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龍の牙〜Gods is playing the game〜  作者: こばん
第一章 アストと獣人
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#5 ニア

しかし俺はその考えをガルフに伝える事はできなかった。この世界の事にうといし、実際現地だ見聞きしたわけじゃない。

結局自信がなかった・・・それに、自分は関係者でもなんでもないわけだし・・・


話し始めて結構な時間がたった。洞窟の中だがここには日光が入るのでだいたいの時間もわかる。たぶん深夜だ。

話の途中くらいで同席していた少女も眠たくなったのか、うつらうつらしはじめたのでガルフが促して寝室へ戻った。

寝室といっても最初に気になった荷物の向こうだが。


「悪いな、話が長くなってしまった。思い出すと悔しくてな・・・まだ俺も飲み込めてないんだ」


ばつが悪そうに言うガルフに、俺も知りたかったから気にしてないと言ったら、なんだか安心したような顔をしていた。

というか、まだ話しは終わってないんだ。


「ん、頼みの事なんだが。実はさっきの娘の事なんだ」


ベッドに向かってだいぶ時間が経つから、もう寝ているだろうがそれでもガルフは声をひそめて話を続けた。


「実はマリウス様の末娘なんだ」


はい、伯爵令嬢でした。


「マリウス様は家族みんなで王都に向かったと聞いてたんだが、ある日突然ここに来たんだ。なにがあったか知らないが一緒にいた護衛はここに着くと同時に死んじまったし、おじょうさんは何も話しちゃくれねぇし・・・正直途方にくれてたとこなんだ」


たしかに頑なに心を閉ざしてる感じだった。食事も促されれば取るが、自分からは食べようとしないらしい。

何も言わなければ、一日中ベッドの上で何か考え事でもしているかのように見えるとのことだ。

なんか・・この流れは・・・


「やっぱり人族の事は人族が分かるだろ?ここには俺らみたいな獣人しかいねぇし」


やっぱりか!


「いやいや!いくら同族だからって・・俺だってどう接していいかわかんないよ」


「んでも、俺らよりおじょうさんも話しやすいと思うんだ!頼む、このままじゃ弱っていくだろ?人族は俺らと違って、体弱いし・・・なんかあったらマリウス様に申し訳立たないんだよ」


ガルフは俺の倍近い体を小さくして頭を下げている。

気持ちは分かるんだけど・・話を聞く限り、なんか最悪の結末しか浮かんでこない・・・というか、あの子も一緒に出発したんだろ?なのに一人だけここに来た。さらに瀕死の護衛・・・

もしかしたらあの子・・・

ガルフは俺の靴でも舐める勢いで頭を下げてるし・・・


「・・・分かったよ」


俺が言うと目にも止まらぬ早さで立ち上がった。すでにその表情が信じてます。と告げている。


「でも、俺も努力はするけどどうにもできないかもしれないよ?」

むしろどうにもならない公算が高いと思います。


しかしガルフはすでに俺の両手を握りしめている。てか、見えなかったよ。獣人の身体能力すごいな!


「それでもいい!あの子には誰かがそばにいてやらないと・・・俺らじゃだめなんだよ」


確かにガルフに対する拒絶感はすごい感じた。マリウスって伯爵は親獣人派なのに、その子供がここまで獣人を拒絶するのは何か理由があるのかもしれない。


ちなみにあの子は、ここに来て言葉らしい言葉を発していないらしく、名前すら名乗ってくれないとのこと・・

前途は多難そうです・・



俺が頼みを引き受けた事で、ガルフは超がつくほど上機嫌になった。なのでこの際俺も追加で頼み事をした。

この世界の常識を教えてもらうのと、護身のための剣術を教えてもらうことだ。ちなみにどちらも即答で了承してもらえた。むしろほかにはないのか?と言わんばかりだった。

ガルフは猪の獣人だから尻尾はズボンの中に収まってて見えない。・・・きっと亜光速で振っていたにちがいない・・・




ガルフの頼みを引き受けてから一週間がすぎた。ガルフは部下の鍛練や情報収集、食料の収集などで一日の半分ほどは出掛けている。

でも、残った時間はほとんど俺との約束に使ってくれた。ほんといいやつだな・・・

ただ時間がたつにつれて、ガルフの表情に焦燥が浮かんでくるのがはっきりわかった。

俺には悟らせまいとしていたようだが・・


この一週間でガルフが思い付く、知っているかぎりの常識を教えてくれた。

剣術はそんなすぐに上達するわけがないのだが、俺も向こうにいるときには実家に伝わる古武術の剣術を嗜んでいたので基礎的な事はすんなり入ってきたと思う。

獣人が使う剣技は、人族のものほど洗練されてはいなかった。その身体能力に物を言わせて繰り出す技は苛烈としか表現できない。

決まった型などなく、それぞれが動きやすい形をとっている。向かい合うと物凄い速度で切りかかり、隙を見つければ立て直す暇など与えず攻め続ける。

守りを一切考えてないが、優れた五感と身体能力が相手を攻め込ませない。

まさに戦う種族なんだろう。


さて、伯爵令嬢のほうはその鉄壁の防御で、俺に心の隙をつかせなかった。こちらもすぐに変化があるなど思っていなかったので、長期戦のつもりで接した。

心を閉ざした相手との接し方なんて知らなかったし、どうすればいいのかも全くわからない状態だったのだが、無理に話しかけたり答えさせようとはしないで、ただ近くにいることに徹した。


側にいる事を当たり前と思ってもらえれば自然と心も開いてくれるだろう、と考えての事だ。

そんな俺にガルフは、そんなんでいいのか?とか、もっと話しかけたほうがいいんじゃ?などと世話を焼いてきたが、とりあえず押し通した。

そんなやり方はさんざんガルフ達がやっただろうし、ただ逆の事をしてみただけだ。俺だってどうしていいかわかんなかったんだよ!


しかし、思ったよりも効果的だったようだ。ガルフとの時間以外の全てを少女の側にいる事に使っていると、俺がほかの所にいるときに彼女が近くにいるようになったのだ。


そこからは早かった。俺を敵ではないと認識したのか本能的に家族的な物を求めたのか、あまり一人でいる事を望まないようになった。

もちろんべったりくっついてくるような事はないが、気づくと見える範囲にいる。


少しだが会話もできるようになったきた。もともと多弁なほうではなかったようでポツリポツリとだが話してくれる。

満を持して名前を聞いたら「・・・ニ・・ァ・・」と消え入りそうな声で教えてくれた。

すごく嬉しかった。経験はないが自分の子供が初めて言葉を話した時もこんな感じなんだろうか?

ガルフに伝えたら嬉しそうな悔しそうな複雑な表情をしていた。


それからは、少しずつ色んな事を話してくれた。先月12歳になったこと、お屋敷にいる時に飼っていた猫が心配なこと、獣人は怖くないが、グイグイくる勢いが苦手なこと。まだ返事に困ると口をつぐんでしまうことも多いが、一切の会話と接触を拒否されていたことを思うと格段の進歩だろう。


全て順調に見えた。ただ・・・父親に関する事は一切話してもらえなかった。



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