表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の牙〜Gods is playing the game〜  作者: こばん
第二章 三年後
22/114

#21 イリア

目の前には二十匹近いゴブリンがいる。たとえゴブリンといえど危険な数だ。ゴブリンなどの低級な魔物でも武器を使うし、毒が塗ってある場合もある。


・・・まずはあの人を解放する必要がある。


そう判断した俺は、練り続けていた龍精の一部を丸く成形して、手のひらから相手に向かって飛ばす、龍球ろんちうという基礎的な技をゴブリンに向かって放った。

狙うのは、人を抱えているゴブリンの前に立っている奴だ。


まだ実戦では使ったことがない技なので、直接狙うのは避けたのだ。


俺の手から発せられた、わずかに光る十五センチほどの光球はかなりの速度で狙ったゴブリンの頭に命中する。


「ギャッ!」


まともに当たったゴブリンが悲鳴をあげて、二三歩後ろによろめいて倒れた。人を抱えたゴブリンも巻き込んで。


・・よし!


思った通りになり、さらに俺はそれに気をとられた目の前のゴブリンの後頭部に後ろ回し蹴りをはなって、体勢を崩すと、間にいるゴブリンを踏んで大きく跳躍して囚われている人の近くに着地した。

かなりアクロバティックな動きだが、三年間に渡って龍じいから叩き込まれた体術は、龍勁の特性とも合わさって付け焼き刃とは思えない動きができる。


ゴブリン達は驚いたような顔をして俺を見ていて、動きが止まっていた。これ幸いともう一匹のゴブリンも斬って、サクッと捕まっている人を救出できた。


ゴブリンの手を離れ地面に倒れている人を抱え起こすと、若い女性だ。やはりローブ姿で腰には短杖ワンドを差しているから魔法使いなのかもしれない。


「お前たちでは俺には勝てない!このまま立ち去れ!」


人質を救出できて、なおかつ俺の後ろに逃走経路もできた。無駄に戦うこともないが、追いかけられても鬱陶しいので、なるべく威厳が出るよう意識しながら叫んでみた。

力の差はみせたんだ。あわよくばびびって逃げ出してくれないかな?と、考えての事だったんだが、ゴブリン達は動かない。それどころか、なお歯を剥き出しにして威嚇するような唸り声をあげているじゃないか・・


くっ・・・ゴブリン程度の魔物をびびらす事もできないなんて・・・

軽くがっかりしたが、きっと魔物なんだから力の差が理解できていないんだ!と、そう思うことにして現実にもどる。


ゴブリンから目を離さないようにして、すこしずつ後ろに下がってみる。しかしゴブリン達は俺が下がった距離以上に無造作に間合いをつめてくる。

うーん、それほど重くはないが、この人を抱えたまま逃げ切るのは難しいかな・・


仕方なくもう少し交戦するべく、気を失ったままの女性を一度地面に下ろそうとした。


「まって!そのまま。今からゴブリンに攻撃します。そのまま撤退できるようにお願いします。」


ふいに、どこからか声がきこえた。声を抑えてはいるが、はっきりと聞こえるから近くに隠れているみただ・・


次の瞬間、俺とゴブリンの間に不自然な空間の乱れのようなものが生じた。それはすぐに実体化して、真っ赤に燃え盛る炎の塊がゴブリン達に向かって飛んでいった。


ドゴオン!!と音と熱風が俺の所まで押し寄せてくる。それらが過ぎ去った後には、焦げた臭いと凄惨な光景が広がっていた。


「こっちです!ゴブリン達はまだたくさんいます。音を聞いて集まるかもしれないから!」


呆然と立ち尽くしていた俺を、そう言って引っ張る者がいる。

振り返ると、白い貫頭衣を頭まですっぽりと被った者が俺の袖を引っ張っていた。先ほどの声はこの人らしい。声の感じからするとこちらも若い女性のようだが・・


とりあえずその女性の後につづいて駆け出すと、すぐにもう一人いる事に気づいた。俺やゴブリン達からは見えない所にいたその人物は、膝に手をついて肩で息をしている。

手に長杖を持っているから、先ほどのはこの人物が放った魔法なのかもしれない。


「ティレン!メイは無事のようです。ゴブリンはまだだいぶ残ってましたから、とりあえずここを離れたほうがいいでしょう。走れますか?」


貫頭衣の女性が声をかけると、ティレンと呼ばれたほうはまだ息が乱れているようだったが、すぐに上半身をおこして頷いた。


「申し訳ありませんが、もう少しだけお手をお借りできませんか?その子を運んでほしいのです」


ティレンと呼ばれたほうは、すぐに移動を始めた。そして貫頭衣の女性は俺をまっすぐ見てそう言ってくる。

思わずドキッとしてしまった。まだ辺りは暗いのではっきりとはみえないのだが、それでも女性はとても整った顔立ちをしているのが分かった。幼さが残るもののゾクッとするような美人だ。


思わず呆けてしまいそうになったが、後ろからまだゴブリンの声がしているのが聞こえて我に返った。

俺が抱えている女性はいまだ目を覚まさない。ティレンと呼ばれたのは男性だったが、魔法を使った後で疲れているように見えたし、そもそも線がほそく力があるようには見えなかった。

つまり俺が運ばないと、この女性は危地を脱する事ができない。


俺は貫頭衣の女性に向かって、承諾の意を返し気を失っている女性を抱え直して後に続いた。薄闇のなか白い貫頭衣が川辺に向かって滑るように下りていった。

その後を追っていくと、街道の脇に向かっていき街道をはずれると砂利になっている。すぐ下を川がながれていて、そこから川までは二メートルほど低くなっている。

貫頭衣の女性は下に滑り降りて行ったようなので、俺はふわりと飛び降りた。


そこには街道から隠れるように横穴があって、中には火の残った焚き火と何個かの荷物が置いてある。ここで夜営していたようだ。


「ここに・・」


貫頭衣の女性が、地面に外套のような物を広げて敷いている。ここに寝かせろという事らしい。

そっと、気を失っている女性をそこに横たえると、傍らにひざまづいて不思議な抑揚の言葉を唱え出した。

この人も魔法使いなのだろうか。黙って見ていると、気を失っている女性を柔らかい光が包み、見る間に安らかな寝息に変わっていった。


その後もう一度外に出て、ゴブリン達が来ないかしばらく様子を見ていたが、幸い追うのを諦めたのか、ゴブリンがやってくることはなかった。


それから焚き火を点けなおし、その周りにそれぞれ腰掛けるとすぐにお礼を言われた。


「助けていただいてありがとうございました。私はイリアと申します。母なる豊穣の女神ノエルに仕える神官です。彼らは同行者で魔導学院の生徒です。」


貫頭衣のフードを下ろしたイリアと名乗る女性は、隣に座る少年を指して言った。彼ら。とういう事はまだ寝息をたてている女性もそうなんだろう。十代半ばほどの少年は先ほどティレンと呼ばれていた人物だ。紹介されるとペコリと頭を下げる。イリアさんは俺と同じくらいの年齢に見えるが、そのしっかりした言動と美しさでなんだか気後れしてしまう。


「私は故あって巡礼の旅をしています。彼とはイムスリアの国境近くで知り合ったのですが、戦が始まりそうになり安全な所に避難しようと共に旅をしていたのですが・・」


そこまで言うと、イリアさんは口をつぐんだ。


「襲われたんです。突然、イムスリアの黒騎士団に」

ティレンがイリアの後を引き取ってそう言った。


「いえ、まだイムスリアの黒騎士団かどうかははっきりとは分からないのです。確かに黒い鎧姿でしたが」


「あれは黒騎士ですよ!間違いありません、鎧の肩には紋章も刻んでありました!」


イリアさんは慎重に言葉を選んでいるようだったが、ティレンは憤慨したように言った。騎士が民を襲うなどあってはならない事だけに腹が立っているんだろう。


「ですがティレン。イムスリアの黒騎士団といえば勇猛ですが、弱きに手をかけない慈愛の心も団の誇りとしている事は有名な話ですし、私がこれまで会ったことのある方たちも立派な方々ばかりでした。それがこんな・・」


イリアさんのほうは今だ信じられないといった感じだろうか。俺のとっては最初から黒騎士団は敵側だったのでティレンの言うことのほうが納得できるんだが。


どうもイムスリアの黒騎士団といえば、大陸中の尊敬を集める集団だったらしい。なんでもイムスリアの北の、どこの領地でもない場所に古代王国の遺跡があって、そこから貴重な財宝や古代期の魔導具などが発掘されるんだが、常に魔物が溢れてきている。放っておくと大陸中に魔物が跳梁する事態になりかねないのだが、他国が討伐に兵を出したがらないなか、イムスリアの黒騎士団が一手に魔物の討伐を行っていたのだそうだ。

常に魔物と戦っているので、技量も磨かれて精強を誇りつつも規律と友愛を重んじた騎士の鏡とまで言われている。







僕みたいな素人の作品を閲覧してくださりありがとうございます!毎日アクセス数をみながら一喜一憂してます(^^)

しかも評価やブックマークをしてくれる人もいて感謝感激の雨あられです♪

とても励みと原動力になっています。もしもう少し読んでもいいな、と思われたら評価やコメント、ブックマークなどよろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ