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第1話 勇者タケルは目を覚ました。(強制的に)

初投稿です。

お見知りおきを。

 その日は主人公であるタケルの16歳の誕生日であった。

 今日が日曜日ということもあり、昨晩は夜更かしをしていたタケルは、目覚まし時計の音が鳴り響いても起きる気配がない。

そこへ、エプロン姿の母親が困った顔でタケルの部屋に入ってくる。


「タケル。今日は王様の所へ行く日でしょ。いい加減に起きなさい。」


 そう言いながら体を揺らして起こそうとする母親に向かって、タケルは布団から少し顔を出し、

「うっせー、ババァ。」

 困り顔だった母親は笑顔に変わり、無言でタケルの顔面へ拳を振り下ろした。





「おお、勇者よ。死んでしまうとは情けない。」


 それはもう・・・ものすごく困惑した表情の王様が玉座からタケルを見下ろしていた。

 王様の両脇には、槍を手にした護衛の騎士が2名。そして王様の右側、タケルから見れば左側に宰相と神官服の老人が並んで控えており、全員の表情は王様のそれと一緒である。

 どうやらここは王城の謁見の間のようだが、何故自分がここにいるのか・・・。

 それは部屋の片隅に空の棺と、それに繋がれたロープを握った母親を見ることで察した。

 王様はひどく疲れたように長い溜息をつく。

 

「我輩・・・このセリフを旅立つ前の人間に言ったの初めてじゃよ。」

「こっちだって死にたくて死んだわけじゃねぇんだよ!文句はそこのババァに言ってくれ!」


 そう叫んでタケルが母親を指差すと、かなり離れて立っていたはずの母親は、瞬きと同時にタケルの手首を掴み、即座に間接を極め、床へと倒し、しっかりマウントを取っていた。

 そして、今朝と同じように笑顔のまま、今朝と同じように拳を振り下ろした。


 ・・・・・・・・・・。

 ゴッ。

 ゴッ。

 ゴッ。

 謁見の間には骨と骨がぶつかる音だけが鳴り響く。

 王様も護衛の騎士も宰相も神官も『止めなければヤバイ』と思いながらも、母親の笑顔の前に体がすくみ、青い顔をして眼前の惨劇をただ見つめていた。

 やがて、打撃音とタケルの体がビクンと痙攣するのがリンクするようになった時、『やめて!タケルのHPはもう1よ!』と王様が叫んだことで、ようやく母親の拳が止まった。


 母親の威圧から解放された神官は慌てて治癒魔法を唱え、タケルは九死に一生を得た。


「次は無いわよ」


 拳についた血をエプロンで拭いながら笑顔のまま母親は呟き、タケルは無言で頷いた。

 その重苦しい空気の中、王様は我に返りコホンと咳払いをする。


「えー、いきなり色々あったわけじゃが、とりあえずオープニング初めてよいかの?この後、まだ何人か詰まっておるからのう。あ、宰相よ、打ち合わせ通り頼むぞ。」


 指示を受けた宰相は、頭を下げ別室へと消える。

 それを確認して王様は、さっきまでとは別人のように『キリッ』と威厳のある顔をタケルに向ける。


「よく来た、タケルよ。我こそは『ニホンノ王国』国王『オヤマダ・ルイ17世』である。今日、其方を呼び出したのは他でもない。」


 王様のセリフが途切れると、巨大なスクリーンが王様の背後に降りてきて、魔物が人々を襲っている映像が流される。


「これを見よ。新たに生まれた魔王と、その配下である魔族。そして、魔族に生み出されし魔物によって我が王国の平和が脅かされ、人々はいつ終わるとも知れぬ絶望を味わっておる。」


 王様は玉座から勢いよく立ち上がり両腕を広げる。


「我が兵士達も戦った!だが魔王と、その軍勢は手強い!多くの者が犠牲となった!」


 まるで、舞台上の役者のように大袈裟な仕草で語る王様が少々鬱陶しい。


「その時だ。救いを求めた我々に神託が下されたのだ。魔王を討ち滅ぼす勇者の存在を!」


 (早く終わらねぇかなぁ)とタケルが思い始めた時、王様はバッと左手を広げて突き出し、

「タケルよ、其方こそ神託により選ばれし救国の勇者。わが王国の希望である。

 勇者タケルよ、今こそ魔王を討つために旅立つのだ!」


 ポーズを決めた王様はどや顔である。どこかでカメラでも回っているのだろうか?

 タケルはちょっとだけイラっとした。

 やりきった王様は『よっこいしょ』と王座に腰を下ろし、右手にあった錫杖で床をコンコンと打ち鳴らす。

 それを合図に、別室に控えていた宰相が宝箱を載せた台車を押しながら姿を現す。


「勇者タケルよ。僅かではあるが其方に旅の資金を授けよう。これで装備を整えるがよい。」


 その大きさにタケルの頬は自然とゆるむ。

 ゆっくりと宝箱を開けると中には・・・。


 500円玉が1枚入っていた。


「さあ行け!勇者タケルよ!」

「待てや!」

「どうしたのだ?勇者タケルよ。」

「『どうしたのだ?』じゃねぇよ!資金が500円って何の冗談だよ!」


 その言葉に王様は首を傾げる。


「えーっ。スタート時の所持金って大体500位が相場じゃろう?」

「それは通貨単位がギ○とかゴー○ドとかの場合だ!500円じゃ『ひのきの棒』すら買えねぇわ!」

 タケルの力説は続く。

「小学生の遠足じゃねぇんだよ!500円って・・・。ひのきって意外と高いんだぞ!」


 微妙に論点がずれているが、タケルの言いたいことは何となく伝わったらしい。

 王様は懐から財布を出して、中から紙幣を1枚出した。

「じゃぁ千円追加で?」

「お小遣いかっ!」

 タケルは即座にツッコんだ。


 500円を握りしめ、せめて1万円と叫ぶタケルに対し宰相は静かに首を振る。

 膠着状態が続くと思われた矢先、いつの間にか母親は王様の横に移動していた。

 油断など微塵もしていない護衛の騎士は、いきなり現れた母親に驚愕の眼差しを向ける。

 問答無用で討たれても仕方がない状況の中、母親は王様の耳もとに手を添えて何かを呟いた。

 刹那。王様はガタガタと震え、青ざめた顔で宰相を手招きする。

 宰相も同じように母親から耳打ちされると王様と同じように表情を変え、慌てて別室へと駆け出した。

 五分後。新たに持ち込まれた宝箱には溢れるほどの札束が入っていた。

 さらに・・・。


 どう考えても伝説の装備にしか見えない豪華な剣と、胸に王国の紋章が輝くフルプレートの白銀の鎧が兵士によって運び込まれる。


「では、勇者タケルよ旅の準備は整った!さぁ装備して行くがよい!というか行ってくれ!」


 王様は涙目ながらにタケルの旅立ちを懇願する。

 仕方なしに用意された剣と鎧を装備したが、

「重いわっ!」

 即行で脱いだ。

 とりあえず、剣は金属でありながら木刀と変わらぬ重さだったので受け取ることにして、お金は1束だけその場でもらい、残りは口座振込にすることにしてタケル達は謁見の間を後にする。

 ニコニコしながら手を振って部屋を出る母親に、タケルを含めた全員が『アナタは一体何者ですか?』と思ったのだが、それを問う勇気のある者は誰一人いなかった。


 その後。勇者であることを証明する免許証である勇者カードが発行された。

 そこには・・・いつ調べられたのか分からないタケルのステータスとスキル、撮られた覚えのないカメラ目線の笑顔のタケルの写真が記載されていた。

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更新速度遅めなのが申し訳ないと思う今日この頃。
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