#92 スーベイルへの旅2
「おおっ!これは凄いな」
思わず感嘆の声を上げてしまうくらい、その景色は素晴らしかった。大街道を西に、スーベイルの首都スレイの向かっている途中にそれはあった。
見た感じは富士山の頂上から見る景色、雲を眼下に見下ろし遠くには大きな街や城のようなものも見える。今立っているところは街道の脇にある広場なんだけど、ここはいわゆる絶景スポットのような感じで休憩している商人らしき者や親子連れなんかがいる。
「んと、確かここだけ。大断崖の下の様子が見える。」
ニアが言うように、ローデンシア大陸を南北に二分していると言われる大断崖の淵に立っている。
大街道の途中にあり、大きくカーブした街道が張り出した形になっていて大断崖の様子を見ることができるようになっているのだ。
ここ以外では、ただ高い所から見ているだけでしかないらしい。
しかし、確かに絶景だ。この世界は文明があまり発達していないだけに、自然は多く残されている。その雄大な自然はしばらく見ていても飽きが来ない。
ここからポツンと見える街は、距離がある事と雄大な自然に囲まれているから相対的にこじんまりに見えるが、この距離からしたらかなり大きい街だろう。
下を覗き込んでみたが、どれくらいの高さがあるのか想像もできないくらい高い。話では神話の時代に神に戦いを挑んだ人の国があって、人の国は負けたんだけど龍の神様がとりなしてくれた。その際にちょっとしたはずみでローデンシアの大地の半分が隆起してこの大断崖ができたんだったかな確か。
うろ覚えだ。
今から行くスーベイルって国は、元々大断崖の端に領土を持つ一領主だったスーベイルが、数々に苦難を乗り越えて大断崖を上り下りできる巨大な階段を掘って、通行できるようにしたことからその功を称えて、一つの国になった上に国の名前も功績のあった初代国王のスーベイルの名前を冠している。
領土的にはそんなに大きくないのだが、大断崖を越えて行こうと思えば必ずスーベイルを通る必要があり、そこで通行料もかかる。その上、商いをするものは商品に応じた税を納めなければ大断崖を越えて商品を持ち込むことができない決まりなので、黙っていてもお金が入ってくるシステムになっていて、主要な収入源となっている。
ちなみに大断崖は魔法的な結界みたいなもので守ってあり、同じように通れる道を作ろうとした者もいたが、尽くダメだったそうだ。
なぜスーベイルだけが道を作れたのかは、現在においても謎に包まれている。
ゆっくり休憩をとって歩き出せばすぐに大断崖は見えなくなって、街道の両脇が森になっていった。意外と深いモロのようで、何となく薄暗くなってきた気もするくらいだ。
この世界には、まだまだ人の手が入っていない場所はたくさんあるんだろう。
「盗賊かなんか出そうな雰囲気だな」
フラグかなとか考えながらそう言うと、意外に真面目な顔でニアはうなづいた。
「・・・ここは盗賊とか、魔物の被害が多いことで有名。スーベイルまでの道で一番の難所って聞いた」
冗談で言ったのだが、実際に出るようだ。
◇
「ここまでくれば、後三時間ほどでスレイに着きますよ。スレイに着いたら、私ご馳走しますので美味しい物食べにいきましょう」
そう言ってにこやかに話しかけてきているのは、スレイにて雑貨の店を開いている商人のヤザクさんだ。話していた五分後に盗賊に襲われていたヤザクさんを見かけて、助けてやった所スーベイルまで一緒に来て欲しいと言われた。
ヤザクさんは仕入れに行った帰りだそうで、荷馬車いっぱいの商品を積んでいる。
本来なら傭兵でも護衛に雇うのだが、運悪く捕まらなかったということらしい。
ヤザクさんが美味しいものを食べさせてくれると言った途端、ニアの目が輝き出した。
「いいんですか、そんなこと言って。嘘みたいに食べるのがいるんですよ?」
「む・・・」
俺が笑いながらヤザクさんにそう言うと、ニアが俺を軽く殴ってきた。
「はっはっは。危ないところを助けていただいたんです。せめて食事くらい美味しいものを腹一杯ご馳走させてください。お二人のお腹を満たすくらいじゃ足りないくらいですよ」
まあせっかくそう言ってくれてるんだ、ご馳走になるか。多分後で後悔すると思うけど・・・
ヤザクさんが馬車を引いている馬を軽く叩くと。ゆっくりと進み出した。馬車には商品が満載してあるため人が乗るスペースもない。
少しでも多く荷を運びたいんだろうが、自分が乗る隙間もないのは流石に驚いた。
「お二人はスレイには何お御用事で?」
馬と並んで歩きながらヤザクさんが聞いてきた。
「ちょっとお城に用事があって。でも急ぎの用事じゃないんで、着いたらおすすめの宿なんかも教えてもらえると助かります」
「ああ、そんなことなら任せてください、何なら費用も私が持ちますよ。最近戦があったりで物騒ですからお二人が護衛を引き受けてくれて、本当に助かっているんですから」
本当に嬉しそうな顔でヤザクさんはそう言ってくれる。至れり尽くせりだ。
そのあとは特にトラブルも無く、スレイの街につく事ができた。スーベイルの王都スレイ、思っていたより大きい街で高い城壁に囲まれている。
城壁にはゴツくて大きい門があり、入る者は厳しいチェックを受けることのなるんだが、ここでもヤザクさんの顔がものを言って簡単な受け答えだけで入る事ができた。
「イファン商会の方ですね、どうぞお通りください!」
門番の強面のお兄さんが丁寧に腰を折って、ヤザクさんを見送っている。それに慣れた様子で片手を上げて答えるヤザクさん。
あれ、もしかしてどこかの大物だったりする?