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龍の牙〜Gods is playing the game〜  作者: こばん
第四章 龍の牙
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#87 ニアの髪の毛

それからは意外と順調に事は進んだ。やはりあまり裕福でない村では困った事があっても、ギルドに依頼なんてできないので問題を放置せざるを得ない状況のところも多かった。

そこに降って湧いた今回の話に近隣の村人達は一も二もなく飛びついた。かなりの数の依頼を受ける事ができたのだ。


今も半分ほどの獣人達が依頼で砦を離れている。そんな中俺は自分にあてがわれている部屋にいた。

フォレストとグランはギルドに対して報告することがあるらしく、ミレニアの傭兵ギルドまで戻っている。そのままお別れかと思ったが、また帰ってくるらしい。と言うか、別れ際に釘を刺された。「逃げるなよ?」・・・と。


ゴタゴタ続きですっかり忘れていたが、フォレストに追加で依頼した分の依頼料があるんだった。もし払えないと言った日には・・・借金取りが死神とか嫌すぎる。なんとかお金を稼ぐ方法を考えないといけない・・・


「アスト」


そんな事を考えていたら、部屋の扉の向こうで俺を呼ぶ声が聞こえた。


「開いてるよ。どうした、ニア?」


俺が答えると、扉が開いて遠慮がちにニアが顔を出した。


「・・・お願いが、ある」


お願い?なんだろう。ニアが俺に頼みそうなことなんて全く心当たりがないんだが・・・


とりあえず中に招き入れて飲み物を準備する。お菓子でもあればよかったんだけど、生憎そこまでの準備はしてない。


ニアはどこか緊張した様子で俺が出したお茶を飲んでいる。チラチラと俺の顔を見ながら・・・

なんだろうニアがここまで言い出しにくそうな願い事って。だんだん怖くなってきたんだが。


しばらく視線を泳がせ、何か躊躇している様子だったが、何かを決心したように俺を見ると話しだした。


「・・・アストにしか、頼めない。お願い、聞いて」


やけに真面目な顔でそう言ってきた。なんだか俺も緊張してきた・・・


「に、ニア?どうしたの。何か問題でもあった?」


少しでも和ませようと軽い感じでそう尋ねてみたが、ニアは緊張した表情を崩さないで首を振った。


一体どうしたんだろう。いつものように乏しい表情だけど、気のせいかやや頬がうっすら赤くなっているような気もする。こんなに緊張しているのは初めて見るかもしれない。

ゴクリとツバを飲む音が聞こえた。いや、俺が飲んだ音だろうか。


「アスト、私の髪を切って欲しい」


真剣な表情のままニアはそう言った。


「は?」


思わずそんな声が出てしまった。カミって紙?神?いかん動揺している。


「えっと・・・カミって髪の毛のことか?」


恐る恐る聞くと、ニアは黙ってうなづいた。


え、これだけの雰囲気を作っておいて髪の毛を切って欲しい?いや、意味がわからないんだけど・・・


ニアはあまりおしゃれとかには無頓着な方で、割と無造作に伸ばした髪は頭の後ろで紐で結んであるだけだ。

そう言われて改めて見てみると、少し長くなってきたようにも見えるが・・・


「いや、切ってと言うんなら切るけど、俺そんなうまくないよ?」


「大丈夫。細かいことはしなくていい、肩の上くらいで切り揃えてくれるだけでいい」


今は、紐を解けば背中にかかるくらいの長さだ。それを短くして欲しいってことか?


「まあ・・・わかったよ。じゃ髪の毛を切るハサミを準備しないとな。誰か持ってないか聞いてくるよ」


簡単に断れる雰囲気でもないので、とりあえず了承した俺はそう言って立ち上がろうとしたが、ニアがそれを押し留める。


「大丈夫、ハサミはある。これを使って?」


そう言って懐から出して俺に渡してきたのは、握るところと刃の合わさるところに綺麗な彫刻が施してある立派なハサミだった。

さすがは元伯爵令嬢、高価そうなハサミだ。

受け取ると、ズシリとした重みを感じる。


そして、すぐにでも切って欲しいと言うので俺の部屋にあるベランダのようなスペースで切る事になった。

見よう見真似でニアの首に布を巻いて、その上からマントを掛けた。確か床屋さんではこんな感じでやっていたのを思い出しながらやっている。


それにしても、女の子の髪を切るって緊張するな・・・髪は女の命っていうくらいだし、本当に俺でいいんだろうか?


「本当にいいのか?切るぞ?」


最後の確認だ。それでもニアはなんの躊躇いもなくうなづく。


正直結構プレッシャーだが、どっちにしても俺は結構ニアに甘いから、お願いされると断り切る自信もない。


「よし!」


一つ気合を入れて、黙って椅子に座っているニアの後ろに立つ。もう髪紐は外してあり背中まである髪が無造作におろされている。

肩の上らへんだったな。切るべく髪を触ると、あまり手入れなんかもやっていないようだったけど結構さらさらでいい匂いがする。なんかやっぱり女の子なんだなって実感するな・・・


ドキドキしながら、肩の少し上でカットする。そのままではダメなことくらいは俺にもわかるから、ハサミを縦に入れて毛先を整える。イメージは以前テレビで見たカリスマ美容師だ。

もちろん手際は比べるべくもないが、それでもやっているうちになんだかいい感じになってきた。


フー・・・こんな緊張するとは思わなかったな。一応いろんな角度から見て変なところがないか確認する。


「よし、大丈夫だ!・・・多分」


マントに落ちた髪の毛を払って、首に巻いていた布も取り外して小さい髪の毛を払って出来上がりだ。


「できたよ。どうかな?」


そう告げてニアに手鏡を渡した。ニアは簡単に首元や毛先なんかを確認すると立ち上がって振り返った。


ごくっ・・・


「ありがと」


・・・言葉は短かったが、すごく嬉しそうな笑顔でそう言ってくれた。思わず見惚れそうになるような笑顔に、俺まで嬉しくなってくる。


「変なところとかないかな?大丈夫か、遠慮しないで言ってくれよ?」


「ううん、大丈夫。綺麗に、切ってくれた。ありがとうアスト」


そう言うととても満足した顔で、床に散らばった髪の毛を片付け始めた。


最初は緊張したけど、先の方を少しきりそろえるだけでそんなに嬉しそうにしてくれるんなら、いつでもやるけどね。



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