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龍の牙〜Gods is playing the game〜  作者: こばん
第一章 アストと獣人
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#13 スレイダー

「にーちゃん・・・これはちょっとまずいニャ?」


アストリアの後ろにあの時と同じように、さらに二人の騎士が姿を現す。後ろからも物音がする、はさみうちか・・・


たしかにまずい・・ちょっとどころではない。どうする?いったいどうすればいい?

考えはまったくまとまらない。ニアだけは守りたいとは思うが・・・


「そこにマリウス伯爵の令嬢がいると思う。渡してもらいたい」


何もできない俺たちにアストリアが話しかけてきた。今はかぶとをつけておらず、よく通る声でそう言った。

やっぱりニアが狙いか・・・


俺は覚悟をきめてウリョウの前に出た。

「ウリョウ・・・俺がほんの少しでも時間を稼ぐから・・・ニアをつれて逃げてほしい」


声を潜めて言うと、ウリョウは俺の腕を強く掴んだ。

「何言ってるニャ!あれがアストリアニャ!時間なんて稼ぐひまもなく殺されるだけニャ」


「じゃあどうすれば!」


声をひそめながら言い合っていると、さらに数歩前に出てきたアストリアは意外にも穏やかな声で語りかけてきた。


「・・・いろいろ思うところはあると思う。だが、無駄に抵抗しなければ手荒にはしない。その子を渡してくれれば二人は見逃そう。どうか言うことをきいてくれないかな?」


近づいてくると、アストリアの様子がみえてきた。今度はかぶとをかぶっていないので顔もわかる、短く刈った茶色の髪をきれいに整え、キリッとした眉をした美形ともいえる顔立ちをしている。見た感じは誠実そうに見える。


だが、ニアの父親はこいつらに捕まったと聞いている。簡単に言うことは聞けない。


「渡したら・・・ニアはどうなるんです?」


声が震えているのが自分でもわかる。でも・・・ここは引けない!


「その子は・・・その子の父親が我々に協力さえしてくれれば、すぐに父親のもとに返そう。俺が保証しよう」


アストリアはそう言った。マリウス伯爵に何を協力させるつもりなのか・・・でも結局それでは、ニアは人質とういうことにならないか?


俺たちはともかく、ニアを交換材料にしようとする言葉に安心できるわけがない。

しかしこの場を切り抜ける手段もない事も確かだ・・・どうするか。


しかし、逡巡する俺の前、アストリアとの間に別の騎士が割り込んできた。


「おや、団長。この期におよんで何を甘い事を。さっさと奪えばいいだけではないですか」


甲高い、感に障るしゃべり方をするその騎士は、俺の前に威圧するような態度で立った。


「命令をお忘れですか?それともまだ獣人討伐が陛下の本意ではないと仰るつもりで?こうしてわざわざ私が勅命を携えてきたというのに・・・」


目の前の騎士はどこか小馬鹿にしたような口調で話した。

皇帝の勅命?皇帝は獣人達の味方ではないのか?どうなってるんだ・・・


事情についていけず混乱する。


「団長どのがすぐに甘い事を言い出すから。と、私にあらためて捕縛の命を勅命として命ぜられたのに・・・」


そういうと、俺に背中を向けて懐から何か板のような物を取り出して、アストリアに見せつけるようにしている。

それが勅命とやらの印なのか、アストリアは苦いものを見るような顔をしている。


やはり、黒騎士のなかでもアストリアは穏健派なんだろう。もしかしたら言う通りに手荒にはしたくないのかもしれない。

対して目の前の騎士は、犠牲は厭わないという感じか・・・主張が違っているなら、このまま仲間割れでもしてくれれば・・・あるいは俺に背中を向けている騎士を黙らせる事ができたら、最悪捕まっても、ニアにとって悪い条件で捕まる事は避けれるかもしれない。周りにいる他の騎士たちは意見を言える立場ではないのか、どっちとも言わない。


そっと後ろを振り返ると、厳しい顔をしたウリョウと、その肩越しに真っ青な顔色のニアと目があった。

今にも泣きそうな顔をしている。


俺は無理して笑顔をつくると、ニアに微笑みかけたあとウリョウの目を強く見つめて、少しだけうなずいた。


何か言いたげなウリョウの視線を切って、前に向き直る。目の前の騎士はいまだ無防備な背中を俺にさらしている。


いくら相手が戦い慣れた騎士でも、背後からの完全な不意打ちだ。倒せないまでも・・・


そっと腰の後ろに下げている剣の柄に手をかける。


「ァストっ・・・」


ニアが何か言った気がするが、走り出した気持ちは止まらなかった。

俺は震える手を叱咤しつつ、勢い良く剣を抜いた。

そして力の限りを込めて相手の無防備な首筋へと振り抜いた。


ガキン!!


「団長が甘いことを言っていた結果がこれです。もうおわかりでしょう。愚民どもに言う事を聞かせるのに必要な事が・・・」


騎士は不意をついたはずの、俺の渾身の一撃を何でもないかのように幅広の剣で受け止めている。


「なっ!!・・・」


振った剣を引く事もできない俺に騎士はゆっくりと振り向いた。その顔には寒気がするような微笑が張り付いている。


・・・情というものを、まったく感じさせない笑みをうかべたまま騎士はおれに向き直る。


「さ、邪魔者は退場の時間です」


そういうと剣を振り上げた・・・



「ガアアアアアッ!!」


その時激しく吠えながら俺の前に飛び込んできた者がいた。

ウリョウではない。

そこにいたのは全身泥だらけの格好をしたガルフだった。


ガルフは目にも止まらない速度で剣を振るう。しかし相手の騎士もことごとく受け切っている。


「よせ、スレイダー!そんな事では敵ばかり増えることになる!」


そう言って、アストリアは相対している騎士の肩を掴んで静止した。

その隙にガルフは後ろにとび、俺を庇うように立った。


よく見ると、泥で汚れているように見えていたのは、乾いた血だ・・・激しい争いをくぐり抜けてきたんだろう。


「ガルフ!あいつらニアを拐うつもりだ!人質に使ってマリウス伯爵への駒に・・・「分かっている!だからこそ、ここをなんとか切り抜けんといかんのだが・・・」


だが、スレイダーと呼ばれた騎士はアストリアの手を払って剣をかまえている。

アストリアも無理に止める事はできないのか・・・


「我々を切り抜ける?いいですね。ぜひとも試していただきたい。クックック、愉快ですね。団長、あなたがやってきたことの結末がこれですよ?無駄に命を奪う事もないなどと言って、取れた首を見逃したために息を吹き返して我々の邪魔をしている。甘い事をほざいて、時間ばかりかかって・・・陛下もお怒りだ」


アストリアは言葉を返せず、ただ唇を噛んでいる。


その隙をついてガルフが斬りかかるが、スレイダーは難なくさばく。


「いいですか?任務を遂行するのに邪魔なものがあったら・・それがどんなものだろうと排除すればいいんだよ!」


だんだんスレイダーの口調が変わってきている。本性を出してきたということなのか。


「もういいでしょう。あんたはきっと帰還したら団長の任を解かれる。私が後釜に入れるそうです。最後と思って従っていただけですが・・・いささか、飽きたのでな」


茫然とするアストリアを顧みる事もなく、スレイダーはガルフに近寄る。


ガルフは荒い息を吐きながらスレイダーを睨み付ける。

俺は、ニアをおぶったウリョウと共に数歩下がった。


やがて、場に緊張が満ちたのが分かった・・

次の瞬間、光の筋が走った。


俺にはそうとしか見えなかった。光の筋が数本、剣撃の音。

そして、飛ぶガルフの右腕・・・


「ガルフ!」


思わず叫んで駆け出そうとした。何か考えがあっての事ではない。無我夢中だったのだ・・・


だが、いくらも近寄れなかった。

何歩か走ったとこで目の前にいきなりスレイダーが現れたのだ。前に向かっていた体をなんとか強引に戻して後ろに跳んだ。慣性に逆らった動きをすることで、俺の体はいろんなとこが悲鳴をあげている。


「ククク・・・どうした?顔色が悪いようだが?」


そんな俺の様子を見て、スレイダーは楽しそうにしている。今でも切ろうと思えば楽々切れたはずなのに、こいつは俺を嘲笑っている・・・


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