第9話 ハナコよ永遠に(今日は4品で)
間が空いてしまいました。
年始ボケでしょうかね。
生き地獄という言葉がある。
それは生きながらにして地獄のような体験をすることである。
アエラの怒りを買い、その1歩手前まで行ったタケルは危ういところでその状況を回避できたと思われた。
だが、それも束の間。タケルは再び危機を迎える。
アエラとツバサの娘であるミツキとコヨミ、この娘達はアエラとは違った意味で恐ろしい生物であった。
物理的な攻撃なら防げただろう。
だが、その攻撃が恐ろしいのはタケルに対抗手段が一切ないことであった。
もし、アエラによる救出があと5秒遅かったらネットの海にタケルのアウトな写真が流れていた。
それを思うとタケルの身体は部屋の冷房とは関係なく震えてしまう。
元凶である娘2人は現在タケルの対面の席にツバサを間に挟んで座っている。
その顔は敵意を隠すことなく、シャー!と威嚇する猫の様に歯をむき出しにして真っ直ぐタケルを睨みつける。
「ツバサさん。その猛獣達が今にも飛びかかって来そうなんですが」
「コラコラ、こんな小さな子を猛獣だなんてヒドイじゃないか。人見知りが激しいだけだから大丈夫。すぐに慣れるよ」
危うく(社会的に)殺されそうになったんですけどね!
さっきの顛末を知っているのかいないのか、ツバサは娘に甘々な父親のままである。
ただ、その腕にはいくつかの筋が浮かび上がっているのを見るに、娘達を押さえておくのも一苦労といったところか。
仮にも魔王とソードマスターの娘。基礎能力がタケルとは違うのだろう。
「ツキ、ヨミ。尻だけじゃ足りなかったか?」
アエラはバルトラが淹れたコーヒーを口元に運ぶ動きを止めて、ギロリと冷たい視線を娘達に向けた。
ビクッ!っと体を震わせると娘たちは大人しくなる。
「今日はこのくらいで許してやるの」
「やるの」
今日は・・・なんだね。
「皆様。お待たせいたしました」
バルトラが出来上がった熊料理を乗せられた皿を手に食卓へ現れた。
「本日は頂いた熊肉でメンチカツ、煮込みハンバーグ、ベアーシチュー、熊の角煮の4品を作らせていただきました。後はご飯にパン。サラダとデザートもご用意しております」
並べられた料理はどれも美味そうに見えるが、素材の原型を知っているだけに手を伸ばすのが少し躊躇われる。
「ハナコぉぉぉ・・・・」
ツバサは涙を浮かべて食べ始めたものの、その手を止める気配はない。
美味いんですね。
娘達は料理が出されたと同時にハンバーグを取って黙々と食べ始めている。
アエラはシチューを食している。
1口2口と口に運んでは時折考え込むようにシチューを眺め、1皿完食するとバルトラに鋭い視線を向ける。
「また腕を上げたようだな。後でレシピを教えてもらっていいだろうか?」
「お褒め頂き恐悦至極でございます。奥方様には及びませぬが私のレシピでよければお納めください」
バルトラの言葉が嬉しかったのだろうか、アエラは普段見られない柔らかな笑みを浮かべてそれぞれの料理を口に運んで行った。
意外と奥さんしているんだな。
タケルも目の前のメンチカツを1つ頬張るとカッと目を見開く!
「美味ぇ!!」
熊肉だから生臭いと思い込んでいたが下処理が良かったからなのか赤身、脂身の織り成す旨味のハーモニーが(略)
本当に美味い物を食べると人は笑いがこみ上げるか黙り込む。
給仕を終えたバルトラも交えて食卓は賑やかにと言いたいが、皆料理に夢中でバルトラも進んで話しかけるタイプでないので至って静かである。
「このカツはツキのものなの」
「いくらツキでもゆずれないの」
最後のメンチカツを巡って怪獣娘が火花を散らしている。
「あぁ、角煮と言えばやはり白米だな。さすがバルトラだ分かっている」
「ツキ!ヨミ!ケンカしないで半分こして食べなさい!」
食事も終盤になって、ようやく家族らしい喧噪が食卓に響き渡る。
その光景をバルトラが嬉しそうに眺めていた。
それはタケルが普段見慣れている我が家の様子と変わりないものであった。
ちなみに怪獣娘とのおかず争奪戦はなんとか勝ち越した。
妹達との経験が生きたな。
美味しかったよ・・・ハナコ。
皿の上の料理はキレイに無くなり、バルトラも満足気に食器を片付けている。
タケルも手伝いを申し出たが主の招待した客の手は借りられぬとバルトラに断られた。
怪獣娘達はお気に入りのアニメを見るために子供部屋に移動し、タケル達3人はリビングへ移った。
怪獣娘達のプレッシャーから解放されタケルはホッと息をつく。
「いやぁ、熊肉美味かったです。ご馳走様でした。おじゃましましたー」
「大したもてなしもできなかったが喜んでくれてなによりだ」
「また遊びにおいでー」
軽く挨拶をしてタケルはリビングの扉に手をかけた。
・・・・・。
「「待たんかい」」
タケルは逃げられない。
「チッ!」
あと一歩だったがタケルは大人しくソファーも腰を掛けた。
「どうぞ」
早々に片づけを終えたバルトラがタケルの前にお茶を置いた。
「まったく油断も隙も無いな」
「ホントだよ」
どうやら退路は断たれた模様だ。
「失礼ながら、まずは私から一言よろしいでしょうか?」
スーツにエプロン姿のバルトラは、さっきまでの穏やかな気配を消し、獰猛な笑みでタケルに向き合った。
「元魔王軍将軍。妖精のバルトラでございます」
二つ名可愛いな!
元魔王軍よりそっちが気になった。
次回は早めに上げたいと思います。