# 34 はるか昔の龍じい
ニアがこの街でどんな感じで暮らしてきたのか、なんとなくだが想像しながら歩いていると木漏れ日の寝床の裏手に出てきた。近道をしてたようだ。
表通りにでるとアストリアが腕をくんで壁に寄りかかって待っているのが見えた。こうして見ると結構なイケメンだなあいつ・・・
通りがかって振り返って見る人もいるくらいだ。
「・・・待ってた?」
ニアが声をかけるとアストリアは体勢を戻した。
「いや。そこまで待っていない。少し遅かったようだが?」
そう言うアストリアに宿を出てからの事を話す。すると貴族のレドクリフの手下に絡まれたという話が出ると渋い顔になった。
「まだそんな事が・・よほどニアちゃんが気に入ってるとみえるな」
やはりストーカーのほうか。惟は要チェックだな、気を付けとかないと・・・
「とりあえず中に入ろう、外で話していても仕方ないし。俺がここまで同行してきた人も紹介するよ、たまたま一緒になった人達なんだけど、いつまでとかどこまでとかどう考えてるのか話してなかったからちょうどいいし、獣人の里の事も知ってるかきいてみたいしね」
言いながら木漏れ日の寝床の中に入った。一階は受付があるが、奥のほうに食事などに使うテーブル席が何組かある。ニア達を先にテーブルの方に案内して、受付にいた女の子にイリアさん達がいるようなら降りてくるよう伝えにいってもらった。
食堂のほうではニア達が立って待っていたので、一番奥の六人掛けの大きなテーブルを選んで座るように促すと、アストリアは俺と向かい合うように座りニアは俺の隣に腰掛けた。
「さて。君には聞きたい事が山ほどある」
すぐにアストリアがそう言ってきた。
「なんで生きてるのか・・ですか?」
「もちろんそれもあるが・・・まずは何者なのか。からだな」
アストリアの目が探るように俺を見る。うそやごまかしは効かないと言わんばかりだ。
「何者かと言われても・・・」
そんな根本的なことから聞かれるとは思っていなかったので、思わず口ごもる。以前は魂の迷い子とやらに間違われていたから乗っかっていたが、設定として弱いんだよな。どんな感じなのか見たことないし・・・
「・・アストは、何も怪しくない。・・私が、保証する!」
俺が怪しまれていると思ったのか、ニアが横から口を挟んできた。うれしいんだけど、いったいニアの俺に対する信頼感ってどこからきているんだろうか・・?・・いまはそれどころじゃないか。
「ニアちゃんはそう言うけどね。人は致命傷を受ければ死ぬし、急に消えていなくなったりしない。少なくとも俺はそんな話を聞いた事はない。何か特別な魔法でも使えばどうかなるかもしれんが、君達は魔法使いではない」
「・・む。」
今度はニアが口ごもる。アストリアのいう事はもっともだ。別に話すのはいいんだが、どこから話していいものやら・・・
とりあえず元の世界の事や転移の事を省いて話すとしようか。
「あの時、スレイダーにやられた後だけど気づいたら桃源郷って場所にいた。詳しい事は俺もわからないんだけど、そこにいた龍明星って人はあの世とこの世の境みたいな場所って言ってた」
「桃源郷?龍明星・・・龍・・」
やはりアストリアも桃源郷の事は知らないみたいだ。ただ龍じいの名前には聞き覚えがあるのか、口の中で名前を繰り返している。
「かなり昔の、おとぎ話みたいな物語でたしか出てくる名だな。古代王国の魔法使い達と神々との争いを描いた物語で見たと思うが・・君は龍戦士って言葉は聞いた事あるかい?」
おとぎ話レベルの話なのか!龍じいっていったいどれくらい生きてるんだ?
驚くような話だが龍戦士という言葉も出たし、アストリアは聞いた事はあるみたいだ。
「俺はその龍じいに龍勁の技を教えてもらって生き返る事ができたんだ。じゃないときっとそのまま死んでいたと思う」
「まさか実在したとは・・・」
驚きながらもアストリアはその話をかいつまんで教えてくれた。
その昔、この大陸には人が集まって暮らす国のようなものは二種類しかなかった。今も古代王国といわれて名前と名残を残している国とその他の部族。
二つの違いはたった一つ。魔法が使えるか使えないか。当時は今よりも魔法文明が発達しており、さまざまな魔法が研究され使われていた。
空を飛ぶ乗り物や遠くの人とも隣にいるような魔法が日常的に、一般的に使われていたという。
魔法が使える人々は、まるでこの世界が自分達のためにあるかのように振る舞い、獣人や妖精などの亜人種や魔法が使えない人族らを奴隷のように使役し労働力として使い、または互いに戦わせたり性奴としてなど快楽のために使いつぶしていた。
やがてさらに魔法の研究が進み、この世界すら飛び出さんばかりになった。その時、いずこよりか巨大な竜が現われその眷属と共に繁栄しつくしている国々を焼き払い始めた。
古代王国の魔法使い達は己らの技術の粋をもって抵抗したが、抗う事もできずに滅び、竜の標的は亜人や魔法が使えない人々まで及び始めた。
それらの人々は、それを神の怒りと受け止め受け入れていたが、竜の眷属の中より残った人族に味方するものが現われて守護する事になり、龍はまたいずこかへ飛び去っていった。
竜の眷属は、世界を構成する火、水、土、風の四大元素を司り、古代王国の魔法使い達が荒廃させた自然をよみがえらせると共にその後も外敵から人々を守った。
人々はその竜の眷属を龍戦士と呼んであがめたという。
「・・・という物語だ。時代と共に龍戦士も代替わりするみたいで、一番最近の文献で見る龍戦士の中に龍明星の名前が出てくる。」
一番最近といってもそれすら千年単位での昔の話らしい。まもなく千年を迎えるといわれているミレニア王国の建国に関わっているとされているらしいから相当だ。
その話が本当なら龍じいは少なくとも千才以上の超ご長寿老人になるな。もしまた会う事があったらぜひ聞いてみたい。