1-9 ゴブリンの集落
俺の今のステータスは、こうなっている。
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(10)剣士(3)盾士(1)
MP 14/14
・補正
攻撃 G+
防御 G+
俊敏 G+
持久 G
魔法 G
魔防 G+
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限
斬撃微強
盾強化
・補足情報
なし
***************************
ジョブ3に追加した『盾士』により、防御と魔防のステータス補正が1段階アップした。
ジョブ追加の場合、ステータス補正が重複することは確定だろう。
MPのボーナスも重複することが確定した。『干渉者』+『剣士』だと12だったのに、+『盾士』で14になったからだ。
まあ分かっていたことなのだが、『干渉者』がMP0で、ジョブがなくても最初からMPを持っている・・みたいな可能性を排除できていなかった。
でもこれで確定だろう。MPボーナスは重複する。だから、MPボーナスは俺の強みだ。
魔法職を除いて、普通は初期MPが2くらいのようだ。
かなりシビアな数値だと思うのだが、最初は使うスキルもないからその程度でも問題ないのかも。
スキルも全てのジョブのものが使える。
これもまあ、分かっていたことといえば分かっていたことだ。
「盾強化」は、盾の防御力を上げるのだろうか?
戦闘系ジョブのレベル1スキルによくある、「微強」とかではないのが謎を深める。
攻撃を強くするようなジョブではないから、またスキル構成も違った感じになるのだろうか。
タンク職ってやつかな。
ステータス補正が防御と魔防なのもいかにもそれっぽい。期待できる。
シールドバッシュを強化するスキルとか手に入らないかな。
『盾士』を選んだのは単純な話で、現状で間違いなく盾を使うからだ。
木槍は一応、異空間に新品を1本入れているが、使う予定もないので基本的に剣だ。
後は非常用に魔銃。どちらも盾との併用を考えている。
『干渉者』を除けば設定できるジョブは2つ。
1つは攻撃職、もう1つを防御職とするのも面白いかもしれない。この世界の普通の人が出来ない、攻防一体のジョブ構成だ。
他に送り込まれたという俺のような異世界人のことは少し気になっている。
彼らも『干渉者』を活用していれば、今後の彼らの動き次第ではそこから情報漏洩があったり、利害対立するなんて恐れも・・いや、ないか。
少なくとも今の時点で対立する意味がないし、白髪のガキを信じるなら他の異世界人はまともに暮らせていないらしいからな。
今後、生活が落ち着いた他の異世界人が、同じ異世界人を探すなんてアクションを起こしやがると厄介だが・・まあシラを切ろう、全力で。
今はそんなことより金稼ぎ、ゴブリンハントの時間だ。
鉄壁の剣+盾ジョブ構成を喰らいやがれ!
遭遇するはぐれゴブリンを叩き斬る。
ほんとに、スパッと切り捨てるというよりは叩き斬るという感じになってきた。質量で敵を叩き潰すのだ。
先ほどの戦闘場所でゴブリンが鳴き叫んだ最後の警告の音声に気付かれていれば、待ち伏せがあるかもしれないということで、迂回路を通っている。
ただこれも読まれているおそれはあるという。
ゴブリンの群れの主、そのまま「ゴブリンの主」と呼ばれる魔物は、それくらいの知恵があるからだ。
「さっきと同じくらいまで深く潜ったはずだけど、群れの形跡はないねぇ。警戒されていると思った方がいい」
エリオットが剣で藪を払いながら呟く。
さっきの軍勢が群れの主力だった可能性もあるが、だいたい新たな群れをつくるときは主力を集落に残しておくのだという。
少なくとも先ほどと同じくらいの数は残っていると考えるべきだ、と。
さっきはパッチの罠も上手く引っかかってくれたし、今度はこちらから攻めるとなるとさらに危なそうだな・・。
死なないようにがんばろう。
「エリィ、ストップ。風の流れを感じるね・・開けたとこがあるかもしれない」
マリーが何かに気付いた。
そこでエリオット、マリー、パッチの3人が偵察に回り、現在地でトリシエラを俺が護衛することになった。
トリシエラは幹の太い木を選んで登り、上から弓で警戒を続けるようだ。
うーん、やっぱりこのメンバーだと俺が真っ先に死にそうだな、フラグは全力でへし折ってから進もう。
「トリシエラ、俺、この探索が終わったら、結婚しないんだ」
「へぇ、ん? 結婚しないの?」
「ああ。絶対にしない」
「そう。・・だから?」
「いや、宣言しておくことに意味がある。トリシエラも言っておくといいぞ、エリオットと結婚する気はないと」
「エリィと・・ご主人様と結婚なんて考えてないわよ。余計なお世話」
ありゃ。まあいいや。
後死亡フラグって何があったっけ? 改めて考えるとそうそう出てこないな。
「ここは俺に任せな!」とかいうと死にそうだから・・うん。
「ここはトリシエラに任せるぞ、なーに、難しい任務だ」
これでよし、と。
「・・・」
トリシエラは無視を決め込んだようだ。
これだからコミュ障は。
・・うるせぇ! 世間が悪いんだ!
おっと、自爆している場合ではない。ちょっと心細いから、魔銃をいつでも取り出せるようにしておこう。
服の下でバレないように異空間に片手を入れながら、30分程するとマリーが帰ってきた。
慌ててはいないので、こちらに敵が向かっているということはあるまい。
「どうだった?」
小声で話し掛ける。やっと異空間から手が出せそうだぜ。
「エリィはまだ戻ってないかい? 途中で別方向に別れたんだけどね・・」
「ここで落ち合う予定か?」
「だね。あたしは特に収穫なし。でもこの辺に何かあるとは思うんだけど・・半分勘だからね」
しかし今まで、マリーの勘は外れたことの方が珍しい。
多分、なんとなくの勘ではなくって、経験的記憶に基づく根拠ある勘なのだろう。そういう勘はよく当たる。
「あっ、エリィだね。さて、どうかな」
マリーが目ざとく、遠くからこちらへと向かうエリオットを見つけた。
すぐ後ろにパッチが従っている。
さすがにマリー以外は単独行動させないのだな。心配だろうしな。
「エリィ、どうだい? 収穫はあったかい」
「バッチリだ。おそらく集落らしきものを見付けたよ。パッチの罠も、簡単なものだけど置いてきたよ」
「へぇ! いいね、無駄足を踏まずに済んだ。距離は? 遠いかい?」
「いや、それほどでもない。急げば5分かそこらで着くだろう。・・やるか?」
「どうかね」
マリーが残りのメンバーを見渡す。
パッチもトリシエラもコメントしない。
エリオットがやる気なら反対する気はないのだろう。
「・・俺もいいぜ。さっきよりはまともに動いてみせる」
これはフラグじゃないよな? よな?
「よし、その意気だ。巣を丸ごと掃討できれば、ソロでは考えられないような儲けが出る。メスもいるだろうしね。討伐報奨金も弾んでもらえるかもしれないよ。ここが勝負所だ、ヨーヨー君!」
「ああ、そうだな・・怖いからって前に出なきゃ、アンタみたいなハーレム野郎にはなれねぇ。ここは男を見せるとするぜ」
あれ? なんかフラグっぽくなってきたような・・まあいい気にすることはない。
運命の女神は挑戦する者にのみ微笑むのだ。
名言だな。俺が今つくった。
「役割は午前中と同じか? 何か特別な作戦を練るのか」
「うーん、遭遇戦になったらここまでと同じで、君は右側の防御と遊撃を頼むよ。臨機応変にね」
「ああ、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応する」
ん? なんかフラグった気がするけど、良い事しか言ってないから多分気のせいだな。
「集落前まで気付かれずに行けたら、パッチの罠を仕掛けながら相手の進路を絞って、できれば先制奇襲攻撃から待ち伏せといきたいね」
「そこまで上手くいくのは望外として、とりあえず罠を張って逆奇襲を防ぐところまではいきたい。ヨーヨー、あんたも出来る限りでいいから気配を消しな」
マリーが俺に注文を付ける。
しかし、気配を消すとか、そういった技術はまともに学んだことがない。
これを機に習っておくか。
「なら突入前に少し時間をくれ。10分、いや5分でいい。マリー、最低限だけでもポイントを教えてくれないか?」
考えてみればエリオットのパーティからは情報をもらいまくり、技を盗みまくりで、特に対価も払っていないな。
申し訳ない。
出世したらなんかすごいものをプレゼントしよう。
「仕方ない。失敗するよりは、ちょっと一旦休憩としよう。ヨーヨー、とりあえず自分の思う気配を消した歩き方をやってみせな。周辺はゴブリンだらけだ」
「そういう設定か?」
「まあね。でも実際、そういう状況でもある」
「確かにな。とりあえず向こうの草むらから歩いてみるよ」
そこから5分、いや多分オーバーして10分ほどマリーの手ほどきを受け、足の運び方、意識の持ち方、呼吸、そういった基本的なことを矢継ぎ早に叩き込まれた。
やはり経験者の知恵ってのは凄いわ。
それだけでもかなり隠密っぽい動き方になった・・多分。
「さて、では改めて出発する。ルート、罠の位置、そして奇襲をかけるポイント。全て僕が当たりをつけてあるから、その後ろを隊列を崩さずに付いてきてくれたまえ。ヨーヨー君?」
「名指しかよ。ってまあ、主に危なっかしいのは俺だもんな。了解。付いてくぜ、リーダー」
「うむ」
「よっ、イケメン。スラーゲーの女を狂わせる色男!」
「うむ、うむっ」
「馬鹿言ってないで、進むよ」
いつもの、エリオット、左右にマリーと俺、後ろにパッチ、最後にトリシエラ、の矢印のような隊列をキュッと横を狭くして移動しはじめた。
エリオットは今までに見たことのないほどに張り詰めた緊張感を漂わせており、一歩ごとに踏みしめる様に道を拓いていく。
マリーは本当に音がしない。素早く歩いているように見えるのに、重力がどうなっているのか不思議だ。
パッチもトリシエラも、俺よりはよっぽどスムーズに動いている。パッチはもともと身体が小さいし、気配を消されると気付きにくいだろうな。
ジョブで隠密系とかあるのかな?
斥候とかいうジョブは確か本に書いてあったか。
「・・・・」
エリオットが立ち止まり、アイコンタクトでパッチに指示をすると、手早く罠が仕掛けられていく。もう手持ちの残りのものを惜しげもなくばら撒くつもりのようだ。
トラバサミの他にも、有刺鉄線のような長細いものを張り巡らせたり、簡易の落とし穴まで作成していた。
すごいな、パッチ。
どうやら自分達の左右、背後を罠ゾーンにすることで、回り込めないようにするようだ。
しかし撤退も難しくなる。
背水の陣ってやつじゃないか、これ?
ちょっと怖いけど、今更戻れはしない。
エリオットがまた振り向き、口に人差し指を当ててから再び前を向いた。
こちらの世界でも存在した、「静かに」のジェスチャーだ。
少し坂になっているところを登って、下を覗くと盆地のようになっている部分がゴブリンの集落として整備されているようだ。
もぞもぞと動く生物の影。
10・・20はいるんじゃないか?
5人は自然と近くに寄って、聞き取れる最低限の声量で最後の作戦会議を開始する。
「数はどれくらいだ?見えるだけでも、20は下らないと思うんだが」
「敵は30から40くらいだね。周辺に出ている分もいるだろうし。スカウトは2体、マージは1体。リーダーや主はまだ見えないね」
「それなら何とかなる数だねぇ。そろそろ僕たちの本気を見せよう。いいかい、パッチが魔道具で先制攻撃して、僕が飛び出す。マリーは遊撃。トリシエラは僕の援護。ヨーヨー君は後ろのパッチとトリシエラの護衛を頼むよ」
「それでいいのか?」
「もちろん、ある程度敵が出そろったらこっちに合流してくれたまえよ。最初は敵の出方を見る」
「そうか。間違って後衛が攻撃されたら全てが崩れるからな。分かった、任せてくれ」
「頼んだよ。僕が敵を引き付けるから、ここぞというときに援護してくれ」
皆が頷いた。
エリオットは集落の中心に躍り出て、マリーはその裏と入口、そして戻ってくる敵を屠るという方針らしい。
エリオットの本気・・この目で確かめさせてもらおう。
エリオットが装備を確認し、指だけでカウントダウンを始めた。
いよいよだ。心臓が飛び出そうだが・・ジョブ3も解禁したんだ。こんなところで立ち止まっている場合じゃあないだろう!
指が全て折られ、エリオットが手を振り上げるとパッチが何かを投擲した。
それは集落の、木の枝で拵えられた家のようなものに当たり、中央よりやや手前に転がった・・と思ったら、爆発音がとどろき、ちょっとした熱風が頬を撫でた。
(ありゃ・・爆弾かよ? エゲつないもん持ってるな、パッチの奴・・)
トリシエラはじっと弓を構えて動かない。パッチはまた別の物を遠くに放ったと思ったら、煙のようなものを出して視界が阻害された。
煙幕か。少数での奇襲なら、こちらに有利な要素になるのかな?
集落の中央広場にいたゴブリン達が騒ぎ始める。
家のようなものからも、次々とゴブリン達が出てくる。
そこに、エリオットが光刃を放ちまくる。
最初の1撃以降は、タメもなくとにかく数を撃っている。
実被害を与えるより、混乱を誘う腹か?相手は多数に攻められたと思って躊躇するはずだ。
煙幕が不自然な風で払われ始める。
その奥で、杖を持ったゴブリンがゆらゆらと杖を動かしている。
風魔法か?
エリオットの光刃がゴブリンマージを貫く。
正しい判断だ。そして動きが淀みない。
瓦解したゴブリンの防衛網に、エリオットが全身を光らせて突入する。
目立つが、アレはやられたら怖いわ。
あの珍妙な光効果で勝てないと思ってしまうかもしれない。
ゴブリン達の混乱が収まる頃には、最初に見た20体近くのゴブリンは血の海に沈んでいた。
奥からは次々とゴブリンの増援が来ているようだ。
トリシエラが次々と矢を放っているのが音で分かる。
パッチは、前の戦闘中は気付かなかったが、何やら遠距離で飛ばすスキルも持っているようだ。
前線のエリオットに少しずつ魔術を当てている。
回復か?
あんなピカピカ光っている奴が、傷を瞬時に回復させながら斬り込んできたら、化け物と思うだろうな。
なんというか・・『華戦士』ってスゲェ。
というかあの目立つスキルを有効活用しているエリオットが偉いのか。
前から漏れてくる敵すらいないので、後ろと横を軽く偵察する。敵がいる気配はない。
「罠も動いていないし、敵は後ろにはいないようだな。前に出ても?」
戦況をジッと見つめるパッチにお伺いを立てる。
「・・そうですね。マリーさんも手が空いてきたようですし、万が一の護衛も大丈夫でしょう。さすがにエリオット様が厳しくなってきたようなので、助っ人にいってください」
「よし、承った。ときに、たまに撃っている魔法は回復か? 補助系があるなら俺も掛けてもらいたいんだけど」
「あれは主に疲労回復。あなたにも、勝手に掛けるので問題ありませんよ。思う存分暴れてきてください」
疲労回復だったのか。
まあそれはそれで・・動いても動いても立ち止まらない光る戦士。
しかも、表情はいい笑顔。うん、怖いな。
剣を握り、盾を構えて盆地へ蹴り下る。
エリオットの背後に回ろうとしているノーマルだかスカウトだかを横っ腹から突き飛ばす。
盾で。
その勢いを殺さずに、剣で別のゴブリンを叩き潰す。
うむ、奇襲が綺麗にキマった。
エリオットは、煙幕に巻かれながら身体のデカいゴブリンと、何匹かの精鋭っぽいゴブリン集団と対峙している。
マージも2匹ほどいるらしく、盛んにエリオットを燃やすのだが、エリオットが当たっても平然としているうちに、火が消える。
スキルか? それとも、魔防が高いとああなるのか。
左右に展開するリーダーがウザそうだ。
エリオットは華麗に防衛しているが、デカゴブリンと左右からの挟撃でかなり劣勢になりつつある。
周りのノーマルを狩りながら、左のリーダーにちょっかいを出す。
防御と魔防の補正も1段階上がったし、ノーマルゴブリンの攻撃を多少食らっても死にはしないはずだ。
リーダーをエリオットから引き離すことを優先する。
案の定、途中でノーマルに何度か殴られ、斬られたりしながらも、リーダーに突きを入れることに成功する。
しかし思いっ切り盾でガードされている。
こいつも盾持ちかよ、それは俺の戦い方だぞ!
グルッと一周しながらノーマルゴブリンを叩き退ける。
こいつら、なかなか飛び込んでこないから一気に始末できないんだよな・・さすが本隊。
ノーマルにはたまに矢が飛んできては数を減らすので、相手の増援があっても3匹から5匹くらいで推移している。
これが後衛にいくとマズいが、俺を狙ってくれているうちは大丈夫だろう。
相手に弓持ちはいないようだ。前のパーティにもいなかったし、弓というものを作っていないのかな?
ノーマルを牽制しながら、リーダーとなんとか遣り合う。
完全に俺が与しやすしと思ってくれたのか、リーダーはすっかりエリオットから離れてくれた。
ゆっくり見ている時間はないが、これで楽になったかな? エリオットは。
そこが崩れると困る。
最悪、魔銃でノーマルを蹴散らそうかと思っていたが、マリーの声も聞こえるし、戦線は維持できているようだ。それなら無理をする段階ではない。
まあ、ある意味無理をするのだが。
囲まれながら牽制しながらリーダーを倒す。これが現在のミッションだ。
ノーマルの数が減ったタイミングで仕掛けるのだが、のれんに腕押しといった体で、俺の方が膂力が上なのに、それを上手に受け流されている。
そしてこちらの消耗を誘ってくる。正しい。
敵のゴブリンリーダーはある意味、俺と似た者同士のようだ。相手から決定打を受けないことを第一義にしていて、良く言えば慎重、悪く言えば腰が引けている。
相手も、俺を囲みながら決定打を与えられずにいる。
まあ、それは、後ろから援護してくれるトリシエラやマリーの存在が大きいのだが。
先ほどから息切れもしないし、傷も気付くと癒えている気がするのでパッチも色々としてくれているはずだ。有難い。
しかしパッチのMPも無限ではないはずだ。
開戦当初からエリオットの支援もしていたのだから、いつMP切れが起こってもおかしくない。
このままではまた俺が足を引っ張ってしまう。早めに決めないといけない。
左から回り込もうとしていたノーマルが一気に3体、倒れ伏した。
トリシエラの矢だけじゃないな・・マリーの投げ剣か?
この瞬間を利用する。
一気に踏み込む。しかしその分、警戒してリーダーが身体を引く。
このまま剣を振るっても、また上手く盾と剣で受け流されて元の木阿弥だ。相
手は腰が引けている・・なんかこの状況は、テレビで見たことがある気がするぞ?
ああ、あれか。いつだったかラグビーワールドカップのときに、避けようとする相手をどうすれば組み伏せられるのかを、選手がたどたどしく語っていた・・。
やってみるか。
身を低くして、盾を構える。剣を出しながら前に大きく踏み出す。
相手は間合いを読み切って身体をねじり、盾で弾く。
かまわん。それは本命ではない。そのまま次の足を踏み込み、さらに姿勢を低く。
目指すは足。武器は、己の腕!
振り下ろしてきた相手の剣は盾で防御し、身体はそのまま流れて倒れ込むように、しかししっかりと後ろの足を蹴って飛ぶ。
足を抱き寄せるようにして掬い、一気に引き込む。
自分も地面に叩きつけられ痛い。
が、相手は完全に不意を突かれて腰から地面へと落ちた。
今使える武器は・・盾!
盾を相手の顔面付近に振り下ろす。ガードされた。
構わず振り下ろす。振り下ろす。振り下ろす。
ガードごと粉砕する盾の連続殴打にゴブリンが悲鳴を上げる。
いいぞ、その声が聴きたかった!
剣は飛び込むときに手放してしまった。空いた右手で殴る。起き上がりながら蹴る。踏む。
そして勢いをつけて顔面に盾を振り下ろす。
振り下ろす、振り下ろす、殴る、蹴る。
抵抗が次第に弱まってきたところで、ふと冷静になって、腰に手をやった振りをして右手に異空間から出したナイフを持つ。
それをしっかり胸に沈めたところで、ゴブリンは観念したように動きを止めた。
油断せずに首にもナイフを滅多刺しで止めを刺しておく。
ふう、これで安心できる。と顔を上げた。
敵を打倒した他の面々が、ちょっと引いた感じでこちらを観察していた。
「・・あー。君、戦闘になるとなんでそんなバーサーカーみたいな感じになるの?」
えっ? 皆こんなもんじゃないの。必死に戦っているだけなんだけど。
「余裕がないからな。腕を上げれば、エリオットみたいに華麗にやれるかね?」
「ふっ、殊勝な心掛けだよ。でも僕の華麗さは、ちょっと他人には真似できないと思うけど、気を落とさないでくれたまえ?」
うん、とりあえずエリオットは通常運転になったようで安心だ。
というか、俺がリーダーと取っ組み合いをしている内に、残りのリーダーとゴブリンの主も打倒してしまったのか。ハンパないなエリオット。
今日ばかりはお世辞抜きに驚いた。
「もう、大きな増援はないと思うけど、外に出てるパーティもあるかもしれない。油断せずに処理していこう」
「処理って、どうするんだ?」
「ここにある家は出来れば燃やす。再利用できないようにね。メスもいるはずだから、探して殺す。ちょっと残酷だけど、子供もね。さ、手分けして中を探ろう」
俺に割り振られた家の入口の布をまくると、キィキィ言いながらミニサイズのゴブリンと、色が薄いゴブリンが威嚇してきた。これがメスと子ゴブリン達か?
盾で攻撃を受け止め、一匹ずつ確実に頭を潰して回る。ちょっと可哀想だけど、思った以上に心には来ないな。
そういえば人型であるゴブリンを最初に倒したときも特に感慨はなかった。・・こういう人間なのかな?
人を殺してきた兵士の何割かはPTSDに・・なんてドキュメンタリーを見たことがあるけど、逆に言えば何割か以外は平然と帰還しているわけだよな。
心に傷を負った者たちよりも、彼らが倫理観に欠けているとか、悪い人間というわけでもあるまい。俺もそっち側だっただけだ。
そう考えて終いにした。
3軒目のお宅訪問に移ったときに、奥でモゾモゾと動くものを発見した。
ゴブリンか?
慎重に布を剥ぎ、静かに剣を構えて観察すると・・人、だった。
「う~ん・・何・・?」
薄汚れているが、たぶんそこそこ若い女性、しかも真っ裸である。首に括られたツルが建物の支柱に結ばれており、ここに監禁されていたことを想像させた。
「あんた、大丈夫か?ゴブリンに攫われたのか?」
「えっ」
女がこちらを見た。
「き・・・きゃーーーーーーーーーーーーっ!」
何故じゃ。俺が悪いみたいじゃないか。
「悪いが敵陣だから、目を逸らしておくとかそういう配慮は約束できない。パーティに女性がいるから、呼んで来よう」
「ま、待って・・ごめんなさい・・えっと・・パーティ? あなたたちは冒険者?」
「・・冒険者? 個人傭兵だが」
冒険者があるのか?
「そ、そう。分かった、女の人を呼んでちょうだい」
「その前に一通り安全確認をしてからだけどな。首のものだけでも外しとくか?」
「え、ええ。そうね」
女に近寄り、首輪代わりになっているツタに剣を当ててみるが、切れない。下手に外そうとすると首が絞まりそうで困難だ。
「悪い、外し方分からんわこれ。もう少しここで待ってて」
女は落胆したような表情を見せたが、やはり全裸のまま俺に居残られるのも嫌だったのか、特に何も言わなかった。
「人間の女性を一人発見した。首輪みたいなもので繋がれているんだが、誰か女性が外しに行ってくれるか?」
しばらくして集まってきたパーティに言う。俺以外は変なものは見付けなかったようだ。
「女性かい? じゃあ、3人で行ってみるよ」
「頼む。俺たちは外で警戒を続けておくよ」
「ゴブリンに捕まっているとはねぇ。不幸な女性だね・・」
エリオットが目を伏せた。
ちょっとフェミニストの気があるからな、彼は。
・・まあ、性奴隷を囲っているけども。
途中で戻ってきたゴブリンの相手などをしつつ、たっぷり1時間も待つとやっと女性陣が帰ってきた。
隣には、マリーが着ていたマントを被って俯きがちに歩く女性の姿が見えた。
何があったかはここで聞くことでもないだろうし、とりあえずは状況は終了か。
「訳は後で話すとして、とりあえずこの娘を連れて街に戻ることにしたよ」
マリーが娘を目線で示しながら説明した。
「アアウィンダっていう名前らしいよ。アーダでいいかな?」
「はい、構いません。・・よろしくお願いします」
アアウィンダはしっかりと頭を下げた。おっ、頭を下げるって習慣はあるんだな、なんて思いながらそれをぼーっと見ていた。
帰り道はアアウィンダがいるのでちょっとゆっくりペースだ。ゴブリンがいたら、迂回しながらできるだけ最短で南に出る。
その最中にマリーが説明してくれたところによれば、アアウィンダは西方から親戚を頼って旅をしてきた良いところのお嬢さんらしい。
しかし北からスラーゲーに入ろうとしていたところで、盗賊に襲われて護衛も散り散りになってしまったらしい。
それで森に入って追っ手を撒き逃げようとしたのだが、そこがゴブリンの森だったと。
1人付いて来た戦士もゴブリンに殺され、彼女だけが集落に引き渡されて監禁状態にあったという。
「他に監禁されていた者は?」
「いませんでした」
「そうか・・新しい集落だからな。たまたま最初に犠牲になったのが、君だったというわけかい」
エリオットが軽く肩を抱くようにして慰めた。
俺は出会っただけで叫ばれたのに、それは許されるのかよ!
これが「ただしイケメン(雰囲気を含む)に限る」ってやつか。くそう。
「盗賊は・・ゴブリンが値上がりしたことでスラーゲーが美味しいと思って移って来たのか、戦士団が手薄になったところを狙ってのか・・いずれにせよ、盗賊にゴブリンの増殖、新しい巣、と不幸が重なった結果という他ないな・・」
「・・そうですね」
ゴブリンに捕まった娘はどうなるんだろう。
良いところのお嬢さんということだが、ゴブリンに捕まった事実からすると婚約が難しくなったりするのだろうか?
ああ、それともその事実を隠蔽してしまえばいいのか。
あれ?
口塞がれたりしないよね?
ちょっとゾワっとしたぞ。
「つかぬことをお訊きするけど・・このまま帰ってどうなると思う? ゴブリンには捕まっていなかったことにしたいなら、俺達も口裏を合わせるけど」
アアウィンダはハッと息を飲み、それからゆっくりと口を開いた。
「・・そうですね。そういったことも考えなければなりませんが・・ウチは貴族ではありませんので、大丈夫かと思います。いずれにせよ、救って頂いた皆さんに仇為すようなことは致しません」
おお、俺の素人考えまで見抜いている。頭が良いな。それだけに不憫だが。
その日は森を出たところで一泊し、翌日もゴブリンとの戦闘は最低限に抑え、彼女を護衛して帰還した。
街に入る前にマリー達が先行し、アアウィンダの服を揃えてきた。それから再び全員で街に入る。
日帰りではないので、1人銀貨1枚を支払う。
チィ。
アアウィンダのことはエリオットやマリー達に任せて、後ろからちょこちょこ付いていくことにした。
最悪、消されそうになったら逃げるか?
どこにだろう・・しかしそろそろ異世界で暮らしていけそうな目処も立ってきた。
拠点を移すのも一興か。
今日のところはマリーがアアウィンダを親戚の家まで護送していくということで、俺は門の前で別れた。
今回はアアウィンダの処置が最優先であるし、途中で俺一人で倒した敵などもいたので、素材を分けて分配することになったのだ。
後は各自で換金すればいい。
とりあえず羊平は疲れていたので、異空間にめぼしい素材を送って宿を取った。
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(10)剣士(4↑)盾士(3↑)
MP 15/15(↑)
・補正
攻撃 G+
防御 G+
俊敏 F-(↑)
持久 G
魔法 G
魔防 G+
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限
斬撃微強
盾強化
・補足情報
なし
***************************
(うむ、いい感じじゃないか? 俊敏が1段階上がって、全体的にレベルも伸びた。ま、少々だけど)
他に特に変わったところもないことを確かめると、ステータスを畳んでしばらくぶりのベッドの感触を楽しみ、気付くと眠りに落ちていた。





