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邪龍の子  作者: やま
6/7

5 飛行訓練

今朝僕はいきなり父上に


「今日は我らと来い。」


と言われて、両親と一緒に洞窟の外へ出かけることになった。

ガルラさんの座学の予定だったんだけどな。


それにしても家族水入らずで過ごすなんて生まれた日ぶりかもしれない。

よく考えるとおかしいような気もするけど、まぁそんなこともあるんだろう。いちいち気にしてたら多分僕はこの世界、特にこの両親の下で生きていける気がしない。


「この辺でいいか。」


木が少なくて少し開けたところに着くと、父上が言った。

て言うか今日何するのかまだ聞いてないんだけどな。実戦訓練かな?


「今日は何をするんですか?」


「ああ、お前もそろそろ体も安定してきたからな。今日からは飛行訓練だ。」


「ひ、飛行?」


そっか飛行か。そういえば僕翼持ってるもんな。いつも邪魔だからコンパクトにしてるけど。


正直この翼で空飛べるわけないとおもうんだよなぁ。体がどう考えてもでか過ぎるし。


「まずは翼を広げてみろ。」


「はい。」


うーん生まれた時に邪魔にならないようにしまってから広げるの初めてだなぁ。あの時は悪戦苦闘しながらだったんだけど…上手くできる気しないなぁ。


えーっとこの辺をこう……おっ?なんかスムーズにいけた。

ふんふんなるほどまるで体の一部かのように違和感なく動かせるなぁ。これが体が安定するってことなのかな?


「うむ。問題なさそうだな。」


問題ないそうだ。よかったよかった。改めて思うけど広げると馬鹿でかいんだよなぁこの翼。まあこの巨体を浮かそうと思ったらこうなるのもまぁわかるんだけどさぁ。

いやでも普通に考えてこんな翼で空が飛べるわけないんじゃないかなぁ。体が軽いわけではないし。


「まずは、翼に魔力を通すのだ。魔力の扱い方は母から教わっているな?」


「はい。」


ここでいう母とはもちろん僕の母龍のグランエルザのことだ。名も顔も知らない父上のお母さんではない。


よしでは魔力を翼に通してみよう。


まずは魔素を集める。魔素とは、この世界特有の元素のようなものだと僕は理解している。母上の説明は堅苦しくて何を言ってるのかわかんなかったし。

魔素は空気中にも存在しているし、例外はあるが動物、植物、さらにはその辺の石ころにまで含まれている。

動物は、体内魔素濃度が薄くなると、倦怠感、頭痛、吐き気、痙攣、失神と薄くなるにつれて症状が重くなってゆく。体内魔素が枯渇すると、良くて植物状態、最悪死に至るそうだ。

計画的な魔素の消費と回復はマストだね。


さて、魔素そのものではエネルギーたりえないから、体内、心臓の辺りで魔素を練る。これによって魔素はエネルギーを持ち、魔力へと変質する。この魔力をさらに属性の本質へと変質させると魔法になるのだが今は関係ないね。

そうして練った魔力をまず右の翼に通し、左を経由させて心臓へと帰らせる。これが魔力を通すということだ。

こうして体内で魔力を循環させることが身体強化魔法だ。

つまり、今僕は身体強化魔法で翼だけを部位強化しているということになる。


「どうだ。違和感はないか。」


「はい。大丈夫だと思います。」


「では、少し羽ばたいてみろ。」


「わかりました。」


翼を上から下に動かしてみる。

今までろくに動かしたこともなかったのにかなり思い通りに動く。

強化もしてるのでスピードも速い。

強風と言っていいぐらいの風が僕の下に吹いていく。


「ふむ…少し違うな。もっとその翼をぎゅっとしてバッと勢いよくズワッとやるのだ。」


「???」


全くわからん。

そう。父上の数少ない弱点は教えるのが下手なことだ。感覚派な上に基本なんでも一回やればできてしまうからこうなってしまったらしい。

戦闘訓練の時もこんな感じでゴロラ君と一緒に頭を悩ませている。


「そこは妾が教えてやろう。父は壊滅的に教えるのが下手であるからな。」


「むっ…」


母上が代わりに教えてくれるようだ。正直とてもありがたい。


「我にも教えるぐらい…」


「黙れ。できてないから言っておる。」


「ぐぬぬ…」


こんな感じだが2人の仲は悪くない。むしろ良好と言える。2人きりの時はヴァイ、エルザと呼び合って尻尾を絡ませているところをこの間こっそり見てしまったのだ。2人きりの時しか素直になれないなんてなかなか可愛いところもあるよね。


「何を呆けた顔をしておる。翼と魔力が止まっておるぞ。」


「あ、ごめんなさい。」


余計なこと考えてたら母上から注意を受けてしまった。

えーっと魔力を通して翼を上下に…


「そこが少し違うな。」

「もっと根本から…」

「そこで空気を掴むように…」

「魔力は一定に…」


母上からのダメ出しをくらいながらもなんとか形にすることが出来た。

辺りには突風や暴風といったレベルの風が吹き荒れている。

半端な木だったら抜けちゃいそうなくらい強いんじゃないかな。

まぁ近くにある木はそよ風が吹いているかのようにびくともしてないけど。

木すらもこの強度だからね。頭おかしいよねこの森。


大きめの熊くらいでも吹き飛ばせそうなほどの風が吹いても僕の体は持ち上がらない。これほんとに飛べるのかな。今のところ少し体軽いかも?くらいなんだけど。


「うむ。いい感じだな。一度やめて良い。」


「はい。」


母上からの合図で翼の運動と魔力の供給を止める。


「今のでわかったであろうが、我らの体の大きさと重さでは、翼の運動だけで空を飛ぶのは不可能だ。何が必要かわかるか?」


何が必要か…?うーん体が重過ぎて持ち上がらないなら体を軽くするとか?いやでもそんな魔法があるなんて聞いたことがない。もしかしたら身体強化魔法の応用?いやでも体を軽くするメリットがあんまりないような…考え方を変えてみよう。上から下への力では持ち上がらない…下から上?浮力的な何かだろう。浮力的な魔法?そんなんあんのかいな。


「わかりません。」


わからないことをわからないと言う勇気。大事だよね。


「そうか。まぁ仕方あるまい。魔法が本質への変質と言ったのは覚えているな。」


「はい。」


これは母上との魔法訓練の時に聞いた言葉だ。属性一つ一つには本質があり、魔力をその本質へと変質させることで魔法となる。


「翼に通した魔力を「浮く」ことに変質させるのだ。これは「浮遊魔法」と呼ばれる。」


ふむふむ。必要なのはやはり浮力的な何かか。


「理解したか。」


「多分…」


「失敗しても良い。やって見せよ。」


「はい。」


まず翼に魔力を通す。十分に通った所で変質させてみる。ここで1番大事なのはその本質を強くイメージすることだ。想像しにくい時は詠唱などで補助する場合もある。


今回は多分大丈夫だろう。「浮く」ことのイメージをすれば良いんだから。水に浮く木をイメージしたりヘリウムの入った風船をイメージすればなんとかなりそうだ。


自分が水の中にいて、魔力の通した翼が木であるようなイメージをする。


むむむむむむむむむむ。


む?心なしか上に引っ張られる感じがする。イメージは悪くないようだ。


「うむ。よく出来ているな。その調子だ。」


褒められてしまった。でもここで気を緩めると失敗しそうだからイメージを絶やさない。


おっ。体が浮いてきた。


「羽ばたいてみろ。」


父上がそう言うので羽ばたいてみる。先程母上から教わったように、空気を掴むようにして自分を押し上げるように…


うおおぉ?とんでる!?すごい!怖い!


「案ずるな。危なかったら補助はしてやる。」


いつのまにか父上も母上も飛んでいる。父上と母上に左右からサンドイッチにされている状態だ。もちろん翼があたらないていどの距離は取っているが。


少し落ち着いたので周りを見てみる。

僕らは元々いた場所の遥か上空にいるみたいだ。


こうして上から見ると僕らの住んでいる洞窟が山の頂上付近にあることがわかる。そしてその山がかなり高いことも。

紫色の湖とか、得体の知れない水晶のようなものが生えてる場所、爽やかさのかけらもない川など、雄大な自然(?)に圧倒されてしまうね。ははは。


「どうだ。」


父上が短く尋ねてくる。


「いや〜…」


いやーもうほんとに。ほんっとうに


「さいっっっこぉ〜っ!」


空飛ぶの気持ち良すぎる。まじで。


「クハハッ。そうであろう。やはり空は良い。全てのものが見下せるからな。」


あっはい。そうですね。


「クカカッ。まさに。まぁ飛ばずとも見下せはするがな。」


「クハッ。違いない。」


「「ハーッハッハッハ!」」


高笑いする両親に挟まれて僕らは30分くらい飛び続けた。つかれた。

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