3-1 奇人ゲバス
タラレスキンドは出る前よりも人が多く、人々のざわめきで浮ついた空気である。他地域からの見物客は多くないと聞いていたが、テーバにいる魔物狩り達が参加や見物のために集まるだけでも人口密度がかなり増す。例年お祭りのようになるらしい。
「世話になったな」
フィリセリアから護衛してきたブグラクやテヤンとは、北門近くのギルドでお別れ。報酬として、既に銀貨20枚と16枚を渡されていた。
契約での報酬は銀貨20枚なのだが、残りの16枚は最後の乱戦での分け前だ。商人同士の話し合いで分別されたものを、そのままこちらに渡してくれた。
枝大角鹿が大量と、熱岩熊も複数出てきてそれなりの値段になるはずだが、軍が半分以上持っていったのでこの程度になった。これでも、最初に危険を察知した功績で多めに計算されているとか。
悩むのは、パーティ内での分け方だが。テエワラが「3等分でいいよ」と言ったので、俺とサーシャで銀貨12枚ずつ。計24枚。悪くない稼ぎになったかな。
「また帰りにも護衛の依頼を出すから、都合が良ければ受けてくれてもいいぞ」
「ああ、タイミング次第だな」
テヤンとそんなことを言い、彼らは中央区の方に向かっていった。闘技大会の会場周辺で一稼ぎするらしい。
彼らの小さな馬車が人ごみに消えていくのを見送ってから、テエワラと向き合う。
「テエワラはこれからどうする?」
「そうだねぇ、依頼も終わったことだし、このパーティも解散だ。だけど、もうちょっとヒマだからあんたに付き合うかねぇ」
「いいのか?」
「そこで提案だけど、魔法使いギルドで大会に向けた練習をしないかい?」
「ん?」
「あんたの魔法、ちょっと変わってて面白いしね。ギルドの連中と絡んだら面白い発見があるかもしれないよ?」
魔法使いギルドの連中か。確かに、テーバ地方のギルドは実践的な魔法の研究をしていると聞いたから、面白い話が聞けるかもしれない。
「じゃ、今日は流石に休むとして。明日にでもギルドに向かおうか」
「ああ、了解した」
今日のところはやりたいことがあるらしいので解散し、明日午後から魔法使いギルドで集まることにした。
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ほかほか。
久しぶりの、街でのゆったりとした時間はいいものだ。早速公衆浴場で疲れを汚れと共に流した。アカーネにも何着かの着替えを見繕い、サーシャに託して風呂に向かわせた。
時間がかかるかもということだったが、女ばかりでこんな武闘派の街を歩かせるのは不安だったので、入り口の休憩スペースで待つことにする。
すっかり湯冷めをして少し寒くなってきたころに、サーシャがアカーネを連れて現れた。
サーシャも旅の間の汚れを落として綺麗になっていたが、目立つのはアカーネの姿。なんだ、この美少女!
格好がサーシャチョイスのスカートルックで多少おしゃれになっているせいもあるが、汚れを落とし髪がショートながらつやつやになったアカーネは中性的な魅力を残しながらも女性らしさがぐっと増し、かなりの威力である。
本人はおずおずといった様子でサーシャの陰に隠れているが、美少女オーラを隠せていない。
「お、おう」
「ご主人様、お待たせしました。時間を掛けてしまいましたが、やはり光るものがありますね」
プロデューサーことサーシャは満足げだ。大変、素晴らしい仕事をしたよ、きみィ。
「なんか清涼飲料のCMとか出てそう……」
「しーえむ?」
「いや、なんでもない。美人ということだ」
「そうですねぇ」
やはり満足げに頷くサーシャだが、ご主人様の寵愛が移るとかいう心配はないのだろうか。別にそれはそれで構わないとか思ってそう。ちょっとヘコむ。
「と、とりあえず、部屋いこか」
下手なお誘いみたいになってしまったが気にせず、ちょっとイイ値段のする宿へと戻る。
前回と同じちょっとリッチなお宿だ。
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翌朝。
「お~~うおうおう! しばらくぶりじゃのう」
魔法使いギルドに入り、会議室のような場所に入ってみると文字通り飛んで来た影が1つ。
妙な言葉遣いの丸鳥族でおなじみ、シュエッセンである。
「シュエッセン、こんにちは。テエワラと待ち合わせしてたんだが」
「おお、あ奴は実験室の方にいるぜ。行くか」
「えっ」
シュエッセンがそのままパタパタ飛び出したので、慌てて追う。
奥まった場所にある「実験室α」とある場所の扉を器用に足で開けると、中にスルリと入り込んでいった。
続けてドアノブを捻って中に入ると、実験室というよりは一面コンクリートの倉庫のような空間が出迎えてくれた。
「お、ヨーヨーか。丁度良いところに来たね」
「ああ、こんにちわ」
杖を振って何やらキラキラさせていたテエワラの向かいには、同じように杖を持つローブ姿の人が見える。
何者だろう。
「貴方がヨーヨーさんでございましょうか? お初にお目にかかる、吾輩魔導の神髄を極めんとする知の旅人、又の名を流離の大魔導士、奇人ゲバスと~は私の事! 良しなに願うよ!」
「……えと、ゲバスさん? 情報量が多すぎて良く分からなかったが、テエワラが紹介してくれる人ってのはあんたの事だろうか?」
「ふむ、状況を鑑みると答えは1つ。然り。然りである!」
そこでゲバスがローブを外して顔を見せてくれた。牙と角が生えていて、目がなんというか、黒目だけで横長なので妙な感じだが、まあ普通の人種だ。
「で、ゲバスさんは……ゲバスってどこかで聞いた名だな」
「あれじゃない? 魔力増幅テスト」
「ああ!」
「ほほ~う! 興味があるかね! あの希代の実証研究に!?」
あれだ。随分前にこのギルドの掲示板にあった、怪しげな講義?実験?の募集者である。なんか目が出ないからここで研究しているみたいな話だったような。
「興味はないが、記憶にはあった」
「それを人は興味と呼ぶ! 違うかね? 違わな~いっ!」
うぜぇ。いいかげんうざくなってきたが、このテンションがデフォルトなのだろうか。
テエワラと目が合うと嘆息して、微かに首を横に振った。
「あー、なんていうかね。人見知りってあるだろう? その一種というか、ある意味逆というかね。新しい人と話すとき、この妙なテンションになってしまうらしいよ」
「へぇ」
「し、し、仕方ないだろう。そう、緊張するのだから!」
ゲバスがわたわたと動きながらそう言う。もっと小柄な、可愛い女の子がやれば似合う動きだが、イカツい顔をしたおじさん?がやると痛さしかないぞ。
「まあゲバスは放っておいて、本題だね。旅の間に言ってたやつは、完成しそうかい」
「どうだろ。とりあえず、昨日も多少の練習はしたけど、完成するかどうか」
「まぁ~難しいからねぇ。とりあえず、復習も兼ねて今日は、このゲバスにもあんたの魔法を見せてやってくれないかい? あたしが少し話していたら、興味があるって言って今日ここに残っていたんだよ」
「ふぅん、まあいいが」
テエワラに言われるまま、魔法を発動する。
といっても、簡単なウィンドウォール、それにウォーターシールドだ。
「ほう、これは、これは、これは」
「うんうん、おめーさんの防御魔法は相変わらず安定してるぜ」
ゲバスと、シュエッセンからも、お褒めの言葉?を賜った。
「なあ、防御魔法って一般的には使い手が少ないのか?」
「うーん、パーティで戦うには便利な魔法だし、戦士団でも重宝されるからね。それなりに練習する者もいるが、複数属性の防御魔法をスムーズに展開できる術士はかなり少ないね」
「ふーん。重宝されるなら、数がいても良いのにね」
「そりゃそうだけど、やっぱり技術的に難しいんだよ。4属性全てに適性がある者ってのも少ないし、それぞれ展開する感覚が違うから、自分の得意な属性だけ練習する場合がほとんどさ」
そうらしい。
魔法習得初期から、防御での利用に主眼を置いて練習してきたおかげか、他の魔法使いからすると俺の得意魔法は「防御魔法」ということになるようだ。
「これを上手く使い分けて、敵の攻撃に対応するだけでも対魔法使い戦はそれなりに戦えるかもね」
「でも、自由型は『魔法使い』よりも『魔剣士』だったり、おかしなジョブを相手にすることが多いんだろう?」
「まぁね。だから結局、組み合わせ次第かな。どうしても途中から読まれるし、優勝は厳しいけど、2回戦突破位は目指せるかも」
「そりゃありがたい」
とりあえず2回勝てれば、確実に黒字である。気兼ねなく魔道具作り関連道具にも投資できるってもんだ。
「今日はとりあえず、そこのゲバスやシュエッセンと模擬戦してみたらどうだい? 魔法使い相手の戦いってのが少しは分かるかもよ」
「なるほど」
とりあえず、やってみますか。シュエッセンの「暴れ鳥」という二つ名の意味を思い知る結果になるかもしれん。胸を借りるとしよう。





