2-35 二人組
訓練部屋に入ると、入り口すぐ傍でこちらを向いて、人が待機しているのが見えた。
「ピーターだ」
「ああ、どうも……ヨーヨーだ」
握手を求められたので、それに応じつつ自己紹介をする。しかし、この男……どこかで見たような?
「会うのは、初めてではないな」
「そうらしいな……どこで会ったか覚えているか?」
「何だ、忘れたのか? 一緒に訓練したではないか」
……?
……ああ!
「前に手合わせしてもらった、双剣流か!」
「思い出したようだな」
男がニヤリと笑った……のだと思うが、あまり表情が変わらず、無理矢理に笑顔を作ろうとして不気味な顔になっている。
「あの時も表情が変わらないと思ったが……」
「……不自然だっただろうか?」
男は自分の顔を手でグニグニと押しながら無表情に戻った。
「いや、そんなことは……まあ、自然ではないな」
お世辞を言っても仕方ないか、ということで素直に述べておく。
本人に自覚もあるようだし。
「致し方ないところなのだ。私は白肌族だからな」
「白肌……?」
思わず首を傾げる。どう見ても普通の人間……いや、表情に乏しいし、やけに肌が白いというか、青白いなとは思っていたが。
「ご主人様……白肌族は表情がないことで有名です。南西に多く、頭が良い種族と言われています。このような所で魔物狩りをしているという方は初めて見ましたが」
「へぇ」
サーシャペディアが補足してくれる。表情が乏しい種族か。そういうことなら、あまり突っ込むのも野暮なのかもな。
「あまり常識のある方ではなくてな、失礼した」
「いや、気にしないでいい。不気味がられたり、妙に遠慮されるよりは付き合いやすい」
「苦労してそうだな」
「どの種族でも多少はあることだろう。人間族とて、他の種族が多い場所に赴けば色々と言われるものだぞ?」
「ふむ、そういうものかもな」
他の種族から見て、人間族の特徴的な所って何なんだろう。少し気になるので掘り下げてみると……。
「よく言うのは、好色とか節操無しといったところだ。悪く言えばな」
「ああ~、否定できねぇ」
「異種族間では交配できたり、できなかったりの組み合わせがある。幅広く可能な種族なのが人間族だ。同族くらいしか交配できないような種族からすると、奇異に映るのだと思う」
「……なるほど」
単に性欲の強弱とかいうだけの話ではなく、なんかそういう背景があるわけね。
……うーん。遺伝子が数%違うだけで子供が出来ないとかいう話を聞いたことがあるが、どうなんだ?
この世界の人間族が何か特別なものを持っているのか、あるいは異世界だから根本的に仕組みが違うのか。まあ、地球型の生物しか対象としていない生物学の常識が異世界で当てはまると考える方がおかしいのか。
「話が逸れたが、君たちはラムザから私たちのことを聞いたのだろう?」
「あ、はいはい。やっぱりそういうことか」
やはりラムザ関連だったか。にしても、昨日の今日で会えるとは。ラムザの仕事が案外と早い。
白肌族の男、ピーターに、サザ山に挑戦しようとしていることや、2人だと不安のあることなどを話していく。
ピーターは無表情のまま、たまに頷きを入れてその話を静かに聞いていた。
「こっちの事情はそんなとこだが、そっちはどうだ?」
「ふむ……ラムザの紹介ならば、そこまでおかしな者たちではないとは思う。こちらも似たような事情だから、組むのも吝かではない。相方が良いと言えばな」
「相方……そういえば、2人組だと聞いたが、今はいないのか」
「そうだな……いや、ギルドの仮眠スペースを使うと言っていたから、探せばいると思うが」
ならば、ということでピーターに少し探してもらって、顔合わせをしてみることとした。
白肌族の男、たしかに無表情でクセがある感じだが、悪い感じでもない。そして、以前の模擬戦でその実力が高いことも確認できている。悪い話ではなさそうだ。
あとは、もう1人がどんな感じか……。
「待たせたな」
「おう、にーちゃん達が新しいパーティ希望か?」
扉が開き、ピーターの後ろあたりから少し甲高い感じの声が聞こえた。
「……? どこだ?」
「ここだよ、ココ!」
やはりピーターの背後。少し回り込むようにして見ようとすると、ピーターの肩に何かが止まった。
……鳥だ。
鳥としてはデカく、ピーターの顔の何倍かの大きさがありそうだが……丸々とした鳥だ。
「……ヨーヨーだ」
だが、状況からしてこいつが「2人目」だろう。そう判断して、辛うじて自己紹介を入れた。
「おう、わしはシュエッセンって者だ。よろしくな~」
……シュエッセン? なんか……すごく美味しそうです……。
「シュエッセンは種族は……」
「丸鳥族だ。知らんのかよ? あちこちでやってる速達郵便のほとんどは、わしらの同族がやってるんだぜ。常識だぜ」
「……へぇ」
何か驚きというか、予想外すぎて頭が働かない。助けてサーシャえもん……!
サーシャに視線で助けを求めると、サーシャが小さく頷いて口を開いた。
「あの、撫でてみても構いませんか?」
「え?」
「わしをか?」
「そうです」
「……まあ構わん! だが変な所を触るんじゃないぞ」
そう言ってパタパタと羽ばたき、サーシャの腕の中へ。サーシャは恍惚とした表情で、丸鳥族のふわふわの羽毛に指を沈めている。なにそれ。
「うわあ、見た目通りにふわっふわなんですねぇ!」
「そうだろ、そうだろ」
「今まで見た丸鳥族の方は、もっとごわごわしてました」
「ふん、お手入れが足りんのだぜ」
丸鳥族が手足を偉そうにふんぞり返って、ばたばた小さな手足を動かしている。
ちなみに羽と手は別にあるようだ。
胸のあたりにちっさい鳥の足のようなものが2つと、下の方に白い毛が生えた短めの哺乳類の足のようなものが2つあり、これが手足。それとは別に背中全体を包むように羽根が生えている。
グリフォンみたいな構造と考えれば、あり得なくはないか。グリフォンとは似ても似つかないプリチーさと丸さだが。
「えーと。シャウエッ〇ンだっけ?」
「シュエッセンじゃ!」
「それで、そのシュエッセンは、どうなんだ? 新しいパーティを組むことは」
シュエッセンはサーシャに捕まえられたまま、だらりと力を抜いて首を傾げる。
あざと可愛い。
「んー? まあ構わんよ。相棒が良いって言うならな」
「私は悪くないと考えているがな」
「そうなのかよピーター? じゃあ別に良いぜ」
軽いな……。
「まあ、少し落ち着いて。組むかどうか決める前に、お互いの情報が必要なんじゃないのか? ピーターの剣の腕は知っているが、そっちはこちらが役に立つのか何も知らないだろう」
「それもそうだ。では軽く自己紹介といこう」
ピーターが仕切って、自己紹介タイムに入る。
「私は弓使いです。レベルはさほど高くありませんが」
最初はサーシャだ。次にそのサーシャに抱かれている生物。
「わしはシュエッセン。魔法を使う」
「!! そういえば魔法使いか!」
ラムザがそう説明していたことを思い出す。
「おう。丸鳥族ってのは白兵戦が苦手だかんなぁ……だいたい魔法で戦うんだぜ。知らなかったか?」
だから、そもそも丸鳥族を知らなかったのだが。
「言いたくなければ良いが、得意魔法は?」
「普通に『魔法使い』だから、基礎4魔法は使えるぜ。特に得意なのは風かねぇ」
「おうふ。何か被ってんな」
「お?」
「俺も『魔法使い』で、得意なのは風……だと思う」
『土魔法使い』を取得したから、一番素質があるのは土かも知れないけれどね。
「おめーさんも魔法使いかぇ! いやいや意外だねぇ」
「あー、まあ見た目は魔法使いっぽくないかもしれないが。剣も使うし」
そう言うとピーターが無表情のまま声を上げた。
「ほう、魔法使いであったか! それであの剣の腕とは、努力家だな」
「ああ、どうも」
剣の腕から、新米剣士だと思われていたのが、魔法使いの護身術であのレベルと知って株が上がったらしい。興奮ぎみである。表情はないが。
「さて、一応私も言っておこうか。ピーターだ。ジョブは『双剣士』。シュエッセンと組んで、随分長い」
『双剣士』か。まあ想像通り。
「ここに来て長いのか?」
「テーバ地方かね? そこそこであるな。5年くらいは居るはずだが、いない時間も長いのでな」
「依頼で行き来しているとか?」
「そういう場合もあるが、目的はそうではない。金を稼ぐときと、大会に出場するときに来るといった感じだ」
「……大会?」
剣道大会みたいのがあるのかな?
「知らないか? ギルドに張り紙もあったろう。毎年、この時期になると闘技大会が開かれる」
「……まじで?」
「うむ。まあ、その手の催し物は一年中あるのがこの場所だがな。しかし、町ぐるみの大きな大会というとこの時期……もう少し後に開かれている」
「出るのか?」
「ああ。それが目的だ」
ふぅむ。なるほど。魔物狩りが主目的ではないから、パーティに所属してないのかもな。
「俺達の目的はあくまで魔物狩りだ。組めるのか?」
「一時的なものだろう? 都合が良いときだけ組めるのであれば、むしろ好都合だ」
「ああ……なるほど」
あくまで臨時パーティとして、都合が良ければって感じか。その方がこっちも気楽だし、良いかな。
「問題ないな」
「連絡はギルドを通してしよう。とりあえず、大会までは魔物狩りとして日銭を稼ぎたいのだが」
「ああ、折角だから俺も大会とやらを見たいしな。大会までには戻ってくるように、余裕を見て計画を立てよう」
「かたじけない」
少し時間を空けて、1~2週間の目安でサザ山に狩りに行くことに決める。
なんか、いつの間にか組むことが本決まりしていたな。
「……そういえばそっちの……シュエッセンも大会に出場するのか?」
「いやぁ今年はパスじゃ! のんびりと応援するんだぜ。去年は魔法使いの部に出て、本当に疲れたんでの」
「へぇ~。魔法使いの部、とかあるんだ」
大会か。……金、稼げるかな?
「おめーさんは出ねぇのかい? 一回でも勝てりゃ、登録料くらいは戻ってくるぜ」
「考えてみるよ。金欲しいし」
「金なぁ……魔法使いの部なら、いっつも出場枠が余ってるし、まだ出られる可能性はあると思うぜ」
「そうなのか」
ちょっと気になったのでファイトマネーについて聞いてみた。
出る大会や部門によってもまちまちらしいが、この時期の、少し後の大きな大会では1回勝つごとに決まったファイトマネーが入る感じらしい。
ただし、出場枠というものがある程度決まっている。そこを獲得するまでの書類選考やら予選の予選で落ちれば、もちろん金はなし。
だが、魔法使いの部門はいつも参加者が不足していて、それなりの魔法を見せればすんなり出られるらしい。
魔法でしか戦ってはいけないうえ、本選に出て来るのはかなりのベテラン魔法使いたちなので、低レベルでは手も足も出ないらしいが。
剣の部などは人気で、早くから申し込まないとまず枠が取れないとのこと。なので今年は無理ということだ。
あと可能性があるのは、何でもありの部。
見た目が派手なスキルや、奇想天外な戦いをする者が歓迎されるらしく、一芸に秀でていれば出れるかもしれない、とのこと。
何でもありの部の優勝者が最強という感じなのかと思いきや、そうでもないらしい。
戦術同士が噛み合ってなかったり、相性で勝敗が左右されすぎるところがあるので、どちらかというとイロモノ扱いのようだ。
たとえば最強の剣士を名乗りたいのであれば剣の部に、至高の魔法使いを名乗りたいのであれば魔法使いの部に出て優勝するのが名誉らしい。
他の領地でも、集客やら戦士の育成やら、様々な目的で大会を開くケースはそれなりに多いらしい。
そして、ここはテーバ地方。
魔物狩りで鍛えた実力者たちが集う大会として、そのなかでもそれなりに有名らしい。
魔物がうようよしている場所なので、他所の領地からの一般客は集まりにくいのだが、スカウト目的で各地の戦士団幹部なんかも観戦に訪れたりするらしい。
スカウトされても面倒だが、イロモノ枠の何でもありの部とかで、稼げるのか確かめてみるのは面白いかもしれない。
その後日程をすり合わせ、後日また予定を詰めるために集まることを約束して解散。
……する前に、模擬戦も少し付き合うことになった。
相変わらず双剣で往なされ、巻き取られ、打たれたが、ピーターから「以前よりも動きに迷いがなくなっている」との言を頂いた。
なんと玄人っぽい表現よ。
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ピーター達との狩りまで少し期間が空く。
その間は休養と、タラレスキンド近くでの狩り、そしてタラレスキンドの区画を探検することとした。
タラレスキンドは本当に複雑だ。幾度も拡張されてきたために何層もの城壁で仕切られ、そこに無秩序に付け足された区画が入り組んでいるためだ。地元民でも把握しきれない、新宿迷宮ならぬ、タラレスキンド迷宮が出来上がっている。
俺たちがいるのは町の中心から北東にある、比較的新しく整備された区画らしい。
タラレスキンドの東にはクロスポイントに繋がる主要街道があり、北に抜けると軍の駐屯する平原を抜けて北西の玄関口クイツトへの街道がある。
つまり、東と北にテーバ地方の大動脈があるわけで、東から来た人が北へと抜けるルートは重要だ。
そこで、北東の区画は流通を支えるのに必要なインフラが優先的に整備されている、ということらしい。
これは別に機密でもなんでもなく、酒場にいるテーバ歴の長そうなおっちゃんにでも話を聞けば分かる話だ。
で、今いる区画はそうして整備された区画の1つであり、インフラの一環として魔物狩りギルドもここに居を構えているわけである。
サザ山から流れてきた素材をギルドで買取り、そのまま東や北への交易ルートに流すのだろう。
魔石輸出はテーバ地方の主要産業らしいから、大事なことだ。
王家が魔物狩りギルドなんてものを創設してまで、魔物狩りをする傭兵たちやその成果たる素材の売買をコントロールしたがるのも分かる話だ。
もう少し北の出口に近い区画に行くと、北から休暇に来る軍人さんたちに向けた花街なんてのもあるそうだ。
いや、厳密には休暇ではなく、タラレスキンド勤務ということになるそうだが、実質的な休暇措置で羽を伸ばしているらしい。
花街はまあ、興味がないわけでもないが。
そこで散財するよりは、新たな奴隷に向けて金を貯めたい。
そして北にも、この区画と同様に流通のための区画があり、魔物狩りギルドの支部もあるそうだが。ここと代り映えのない感じのようなので興味は惹かれない。
気になるのは、中央の方と、南の方にある区画、かなー。
ここからもう少し中央に入った区画には闘技場がある。
そう、ピーター達が出場予定の闘技大会の会場があるのが、ここだ。
しかも1つではない。いくつもの闘技場が併設されており、大会当日はそこかしこで試合が同時並行で進行するのだという。
闘技大会なんて、ローマか創作世界くらいでしか聞いたことねえよ。
だんだんワクワクしてきた。やはりイロモノ枠に出場できないか、一度訪ねてみよう。
そして、南の方にある区画は総じて北・東の整備された区画より古く、雑然としている。
が、東の区画にはない要素がある。
タラレスキンドから南に向かうのは、森林地帯と断崖山脈というテーバ地方でも高難易度の地域を攻略するパーティなのである。その根拠地として使われる南の区画には、腕利きの魔道具職人や、有力パーティを支援する猛者ぞろいの魔物狩りギルドがあるらしい。
南に行く気は今のところ全くないので関係ないと言えばないのだが、腕利きの魔道具職人といったところは気になる。
少し暇が出来たこのタイミングで、こういった別の区画の探検もしてみようと思っている。
単なる観光とも言う。





