6 気絶
「ぐぇっふ、へぁっ、はっ、へあぁ〜!」
久方ぶりの地面に倒れ込む。とは言っても30分くらいだけど。
「なんだ。もうバテたのか。」
「ま、まあ、初めて、ですし。」
「ふむ。それもそうだな。我と母はもう少し飛んでこようと思う。お前は好きに過ごせ。」
「は、はい。わかり、ました。」
「ではな。行くぞ、エルザ。」
「うむ。」
行ってしまった。
ふぅ。呼吸も落ち着いてきた。いやぁ辛かった。体内魔素もだいぶ減っている。
全く父上と母上と来たら自分らが楽しいからって僕のこと全然考えてくれないんだもんな。そっちは余裕あるかも知んないけど僕はもう結構頭痛くなってきてるんだから。
さて、自由行動と言われても最近の僕は1人でいることなんてほとんどないからなぁ。いっつもゴロラ君と一緒にいるし。
何しよう…。とりあえずゴロラ君のところに行ってみよう。
さっき上から見た感じ外の木があんまりないとこにいたと思うんだよね。あ、いたいた。
「おーいゴロラく…」
「踏み込みが甘い!そんな攻撃ではスライムすら殺せないぞ!」
「はい!!」
「遅い!!角兎の方がいい動きをするぞ!」
「はい!!」
おっと、取り込み中のようだ。ここは大人しく退散…
「あら、ヴァルドランザ君じゃない。こんにちは。ふふふ、貴方も混ざったら?」
げぇっ。
「こ、こんにちはグローラさん。僕はちょっと今日は遠慮しておきます。空飛んで疲れたので。ははは…。」
「あらそうなのね。ふふっ。それよりヴァルドランザ君、またそんな言葉遣いして。怒られるの私なんだからねっ。」
「あっそうでし…ん゛ん゛っ。そうだった。どうも慣れなくって。」
「うふふ。良いのよゆっくりで。」
「ありがとう。ゆっくり慣れていくよ。」
ガルラさんから敬語を無くすよう強く勧められていたのを忘れていた。
なんか上に立つものの義務だとかなんとか言われたけど正直僕上に立つような器じゃない。でも怒られるのやだから言われた通りにする。
さん付けや君付けも止めるよう言われたからこれもやめないとだ。めんどくさ。
「よし!休憩だ!!」
「はい!!」
おっ。ゴロラ君…ゴロラたちもちょうど終わったようだ。
「ヴァル君〜!!そらとんだの!?」
「そうだよ。」
「すごい!いいなぁ!どうだった!?」
「うーーん風とかが気持ちよかったけど、疲れたよ。もう当分良いかな。」
「へぇ〜すごいね!」
「ははは。慣れたら今度乗せてあげるよ。」
「ほんと!?」
「いけません!」
楽しく談笑していたところに横槍が入った。言うまでもなくガルラさ…ガルラだ。
「従者が主人の背に乗るなど、認められません!」
「「えぇ〜…」」
「ゴロラ!!」
「は、はいっ!」
「休憩は終わりだ。来なさい。」
「はいぃ…。」
ごめんなゴロラ。君の事は忘れないよ。
「ヴァルドランザ様も如何ですか?」
「いやぁ僕は遠慮…」
「如何ですか?」
「いやちょっと疲れが…」
「如何ですか?」
「はいぃ…。」
逃れられなかった。
ガルラさんは訓練の時はとても厳しかった。
〜△▼〜
意識が、浮上する。
『—————!!!——————!!』
『生まれました!元気な男の子ですよ。』
『あぁ…!顔を、顔を見せて!』
『ふふっ。ええ。ほら。』
『あぁ。可愛いわ。ねぇ、貴方。』
『ああ。そりゃ可愛いさ。俺達の子どもだぞ?』
『ふふっ。そうね。…あぁ。私、今、幸せだわ。』
『ははっ。俺もさ。でも、今だけじゃない。』
『えっ?』
『今までも、そしてこれからも、きっと。俺と、お前と、そしてこの子がいれば、ずっと幸せに決まってるだろ?』
『もうっ。貴方ったら。でも、そうね。その通りだわ。』
『ねぇ。貴方。』
『なんだ?』
『ずっと幸せで、いましょうね。』
『ああ。ずっとだ。』
意識が、沈んで行く。
〜▲▽〜
目が覚める。どこかと思えばガルラと訓練をした広場的なとこだ。体内魔素の枯渇寸前まで魔法打ってたとこまで覚えてるから多分そのあとぶっ倒れたんだろう。
とりあえず体を起こす。
「あ、ヴァル君おきたーー!?」
ゴロラが駆け寄ってくる。ガルラとグローラも一緒にいたようだ。
「うん。起きたよ。」
「よかったぁ!じゃあ何して遊ぶ!?」
「うん。もう今日は休むよ。」
元気いっぱいだな。魔素もそこまで回復してないし僕はもう無理だよ。寝るよ。
「さっきまで寝てたじゃん!」
それは寝てたんじゃなくて気絶してたんだよ。
「いい加減にしろ。ヴァルドランザ様はお疲れなのだ。」
疲れさせたのはあなただけどね。
その後食事を取るかどうか訊かれたので、いらないと答えて洞窟の中の寝室にはいる。寝室とは言えベッドなんかがあるわけではなくて、硬い床の上に雑魚寝だ。草かなんか柔らかい物を敷きたいなぁとは常々思っているけど、生憎この近辺に生えてる草はかったいのか生き物を食べるものか毒草だけだ。そんなもんをベッドにはしたくない。
まぁ硬い床でも問題なく寝れるし疲れも取れるから別にいいんだけどね。気分だよね。いつか鳥型の魔獣の羽毛で布団を作ろう。そんなことを考えながら僕はまた眠りについた。