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第2話 パーティーメンバーを探せ(母親を除く)

初心者につき改行とか言い回しとか、まだまだ試行錯誤しております。

感想を頂けたら嬉しいです。


 城を出たタケル達は遅めの昼食を取った後、装備品を購入するために百貨店に向かった。

 歩きながらタケルは、ちょっとした疑問を口にする。


「ところで。母さんは何処までついて来る気なの?」

「フフフ。お母さんは序盤の主人公に対してチュートリアルを担当するキャラ。という設定だから、もう少し一緒にいるわよ」


 何か文句があるのかしら?と胸元で拳を握る母に、タケルは勢いよく首を振った。


「そういえばタケル。パーティー編成はどうするつもり?」

「うーん。俺の武器が剣で近接になるから1人は弓か魔法の遠隔系がいいな。後は定番で回復系が1人。残りは保留しておいて3人で何度か戦ってみて盾役かスカウト系、どっちがいいかメンバーと相談して決めようと思う」


 母親はフムと頷いて、ひとつ提案を出す。


「それならタケル。最初のメンバーは遠隔系にしましょう」

「何で?」

「この辺の敵なら治癒は回復薬で間に合うし、手数を増やして討伐スピードを上げた方が効率が良いわよ。前衛寄りの回復職がいないワケでもないけれど、お母さんの経験上その手の職業の人って高確率で男色嗜好なのよねぇ。ただ、タケルがソッチ方面に興味があると言うなら、お母さんはショックだけど受け入れて・・・」

「遠隔系の女の子がいいです!」


 タケルは元気な声で母親の提案を受け入れた。


「それじゃ、先にメンバーを探しちゃいましょう。場合によっては新メンバーの装備も更新しなきゃならないもの」

「なるほどね。で、どこに行くの?」

「勇者が仲間を探す場所は1つしかないでしょ」


 意味深な言葉とともに、母親はタケルに向けてニコリと微笑んだ。

 王城から王都外壁まで一直線に伸びる大通りを歩くこと約10分。2人は1軒の店に辿り着いた。

 店の名は『ルイジーダの酒場』

 数多くの冒険者に出会いと別れを提供してきた老舗の酒場の1つである。

 タケルは緊張に震える手でドアを開けた。


 カランコロン。


 真鍮製のドアベルが心地よく鳴り響く。

 まだ夕暮れ前ということもあって店内の客は少ないが、テーブルに置かれた空の酒瓶の数は決して少なくない。

 そんな酔っ払い達の中を歩く珍しい親子連れに、客達はグラスの動きを止め、値踏みするように視線を向ける。

 その視線の1人は、バーカウンターの中でタバコをくわえた酒場の店主らしき女性だった。


「いらっしゃい」


 真っ直ぐ背中まで伸びた艶やかな黒髪に、胸元を大きく開けた赤いドレスの装い。歳は母親と同じくらいだろうか。タバコを挟む指先は細くしなやかで、口元に運ぶ動作には気品があり、まさに『妖艶』と言うところか。

 もしかしなくても、ここに通う常連の多くは彼女が目当てなのかもしれない。

 タケルは女性の前まで進むと、胸元から勇者カードを取り出してカウンターに置いた。


「パーティーメンバーを探しているんだ」


 タケルの言葉を聞いて、女性は勇者カードを手に取り、記載された内容に目を通す。

 顔写真の確認なのか、勇者カードからタケルの顔へ何度か視線を移した。

 そして女性はタケルに勇者カードを返し、真っ直ぐタケルを見つめる。

 口角を上げて笑顔を作ると、女性の色気を存分に醸し出しながら左手をゆっくり上げ、親指で後ろの壁をクイックイッと指差してタケルの視線を誘導した。

 そこには、


『未成年お断り』


 と、書かれた張り紙があった。


「帰んな」


 冷たい眼差しで女性は言い放った。



 カランコロン。


 空しく響くドアベルを背にタケルは空を見上げ、こぼれ落ちそうな涙をグッと我慢した。

 いきなり計画が頓挫した。


「4年待たなきゃいかんの?」


 流石の魔王も待ちくたびれるのではないだろうか?

 そんなアホみたいなことを考えていると、再び『ルイジーダ』のドアベルが鳴る。

 タケルが振り返ると、ドアからヒョコっと顔を出した母親が手招きをしていた。


「タケル。入って入って」

「え、でも帰れって・・・」

「大丈夫。保護者同伴ってことで話は通しておいたから」


 一瞬。青ざめた王様達の顔がタケルの頭をよぎった。

 まさかと思って首を振り、母親に促されるまま再び『ルイジーダ』に入店したタケルは『案の定』という言葉を深く胸に刻む。


「サ、サ、サ、サ、サッキハ・・・ゴ、ゴメンナサイネ・・・・」


 さっきまでの妖艶さがウソの様に消え、オロオロしながら片言で話す女性を目の当たりにして、タケルは視線をそらしながら(こっちこそゴメンナサイ)と、心の中で何度も何度も女性に謝罪した。


「パ、パーティーメンバーの・・ご、ご要望は何かありますでしょうか?」

「そ、そうですね。遠隔攻撃が使える女の子がいいんですけど・・・」


 ギクシャクしながらも、タケルはあれこれと細かい要望を出して、女性はそれに応えてパラパラとファイルをめくり、タケルに質問を繰り返しては希望に沿った人物を紹介できるように吟味していく。

 そうして時間をかけた結果、候補は1人の人物に絞られた。


「では勇者様。この人物を呼び出しますので、こちらのカウンター席でお待ちください」

「ハイ」

「姐さ・・・お母様もそれでよろしいでしょうか?」

「はーい。無理言ってごめんなさいねぇ」


 タケルは女性が言いかけた『姐さ』の言葉を聞かなかったことにして、注文したノンアルコール飲料を口に含んだ。


 それから20分ほど経過した時。


 カランコロン。


「ルイジーダさーん。お呼びですかぁ?」


 一人の女の子が店にやってきた。

 見た目はタケルと同い年か年下。

 サイドで束ねたウェーブのかかった明るい茶髪は肩のあたりで小さく揺れて、薄い水色のTシャツに白のショートパンツという恰好は、薄暗い照明の酒場の中では普通は浮いて見える。

 しかし、その女の子は髪色のせいなのか派手な印象を覚えて、酒場という世界に妙に溶け込んでいるのである。

 声をかけてくる酔っ払い達を、鮮やかにあしらう様子もそう思う理由の1つだろう。

 ただ、タケルは疑問に思う。


(この店、未成年お断りなんだよな?)


 トコトコと小柄な女の子は、慣れた足取りでカウンターに着く。

 ルイジーダは申し訳なさそうに、

「今日はお休みだったのにゴメンね、マミちゃん」

 と、声をかけた。


「気にしなくて大丈夫ですよぉ。お金無くて遊びにも行けなくてぇ、ずーっと部屋でスマホいじってただけなんでぇ」


 マミと呼ばれた女の子はヒラヒラを手を振って、女性に一番近い席に腰を下ろす。


「それで何の用事ですかぁ?」

「こちらの方がパーティーメンバーを探していてね、マミちゃんが一番要望に近かったから紹介しようと思って」

「えーっ。パーティーメンバーですかぇ~」


 そう言われて、マミはルイジーダの視線を追い、タケル・・・をスルーして母親を見つめた。


「こちらのマダム?」

「隣」

「えーーっ。ガキじゃん」


 マミの発言を聞いて母親の眉がピクッと動く。

 それを視界の端で見てしまったルイジーダの背中に冷たい汗がドバッと流れる。


「で、でも勇者様なのよ。マミちゃん前にも勇者のパーティーにいたでしょ。ほ、ほら!さっきお金無いって言ってたじゃない!勇者様なんだからお金いっぱい貰えるわよ!ねっ!ねっ!」


 必死の形相でマミの説得を試みるルイジーダの悲壮感漂う姿に、タケルの目頭が熱くなった。

 その甲斐あってか、タケルとマミ、そして母親の3人は別室に案内され、交渉が開始された。


「初めまして。僕の名前はタケル。職業は勇者です」

「初めましてぇ。アタシはマミでぇす。職業はぁ、す、まほー使いでぇす」


 噛んだのだろうか?確認のために聞き返してみる。


「魔法使いですか?」

「うーん。まぁそんなトコ」

「ルイジーダさんが言っていましたが、マミさんって前に勇者パーティに入っていて、今はフリーになってるんですよね?理由を聞いてもいいですか?」

「いいよぉ。ぶっちゃけるとぉ、勇者のヤツがぁ、アタシとぉ同じパーティーにいたヒーラーを二股にかけててぇ、ムカついたから抜けたのぉ」


 意外と俗な理由だった。


「えっと・・・・マミさん。得意な魔法って何ですか?属性とか」

「うんとねぇ、属性だと炎系が得意かなぁ」

「炎系ですか。どのくらいの威力まで出せますか?」

「一番大きいのだとぉ、宿屋を1つ消したくらいかなぁ」

「ん?宿屋1つ?」

「うん。前にぃ勇者(元カレ)とぉ2人っきりでぇ宿屋に泊ったのねぇ。それでぇ、チェックアウトしようとしたらぁフロントのおじさんがぁ『お客さん。ゆうべはお楽しみでしたね』とか言ってニヤニヤしてたのぉ。アタシすっごく頭にきてぇ、その宿屋の写真に撮ってぇ、そのおじさんが言ったことと一緒にぃ、アウトスタグラムにアップしたのねぇ。そしたらねぇ、めっちゃ燃えたぁ。あはっ」

「ただの炎上じゃぇか!」

「違うよぉ。炎上(ファイア)の魔法だよぉ」


 マミはニコニコしながらスマホを見せた。

 タケルは悪い予感を感じつつ質問を続けた。


「じゃぁ即死魔法ってのは?」

「それはぁ、勇者(元カレ)が二股してたって言ったでしょぉ。だからぁパーティーを抜けた後でぇ、アイツがシャベッターの裏アカにぃ、バイトでぇやっちゃいけないことをやってる写真をアップしてるの知ってたからぁ、表に出したら即死だったよぉ」

「即死って社会的な方かよ!」


 ルイジーダさん。この子怖いんですけど!


「魔法使いって言ってましたよねっ!?」

「だからぁ、ス・マホー使いだよぉ」

「ダジャレかっ!」


「ルイジーダさーーーん!!!」


 タケルはルイジーダに助けを求めた。


「な、何でしょう?」


 ビクビクしながらルイジーダはやってきた。


「どういうことですか?」


 タケルはジト目でルイジーダに問いかける。


「な、何がです?」


 困惑するルイジーダにタケルは、さっきまでのマミとの会話を簡単に伝える。


「ああ。マミちゃん、またなの・・・」


 納得した様子でルイジーダはマミの側へ歩み寄る。


「だってぇ、この子ぉ、まだ勇者になったばかりなんでしょぉ。ルイジーダさんはぁお金いっぱい貰えるとか言ってたけどぉ、子供のお小遣い程度でしょぉ」


 マミはそっぽを向いて頬を膨らませた。


「申し訳ありません勇者様。マミちゃんはちゃんとした魔法使いなんですけど、乗り気じゃない相手にはふざけて相手から断られようとするんです」


 ルイジーダは深々と頭を下げる。

 しかし、ルイジーダの言う『ちゃんとした魔法使い』という言葉に、タケルはどうしても疑惑を感じてしまい、それが顔に出てしまったらしい。

 ルイジーダは察したようで、疲れた表情でマミを諭す。


「マミちゃん。冒険者カードを勇者様に見せてあげなさい」


 不満げに束ねた髪をクルクルと指でいじっていたマミだったが、ポーチの中から1枚のカードを出してテーブルの上に置く。

 それはマミの冒険者カードであり、職業欄にはしっかりと『魔法使い』の文字が記載されている。


「マミはぁ、ちゃんとした魔法使いですぅ」

「確かにそうですね。疑ってすみませんでした。・・・・・!?」


 マミの冒険者カードに驚くべきデータを見つけたタケルは、思わずマミとカードを2度見する。


「マミさん・・・あなた・・・・23歳!?」

「ちょっとぉ。女性の年齢を言うなんてぇ失礼だよぉ」

「あっスミマセン!てっきり同い年か年下だと思ってたんで」


 ペコペコとタケルは何度も頭を下げた。

 そのタケルの言葉にマミはちょっと嬉しくなったようだ。


「えへへへっ。それなら許してあげるよぉ。うふふふっ」


 それからタケルは、王様から資金をたくさん貰っていることをマミに教え、その証拠に受け取った札束をテーブルに置いて見せた。


「すごいねぇ。タケル君、お金持ちだねぇ」

「何か、金の力でマミさんをパーティーに入れるようで、俺は複雑な気分なんですが」

「でもねぇ。お金がないと大変だよぉ。ウチ、母子家庭でぇ、下に3人も食べ盛りがいるからぁアタシが頑張らないとダメだしぃ、前のパーティー抜けたのはぁ、二股のこともあったけどぉ、勇者(元カレ)がぁお金にだらしないトコもあったからなのぉ」


 マミの派手な見た目からは想像もつかない深刻な背景があった。

 そんなマミを気遣ってか、ルイジーダはポンとマミの頭に手を乗せ、

「実力はあるし、頑張り屋な子なのでどうかよろしくお願いします」

 優しい目でタケルに頭を下げた。


「お金も大事だけどぉ。仲良くなれないとパーティーって長続きしないよぉ。だからぁ、仲良くしようねぇタケル君。よろしくねぇ」

「よろしくお願いします。それで、パーティー登録ってどうやってやるんですか」

「うんとねぇ、タケル君、カード出してぇ」


 そう言いながらマミは自分の冒険者カードをタケルに差し出す。


「リーダーになる人がぁ、上にカードを重ねるのぉ」


 マミのカードの上にタケルが勇者カードを重ねると、勇者カードから『パーティー加入承認』の文字が浮き上がる。


「それを、2人が触ると登録になるよぉ」


 タケルとマミが一緒にその文字を指で触るとお互いのカードの裏側にパーティーメンバーの名前が記載されて、2人は晴れてパーティーメンバーとなった。

 そこで、ふと気付く。


「あれ?マミさんの名前がアサミさんになってる」

「うんとねぇ。マミはぁ酒場で働くときの源氏名だよぉ。本当はアサミっていうのぉ。どっちで呼んでもいいよぉ」


 結局。酒場で会う機会が多いこともあって、タケルはマミさんと呼ぶことにした。


「それにしても、マミさんって年上に見えないッスよね。うちの母さんも頑張ってますけグガッ!」


 後頭部を思いっきり殴られたタケルは、顔面でテーブルを粉砕し、そのままの勢いで床の石畳に小さなクレーターを作った。






「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない」


 半日振りに再会した王様の表情は、今朝とまったく同じであった。


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更新速度遅めなのが申し訳ないと思う今日この頃。
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