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第4話 学校へ行こう!(家から徒歩10分)

文脈が安定しない今日この頃。

個性が欲しい。

「え?タケ兄、勇者になったの?」


 タケルが勇者になった明くる日の朝、寝ぼけ眼でリビングにやってきた兄に、ダイニングで食事中だった2歳年下の妹は驚きと呆れの混ざった声を上げた。


「そのはずなんだけどな」


 勇者にはなった。しかし、タケルはこれから学校へ行く。

 昨日はマミとパーティーを組んだものの、タケルが経験したことと言えば、母親に2回『王様送り』にされたことと、死にかけたことだけ。

 タケルに実感がないのも当然と言えば当然である。

 爽やかな朝に似合わない表情でダイニングの席に着いたタケルの前に、母親は淹れたコーヒーを置いた。

 すでにテーブルに置いてあったトーストにマーガリンを塗り、スクランブルエッグを挟んでタケルはかぶりついた。

 チラチラとタケルに視線を向けていた妹は、オレンジジュースを口にしつつ、


「まぁ、勇者って当たればデカいけどねぇ。けど、彼氏が勇者になったら正直ドン引き」

「スセリ、彼氏がいるのか!?」


 子供達の会話を同じテーブルで聞いていた父親だったが、娘スセリの彼氏発言に思わず食事の手が止まる。


「いないいない。例えばの話だって」


 オヤジっぽい仕草で大袈裟に手を振って否定したスセリに父親は安堵する。

 その横でタケルは、


「勇者って、彼女にドン引きされる存在なのか・・・・」


 淹れたてのコーヒーの味が、やけに苦く感じた。


「はいはい。タケルもスセリも早く食べちゃいなさい。はい、クニオさん」


 そう言いながら、母親は父親クニオに味噌汁のおかわりを持ってくる。


「そういえば、父さんがこの時間にいるの珍しいね」


 母親に促され、パンをモグモグしながら、スセリが不思議そうに父親へ尋ねた。


「ああ。人事異動があって部署が変わったんだ。週末が忙しくなる分、平日に休めるようになった」

「人事異動?随分と急だね」


 今は7月半ば、中途半端な時期に感じたタケルの問いに、


「詳しいことは言えないが、大規模なプロジェクトがあってね。その関係さ」


 そう答えると、食事を終えたクニオは席を立ち、空いた食器をシンクの中に置いた。


「サクヤさん。ちょっと走ってくる」


 ジャージ姿だったクニオは、母親サクヤに声をかけてダイニングを出た。

 サクヤは「はーい」と返事をして送り出す。

 スセリも食事を終えて、空いた食器をシンクに置く。


「母さん、サギリは?」

「今日は日直だからって、もう学校に行ったわよ」


 サギリとはスセリの双子の妹である。


「はっや」


 まだパジャマ姿だったスセリは着替えに部屋へ戻る。


「ごちそう様」


 スセリとさほど変わらぬ時間でタケルも食事を終えて、先人に倣って空いた食器をシンクへ置く。

 それをサクヤは感心した顔で眺めながら、うんうんと頷く。


 父:クニオ

 母:サクヤ

 長男:タケル

 長女:スセリ

 次女:サギリ


 これが、いつもと変わらぬ、ヤマト家の朝である。

 クニオが玄関を出ると、東の空から昇っていた太陽の光が、真新しい我が家を照らしていた。


「今日もいい天気だ」


 クニオが一大決心をして30年ローンで買った一戸建て。

 だが、残りのローンを余裕で一括払いできるだけの金額をタケルが得た事を、父はまだ知らない。




 ニホンノ王国『都立イワト学院』

 タケル、スセリ、サギリの兄妹が通う、中高一貫校である。


 教室に入ったタケルは自分の席に着くと、カバンからスマホを取り出しマナーモードへ切り替える。

 そこへ、


「はよー、タケル」


 気だるげな挨拶とともに、1人の男子生徒が近づいてきた。

 体格のガッチリしたその男子生徒は、タケルの前の席に横向きに座る。


「はよう、ケイジ」


 同じように挨拶を返すと同級生ケイジは、スマホを操作して画面をタケルに見せる。

 そこに映っている画像にタケルの顔がひきつった。


「なぁタケル。昨日、お前のお袋さんが棺桶を引きずってるの見たんだけど・・・・」


 ケイジの声はわずかに震えていた。

 どうやらケイジは、恐怖と興味、その2つを天秤にかけて、少しだけ興味が上回ったようだ。

 近所に住むケイジは、小さい頃からタケルと一緒に遊んでいた友人である。今さら隠し事をする間柄でもないので、財布に入れていた勇者カードを取り出して、昨日の一部始終を話した。


「すげぇな!お前が勇者か」

「棺桶をスルーするな」

「いやぁ、身近に勇者っていなかったからさ。よく選ばれたな」

「今回の神託は、条件が絞られてたらしいからな」


 勇者を選ぶ神託は魔王がいる限り、ランダムに告げられる。

 だが、その内容はかなりアバウトである。

 ・○○に住む今年○○歳になる男の子。

 ・○○地方の○○歳から○○歳の人。

 これらはまだマシな方で、

 ・○○年生まれの子。

 なんてものもあった。


 王国は、神託で対象となった全員に履歴書と返信封筒を入れて送り、返信があった中から選考して城へ呼び出し、来た者が勇者となる。


 Q.あなたが勇者になったのはなぜですか?

 A.家族または親戚が勝手に履歴書を送ったから。(62%)

  モテたかったから。(25%)

  有名になりたかった。(8%)

  魔王を倒して平和を取り戻すため。(3%)

  若さゆえの過ち。(1%)

  つい、うっかり。(1%)


 ちなみに、今回の神託は『王都在住の16歳のタケルって子』とピンポイントであったが、それでも4名いたらしい。

 届いた履歴書は母親が勝手に送っていたと、城から出た後の昼食中に教えられ、タケルが不思議に思っていた勇者カードの写真とステータスの謎は、何の伏線にもならずに解決された。


 現在、勇者カード所持者は37名。

 なぜこれだけの者を勇者として認定したのか。

 以前は魔王1体に対して勇者も1名が定番であったが、過去に・・・。


「僕の人生は、僕が決めます!」


 と、断られたために魔王軍が活性化して、国が滅びかけたのが大きな理由である。



「で、いつ魔王倒しに行くんだ?」

「『いつ遊びに行くんだ?』ってテンションと同じに言うんじゃねぇ。

 まだパーティーメンバーだって1人だけだし、勇者になったばかりでレベルも1だし、活動も週末だけだし・・・」

「そういや、1人メンバーに入れたのはさっき聞いたけど、どんな人か聞いてなかったな。で、どんな人?」

「魔法使いのマミさんって女性だよ」


 昨日の帰り際、パーティー結成記念でマミと撮った写真をスマホで見せる。


「は?」


 それを見たケイジの目が据わる。


「何怒ってんだよ?」

「テメェ!こんなカワイイ子と楽しくパーティーかよ!灰になってロストしろボケェ!!」

「そのパーティーじゃねぇ!」

「うるせぇ!こっちは女っ気のない生活してんだ。呪われろ!死んでしまえ!」

「とっくに2回死んでるわっ!!」


 突然始まった口論にクラスメイトの注目が集まる。

 その2人の背後から、丸めた教科書を上段に構えた女性が近づく。

 スパーン!スパーン!と気持ちい音が2度響き、頭を押さえたタケルとケイジが振り向く。

 そこには怒りをあらわにした担任教師が2人を見下ろしていた。


「お前ら。ホームルーム始まってんだよ」


 2人の頭をはたいた教科書を空いた手にポンポンと打ちつけ、仁王立ちしている担任は有無を言わせぬ迫力があった。

 タケルとケイジは黙って前を向いた。


 クサナギ・アエラ(年齢非公表:既婚)


 彼女は元冒険者であり、17年前に勇者と共に前魔王を討伐した英雄でもある。

 キラキラと光る長い金髪を後ろでまとめ上げ、エメラルドを思わせるほどの緑の瞳が眼鏡の中で冷たく光り、通りすがりの男が振り返るほどに整った顔立ちをしている。

 また、わずかに混じったエルフの血の影響なのか現役当時のプロポーション維持し続けているアエラの姿に憧れる生徒も多く、休み時間は生徒に囲まれる・・・・。

 と、言いたいところだが、男前な言動と完璧すぎる容姿、さらには魔王すら倒した凄腕の元冒険者という肩書がかえって近寄りがたくさせ、声をかける生徒はほぼ皆無である。それを本人は結構気にしている。

 ちなみに、夫と2人の子供に対しては終始メロメロな顔をしているのは、今のところ生徒には知られていない。

 知られた方が生徒にも親しみが生まれそうなものだが。


「ヤマト。お前、勇者になったんだってなぁ」


 教壇に立ったアエラは開口一番にそう言った。

 突然の発表にクラスが沸いた。

 そこへ、さっきまでの興奮冷めやらぬまま、ケイジは勢いよく立ち上がる。


「そうなんですよ先生!しかもパーティーメンバーは同い年くらいのカワイイ子なんですよ。こんなことが許せるでしょうか?なぁ、みんな!」


 ケイジは教室を見渡し、同じモテない男達に同意を求める。

 即座に恨みと羨望のこもった視線がタケルに集中した。

 それに対して、女子は冷ややかな反応である。


「アンタが勇者になったところで、モテないのは変わんないって」


 容赦のない女子の一言に、ケイジは席に崩れ落ちた。


(ドンマイ)


 クラスの心が1つになった。

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更新速度遅めなのが申し訳ないと思う今日この頃。
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