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龍の牙〜Gods is playing the game〜  作者: こばん
第一章 アストと獣人
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#8 黒騎士現る

突然の事に何も反応できないでいると、後ろのほうから複数の気配が近寄ってくる気配を感じた。

この頃になったようやく敵の襲来の可能性に気づいた。


(・・ヤバイ!)


そう思ったが、しっかりと動きは封じられていて動こうとすれば肩に激痛が走る。そうでなくても固い革の手袋のような物をはめて強く押さえられている口もかなり痛い。


「団長、怪しい者を捕らえました。あの洞窟から出てきたのも確認してます」


俺を捕まえている鎧の男が、後ろの方に向かって潜めた声で言った。


「うん。しかし人族のようだ。あまり手荒にはするな」


後ろから来た何者かがそう言うと、少しだけ俺を押さえつける力がゆるんだ。それでもまったく身動きはできないが・・・


(こいつらガルフ達の敵か?見た感じは騎士だし・・騎士ならたぶん帝国側。なら敵か・・・)

簡単に捕まってしまった自分の無警戒さが情けない。やっぱり平和な世界で生きてきて、根本的な考え方が甘いんだろう・・・


悔やんでもどうしようもない。なんとかしたいが、相手も慣れているのか俺には逃げ出す隙をまったく見つけられない・・・


考えていると、乱暴に後ろに引っ張られ、投げ出すように解放された。手荒にするなって言われただろうが・・


そこにはさらに三人ほどの同じ鎧に身を固めた騎士らしき人物が立っていた。解放されたものの、騎士たちから発せられる雰囲気で変わらず身動きはできなかった。

・・・はっきり言えば、身がすくんで動けないのだ。


乱暴に扱われ、敵だと思われる人物に囲まれそれらはみな腰に剣を下げ、後ろのふたりは柄に手をかけてさえいる。


「そう怖がらなくていい。話がしたいだけだ」


中央に立つ騎士がそう言った。180cmくらいあるだろう身長を少し屈めながら、俺を落ちつかせるためか幾分柔らかい口調で語りかけてくる。頭全体をすっぽりと覆う兜をかぶっているので表情はわからない。


「話とは・・?」


気圧されているのを自覚しながらなんとか声を出せた。

「私はイムスリア黒騎士団長のアストリアという。ここには獣人の討伐の任務をうけて来ている。」


アストリアと名乗った男ははっきりとそう告げた。やはり、この騎士たちは敵だ。あらためて認識して背中に冷たい汗が流れる。


「任務は討伐だが、抵抗しなければなるべく手荒にはしたくない。君が獣人と知り合いなら仲立ちしてほしいのだが・・」


問答無用に攻撃するつもりはないようだ。その話を信じればだが・・

しかし俺が何か言う前に周りの騎士たちが反応した。


「団長!命令は捕縛ではなく討伐です!このような人族など捨て置いて洞窟を調べるべきです!」


先程俺を捕まえた騎士が詰め寄りながら語気を荒くして言った。

アストリアは泰然としてその騎士を見下ろしている。


「お前はこの命令をどう見ている?」

アストリアはその騎士に静かに聞いた。


そう聞かれ一瞬たじろいたが、すぐに姿勢を正して言う。


「我々は命令に従うだけです!そこに疑問や感情はありません!」


アストリアはそう答えた騎士をしばらく見つめていたが、ため息をつくようにして諭すように語り始めた。


「お前はおかしいと思わんのか?皇帝陛下は以前より獣人たちとの友好関係を築いていた。我が軍の戦力をほぼ二分している傭兵団のほとんどは獣人族だ。なぜこのタイミングで獣人排斥という流れになったのか」


・・なにやら主張の違いで揉め出した?この隙に逃げられないかとも思ったが、アストリアの後ろに立つ二名の騎士は油断なく俺を捉えているように感じる。剣の柄にも手をかけたままだし、変に動いたら即座に斬りつけられるビジョンしか浮かばない・・


固まっている俺をよそにアストリアと部下らしき騎士は意見をぶつけあっている。


「問答無用の排斥に傭兵団の獣人からの抵抗ですでに騎士団も大きな被害をうけている。このままではどちらに転んでも我が軍の戦力は半減以上だ。これの争いが何になる」


アストリアは獣人の討伐に疑問を抱いているようだ。もしかした助かるかも?


そう考えていた矢先、動きがあった。


洞窟に背をむける形で話していた騎士にどこに隠れていたのか獣人が飛びかかったのだ。

どうやら騎士の接近に気づいていたらしい。人質の俺から目を離した隙を狙ったんだろう。


飛びかかったのはオオカミの獣人だ。少し話した事がある、確かタルアって名前だったと思う。タルアはさすがに人間場馴れした動きで騎士達を牽制している。


しかし、攻撃された騎士も油断していた最初の一撃を背中に受けたが、たいしたダメージは受けていないように見える。すぐさま剣を抜いて攻撃に対応している。

タルアは、一歩後ろに下がると遠吠えのような声を上げた。すると周りにいろんな獣人たちが姿を現した。

気配を殺して少しづつ近寄ってきていたらしい。


獣人たちの出現で、ためらっていた様子のアストリアも剣を抜いた。


まずい・・アストリアは獣人の討伐に疑問をもっている様子だった。しかも騎士団の団長と名乗っていたから、話をする事ができたら何か力になるかも・・


「待った!・・


そう声をあげようとした俺は、力強い腕に抱えられあっという間に洞窟に連れ込まれた。

乱暴ではあるが、さっきの騎士のような不快感はまったく感じない。俺を抱えて走るガルフを見上げた。


「ガルフ・・・「すまん!こんな簡単に接近を許すとは・・怪我がなくてよかった。こうなったら急いでニアとここを脱出してくれ!」


俺の言葉に被せるようにガルフは詫びた。その顔は悔しそうに歪んでいる。


「ガルフ・・助けてくれてありがとう。俺何もできなかったよ・・何もできずにただ捕まっちゃって・・」


「気にするな。あいつらはイムスリアの誇る黒騎士団の中枢だ。団長のアストリアはすさまじい剣の使い手と聞いている」


あのアストリアという騎士団長はそんなに強い騎士だったのか。ていうか、アストリアどころか配下の一人になすすべもなく捕まったのだが・・・

でも今はそんな事よりも伝える事がある。


俺はアストリアが獣人排斥に疑問をもっていること、対話を望んでいる事を伝えた。


「そうか・・黒騎士団長は優れた人物と聞いている。でもイムスリア自体が俺たち獣人に牙を見せてる事は間違い無いのだ。まぁ、もし話す機会があったら覚えとくよ」


たしかに疑問をもちながらもここまでは来たんだ。手心は加えても根本的な指令には従うだろうな。


ガルフは俺を抱えたまま目覚ましいスピードで、洞窟の奥まで走った。俺やニアが使わせてもらってる部屋の所だ。

そこには数名の獣人が何か作業をしている。比較的戦いに向かない種族や年齢の若い者達だ。騒ぎに気づいたのか、ニアも部屋から顔を出している。

ガルフはそのまま作業している者たちの脇を抜けてニアの元まで走った。


「ニア、すまん。」


近くまで行くとニアも俺たちの姿をみとめ部屋から出てきた。ガルフはそこまで行くとようやく俺を降ろした。

そしてニアに近づくと頭を下げた。


「ニア、すまん。お前の父親との約束はお前を守る事だったんだが、俺たちができることはここまでだ。敵にここがバレた。すぐに逃げる用意をしてくれ」


ニアは、ガルフと俺を交互に見ていたが、話を最後まで聞くと小さくうなずいて部屋に戻り、用意していたのであろう背負い袋を抱えて戻ってきた。


「それで・・な?ニア。う~んと、な?」

いつになく歯切れの悪いガルフにニアは怪訝な顔をしている。


やがて諦めたのか、ガルフは急に俺に向き直った。


「アスト、ちょっといいか?会わせたい奴がいるんだ」

そう言うが早いか歩き出す


「お、おいガルフ・・」


慌てて追うと、ガルフは何か作業している獣人たちの所まで行って振り返った。その表情は真剣だ。


「アスト、思っていたよりずっと状況は悪いらしい。ここは見つかり、じきに騎士の大群が攻めてくるだろう。そして・・・どうしてもニアに伝えきれなかったんだが、マリウス様が捕まったらしい。」


獣人排斥の反対を訴える親獣人派の伯爵。皇帝に直訴するために王都へ向かって逆に捕まった。

これまで聞いた話によると皇帝は親獣人を推進しているみたいだから、会う前に捕まったってことか。

ニアにとっては父親でもあるし、伝えるのを躊躇したらしい。




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