死ね死ねセミ
夏である。暑い。
公園ににょきにょき生えている木から、セミの喧しい声が混声合唱的に聞こえるのだ。僕は声の方向を睨みつけた。
ミーンミンミン……。
ツクツクボーシ……。
シネシネシネシネ……。
前の二つには理解がある。嗚呼、セミの鳴き声だな。夏という季節の到来だ。そう思うわけなのだが……。
死ねってなんだ?
死ね死ね死ね死ね……。
まるで人間に対して呪いをかけているかのような鳴き声だ。非常に腹立たしい。セミを片っ端から捕まえて唐揚げにでもしてやろうか。もっとも、セミのから揚げなんて僕は食べないけれど。セミを食べたことはないが、おいしくはなさそうだ。セミを食うのなら、カエルを食べたほうがうまそうだ。
彼らは『死ね』といっているわけではない。ただ、僕が彼らの声を『シネ』ととらえて『死ね』に変換しているのだ。やれやれ。
僕は小石を拾うと、セミがいるであろう木に向かって投げた。鈍い音がして、ハチの巣が落ちた。ハチたちが僕に向かって一斉に飛んでくる。
僕は叫びながら逃げ出した。その背中にセミが『死ね』と言ってくる。心の底からそう言っているように思えた。