2-32 ブレス
鬱蒼とした森を歩く。
いや、登る、と言う方が正しいかもしれない。木の根と岩で形作られた複雑なアスレチックを手を使い無理矢理に登っていく。そんな行程だ。
ラムザが背負っている大楯が視界の隅に見える。現役時代に使っていた狩場を辿るとかで、今日はラムザが先導しているのだ。
「にしても、道なき道すぎねぇか」
「これっくらいのところを行かねぇと、独自のルートってのは出来ねぇんだよ」
この辺は多くの傭兵が入り込んでいる。手軽に行けて美味しい狩場なんかは、大きな傭兵団が我が物顔で占有していたりするらしい。
そこで少人数で動く魔物狩り達は、ニッチなルートを開拓して自分たちだけの狩場を探し求めるのだそうだ。
……にしても、ねえ?
おっと、足を掛けた根っこがもぞもぞ動く。魔物だな。
フレイムスロウワーで手早く焼却処分をして、先を急ぐ。
半日以上かかって着いたのは、なだらかな平地が広がる空間であった。
「ここは?」
「山中でこんだけ開けてて、平らな場所はそうねぇ。野営に丁度いいだろ。向こうには水場もある。周辺の森に入れば食べられる木の実も多い。そのせいか、魔物とかち合うことも少なくないがな」
「まじか……」
野営場所としてそれは大丈夫なのだろうか?と思うが、まぁそこはラムザに任せているから信用するしかない。魔物のことを除けば、確かに野営にはぴったりの場所だ。
「とりあえず、暗くなる前にやることをやっておこう」
「水や木の実は採取しておきたいな」
「それもそうだが、罠を張ろうと思ってな」
罠か。
やはり多少は使えるようになっておかないと困るかな。
ラムザがそのつもりだったかは知らないが、付いて行ってついでに習うこととしよう。
「今日使うのは、そんなに難しいもんじゃねぇ。メインはこいつだな」
そう言ってラムザがカバンから取り出したのが、ロープ……?の節々に何かが取り付けられた長いひも状の何か。
「取り付けてあんのは簡単な仕掛けだ。こう張っておいて、引っかかると結構大きな音がする」
「ああ……そういう」
「音罠って言われててな、どこでもあるだろう」
「まあそうだな」
たぶんだが。
地球にもその手の仕掛けはあった……と思う。創作の中では何回か見た。罠と言うより、早期警戒装置の類に入るか。
ロープの節になった部分に取り付けられているのは、小さな箱のような細工のようだ。
少し揺らすと、キーンと高音が周りに響く。
「おい、無駄に鳴らすな」
「悪い、こんな音が出るのか」
「北の方で採れる木の実を使ってるらしいぞ。詳しくは知らんが」
「へぇー」
遊ぶのは止めにして、ラムザが木々にロープを結ぶのを手伝う。
その手の仕事は不器用すぎて不得手なので、途中でサーシャさんを投入する。
「おっ、嬢ちゃんは器用だなぁ」
「ありがとうございます」
ラムザが巨体を丸めてサーシャに指導している。
随分楽しそうなこって。
手すきなので落ちた枝を拾い、薪にしていく。
どうせ夕飯時になったら作るだろうからと、土魔法で簡易かまども形造っておく。
そうして野営の準備をしながらしばらくすると、「気配察知」スキルに何かが引っかかった。
「ラムザ、何か来るぞ」
「おう、あそこ見てみろ」
ラムザは、少し先にある水場の奥を見ているようだった。
「……ん? あいつは」
どこかで見たことあると思ったら、ずいぶん前に遭遇したトロールっぽい魔物、グリッツォーである。
でっぷりとした巨体に、目と鼻のないのっぺらぼうみたいな風貌をしている。
……ちょっとラムザに似てる気もしないでもない。
「戦ったことはあるか? 一応、ターストリラの近くにも居るはずだが」
「ある。森を歩いていたら遭遇して、サーシャと2人で倒した」
「ほお、そうか」
ラムザはやや感心気にそう言うと、盾を構えて前に出る。
「やるのか?」
「どのみち、ここで逃したらまた夜に襲われるかもしれねぇ。やっちまうのが早い」
「了解」
それなりに苦戦した気がするが、一度倒した魔物。多少は気が楽だ。
だが、少し異なるのは相手の数。いま見えただけで3体、群れを作っている。
目と鼻がないのに、どうやって仲間を見分けているんだろうね。
ヴアオオオオアア!
先頭にいた一体が大声をあげ、両手を広げる。
気付かれたか。
「行くぞ」
ラムザが短く告げ、巨大な盾を抱えているとは思えないスピードで飛び込む。
それに遅れまいと続くが、こっちも大剣を抜いているので走りにくい……。
右肩に剣を担ぎ、左手は腰辺りで自由にする形で、走る。
左手を自由にするのは、いつでも魔法、特に防御魔法の発動に繋げるためだ。
「おらっ!」
先頭で拳を振り上げ威嚇していたグリッツォーに、ラムザが盾ごとぶちかましを入れる。
……前に見た個体よりは少し小さいように思うが、それでも巨体のグリッツォーが宙に浮き、後ろへ弾かれる。とんでもないパワーだ。
一番後ろで丸太のようなものを手にした身体の大きな個体が、叫び声を上げる。
すると真ん中にいた個体が、ラムザを迂回するように回り込もうとする動きを見せる。
当然、後ろから来た俺がそれを阻止する動きになる。
グリッツォーもこちらの存在を認識し、手を振り上げる。
ラムザと衝突した個体もそうだったが、武器のようなものを持っていない個体は、こうして拳を振り下ろす攻撃をしてくるようだ。
一旦意識を釣ってから、防御魔法で受け流して……と頭の中で組み立ててみたところで、立ち止まったことで並び、左隣の位置にいたラムザが叫ぶ。
「テイク・ヘイト!」
次の瞬間、漫画で「あ、UFO!」とかいって意識を反らすギャグのように、唐突にグリッツォーがこちらから意識を外し、隣のラムザに注目した。
……スキルか。
それなら。
「よそ見してんじゃねぇええ!」
気合い入れの叫びを入れつつ、腹に力を入れて剣で首筋を一閃。
ハッとした様子で首を押さえるグリッツォーに、離れつつのファイアボール連打。
少し下がったまま様子を見るが、燃え上がったまま大きな動きを見せないので、もう一度首筋を突きでだめ押し。
ドシリと音を立てて後ろへ沈む。
おお、美味いこと急所にクリーンヒットだったか。
「余裕が出来たら、小さい方を引き取れ!」
ラムザの声に左前を見ると、ラムザが左手に盾、右手にショートソードを持って二体を相手にしていた。大きな方の丸太打ち下ろしを盾で防ぎ、小さい方の拳はショートソードで往なし、反撃している。数的不利であるが、かなり余裕がありそうだ……。
「一回魔法撃つぞ。3,2,1……」
「おうっ!」
カウントに合わせてラムザがシールドバッシュをかまし、バックステップをして敵と距離を作る。
「ファイアアロー!」
たっぷり魔力を込めたファイアアローをデカい方にプレゼントする。
手をクロスさせるようにして防御したようだが、着弾と同時に爆発し、少したたらを踏んだ。そこに矢が飛来し、首筋に突き立つ。サーシャの弓だ。
あっちはもうラムザに任せるとして。
小さい方は混乱したようにおろおろしていたので、ラムザと位置を入れ替えるようにしながら、ファイアボールを撃ち込んだ。
「ヴオオオ!」
振り下ろしをサンドウォールで受けてみるが、一度受けるだけで簡単に崩れた。
うーん。
「まあ、一度防げるなら良いか」
拳の振り下ろし後の隙を狙って突きを入れる。
腹を斬ったが、グリッツォーもそこで態勢を整えて腕を交差してガードに入る。
首は狙いづらいので、フェイント入れて足元を薙ぐ。
「ヴオオオーゥン」
ちょっと情けない叫び声を上げながら下がる。
こいつ、なんか実戦経験が乏しい感じがするな。
あちらが警戒して距離を取るので、地面に手を当てて土魔法を発動。
少し無理をして、グリッツォーの後ろから小石サイズの土の塊を飛ばす。
俺を注視していたグリッツォーは背後からの攻撃に相当ビビったらしく、飛び上がるようにして後ろを左手で払うようにした。
その隙に身体強化魔法を使いつつ前へジャンプし、急接近に成功する。
隙の大きな敵の首筋に剣を振り切り、離れざまに火球を連打しておく。なんかハマるな、これ。
「ヴオオ……オ」
グリッツオーは無念そうに鳴きながら蹲った。
「終わったぞ」
ラムザの方を見ると、あちらはまだ戦っていた。首筋には何本も矢が刺さり、手足から血を流している。もちろんグリッツォーが、だ。
「援護する」
ファイアアローは誤射すると怖いので、ファイアボールで……いや、フレイムスロウワーが狙いやすいか。
敵の攻撃に警戒しながら、フレイムスロウワーで嫌がらせに徹する。
ファイアアローでやられたからか、火を嫌がる仕草を見せるグリッツォーに、ラムザが盾のスパイクを突き立て、ショートソードの斬撃ラッシュで決着となった。
「ふぅ、こいつ。なかなかやりやがるわい」
「一体だけ武器持っていたし、群れのリーダー的な存在かね」
「そうかもなぁ。ほかの2体が小さかったところから見ると、湧き点生まれじゃなくて繁殖かもしれねぇが」
「親子だったってことか」
「さぁてな」
グリッツォーって、前に見たのも今見たのも全部、ぽっちゃりしたおっさん巨人って感じに見えるんだけど。メスとかいんのかね? まぁいいか。喉を裂き、魔石を取ると死体を埋める。
……小さいのは土魔法も使って頑張って埋めたが、大きな個体が面倒だなぁ。
と思っていたら、ラムザが死体を持って水場に近づき、そのまま投げ込んでしまった。
いいのかね?
「水場にも生き物がいるからな。こうして御馳走を少しやっておけば、俺らのことはあんまり狙わねぇよ」
「……なるほど」
でも、この水場の水は飲むまい。と心に決めた。
飲み水の補給は、湧き水のような場所から取っているから大丈夫だとは思うが……。
夜の見張りはまた、ラムザとドン、ヨーヨーとサーシャに分かれての見張りとした。
能力未知数のドンを経験豊富なラムザに、という組み合わせなのだが、ドンの警戒はかなり実績があるので、片寄っている気もする。ドンはどちらにせよ起きているし危険が迫れば報せてくれるだろうから、いいのだが。
行動する魔物や動物が入り混じる、明け方の方が難しいとのことだったので、せめてラムザ組を後番としてもらった。
夕飯として雑炊のようなものをサーシャが作ったので手早く食い、見張りとなる。
ドンは焚火の前に寝転がり、ラムザからせしめた好物の実を摘まんでいる。
「気配察知に集中するから、サーシャは遠くを中心に動くものがないか見ていてくれ」
「はい」
いつも通りの役割分担をし、焚火から少し離れて座る。
魔物が多い土地だと、火に近づいてくることも多いので、一応少し離れておくのだ。
ドンはお構いなしに座っているけどな。
焚火の周囲に水を入れた小型の鍋を吊るしておき、夜中に冷えたらそれを飲むなり手に持つなりして身体を温める。これもラムザが教えてくれた知恵のひとつ。
ついでに眠気覚まし効果のある薬草で茶など入れるようにすれば目も覚める。
茶というより、温かい青汁といったほうが正確かもしれないが。
じっと耳を澄ませて気配察知を発動させてみるが、これといった動きは見られない。
遠くで何かが動く気配はするんだけどね。
気配察知を発動させつつ……ちょっとだけステータスを閲覧してみると、変化があった。
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(19)魔法使い(13↑)剣士(11↑)
MP 37/37(↑)
・補正
攻撃 F+(↑)
防御 G+
俊敏 E-(↑)
持久 F-
魔法 E(↑)
魔防 F+
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
斬撃微強、強撃
・補足情報
隷属者:サーシャ
隷属獣:ドン
***************************
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(19)魔法使い(13↑)警戒士(8↑)
MP 41/41(↑)
・補正
攻撃 G+
防御 F-(↑)
俊敏 F-
持久 F-
魔法 E+(↑)
魔防 F+
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法
気配察知Ⅰ
・補足情報
隷属者:サーシャ
隷属獣:ドン
***************************
『魔法使い』『剣士』『警戒士』と最近メインで使っていたジョブが軒並みレベルアップである。テンションあげあげ。
そしてサーシャさんが……。
************人物データ***********
サーシャ(人間族)
ジョブ 弓使い(11↑)
MP 7/7(↑)
・補正
攻撃 G(↑)
防御 G-(↑)
俊敏 G+
持久 G+
魔法 G-(↑)
魔防 G-(↑)
・スキル
射撃微強、遠目
・補足情報
ヨーヨーに隷属
***************************
こっちも地味にレベルアップ、そしてステータスの階級アップのフィーバー到来。
きてるわあ。
……。
一応あれだ……、一応、な。ドンの背中を撫でつつステータス閲覧して見る。
************対象データ***********
ドン(ケルミィ)
MP 8/8(↑)
・スキル
気配察知Ⅱ、刺突小強、危険察知Ⅱ(up)
・補足情報
ヨーヨーに隷属
***************************
なんすかドンさん。なんかスキルがレベルアップしてるし、地味にすごくない?
MPも定期的に上がってるけど、どこまでいくんだろ。
まあ、それより考えるなら自分の事かな。
この実践キャンプ?の効果でレベルアップしたのは嬉しい。
時期的にたまたまって線もありそうだけど。
『魔法使い』はもう、よっぽどのことがないと外せないとして、『剣士』だと攻撃と俊敏、『警戒士』だと防御が上昇。どっちも魔法も上がっているが、こちらは『魔法使い』の影響だろう。
それぞれの職種の得意な部分が如実に表われている感じ。
今まで通りの『剣士』と『警戒士』の使い分けで問題なさそうだな。町に帰ったら試してみたいジョブもあるけどね。
そして、『警戒士』のレベルが上がってきたのと同時に、レベルアップのスパンが長くなってきた、気がする。
やっぱり「低レベルほどレベルが上がりやすい」というのは当て嵌まるな。
ゲームなんかでも鉄板だけど。
この辺は色んな人がそれ前提の話をしていたので、ほぼ間違いない仕様だろう。ジョブシステム概論にも何か書いてあったかな? 本で調べた記憶は時間が経って薄くなりつつある。もう一度調べる時間を取るか……。
人に訊く、というのは諸刃の剣だということも分かったしなー、天罰関係で。
戦士団の魔法使い、あほのフィーロとの雑談によると、レベル50くらいが大きな壁らしい。というか、その付近でレベルが上がらなくなってそのまま、というパターンが多い。壁と言うか、終着点と言うべきか。
そこまでレベルを上げると、ジョブや個人によって良く伸びたステータスでC前後、そこそこ伸びたステータスはD位まではいくという。
なので、ステータスDというのが1つの目安ということになるらしい。
その辺の流れなのか、自分の最も高いステータスがD-になったあたりで、一端の存在として評価されたりするんだとか。
ジョブによって伸び方は本当に異なるし、あくまでも目安程度のようだが。
俺のステータスでは……Dはないな。E+まで伸びているのが『警戒士』にしたときの魔法。残念ながらまだ一端の魔法使いではないようだ。
ただ、自分の場合は複数ジョブのおかげでMPがかなり高いはずなので、その辺を加味すれば一人前になりたて魔法使いくらいのステータスと評価できるかもしれない。
人生の途中で転移してきた異世界人としては、上々の位置だろう。
これも『干渉者』の微チートのおかげだが。
……『干渉者』のスキルが異質なのって、やっぱりその辺の調整を含めてるのかね。
異世界人はスタートダッシュでどうしても劣る分、後から頑張れば無双できる素質があるよ、みたいな。
そんなオンラインゲームみたいな調整を誰がするんだよ、と今までなら一蹴するところだが……。「遊び」と考えれば、むしろ自然だよなぁ。
ダメだ、考えても分からんことを考えるのは止めよう。
「遊び」というヒントも、誰の、どういう遊びかが分からないと。せめて「誰の」が分からないと考える程ドツボに嵌っていく気がするわ。不毛だ。
しょうもない考えを振り払って警戒に集中していると、遠くで一瞬夜空がオレンジ色に染まり、ギャアギャアとけたたましい鳥の鳴き声が聞こえてきた。
「サーシャ?」
「……見てみましたが、良く分かりません……。ただ、ここから山頂方面で何か起こったみたいです」
音の罠も反応していないし、たしかに鳥の声も遠くから響く感じに聞こえた。
近くで何かが起こったわけではない……と考えられる。
ドンは身体を起こして四つ足で立ち、鼻をピクピクと動かしている。
気になる感じではあるようだ。
剣を掴んで立ち上がり、臨戦態勢のまま感覚を研ぎ澄ませる。
「ギィー!」
ドンの声がして、少し遅れてサーシャが何かを言った。
聞き返そうとするが、その暇もなく。
上空に巨大な何かが翻った。
――ギャアオオオオオゥッ!
空中で一回転するとホバリングするようにその場に佇む。上空、かなり離れた位置にいるはずだが、その威圧感から大きく感じる。いや、実際に大きいのだろう。
遠近感が狂って、いまいち判断できない。
まるで怪獣のような存在感。
全体的に丸みを帯びながら、鱗のせいなのか鋭利な感じも持つ胴体。
巨躯を支える2対の足は力強く、しなやかな造形。
それらを空に浮かべているのは、巨躯をすっかり包みおおせるような大きな翼。
その姿はまさに、ゲームかマンガのドラゴンのようだった。
顔は恐ろしげな牙をむき出しに、頭の上には角が無数に生えている。
ドラゴンは、翼を広げて向かって左を向いている。星の光を反射し、全身が薄白く光って見える。
目は青く光り、どこかにいる彼の獲物を逃がさぬように睨みつけている。
荘厳で幻想的な姿だ。何かに威嚇をするように吠えたあと、再びオレンジ色の光が流れる。
口からブレスを吐いたらしい。
一瞬熱気がここまで通り過ぎた感覚がある。
錯覚か、現実か。
こっちを向いていなくて助かった。
獲物を仕留めたのか、ホバリングを止めて大きく羽ばたくと、瞬く間に山の奥へと飛んで、姿を消した。
姿が見えなくなると、身体のこわばりが解け、息が荒くなっていることに気付いた。
無意識のうちに自分の息を止めていたらしい。
「……ご主人様」
「ああ、平気か?」
「ええ、まあ」
ドンを見やると、毛を逆立てながらドラゴンの消えた方向をじっと見ていた。
「……おい」
2人用のテントが開き、寝たままの格好に大盾を持ったラムザが警戒した顔を見せた。
テントを2つ建てるのも面倒なので、2人用のテントを貸す形で交代で使うことにしていたのだ。
「今のはドラゴン種か?」
「そのようだ。かなり大きく、白っぽい色で空を飛んでいた……何かと争っていたみたいで、ブレスを吐いてあっちに消えた」
端的に何があったかを説明すると、ラムザはドラゴンの消えていった方向の中空を睨むようにした。
「……白竜か。この辺に出るのは珍しいな」
「強いのか?」
「強いなんてもんじゃねぇな……この山では間違いなく最強格だ。理由は知らねぇが、高度が高いところが好きらしくてな。降りてくるのは滅多にない」
「ブレスを撃ってすぐ消えたから、狩りってわけじゃなさそうだ。もしや、人間と戦ってたのか」
「なくはねぇがな……今この辺に、白竜に挑む馬鹿がいるとは聞いてねぇな」
「タラレスキンドにも近いんだから、挑む奴くらいいそうだが?」
「馬鹿、白竜は下手に手を出すととんでもない被害が出る。軽々に考えるんじゃねぇ」
「……制限があるのか」
「あると思うが、そもそも白竜に挑むなら南の方に行くんじゃねぇか? サザ山にいるのは1体か2体くらいのはずだしな」
「ふぅん」
あれが本物のドラゴンってやつか。
プレッシャーがハンパなかった。今まで見てきた中で最強格の魔物はフェレーゲン……いや、もしかしたら巨大草食恐竜型のレーベウスかな? それらを初めて見たときもプレッシャーと言うか、怖さというものを感じたが、今の白いドラゴンは比ではなかった。まさに格が違う。
「タラレスキンドにいる腕利きを集めても、勝てないような相手か?」
「あん? 狩りたいのか? 止めとけ。トップチームや傭兵団が根こそぎ協力しても、勝てるかどうかって相手だぞ。勝てたところで、逃げられそうだしな」
「そうか……」
とりあえずあれを倒すなんてことは考えなくてもよさそうだ。ちょっと安心。
あれくらい倒せなきゃ一流とは言えないぜ!とか言われたら、魔物狩りの道は諦める選択もあった。





