世界の常識
役所に入った。役所は中世の教会みたいで、結構広い。
ルージャが入ってすぐのカウンターにいた役員に、
「すまんがここにいる3人の身分証を作ってくれないか」
と申し訳なさそうに話しかける。
すると、役員が顔を引きつらせ、
「わ、分かりました」
と返した。 どうしたんだ?
「ではこちらへどうぞ」
俺らを哀れむような笑顔で案内した。
奥へ行くと役員が、
「これから身分証の担当に代わるけど、物凄い変人だから気をつけて」
...え? 普通に行きたくない。
役員が扉を開けると素早く戻っていった。 俺も関わりたくない。帰りたい。
だって中に長い緑髪の多分女が気持ち悪い仮面をつけているからだ。
女は仮面を外し、
「こんにちはあたしケースディ、よろしくね」
優しい声であいさつした後、香を凝視し始めた。 なぜだ?
「貴女、ビーオ?」
「いいえ違いますよ~」
「なーんだ。違うのか」
興味が失せたのか、紙を取り出した。
「じゃあ始めるかぁ~ あ、これかいといてね。その後、た~ぷりここのこと教えてあげるから」
満面の笑みでいった。
非常に気持ち悪い。
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長い話を聞き気分は良くない。これからどうするかを考えろとルージャに言われこれから指定された宿へ向かう途中である。
身分証を作った後、ケースディから嫌なくらいこの世界の説明をうけた。
情報量が多すぎて処理できなかったが、簡単に言えば、この世界では、前の世界の常識が通用しないらしい。
この世界は死ぬとできる「アンデット」とかいうのとか今はほとんどないとか絶滅したとか言われる「半神」とかいう厄介な種族とか、とにかく数え切れないほどの種族とともに生きてきた。
しかし、半神の一人が裏切ったことによって異なる種族達は敵対関係になったらしい。どういった経緯でなったかは知らない。
この世界には魔法というものがある。魔法は火、風、水、土、の四元素からなっている。
それに世界を暗くする 闇、それに対して世界を照らす 光がある。これらは魔力というものに頼ってつかうのだそうだ。人間のほとんどがつかえるみたいだ。
そのほかにはあらゆる種族の一部のごくわずかな者が持っている特殊な「能力」というものがあるそうだ。能力は持っているものによって違う。魔力を大量に使う能力もあれば、全く魔力を必要としない能力もある。
長い時が流れてもまだ魔法の発展は乏しく、発見されていない魔法もある。
ちなみにビーオとかいうのは、「裏切り者」の子孫なのだそうだ。元々ホリリー村の凄腕の冒険者だったらしい。「裏切り者」の子孫とバレて村を追われる身になったそうだ。
そんなことを考えながら宿へと向かった。
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夜になり暇を持て余していると、
「あれで身分証できんのかなー」
湊は俺に笑いかけた。
「どうだろうな...書き換えたい」
「再発行はできないって~」
俺達はここの文字を知らないし、書けないと思っていた。すると、不思議なことに二人はその国の文字を覚えていて、難なく書くことができた。しかし、俺はケースディがやる気なさそうにかみを紙を取り出したときに疑問に思った。なぜならケースディが取り出した紙には全く見たことがない言葉が書いていて、二人は当たり前のようにそれを読んで書いていたから。読めないのが俺だけだったから。
仕方ないから、湊よりも信用できる香に名前を書いてもらうことにした。すると、「いいよ~」と快く受け入れてくれた。本当に助かる。
しかし、香はここでしくじってしまう。
香に「クロカミ」と書いてくれと頼んだ。だがなんと名前を「クロガミ」にしたのだ。
なのに俺は、なんて書いてあるのか知らなくて、そのまま出してしまった。
なんてことだ。
「いいじゃないか、『カ』が『ガ』になっただけじゃないか」
湊がニヤニヤしている。こいつは俺以上に小さなことを気にする。
「おまえらこそそのままでいいだろう?『ミナト・ナ、ミ、ト』さん?」
こいつは苗字を変えた。理由は大体わかるが。だが、ナミトは適当すぎると思う。ちなみにカオルは
『カオル・カオル』そのままだった。
しばらく黙っていると、ミナトは布団に入って寝てしまった。
「悪かったって~悪気があったわけじゃないよ~」
「大丈夫だ、カオルをせめてるんじゃない。あのとき気づけなかった自分をせめてるんだ」
「あはは君、結構小さいことを気にするんだね~」
「当たり前だ名前は大切だ」
「そうだね~」
そんな調子で一日が過ぎた。