2 鍛錬
僕と父上は龍の姿に戻って、洞窟の入り口の方に向かって歩き始めた。
しばらく歩いて、広場のようなところに着くと、一匹(一頭?)の龍が寛いでいた。
大きさは父上より少し小さいくらい。体は極限まで黒くした紫色で、よく見ないと真っ黒に見える。
その龍が僕らに気がつくと、居住まいを正すと言うのか、寛いで座っていたのをきちんと座り直すような動きをした。
「随分遅かったではないか。ん?もう孵っていたのか。予定より少し早いな。」
『ああ。』
「む?何をそんな余所行きの声を出して。まさか子がいるから緊張しておるのか?」
『…』
黙ってしまった。図星だったようだ。
「はぁ〜…それだけで魔力を使うのも馬鹿らしいであろう。」
「む、そうであるな。」
おお〜若干エコーがかかってたような声が普通になった。あれ魔力使ってたんだなぁ。
魔力…魔力があるなら魔法もあるってことだよね。僕も使えたりするんだろうか。楽しみだなぁ。
そんなことを考えていると、母龍の首がぐいっとこちらに近づいてきた。
「ふむ。この子が我らの子か。お主にそっくりではないか?」
「顔はお前似であろう。目や鼻の形など瓜二つだ。」
「しかしお主の胸の模様まで受け継いでおるぞ」
「なら尻尾はお前の…」
「いや…」
どうやら僕の両親は僕のどこがどっちにより似ているか探しに夢中になってしまったようだ。
僕は龍の顔の違いなどわかるはずもないから正直どうでもいい。
しかし龍にはわかるもんなんだなぁ。顔の違いって。僕にはさっぱりだ。
母上と父上の顔の違いもわかんないし。
まあそれも数年したらわかっていくんだろうけどね。
とりあえずは色で見分けるしかないだろうなぁ。
しっかし長いことやってるなぁ。角の角度とか鱗の形とか言われてもわかんないんだって。
ここは僕が一発自己紹介をして話を戻すしかあるまい。
「は、初めまして。ヴァルドランザです。」
僕がそう挨拶すると母龍はちらりとこちらを向き、
「声は妾に似ておる…声?」
と言って訝しむようにこちらをじっと見つめ、思い直したように、
「ああ、妾はグランエルザ。お主の母である。」
と、自己紹介をしてくれた。
グランエルザという名前らしい。良い名前だね。意味があるのかは知らないけど響きが女性らしいよね。
そのグランエルザは父上の方をじっと見て、
「お主、妾になんの相談もなく名をつけたのか。」
と言った。父上はあからさまに狼狽えて、
「い、いや、お、お前がいなかったし、名前がないと不便であろう?」
「妾のことを待つ時間はなかったと?」
「い、いや、それは…」
どうやらうちの父親は母親の尻に敷かれているようだ。がんばれ、父。
「まあ良い。ヴァルドランザ…古の龍の英雄の名か。確かお主の甥であったか?」
「ああ。かつての聖魔大戦で憎き聖龍に敗れて散った。あやつは我に懐いておったからな。我もあやつは気に入っておった。勝手に名付けたのは悪いが、我は…」
うん、そんな大層なお名前だったのか。
父上の甥ってことは僕の従兄弟だよね?
僕の従兄弟古の龍の英雄なのか…これってもしかしなくても僕かなりの血族に生まれてるんじゃない?なんか父上も母上も高貴な喋り方だし。
「うむ。そのような理由があったのか。なら良い。妾はそやつにはあったことはないが、お主が気にいるくらいだ、立派な戦士だったのだろう。ヴァルドランザよ。その名に負けぬようにな。」
「は、はい。」
ほどほどの期待でお願いします。
「して、これからはどうするのだ?まだ生まれたばかりなのであろう?」
「ああ、考えていたところだ。ガルランかメイルレーヌを呼んでみてもらおうと思っておった。」
「ふむ。ガルランが良いな。我らは子育てなぞしたことがない。ガルランなら確か8匹ほどおっただろう。」
「そうだな。では、そうしよう。ヴァルドランザ、一度外へ行くぞ。ついてこい。」
あれよあれよと言うまに外へ行くことが決まった。
初めての外出だ。ちょっとドキドキする。
洞窟があるくらいだからここは山の中か荒野だとあたりをつけてるんだけどどうだろうね。
僕ら3人(頭?)は、父上を先頭に洞窟の入り口へと歩き始めた。