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草凪美汐.短め作品集  作者: 草凪美汐.
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3.オヤスミン

ショートショート。SFっぽいです。5分くらいで読めます。

「だから、何なんだよ。絶対に怪しいショッキングピンクのやつっ!!」

「まま、ささっと、実験体3号くん」

「勝手に実験体にするな!」


 会社からの帰り道、宇宙人にさらわれた。

 もとい、宇宙人と名乗る変質者に、車検に通らないような真四角のワゴン車っぽい乗り物に連れ込まれ、聞いちゃいけないような場所に運ばれて、あられもない姿で拘束されている。


 誰かオレを殴ってくれ。

 これ夢だろ、目を覚まさせてくれーっ


「はいはーい、キミに拒否権は無いよぅ」

 逆三角形の顔の太眉と、

「言う通りにすれば、すぐ帰れるからねぇ」

 丸顔のちょび髭が、オレを挟んで両脇に立って、ニマニマと笑う。

 上司の伝達ミスで、納期の変更やなんやかんやで、ずっと遅くて遅くて……

 やっと今日、定時で帰れたんだぞ。

「ふざけんな!」

 叫ぶオレ、きっと絶体絶命。



「はーい、もう一回だけ、説明するよぅ」

 と、太眉。

「今からキミは、この毒々しいショッキングピンクのヘルメットを被りまーす」

 ヘルメットを掲げる、ちょび髭。

「すると、あら不思議!瞼が閉じて眠くなりまーす」

 と、オーバーリアクションの太眉。

「オヤスミンという怪獣が現れるので、この麻酔銃で眠らせてくださーい」

 今度は麻酔銃を掲げる、ちょび髭。

「このミッションが成功しないと、帰れませーん」

 口調は子供向け番組の体操のお兄さん。

 言ってることは、無茶苦茶だ。

「だから!なんでオレ?」

 太眉とちょび髭が無言で見つめ合う。

 それから、ちょび髭が頷いて、

「時間なので、失礼しまーす」

「失礼しまーす」

 オレの質問をガン無視。

 二人がかりで、ショッキングピンクのヘルメットを無理矢理に装着させられると、あら不思議、瞼が閉じて、意識が遠のいたのだった…………。



「ハーイ、おやすみ~」

「チチッ」

 頭の上を舞う小鳥に話しかける、スカートをはいたモフモフの後ろ姿。

 大きな木の下で、オレは目を開けた。

(なんだ、ここは?)

 辺りを見回すと。

 熊さんに出会いそうな、花咲く森の道。

 童話によくある、メルヘンな世界が広がっている。

「おや?迷い込んで来てしまったの、かな」

 モフモフが振り返ってきて、普通に話しかけられた。


―『オヤスミンという怪獣が現れるので…………』


(怪獣か?) 

「……オヤスミンさん?」

 恐る恐る声をかけると、

「嗚呼。ボクをそう呼ぶってことは、あちら側の方ですねぇ」

 耳がピクンと動いた。

 表情は読めないが、歓迎されていないことは感じる。

 ピーターさんと呼びたくなるような、うさぎさん?としっかり目が合った。


「とりあえず、もうすぐ日が暮れるから、ついて来て」

 ピョコピョコと音がしそうな二足歩行で、可愛らしく先を歩く。

 身長はだいたいオレの腰くらい、柔らかそうな薄茶色の毛並み。

 歩くたびスカートから見え隠れする、丸い綿毛の尻尾に目が離せない。

 足がふらふら勝手について行く。

(怪獣か?)

 オレからしてみれば、太眉とちょび髭の自称宇宙人のほうが「怪獣」だ。


―『このミッションが成功しないと、帰れませーん』


「はぁ~」

 精神的な疲労から息が漏れる。

 蓄積した仕事の疲労感かも。

「お腹、空いたの?」

 オレの溜息に耳がピクっと反応して、オヤスミンが振り返る。

「……そうかも、しれない」

 腹の辺りをさすって考えた。

 どのくらい時間が経過しているのか。

(でも、生野菜、嫌いだな)

 頭の中に野菜スティックが浮かんだ、しかもニンジン多めで。



「それは大変だったねぇ」

 オヤスミンには、同情されてしまった。

 オレは今までの経緯を話した。攫われて、問答無用でここに送られて来たことや、ついでに会社の上司の愚痴もポロポロすべらせた。

 ミッションについては、もちろん言わない。

「ひとり暮らし、なんですか?」

 甘酸っぱい小粒の果物を貰って、話しながら一人で完食してしまった。

 連れて来られたのは、またメルヘンな山小屋風の一軒家。

 ベッドとテーブル、椅子が2脚。水道は無くて、水瓶がある。

 程よく小ぢんまりとしていて、居心地は悪くなさそう。

「ここはボクの家じゃないよ。迷子用かな、最近、多いから用意したの」

 シーツを交換しながら、オヤスミンが言った。

 そういえば、オレを3号って呼んでたな、あいつら。

「……その、前に迷い込んで来た方たちは……どうされてますか?」

 ネガティブな発想が頭をよぎる。

「いつの間にか、いなくなっているんだよねぇ。元の世界に帰れたんじゃない、かな?」

 と、コテンと可愛いらしく、小首を傾げた。

(可愛いな、モフモフ)

 その仕草に暗い気持ちが少し癒される。

 アパートがペット禁止じゃなければなぁ。

「じゃあ、夕飯の用意が出来たら、呼びに来るね。それまではここで休んでなよ」

「ありがとう」

 オレが素直に礼を言うと、耳をピクンっと揺らして出て行った。

(モフモフしたいな……)

 オヤスミンのモフモフを妄想で撫でようと、手を伸ばそうとした……が、また意識が遠くなった――。



 ―「おおっ、実験体3号くんと、まだ意識が繋がるみたいだぞぅ」

 ―「オヤスミンはどうした?」

   頭の中に直接、話しかけられる。

 ―(その声は、太眉とちょび髭か?)

 ―「「勝手に名前をつけるな!!」」

 ―(うるさいな。怒鳴りたいのは、こっちなんだけど!)

 ―「「……………………」」

   今までの鬱憤を晴らすように、怒鳴り返すと静かになった。


 ―(あんた達の言う、怪獣オヤスミンってどんなの?)

   どうせ、オレのオヤスミンとは、似ても似つかない怪物だろ。

 ―「全身、毛むくじゃらで」

 ―「目がギョロリと大きくて」

 ―「耳がピーンと長く尖っていて」

 ―「顔の一部がずっと、ピクピク動いていて」

 ―「「獲物は生で嚙み砕く!!」」

 ―(ふーん……)

   ……間違ってはいない、いないけど……言葉だけで伝える難しさを、今さらながら知った。


 ―(なぁ、そんなやつ相手に、オレが出来ると思ってんの?)

 ―「大丈夫なはずだ。キミには適性がある」

 ―「自分を信じて」

   雑な応援に、イラッとする。

 ―「それで実は、麻酔銃、渡すの忘れててぇ」

 ―「今。キミのポケットに転送したから、確認してねぇ」

   突然、ポケットが膨らんで、中を確かめると、手のひらサイズの銃が入っていた。

 ―(最初に見せたのより、サイズ小さくなってるぞ)

 ―「あれは私が作った模型だよ」

 ―「それに、あんなに大きかったら、相手にすぐバレるじゃん」

   ……なんか言い返せない、悔しい。

 ―「ごめんねぇ。予算の関係で弾は一発だからぁ」

 ―「一撃必殺でお願いねぇ」

 ―(じゃあ、あんた達がやれよ!)

 ―「あっ、時間だ!」

 ―「もう邪魔しないから、よろしくねぇ」

 ―(おい、待てって!)

   また強制的に、意識が遠のいた。



 意識が戻ったのは、迷子用の小屋の中。

 テーブルの上に、突っ伏して寝ていたようだ。

 右手には……小さな銃を……握っている……。

 銃をテーブルの隅に置いて、頭を抱えた。

「はぁー……」

 やりたくない……。

 帰りたい……。

 どうしてこうなった。オレは上司の無茶ぶりにも、胃薬片手に頑張って、真面目に生きて来たじゃないか。おかげで、時間が取れないから、新しい彼女もつくれない……のに……同期の奥村は、今月から彼女と同棲するんだって、嬉しそうに連絡してきて……何なんだ、今の、オレの、これは!

 メルヘンが視界を占領して、胸がむかむかする。

 こんな可愛いらしい世界で、こんな気分になるなんて。

 ああ、洗濯物が干しっぱなしの、オレの部屋でゆっくり寝たい。

 はあ……

 でも、やらないとマジで、帰れないのか?


 日が落ちて、部屋の中が暗くなっていた。

 月の光が蒼白く仄暗い。

 電気は……ないよな…………ロウソクってあるのかな?……メルヘン様式で考えると、ランタンとかか…………アッ!

 オレは、方法を見つけてしまった。

 きっと、オヤスミンは灯りを持って、この小屋に入って来る。

 扉が開いたら、灯りを狙って、暗がりから撃てば、身体のどこかには当たれば……麻酔だから、それで、いいんだよな……効くよな……。

 罪悪感が胸ぐらを掴んでくる、だが。

 やっぱりオレのほうが可愛い。

 ごめん、オヤスミン。

 さっき会ったばかりなのに、親切にもしてもらったのに……でも、麻酔銃だから、多分、死なない、はず…………帰ったら、太眉とちょび髭を全力でぶん殴るから…………ごめんなさい、許してください。


 窓から外を覗くと、ぼんやりとした灯りが、ゆらゆらこっちに向かっているのが見えた。

 あの高さはきっと、オヤスミンだ。

 オレはベッド陰に隠れて、入り口の扉に向かって銃を構えた。

 心臓の音が全身に響く。

 額にじんわり汗が滲む。

 震える手を強く噛んで抑えた。

 心の中で「ごめんなさい」を呪文のように唱えながら、その時に備えた――。

 扉が開いて、灯りが部屋中を照らす前に――

 

 バキュン

 バサッ


 ………………終わった。


 倒れているオヤスミンより先に、転がった灯りを回収した。やっぱりランタン仕様で、倒れてもすぐには燃え広がる心配はなさそうなやつだった。

(ごめんなさい……) 

 うつ伏せで動かないオヤスミンに、心の中で何度も謝った。

 オレはもう一度手を合わせてから、ベッドに腰を下ろして、意識が遠のくのを待った。

 …………………………………………………… …………………………………………………… …………………………………………………… ……………………………………………………

 ……………………。

(えっ)

 何も起こらない。

(太眉とちょび髭、ほらっ、応答しろよ!)

 ……………………………………………………。

 何も……聞こえない。

(おい……ミッション……成功しただろ……)

 ……………………………………………………。

 沈黙が、恐ろしく長く感じる。


「……あなたなら、少しは話しが出来ると思ったのに、残念」

 耳をピクピク動かしながら、オヤスミンがゆっくりと起き上がった。



「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」 

 謝りながら後退り、すぐ壁にぶつかって動けなくなった。

 外したか。

 手応えはあったのに。

「本当に、もうちょっと、思慮深くなろうよ」

 軽蔑したように聞こえる声に、ただただ震える。

「あなたは、ボクが何か知っていて、こんなことをしたの?」

 オレは必死に首を横に振った。

「だろうねぇ」 

 溜息交じりに呟いた。

「…………ごめんなさい、オヤスミンさんを撃たないと……帰れないって言われて…………麻酔銃だから、死なないからって…………」

 オヤスミンの迫力に押されて、すべて白状する。

「嗚呼。ボク死なないから、大人しくさせるしかないんだよ」

「何なんですか……あなたは?」

 フッと鼻で笑われた気がした。

「話し合えば、言ってくれれば、そんなことしなくても帰れる方法を、一緒に見つけてあげられたかもしれないのに」

「えっ」

「もう、遅いけど」 

 ぺっと口の中から、弾を手に吐き出した。

 スカートの中から、オレと同じ銃を取り出し、弾を込める。

「そ、それって…………」

「この前来た、迷子の置き土産」

「その人、どうなったんですか!」

 混乱して声が裏返る。

 今度は、しっかり鼻で笑われた。

「すぐ教えてもらえるよ」

 銃口をこっちに向けてきた。

「待って、ごめんなさい、話し合いますから!」

 両手を上げて叫ぶ。

「ごめんね。ボク、騙し討ちとか、隙を突くとか、大嫌いなの」

「ひっ、やめて」

「永遠に、おやすみ」

 胸に強い衝撃を受けて……そして、意識が遠のいた……。



「あららっ、鮫島(さめじま)くんも戻って来れなかったねぇ」

「やっぱり、『睡魔(すいま)』って強いねぇ」

「もうちょっと、頑張れるかと思ったのに、残念だったねぇ」

「実験体4号は、どれにする?」

 宇宙マッチングサイトを、また検索しだした。



【 亀・狸・鮫のつく名前 従順で勤勉な宇宙人 】



 



ありがとうございました(^^)v

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