3 王と王
いや、かなり歩いたよ?歩きすぎてもう時間の感覚もわかんないや。1日以上歩いてるような気もするし、5時間ほどしか歩いてないような気もする。そもそも洞窟がずっと暗いから1日の感覚もわかんないし。
でも、精神的にはとても疲れたのに、身体は全くと言って良いほど疲れていない。これが龍クオリティか。すごい。
そんなくだらないことを考えていると、進行方向に出口が見えた。もうすぐでそとにでれる。期待半分不安半分ってところだな。ものすごくドキドキする。どうか良い所でありますように。
ついに外に出た。
柔らかな木漏れ日に青々とした生命力を感じさせる大樹の群れ。元気一杯に飛び跳ねる動物たちに澄んだ空気。少し歩けば綺麗な湖もある。自然が自らの雄大さを訴えているようだ。
…って言うのを期待してたんだけどね。まぁ仕方がないよね。わかってはいたよ。そうなんじゃないかと薄々感じてもいたよ。
深い霧が立ち込め、光はほとんどない。木々は赤黒く、葉はついていない。そこかしこに動物たちの成れの果てが転がり、少し歩けば毒々しい色の池もある。
…あんまりだ!やっぱり地獄じゃないか!はぁぁ。こんな環境で生物は生きられないんだよ?知らない?
その証拠にそこかしこに動物だったであろう骨たちが転がってるよ!
僕らって本当にこんな所で生きていけるの?心底心配なんだけど。
まぁその辺も異世界不思議パワーでなんとかなるんだろう。なるよね。なるって言って!
「では、呼ぶぞ。」
父上がそう言って、何やら唱え始めた。全く聞いたことがない言語だ。
父上が唱え終わると、地面に黒い影のようなものが広がって、
「お呼びですか。主よ。」
現れたのは、1匹の狼だった。
深い、深い、闇に紛れる藍色の毛皮。浮かび上がる金色の双眼は煌めく一等星のようで、万物をも食い破らんとその威を示す牙は口の中に隠され、溢れんばかりの誇りと威圧をその身に纏い、されどその獣は頭を垂れていた。
「ああ。よく来てくれた。」
「勿体無いお言葉です。」
「一つ頼み事があるのだ。だが、まずは我が子を紹介しよう。」
「子ですか。お生まれになったのですね。おめでとうございます。」
「ああ。先程孵ったのだ。名はヴァルドランザとした。」
「ヴァルドランザ…ですか。それは彼の…」
「ああ。」
父上と狼さんは何やら目と目で通じ合っているようだった。
しばらく見つめあった後、父上はこちらを向いた。
「ヴァルドランザよ。此奴はガルラ。2000年程前から我に仕えている、我の眷属であり、従者であり、友でもある。」
「ガルラです。宜しくお願い致します。」
「ヴァルドランザです。こちらこそよろしくお願いします、ガルラさん。」
ガルラさんはやや驚いた素振りをしたが、しっかりとこちらを見据えながら、
「主のお子様であるならば敬称は不要です。ガルラと、そうお呼びください。」
えぇ…呼び捨てとか無理に決まってる。下手なことしたら頭からボリボリいかれそうな雰囲気してるもん。
困ったので父上の方を見た。
「ガルラよ、お前は我の従者であって、ヴァルドランザの従者ではない。そこまで畏まらずとも良いだろう。お前が我が家族に仕えてくれると言うなら、これから先見極めていけば良い。」
ナイス助け舟!ありがとう父上。
「これから…ですか?」
「ん?ああ、言い忘れていた。頼み事があると言っただろう。それなんだが、ヴァルドランザの面倒を見て欲しいのだ。」
「ヴァルドランザ…様…の、ですか。」
「ああ。我らは歳ばかり食っていて子育てなぞしたこともないからな。経験者が居るとありがたい。」
「なるほど。」
ガルラさんが何やら考えている。まぁいきなり上司に子供育ててくんね?って言われて、わかりました!って言えるやつはなかなかヤバいやつだと思うけどね。
「我が妻と子等を此処へ呼んでも宜しいでしょうか。」
「ああ、構わん。」
そう言うとガルラさんは僕らからほんの少し離れて、おすわりの体制をとった。
こういう仕草をすると犬っぽくて可愛いな。口が裂けても言わないけどね。言ったら僕の体が引き裂かれそうだし。
『アァァァゥゥゥウウウウーーン!』
訂正。あんまり可愛くないわ。
その遠吠えは威厳に満ち溢れていて、でも荒々しい訳ではなく、透き通るように繊細で、されど弱々しい訳ではない。
どこまでも広がる余韻に浸っていると、5匹の狼が現れた。
1番大きい個体がガルラさんと同じくらい。そこからマトリョーシカのようにだんだん小さくなっていく。1番小さい狼でも多分めっちゃ大きい犬くらいあるんじゃないかな。それこそ地球の狼くらい。見たことないけど。
ちなみにガルラさんは母上と同じくらいの大きさ。
「お仕事ですか!ちちうえ!」
1番小さい狼が尻尾をブルンブルン振り回しながら声変わり前の少年特有の甲高い声で言った。かわいい。
多分精神年齢が小学生くらいなんだろう。実年齢は知らない。
「仕事ではない。ガドルに話があってな。お前等にも関わることだから呼んだ。」
仕事ではないと聞いて、1番小さい狼は尻尾を落ち着かせて耳をぺたんとしてしまった。かわいい。
「私に話…ですか。」
1番大きい狼が言った。ガルラさんによく似た声だ。
1番大きいのは本当はガルラさんだが、ガルラさんはガルラさんなので除外だ。
僕の予想では1番大きいのが奥さんだと思ってたんだけど違ったみたいだ。
「ああ。大事な話だ。」
「大事な話…。」
一拍置いてから、ガルラさんが口を開いた。
「ガドルよ、俺はお前に王の座を譲って隠居する。」
「ち、父上!それは…」
「隠居先はもう決まっている。俺はヴァルドランザ様の面倒を見させていただくことになった。妻も連れていく。」
「父上!私はまだ未熟です!王など務まるとは思えません!」
「いや、お前なら出来る。お前は俺が王位を継いだ時より余程優秀だ。そしてきちんと自分の出来ることと出来ないことの線引きもできている。お前なら他の狼系魔獣を一纏めにするくらい造作も無いはずだ。」
「父上…。」
「やってくれるか?」
「わかりました…!父上のご期待、裏切らないよう全力を尽くします!」
「ああ。頼んだぞ。グルルとギラルも、兄のことを側で支えてやってくれ。」
「ええ。任せてください。お父様。」
「ぼ、僕に出来ることなら…。」
「…おれは?」
「ゴロラは俺と一緒に来い。」
「はい!!」
えーっと…
誰か説明して?