っといてくれよ。」



監視するわけではないけど、俺の存在で頑張れる人がいるなら願ったりかなったりだ。それに、ロタァートが嬉しそうに笑うから、なんだか良いことをしてる気分になる。



「はい!楽しみにしてます!」



「よっし、良い返事だ!」



その後、午後までのお昼をどうするのかを聞かれたため、素直にどこに行こうか悩んでいると打ち明けると、ロタァート自作のサンドウィッチを一緒に食べることになった。



なんでもロタァートは、好青年な見た目とは裏腹に趣味が料理らしく、大量にご飯を作っては日々味の改良を繰り返しているらしい。ただその量が一人では食べきれないほど多いのか、よくお昼に持ち込みをしたり、他の騎士にもお裾分けしているようだ。そして今日も少し多めに持ってきており、良かったら…と満面の笑みで言われてしまえば、断る理由もなく、ありがたくいただくことにした。



そうして連れていかれたのは辺り一面色とりどりの花で覆われた花園だった。



「花園なんて柄じゃないが、奥にテラスがあってな。騎士ってのはこういうところに普通来ないから穴場なんだ。」



ちなみに、今まで他の人がここを使っている所を見たことがないらしい。そんな秘境のテラスをどうやって見つけたのかを聞いたら、騎士仲間から教えてもらったという。ただその人はすでに辞めてしまったようで、実質ロタァートだけが使っていると説明してくれた。



こんな開けた場所に本当にテラスがあるのか疑問だったが、少し奥まった場所へ進むと、こっそりと隠れるようにしてテラスが設置されていた。着いてすぐにロタァートがお昼の準備をしてくれる。



「ほら、これリデルの分な。あとお茶もあるから。」



「何から何まで、ありがとうございます。いただきます…え、うっまっ!」



「おぅ口にあったようで良かった。どれ俺も…あむ、もぐもぐ。うん、今日のも上手く出来たみたいだ。」



ロタァートが作ったサンドウィッチを美味しくいただきながら、リデルが見学にきた理由を話し、その流れで第二師団の練習内容について質問した。



「今日の練習時間自体は減ったが、今日見た内容はいつもしている内容とそこまで大差ないな。というかリデル…第二師団から続けて見に来てくれてたのか?」



「はい、そうですよ?」



「そうだったのか…その、せっかく第一師団まで来てくれた所言いにくいんだが、実は午後は第二師団の訓練所に戻って訓練することになったんだ。二度手間になるようでごめんな。」



「また移動なんですか?俺はただ見てるだけなんで良いですけど、ロタァートさん達は移動して、さらに訓練してって余計に大変ですよね…」



「他師団の訓練所を使えるなんて中々ないから移動自体は良いリフレッシュになったよ。それより、今日みたいな一時的に他師団の訓練所を使うのは稀なんだ。時間効率が悪いからな。」



マティが言ってた、お偉いさんが来るってのが何かあったのかな?聞いてみようとしたが、さすがに俺が割り込んで良いような話題とも思えなかったので口には出さなかった。



その後は、師団ごとの訓練所の違いを話したり、最近ロタァートがハマっているという、フルーツと生クリームを合わせたサンドウィッチをお裾分けしてもらった。ロタァートのイキイキした表情を見ると不思議と嬉しくなってくる。でもそれはロタァートの人柄が良いからだと、会って間もないのになんとなく腑に落ちた。



昼休憩後、ロタァートと第一師団の訓練所へと戻ると人だかりが出来ていた。やべ、まさか訓練に遅刻させたのか?と焦りながら近づくと、人だかりの中心で数人が口論しているようだった。騎士団員の問題なようで、関係のない俺はティックの手配に向かおうと口を開く。



「じゃあ俺は先に――」



「ロタァート!ここにいたのか探したぞ。」



「ん?どうしたんだ、こんなところで。」



「どうしたんだ、じゃないだろ。いつも第一に来たら立ち寄るのに、今日に限って連絡もなしとは。まさか昨日のことで怒ってるのか?だから――」



「それは…連絡できずすまない。後昨日のことはもう気にしてないから、お前も気にすんな。お互いカッとなっただけだろ。それより今日は先約があってお客さんと昼飯食ってたんだよ。」



ロタァートさんが喧嘩するような相手か。どんな人なんだろう?言葉に促され相手の顔が見える位置に移動すると、ロタァートが紹介してくれた。



「リデルだ。第二師団の見学に来たらしいが昼休憩で暇してたみたいだから一緒に過ごしてたわけ。」



「第二師団を見学…?慌ただしい所をお見せしてしまい失礼しました。私は国家騎士第一師団配属の真岡(まおか) (よう)と言います。」



鋭いつり目に赤々しい髪色が印象的で、まるでマティが言っていた狼みたいだな…と何気なく考えているとバチッと目が合った。



その時、頭一体をピリつくような衝撃が走る。痛みの箇所を押さえて痛みを和らげようとするがどんどんと痛みが増してしまい、屈み込む。二人が心配して話しかけてくれているが、止めどなく誰かの記憶が流れこんできてどんどんと声が聞こえなくなっていく。



「…、ま――」



俺は痛みに耐えられず、そのまま意識を手離さざる終えなかった。


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