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草凪美汐.短め作品集  作者: 草凪美汐.
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7.夜が明けるまで

SFで、ファンタジーなクスッと笑ってもらいたい、ショートショートです(^^♪

「遅くまでご苦労さま」 

「ああっ、隊長」

 新人隊員は指差し確認中に、後ろから聞こえてきた声に、背をピッと伸ばし振り返った。

「明日の準備は?」

「はい、バッチリです」

 少し緊張した表情で答える新人隊員に、

「最後は穏便に済ませたいね」

 いつもより、くだけだ口調で言ってから、就寝を促してその場を離れた。

(まあ、眠れないから、ここに居るんだろうけど)

 

 自身も頭が冴えていて、どうにも真っ直ぐ自室に戻る気になれず、見回りと称して歩いている。

 と、同期入隊の副隊長が声をかけてきた。

「あれ、まだこんな所にいたんですか?」

「母船との最終打ち合わせが長引いてね」

 それも事実だ。

「お疲れ様です。何か飲みます?」

「いらない」

「隊長、眉間にしわ」

 副隊長がわざと自分の眉間に皺を寄せて見せる。

「……ああ、やっぱり何か飲もうかな」

「そうしましょう」

 

 この船は隊長と副隊長のみ個室が与えられている。後は階級によって、2人部屋4人部屋、さっきの新人クラスだと、広めの部屋にカプセルベッドだけ敷き詰められた、通称「雑魚寝部屋」で過ごす。

 副隊長の個室でハーブティーをご馳走になった。

 最近ハーブティーに凝り出して、部下たちにも好評だと話してきたが、部下からはそんなことは聞いていない。同期のよしみで黙っておこう。

 今、淹れてもらったお茶にはリラックス効果があるそうだ。気休めでも、有り難い。

「今回の失敗の責任でも、擦り付けてきたかい?」

「そうしてくれれば、潔く辞職して、別の仕事を探せるのに、のらりくらりと核心には触れず、最後は『次回があるのだから、あまり刺激しないように』と、逆に釘を刺されたよ」

 聞いておきながら、興味なさそうに副隊長は欠伸を嚙み殺した。

「甘いねぇ、上の皆さんは」

「まったく、甘やかし過ぎだ」

(まさか、成果無しでの帰還とは)



 最終打ち合わせ前に、緊急通信が入った。

 相手がわかっていたので、無視していたら、通信責任者に涙目で頼み込まれたので、仕方なく出てみると、

 画面に映るなり一言。

―「ねぇー、ちゃんと来てくれるのよねぇー」

 打ち合わせの議題の張本人が、豪華な衣装を身にまとって叫んでいる。

―「そのつもりですが、中止にしますか?」

―「ちょっと、止めないわよ。明日の事じゃない、何でこっちに連絡がないのよ!」

 (ああ、面倒くさいっ)

―「これから最終打ち合わせなんですよ。忙しいので切ります」

―「もう、何なのよその態度は、クビにするわよ!」

―「ええ、どうぞ。今、クビにしたらお迎えは延期になりますが、いいですよね」 

―「駄目よ、怒んないでよ、冗談じゃない。今回のことは……そうね……私も頑張ったのよ」

  最後のほうが、ごにょごにょと聞き取りにくい。

―「そうは見えませんでしたが、もっと、他種族に迷惑をかけない方法があったはずでは」

―「ひどい言い方ね」

―「そうでしょうか?」

 (チッ、打ち合わせの時間が……)

―「……明日の夜に必ず迎えに来てよ。もう、みんなに言っちゃったんだから」

―「かしこまりました」

―「絶対よ、盛大に頼むわね!」

―「御意」



《学校で初めて習うのは、我々種族の歴史や成り立ち。

 そして種族の偉大なる母、女王の功績だった。》



 フッ。

 思い出し笑いが鼻から漏れる。

「何?」

 二杯目のハーブティーを注ぐ手が止まる。

「いや、何でもない」

「これ飲んだら、すぐ眠れるよ」

 いい香りがする、安眠効果があるらしい。

「目が覚めたら、明日か」

「明日ですね、奴が帰ってきますかー」

 副隊長が深い溜め息とともに呟いた。

 不敬な言い方だが、諌める気にはならない。

「ああ、何の手土産も無く。今回の交配期は終了だ」

   

 一度目の交配期は、失敗したらしい。下調べもろくにせずに、「運命だ!」と勝手に飛び出して、やっと連絡がついたと思ったら「もう無理、帰りたい」と、泣きついてきたのだそうだ。

 もちろん、一部の関係者しか、知らされていない。

 それは『許されない』ことなのだ。

 繫殖機能は女王のみが有し、だがら女王なのだ。

 それを放棄することは、我々種族の絶滅を意味する。

 私も知りたくはなかったが、私より優秀だった隊員たちは風のように除隊し、逃げ遅れた私と同期の副隊長は、半強制的に交配期の女王近衛隊を任されて、今に至る。


 下調べも抜かりなく、その星で一番美しい容姿に変容させて、送り出したというのに。

 今回も失敗。

「先代は責務を前向きに、果たされたというじゃないですか」

「だから上の皆さんは、悠長に構えてるのさ」

「困るのは、次の世代ですものね」

(上層部はその頃は、もう土の下か)

 また不敬なことを考えている副隊長が、冷ましたハーブティーに口をつけた。猫舌なのだ。

(あれ、こんなに酸味が強かったかな?)

 隊長のカップは、もう空っぽになっている。

(気に入って貰えたなら、まっ、いいか)

 小さなことは気にしない副隊長は会話を進めた。

「好みのオスがいなかったんでしょうか?」

「にしては、途中まで楽しそうだった」

「ずっと監視してるのも、大変でしたね」

「繁殖能力があるのはさぁ、女王だけなんだからさぁー、もう絶滅するよー」

(ん?なんか違うかも)

 いつもの隊長らしからぬ発言に、副隊長は首をひねる。

「あー、私もオスにチヤホヤされたい!」

「隊長、本音が漏れ出てますよ」

「かぐや姫なんて呼ばせて……あんなに貢がせて……あんなに……」

 今度は、ドンドンとテーブルを叩き出した。 

(ありゃ、もしや!)

 副隊長はハーブティーを閉まってある小箱を開けて、中身を確認した。

(ああ、これ出しちゃったんだ)

「隊長、ごめんなさい。このハーブティーの効能、自白効果だったみたい」

「今さら、遅いわ!」


 夜が明けるまで、隊長の本音トークは続いた。



隊長たちはメスのみの種族です。(*- -)(*_ _)ペコリ

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