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龍の牙〜Gods is playing the game〜  作者: こばん
第一章 アストと獣人
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#6 不安

この世界に来て三週間が過ぎた。

最初はどうなることかと思ったが、最近はわりと順調に思う。ただ・・ここで俺は声を大にして言いたい!


「普通、異世界転移とかって神様がチートな力とか授けてくれるんじゃないのかよ!」

地力だけでやっていけとか・・ハードモードかよ。俺は平凡な高校生だっつー・・・思い出した。この世界に来たときに見た夢。なんか周りは英雄みたいな人たちなのに、俺だけ平凡って・・・

アレ・・・神様? 

てか、俺捨てられてない?


「おい、どうした。地面なんか見つめて」


地味な継続ダメージを受けている俺にガルフが話しかけてきた。最近ガルフの笑顔を見る事がない。何も言わないがマリウス伯爵や皇帝の事を考えているのだろう。


それとなく休むように勧めたが、そんなときこそ頑張らなければなどと言い出すからな。

猪の獣人だけに猪突猛進がモットーなんだろうか。


「あれ?稽古じゃないの?」


ガルフはいつもの木剣を持ってきていなかった。


「うん・・・今日は少し話したくてな。いいか?」


少し様子がおかしい、やはり疲れているんだろうか。

どこかよそよそしいというか、いつものガルフならいいか?とか聞かない。というよりも、こっちの予定など斟酌しないというか。


「アスト、最近ニアとの関係はどうだ?」


「んー、だいぶ馴れてきた感じはするけどね。元々がすごい引っ込み思案ぽいからか、言葉はたどたどしいけど会話は最低限成り立つし・・・まあ最近俺がなんか妹っぽく感じてるよ」


ニアがどう思っているかはわからん。嫌われてはいないと思う。


「そうか安心した。お前をここに連れてきて良かった」


「どったの?なんか変だよ?」


我慢しきれずストレートに聞いてしまった。いつもは突撃あるのみのガルフが瀬踏みするような会話をしてくるのが違和感通り越して心配になってきたのだ。


「なあ、アスト。また・・頼みがあるんだ」


「いいよ。俺にできることなら」


言いにくそうに切り出した言葉を食いぎみに答えた。ガルフはあるんだ。の、「だ」の口の形のまま止まっている。


「なに?たのみって」


固まっているガルフに先を促す。


「い、いいのか?まだ内容も言っとらんのに」


ここ最近ガルフの元気がないのは結構本気で心配していた。望みがあって、それを俺ができることなら喜んで手伝うくらいの気持ちは俺も持ってるさ。


「俺にできることならだからね。あ、お金は貸せないよ、俺一文無しだから」


そう言うと少しだけ笑ってくれた。


「まず、これを受け取ってくれないか」


そういって懐から包みを取り出す。くれるってものを断る理由はないので、訝しがりながらも包みを受け取った。

意外に重みがある。包みをといてみると簡素な装飾のついた剣だった。

なぜこのタイミングで剣をくれるんだろう。


その疑問はガルフが次の言葉で打ち消した。


「俺たち獣人族、いや俺の一族か。つまり獣猪族は弟子が一人前になったら師匠が見立てて剣を贈る風習があるんだ。アスト、お前に剣を教えていて気づいたんだが俺たち獣人の使う剣技は人族には向かん」


真っ直ぐに俺を見つめてガルフは言った。正直それは俺も痛感していた、ガルフと同じ動きを真似ようとしてもそれが人としての限界を越えていると思える事がたびたびあった。

鍛えていけば近づけはするだろう。でも、種族的なスペックの違いはどこまでも歴然としてある。


「それでも基本的な動きは伝えたつもりだ。あとはお前が自分の動きかたを考えながら使えるところだけ拾えばいい。剣士としてお前はまだまだ未熟だが、これ以上俺が教えてもいい結果はでないと思った。だから剣を贈らせてくれ」


短い期間だったが、ガルフは一生懸命教えようとしてくれた。人族の俺には教えにくい感覚的な部分も噛み砕いて理解しやすいように色んなものに例えながら。

獣人であるガルフから見て、俺はけして優秀な生徒ではなかっただろう。それでも伝えきれる部分は全部伝えてくれたように思う。だからこそ剣を贈ろうと思ってくれたんだろう。


俺はゆっくり剣を抜いてみた。柄の部分が真新しいので、全体的にサイズの小さい俺に合うよう作り直してくれたに違いない。剣は透き通るような赤色で、ルビーを連想させる。


「その剣は俺が若い頃に使っていた剣でな。赤いのは珍しいのだがミスリル銀だ。それを打った同族の鍛治師は鉱物として成り立つ過程でルビーの要素がまじったのかもしれん。と言っていた。まあめずらしいだけで特別な力があるわけじゃない。ふつうのミスリル製の剣だと思ってくれ」


そうはいうが、まるで宝石のように美しい剣だ。引き込まれるように見つめ、剣身に沿わせて切っ先の方へ視線を移す。だが切っ先までたどり着くことはできない、この剣は途中で無惨に折れていた。


「あー・・実は若い頃は力だけが有り余っていてな・・・力任せな使い方をしてしまって、そのざまだ。振るいやすいいい剣だったんだが、折れかたが不味かったらしく打ち直しも難しいといわれて、ずっとしまっていたんだ。そんな傷物の剣で悪いと思うんだが、他に贈るに値する物をもたんのだ。折れた事で俺が使うには中途半端な長さだが、お前の体格ならちょうどいいかもしれんと思って・・・む、無理して使うことはないぞ!ただ俺は弟子に剣を贈ったという事実があればいいんだ」


必死に弁解するガルフがおかしくて、笑った。ガルフは少しだけ困ったような顔をしていたが何も言わなかった。

ひとしきり笑ってすっきりして、あらためて剣と向き合う。・・・うん、いい剣だ。そんな気がする。

折れてはいるが、結果ちょうどいい長さになっている。斜めに割れるように折れているので切り込みの邪魔になることもないだろう。


「ガルフ・・ありがとう。いい剣だと思う!使わせてもらうよ」


そう言うとあからさまにほっとしたようだ。


「そ、そうか!そう言ってくれれば嬉しい。銘は深紅のルビーからとって、ルビーバーミリオンだ。その鍛治師は魔力の通りも良いということを言っていた。獣人族は魔力を込めて武器を振るったりしないが、機会があればためしてくれ!」


一息に言ったガルフは本当にうれしそうだ。プレゼントって渡すまで不安だもんね。


そして。


「用件はそれだけではないんだアスト」

幾分すっきりしたように見えるガルフは、俺が聞いている事を確認すると話を続けた。


「この洞窟がイムスリアの南端にあることは以前話したな?」


俺はだまってうなづく。


「ここから少し南に進んだら大きな街道に出る。街道に出たら西に進むとイムスリアの領土を出ると、大陸中央の城塞都市スーベイルの東端の街バランガだ。最近わかったんだが、ニアの母方の親戚がその街にいるらしい」


それは朗報だ。それが本当なら万が一マリウス伯爵達に何かあったとしても、ニアが天涯孤独ではなくなる。

ここ最近ガルフが人族の密偵を集めて、密に情報を集めていた。たぶんそれが功を奏したんだろう。


「そこでさっき言った頼みなんだが、もしここから逃げ出さなくてはいけないような事態になったらアスト、お前がニアをそこに送り届けてくれないか」


ここから逃げ出すときって・・・普通に考えたら敵にバレた時か。これまで見つからなかったからって、これからも絶対にばれないとは限らないしな。

言ってる事はわかるし、俺やニアはここにいても戦力になるわけじゃないし・・・

ただこの話をするときのガルフの様子が明らかにおかしい。

一切目を合わせようとしないし、さっきからずっと貧乏揺すりしてる。

・・・隠し事が下手すぎる。


「何かあったんだね?」


そう聞くと、ビクッと肩を跳ねさせ俺を見詰めている。その顔はなぜ分かった?と言わんばかりだ。


「いや、その、なんだ。あまりお前たちに聞かせるような事じゃないからな」


ばつが悪そうにガルフは言った。

                   

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