2-47 兵器
さて、激突まで時間もないし、呑気にバシャバシャを用意している時間はないだろう。
ただ、最近練習している「ケイブ」の魔法で一頭くらい転ばせられるかもしれない。地面に手をつき、それほど大きな穴でなくても良いので急に陥没するイメージで土魔法を用いる。
動きが速すぎて狙った先頭の個体は素通りしてしまったが、続く後ろの個体がややバランスを崩して減速した。地味だが、それに巻き込まれる形で後続の一部が減速。結果として相手を分断する成果があった。
……まあ十分だろう。
魔銃を抜き、続けざまに発射する。威力重視で魔力を多めに注ぐ。
まだピンチとなるかは分からないが、近づくまでに撃っておけば助かったのに……ってパターンは悔み切れない。
というかケイブとか試してないで、こっちからやるべきだったか?
横からも様々なスキルが飛び、先頭の個体が倒れ込むのが見えた。
あちらも一軍勢だが、こちらも総勢で20人を超える人が横並びで迎撃しているのだ。当然の結果だろう。
「足を止めろー!」
シカ型の魔物ということで、脚は当然狙い目になる。次々とスキルが着弾していくが、中にはスキルの弾幕を越えて突っ込んで来る個体もいる。
そこかしこで白兵戦が始まるなか、最初に遅れた集団が到着。うち一頭がそのまま突っ込んでくるので、身体強化をして踏ん張り敵の角を大剣で受け止める。
ズシンと身体に衝撃が走り、身体が浮きそうになりながらも踏み止まった。直後に身体が急に軽くなるような感覚がして、相手を押し戻すことができた。
そこで剣先からフレイムスロウワー。シカが驚いたように首を何度も振り、隙が出来たので首筋を一閃。嫌がらせ魔法フレイムスロウワー、今日も好調です。
一度後ろを振り向くが、完全に突破された場所はなかったようで各々の場所でシカと取っ組み合いが始まっている。大きな盾を持った人が前に何人か残っており、彼らが突撃を受け止めたようだ。やや後ろに下がったところから、弓などの遠距離攻撃組が散発的な援護を行っている。サーシャもそこだ。無事でよかった。
サーシャの隣にテエワラがいて、こちらが見ると軽く杖を上げてくれた。もしかしてさっき身体が軽くなったのは、付与魔法か。
「足の止まったシカなんざ雑魚だ! 気張れぃ!」
どこかの護衛らしきムキムキのおっさんが、盾でシカ角を抑え込みながらそう怒鳴っている。
「ギュイー!」
ドンのものとも違う、甲高い鳴き声がして、前方からまた一頭駆けてくる。
周囲の援護をしようとしていたのを中断し、今度はサンドウォールも使いながら勢いを削いで剣で受け、突撃を往なす。足元の地面に剣を刺し、魔力を注ぐ。
直接ケイブだ。
さすがにこれは決まってシカが派手に転ぶが、そのままクルッと一回転して起き上がる。
おい、ケイブの意味。
仕方がないので鼻先にファイアボールを撃ち、隙を窺いながら突きを入れるオーソドックスな戦いを展開する。
同じ戦い方でもう1体屠ったところで、全体も少し落ち着いてきたようで怒号や悲鳴のようなものが鳴りを潜めていた。
「終わりか?」
そう呟いたとき、後ろの味方の視線が空中を見ているのに気付く。
「キィクェーーーーーーーーーッ!」
翼を広げ、グライダーのように滑空しながら甲高く鳴く、空中の特徴的な魔物。……どうみてもプテラノドンです。
たしかこちらの世界だと「グーテ」。風属性の魔石を残す、れっきとした魔物の一種である。
魔物図鑑でも翼竜っぽいなぁと思ったのだが、ここまでドンピシャでプテラノドンだとは思わなかった。
まさか「湧き点」って、過去の世界に繋がっているとかあるのか。そういうSFチックなオチもあるのだろうか。いや、別に世界がいくつもある以上、「恐竜が滅びなかった世界」があっても全然おかしくないか。
ん? んー。そうか。今何気なく考えていたが、湧き点の魔物って「異世界から来ている」っていうのは神話にもあった。もしかしてそこは事実か。そう考えるといくつか納得できる点が……いや、今は良いか。
魔銃を取り出して、プテラノドンことグーテに連射する。
動きは直線的なのだが動きが速く、1発、2発目は外れた。3発目は命中するコースだったが、直前で透明な膜のようなものに阻まれて攻撃失敗。
「キェーーーーッ!」
グーテは他のスキルも膜で防御し、矢は膜をすり抜けたが皮膚で跳ね返された。厄介な相手だ。
結局、まんまと直上まで侵入を許し、こちらに急降下をしてくる。
剣を持ち直して身構えたが、グーテが急降下で掴んだのは……シカ。
そのまま空中に飛び上がり、枝大角鹿を抱えたままサザ山の方へと飛び去っていく。
どうやら鹿狩りをしていたらしい。もしかして、人里近くまで魔物の群れが追い立てられていた原因って……。
「おい、まだいるぞ! 気を抜くな!」
声に引き戻されて前を見ると、森の奥からさらに数体の枝大角鹿と……クマ。こちらは懐かしの熱岩熊だ。サイズもかなりのものだ。それが見えるだけで3頭。
「さっきの群れに釣られたか……まったく面倒に巻き込みやがって」
「グゥオオオオゥッ!」
熊がこちらを見て、腕を振り上げて叫ぶ。
シカを優先したあのグーテと異なり、こちらを敵と認識した様子だ。
枝大角鹿は味方に任せ、熱岩熊に向かって水球を作って投げる。
そろそろMPも危険領域だぞ。
先頭の熱岩熊が嫌がるように後ろに退き、それから怒ったようにもう一鳴きすると走り出す。
こちらも大剣を握り、残りの魔力でウォーターシールドを作成。
案の定火球をいくつも頭上に浮かべて放ってきたので、防御はシールドに任せて剣で受ける。ずっしり重いが、シカの突撃ほどじゃない。
返す刀で胴体を狙うが、もう一方の爪で受け止められる。
なかなか動ける熊のようだ。
残り2匹は誰かが引き受けてくれただろうか? 組み合っている最中に攻撃されたりしたら、対処しようがない。
祈るような気持ちで熊と力比べをしながら、フェイントを入れながら足元を削る。
困ったらとりあえずフェイントを入れて足か、カウンターで小手だ。何故かは分からないが多用してきたので、慣れている。自然とそうなる。
熱岩熊がまた火球を浮かべたのを見て、舌打ちをしながら横に動く。
ステータスを見ている余裕がないが、感覚で魔力がうまく出なくなってきた。
MPがすっからかんなのだろう。
何気に初めて陥る事態だ。
「だらっしゃぁーっ!」
「グオオオオオォォーーウ!」
頭をかすめるが、熱くはない。ヘルメットが仕事をしてくれたか。
振り上げてきた爪を何とか避け、横薙ぎしてきたもう一方の爪を剣で受け止める。
こうなったら力比べか!? 味方はなにしてんだ。
内心焦っていると、後ろから何かを叫ぶ声。
「援軍だぁ! 退けー! 退け、退けーっ!」
援軍?
どういうこっちゃと思いながら、なけなしの魔力で身体強化しながら後ろに全力でジャンプ。相手がつんのめった隙に、背を見せて全力ダッシュ。逃げる!
と、前方から激しい光の塊が飛んできて、頭の上を越えて後ろへ。
振り向くと、熱岩熊のいたあたりに着弾……。
轟音が響き、土砂が巻き上げられて姿が見えない。
後ろを何度か振り返りながら、テントが立ち並ぶ区域まで退却することができた。
途中、視界の隅を大きな箱状の何かが横切る。なんだ、なんだ。
「おう、無事だったか」
名前を知らないムキムキのおっさんが、濡れたタオルを差し出してくれるので受け取り、顔を拭く。タオルが一瞬で土色に染まる。ヘルメットを外すの忘れてた。
一息吐いて、周囲を見渡していると再びの轟音。思わず振り返ると、箱状の物体から再度光の塊が飛んで行って、爆発を巻き起こしている。
「……ありゃいったい」
「あれはな、魔導砲だ。初めてか?」
ムキムキおっさんが解説してくれる。砲か。なるほど。魔道具ね。
「魔撃杖みたいなもんか?」
「ああ。デカいだけで基本変わらねぇな。珍しいのは、それを積んでるあの金属の箱だな」
「戦車っぽいな」
「戦車? ほう、悪くないネーミングかもしれんな。軍では魔導移動砲台と名付けているらしいが」
なにそのネーミング。かっこいいです。
「あの箱の挙動は何なんだ? タイヤで走っているようにも見えないし、なんというか、浮いて移動している?」
「ほお、そこまで分かったのか? あれも魔道具で浮かべてんだと。消費がハンパねぇから、長時間は持たないらしいが」
「……オッサン、詳しいな」
「武器マニアだからな」
武器マニアなんだ。武器というか、もう兵器だけども。
「貴重だが、開発されたのは割と昔だから、知ってる奴はまあまあいるぜ。軍がここに持ち込んでいるってのは知らなかったが」
「おかげで助かったな」
「ああ、助かった」
それから、戦車ならぬ魔導移動砲台がゆっくりと動きながら森に攻撃を撃ち込むのを眺めながら警戒していると、緑の揃いのローブを羽織った集団が近付いてきた。
「こちらは王国軍の特務魔導小隊だ。責任者は誰か?」
堂々と名乗るその人物を見詰めて静寂が訪れ、ローブの人は困惑したように再度尋ねた。
「どうした? 襲撃で隊長が死んだか?」
「……いや、もともと俺らは寄せ集めの商隊でな。この護衛達のまとめといえば、強いて言えば俺だな。一番先頭の集団で護衛の頭をやってる」
隣にいたムキムキのおっさんがそう名乗り出た。やっぱりリーダー格の人だったのか。
「そうか、簡単に事情が訊きたい。同行を願う」
「ああ、異はねぇ。他の奴らはもういいか? 魔物は片付いたのか?」
「ああ、問題ない。斥候職の者が今も警戒しているから、もう大丈夫だ。他の者は解散して良いが……ああ、一応商隊側のリーダー格の者も呼べるか」
「分かった。おい、頼む」
おっさんが近くの仲間に言伝を頼み、軍に連れられてどこかへ歩いて行った。
残りは解散してよしとのことだったので、テントに向かって皆の無事を確認する。
テントの前ではサーシャがドンを抱いており、テントの中でアカーネが着替えているという。ひと安心。ついでに、テヤンもブグラクも子供たちも無事だという。
「今回はちょっと危なかった。魔力はしっかり管理しないと駄目だな」
「あと、最後の方はご主人様が突出していたようで、うまく援護できませんでした。注意してください!」
「あ、ああ……そうか」
強い調子で迫られたのでつい謝ってしまう。謝ってから少し考えて、やっぱり謝るべきだと納得する。戦闘に突入してからの視野の狭さが全然直っていない。駄目だな。
「すまんな」
「いえ……大丈夫です、怒っているわけではありませんので」
「そうか」
「はい」
それから、サーシャの淹れてくれた薬草茶を啜りながら待つ。町に帰ったら、ドンには好物の木の実を買ってやろう。今回の危険察知もドンピシャで当たっていたわけだし。優秀だよな。
そんなことを考えていると、テントの入り口が開いて大きめのシャツを着たアカーネが姿を現した。
「お、サーシャのか?」
「あ、おっ、おつかれさまです……」
ちょっとダボダボなシャツは、サーシャが着ているのを見たことがある。おそらくアカーネ用の着替えを買っていないからサーシャが渡したのだろうが、着替えなきゃならない状況になっていたのかは気になる。
「アカーネはどこにいたんだ?」
「あ、一応、サーシャさんのところに行って……投げていました。最後だけですけど」
アカーネはそう言って、改造魔石を1つ取り出して見せた。
「そうか。危なくなかったか?」
「大丈夫でした……でも、途中で慌てて転んでしまって、破けてしまったのでこれをサーシャさんに貰って……」
「ああ、なるほど。そういう経緯か」
アカーネも、多少訓練をして狩りに連れていけるようにしないとな。道具を揃えたらどれくらいの魔道具が作れるか、にも依るのだが。
「さて、しばらく待機かな……」
アカーネは何かフォローが必要かと考えたが、サーシャとともに、ドンと戯れだしたので放っておく。
テヤンとブグラクの姿も見えないし、ここで待機しているのが賢明だろうが、やる事が限られるな。ステータスでも眺めて過ごすか。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(20)魔法使い(15↑)剣士(13↑)
MP 2/40
・補正
攻撃 F+
防御 G+
俊敏 E(↑)
持久 F(↑)
魔法 E+(↑)
魔防 E-(↑)
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
斬撃微強、強撃
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ
隷属獣:ドン
*******************
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(20)魔法使い(15↑)警戒士(11↑)
MP 7/45
・補正
攻撃 F-(↑)
防御 F-
俊敏 F(↑)
持久 F
魔法 E+
魔防 E-(↑)
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
気配察知Ⅰ
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ
隷属獣:ドン
*******************
フィリセリア出発時と比べ、主要なジョブがレベルアップしている。今回の戦いでは『魔銃士』も少し使い、それもレベルが上がっていた。
で、サーシャとアカーネもそれぞれレベルアップ。
*******人物データ*******
サーシャ(人間族)
ジョブ 弓使い(13↑)
MP 4/8
・補正
攻撃 G
防御 G-
俊敏 F-(↑)
持久 F-(↑)
魔法 G-
魔防 G-
・スキル
射撃微強、遠目
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
*******人物データ*******
アカーネ(人間族)
ジョブ 魔具士(14↑)
MP 20/20
・補正
攻撃 G-(↑)
防御 G-
俊敏 G-
持久 G
魔法 F-
魔防 F-(↑)
・スキル
魔力感知、魔導術、術式付与Ⅰ、魔力路形成補助
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
こうして見ると、総合的なステータスはどっこいどっこい。
だが、それぞれ高いステータスが見事に違う。俊敏と持久で身体能力がアップするサーシャと、魔法と魔防で魔法使い的な伸び方をするアカーネ。
当然、パーティでの立ち回り方も違ってくる。どうしたものか……。
タラレスキンドにいるうちは、いっそ街に残ってもらって、魔道具作りに専念という選択肢もあるわけだが。今後のことを考えると、今のうちに多少戦えるようになって欲しいという気もする。アカーネだけラムザの初心者講習を受けていないことになるから、そういったものを受けさせるのも手か。
しばらくは俺が闘技大会に時間を取られるわけだし。
今後の方針を唸りながら考えることしばらく。タラレスキンドも間近だというのに、たっぷり数時間の待ち時間が発生し、やっと出発することになった。
最後まで殿を務めるので、門の中に入場できるのも最後だ。
気疲れしながらも、門を潜ってひと安心。やっと領都タラレスキンドへと戻って来た……。
これにて2章が終わり。
3章から闘技会編?が始まります。
ほんとに魔物狩りばっかりの2章でした。
(多分魔物の設定作るのが楽しかったんだろうな・・)





