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【マイルド】異世界 きまぐれぶらり旅~奴隷ハーレムを添えて~  作者: さとうねこ


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10-40 小物

サーシャが毒に倒れ、夜の撤退を強行する。


夜中の行軍だ。

セラは俺たちと付かず離れず、先導して来た道を戻る。

キスティがサーシャを抱え、ルキが護衛。


魔法で周囲を照らしつつ、敵がいたら排除するのが俺の役目だ。

だが、立ち止まって相手にしている時間はない。


「キョキョキョ!」

「邪魔だ!」


樹の上から滑空してくる、腕に膜がある緑色のトカゲのような魔物を強引に弾き飛ばす。

そして空中で方向転換して、セラの方向に急ぐ。


夜になったせいか、来たときには見かけなかった魔物が出る。

夜中に周囲を照らしているので目立ってしまっているのかもしれない。


動きながら気配を探る。新手の反応。

前方上方からの魔物を片したと思ったら、今度は後方だ。


「グゴオオォ!」


口から涎を垂らしながら、木々を上手に避けながら突進してくる、オオカミのような魔物。

群れのようだ、1体ではない。


「うらぁ!」


火球を創り、群れのいる場所にいくつも投げる。

敵は木々を縫うように疾走しているのだ、多くの火球は敵にかすりもせず、樹の皮や地面に当たる。

だが、この攻撃で魔物は俺の存在に気付き、追いかける相手を変える。俺を排除する気だ。


その妖しく光る黄色い眼を見ながら、ノールックで後ろ上空に大きな火の玉を放る。

光源代わりだ。


飛び掛かってくる魔物たち。

逃げることはせず、魔剣を振る。


魔力の奔流が敵を襲う。

ギャン、と悲鳴じみた鳴き声をあげつつ、脱落していく。

運よくそれを逃れた2体が、俺の頭と腹を狙ってくる。


あえて避けず、頭を狙ってきた個体を頭突きで迎える。

遅れてきた腹を狙ってきた個体は、腹当てに牙が滑る。

その隙に、左手に小さな魔剣を創り、横腹を殴るように攻撃する。


自分も体勢を崩して地面に転がるが、その直前にエア・プレッシャーで減速したので大して痛くはない。


まだオオカミ型の魔物たちにも息があるやつはいそうだが、構わない。

少し遅れた分、セラたちを追う。


「主、大きな光は不要だ! 温存してくれ!」

「主様。私は夜目がありますから」


キスティに続き、ルキが言う。

そうか、月が出ている夜ならルキは普通に見られる。ルキの通った後を追うようにしよう。


「それに、月夜であればオーラも使えます。無理に魔物を遠ざける必要はありません」


ルキの声は落ち着いている。


「よし、任せるぞ」


照明を最低限にすることで、魔物に襲われる間隔は長くなった。

少しして、デカい蝙蝠のような魔物が飛び掛かってくる。


「対処します。今ならきっと……」


蝙蝠が向かってくると、まだ遠いうちからルキは剣を振る。

その先からは、三日月のような形の光の塊が飛んでいく。


「ギィアアア!」


蝙蝠の身体が切り裂かれ、絶叫する。

突撃コースから外れた蝙蝠のことは放っておく。


「ルキ、お前それ」

「月光のオーラです」


ルキが前に会得していたスキルだ。

最初は身体の周囲をぼんやりと照らすくらいしかできなかったわけだが、たまの月夜に練習していたのは知っている。

しかし、俺の思う倍は上達していたようだ。


「夜のうちはお任せを。朝になってからは主様頼りですから」

「ああ」


ルキのおかげで、夜のうちは魔力と体力を温存できた。

夜が明けてからも、セラの案内で進み続ける。

小休憩を挟んだときも、皆一言も発さない。

雰囲気が悪いからというより、体力を使うことを避けたいのだ。


サーシャは今の所、具合は悪そうだが意識ははっきりとしている。



そして道中、魔物の襲撃を撃退しながら村に帰ってきた。


入り口の門を守っていた軍の連中にすぐに門を開けさせ、村長の館にサーシャを運ぶ。

サーシャはややぐったりしているが、意識はしっかりしている。


「なにがあったのです?」

「毒だ! 魔物の攻撃を受けた」

「なんと。こちらへ! わたくしが見ましょう」


相変わらず村長の館に居座っているビリー。


「いや、悪いがこの村一番の医者か、薬師に見てほしい!」

「それなら、わたくしです」


ビリーがやや声のトーンを落として、言う。

彼の後ろにいる村人を見ると、肯定するように大きく頷く。


「……分かった。キスティ! 見回りを頼む。もし他に役立ちそうな医者とかいたら、追加でよこしてくれ。セラ! キスティを補助しろ」


これでキスティは他の医者とかを探しに行ってくれるだろう。ビリーを疑うわけではないが……いや、正直ちょっと疑ってはいる。


「さあ、もうよろしいかな? 奥の部屋に寝かしてくだされ。それと、魔物の詳しい情報も」

「ああ」



俺が魔物について詳しく話すのを尻目に、ビリーはサーシャの脈を測り、そして傷を確かめた。

そしてビリーはサーシャと少し言葉を交わすと、こちらを向く。


「おそらくですが……ソロオージュではないかと」

「ソロオージュね。魔物の名前か」

「いかにも。樹上に忍ぶ者とも呼ばれる魔物ですな」

「それで? そいつだったら、治せそうか?」

「ええ、おそらく。解毒の薬を調合してみましょう」

「頼む」


ビリーは奥の部屋に早足で何かを取りに行き、更に部屋のタンスにしまわれていた何かを忙しく取り出す。


「村長の館は、こういうときの薬の保管場所でもありますからな。これで何とか、薬は作れそうですが、確実に効くとは言い切れませんぞ?」

「構わん。副作用とかはあるのか?」

「いいえ、それは大丈夫かと思いますが……」

「なら頼む」

「承知しました」


ビリーは集めた材料をすり潰し、ビーカーのようなものに何かの溶液を入れて、材料を投入する。

そして別の容器では、まあ別のものを混ぜている。こっちはネバネバした透明な物体になっていく。


「これを傷口に塗ってください。さ、こっちは飲み薬です。うんと苦いですが、一気に飲んで」


ビリーはサラサラした方の薬を木のコップに入れると、サーシャの口元に持っていく。サーシャは思わずえずきながらも、薬を嚥下していく。

俺はネバネバした方をサーシャの傷に沿って塗り広げていく。


ビリーに止められるまでそれを続けて、サーシャの様子を見る。

苦しそうな呼吸はかなり治ったように見える。


「……熱いのは、消えました」

「治ったのか?」

「せっかちはいけませんな、隊長殿。あくまで傷口からの症状を緩和したのみですぞ。飲んだ方の薬が上手く効けば、後は自身の体力とステータスで持ち直すと思うのですが」

「本当か?」

「ですが、今晩は様子を見るべきでしょうな。まだまだ予断は許されない状況なのです」


その後、ビリーの指示のもとサーシャの身体を拭き、傷口に何度か薬を塗る。

そんなことをしていると、誰かが部屋に入ってきた。


「おい! 魔物でやられた奴がいるって……」


特に名乗りもせずに入ってきたのは、狩人頭のマフだ。狩りの途中だったのか、鎧姿に巻きつけた紺色の布は土汚れている。


「なんだ、あんたらか」


マフは俺と、寝かされたサーシャを一目見て、小声で明らかにあからさまにほっとした声を発した。

そのことが、自分の中にチリチリとした何かを生んだ。


「てめえ」


マフの外套の首元を掴み、肘を首の反対側に出す。腕で首をロックするようにして、そのまま壁に押し付ける。

マフは虚をつかれたのか、抵抗することもなく、ただ驚いて目を丸くして、こちらを見ている。


「てめえ……俺の仲間がやられたのがそんなに嬉しいか?」

「ぐっ……がふっ」

「そもそもが! てめえらが教えた魔物の情報に、あんな魔物はいなかっただろうが!? 俺たちをハメるために黙ってたんなら……」

「げぼっ!」


腕に力を入れすぎたのか、マフは咳き込むというより、吐きそうな声を出す。


「てめえを殺してやるからな?」

「そこまでで、許してやってください。隊長殿」


後ろから、ビリーの声が聞こえて少し力を緩める。


「げほっ、げほっ……か、勘違いだ……」

「なにがだ?」

「げほっげほっ! 俺も、村の連中も、あんたらに嘘をつく理由はねぇ……なんの、まものだったんだ? げほっ……」

「ビリー、魔物の名前は何だった?」

「おそらくですが、ソロオージュ」


魔物の名前を聞いて、モフはでこにシワを寄せて、困ったような表情をした。


「し、しらねぇ……そろ、おーじゅ?」

「てめえ! ふざけてんのか?」

「し、しらねえんだ! そんな魔物!」

「薬師のビリーが知ってて、狩人がしらねぇだと!」

「ええ、その通りです」


俺の怒号に答えたのはビリーだった。


「彼は知らないでしょう。無理はない」

「なん、だと? どういうことだ?」

「ソロオージュは、この辺には出ません。ずっと西の、公国の方に行かなければ。そう本で読みました」

「……だとしたら、なぜ? お前はなぜ知っている」


ビリーは真面目な顔で返す。


「そりゃ、わたくしが真面目で優秀な薬師だからです」

「真面目で優秀……」

「ええ。村の薬師はわたくしと、もう1人のみ。患者が運ばれてきたとき、わたくしが何も分からないようではその者は死にます」

「……」

「わたくしは見ての通りの小男で、戦いのセンスもない。器用さも人並み以下でしてね。なんとか村の役に立つため、できることは何でもして参ったのですよ。遠くの魔物の情報も集めておくとかね。特に毒持ちは」

「分かった。悪かったな」


モフの拘束を解き、解放してやる。

モフは放心したようにしゃがみ込み、それから頭を振る。


「い、いや。こっちも悪かった、あんたの仲間を軽んじるつもりじゃなかったんだ」

「そうか」


そこで、キスティが駆け込んでくる。


「主! もう1人の薬師というのが、今寝込んでいるそうだが……」

「いや、もう大丈夫だ」

「何っ? まさか」


キスティは慌ててサーシャに駆け寄り、様子を見る。


「息はしているな」

「勝手に殺さないだください」


サーシャの声はまだ本調子ではなさそうだ。


「あー、すまん。サーシャは落ち着いている。誤解を招く言い方だったな。ビリーの薬が効いているから、大丈夫ってことだ」

「そっ、そうか。いや、私には主のもとで皆をまとめるなんて到底無理だぞ! 置いていかれては困る!」


キスティは、がははと笑う。

なんだそれは。

こいつはもともと、地元の戦士団で指揮官をやってたんじゃなかったか。



***************************



サーシャは寝かせたまま、部屋の外に出る。

キスティには警護と見守りを頼む。


「予断は許されないとは言え……落ち着いてきたようで良かった」


ビリーはかき集めてきた薬の材料をまとめて、整理しながら安堵したように首を振った。


「ソロオージュ、だったか。結局どういう毒だったんだ?」

「読んだ話では、ソロオージュに噛まれたりした者は何日も熱を出すそうです。薬を使わずとも回復する者が多いですが、そのまま亡くなる者もいるとか」

「そうか」


サーシャの体力なら回復していたかもしれんが、そんな危険を渡らせる気はない。

もし最初から情報があっても、薬を頼んだだろう。


「さっきからの話を聞いてると、ビリーも実際にこの魔物の毒に対応したのは初めてなのか?」

「ええ。先ほども言いましたが、この魔物は遠く離れた地にしか出たことがありません」

「それでよく、効く薬が分かったな」

「そこは薬師の本領ですな。幸い、症状も効く薬の系統も読んだことがありますゆえ、何が使えそうかは容易に想像できます。ただ、今ある材料から何が作れるかというのが難しいところでしてね」

「そういえば、薬代を払っていなかったな。材料もタダではないだろう」


そう言うと、ビリーは首を横に振った。


「構いませんとも。褒美を頂けるのであれば、あの地下の親子の処刑。その警備を手伝ってはいただけませんかな?」


処刑の警備。

狩人の村であるここで、警備の人手がないとも考えにくい。

……これは、暗に処刑を認めろと言ってきているのか?


「何度も言うようだが、その辺は村の問題だと思っている。警備を手伝うのは良いが、別に褒美として与えるほどではないぞ?」

「構いませんとも。ワタクシにとっては、村にとっては重要なことなのです」

「あの親子の処刑が、か?」


正直、そこまでの重要ごととは思っていなかった。

なんせ、責任者であった村長は既に処されているのだ。その妻や子を処刑することに、どれだけの意味があるのか。


「……今更だが、聞かせてくれるか? 何故、あの親子をそれほどに処刑したいんだ? 正直、あの親子が何を言ったところで、大した影響があるとは思えないのだが。村長になるのに邪魔とか、そんなことか?」

「村長?」


ビリーはこれまでのように、過剰に驚いてみせる。


「このわたくしが? いえ、いえ、ありえません。本気で、村長などになりたいわけではありません」

「では、何故?」

「……この村は、公国に降伏しました。しかしそれまでに被害が出ていないわけではない。分かりますな?」

「公国との決戦に参加した連中は安否が分からないのだったか」

「ええ。それに加えて、斥候との小競り合いなどでも死者は出ております。この小さな村にとっては大きな穴ですぞ」

「なるほど、そうなんだろうな」

「遺族や、親しい者が亡くなった連中はどうなります? 息子や親友を殺した公国の連中が、正義ヅラをして乗り込んできたのですぞ」

「……」

「わたくしはそれを利用しました。普段なら、わたくしの言うことなど、狩人になれなかった落伍者の言うことなど、この村の者が取り合うはずもありますまい。しかし、公国に抗うために……わたくしはそれを、憎しみを利用したのです」

「そういや、公国を追い出すために何かしていたと言っていたか」

「ええ。結局は決起まで至りませんでしたが、密かにその準備をしてきたのです。本当ですぞ?」


すまん。

まるで信じていなかった。


「……しかし、ビリーは村長でもないし、狩人でないと村での発言力は低いんだろう? どうしてそんな、危険な役回りを?」

「わたくしはこの村を、これでも愛しておりますからな。故郷として」

「……」

「わたくしはわたくしなりに、この村のために役に立って……認めてもらいたかった。それが、公国などと言う遠い世界の侵略者が、この村を掠め取ろうとする。戦士であり狩人である誇り高い者たちをまとめるべき村長が、我が身可愛さに村を売った! そんなことが許されるので!?」

「なるほど、な。だが、それがどうして、親子の処刑につながる? 単に許せないのか?」

「無論、許せはしません。しかし、誓って私怨などではない! 分かりませぬか!? ヨーヨー隊長。この村には、わたくしなどより憤っている者がいる。それを放置すれば、きっとこの村は割れる。その元凶はあの女! よそ者で、村長をたぶらかした魔女にある! あの女を殺さねば……もしまかり間違って無罪放免などすれば、村を出る者は片手では収まりませぬぞ」

「……」

「だから殺さねばならないのです。村長に近かった者たちが、妻子供まで殺すことを躊躇っていることもよく分かります。だからこそ、これまで何度も処刑は延期されてきた。ですから今、隊長殿たちがいらっしゃる今こそが好機なのです。彼らも、軍の前で裏切り者を助けろなどとは口が裂けても言えますまいっ!」


ビリーはどんどん早口になり、唾を飛ばして叫ぶように言った。


なるほどな。やっと、こいつのやりたかったことが見えてきた。

大事なのは親子の死というより、処刑したという事実か。

それこそ、隷属術師がいる町であれば、処刑ではなく奴隷にして売るとかでも許されたのかもしれない。

だが、幸か不幸か、この村にはそんな選択肢がなかったと。


結果、あの親子は自分たちが生きるのか死ぬのか、瀬戸際の状態でとどめ置かれてきたわけだ。


「よし、分かった。処刑はやろう。大々的にな」

「! 助力いただけるのですな!」

「まあ、もともと邪魔する気はなかったが。俺たちの手助けがあった方がスムーズにいくなら、もちろん協力するさ、ただ、これはこれとして取っておいてくれるか」


懐から、金貨を一枚抜き出す。


「こ、これは!」

「金貨だ。薬の材料がどれだけ価値があるものか分からないし、何よりあんたの知識への対価だ。これから村も何かと入り用だろう。そっちに使ってくれても良い」

「な、なんと……」

「いらないか? なら……」


村に寄付をしよう、と言う前に、ビリーはさっと金貨を取って懐に入れた。


「い、致し方ないですな。これで拒否するようでは、隊長殿の体面も立ちませんからな!」

「いや別に……」

「今さらなしで、とはいきませんぞ!?」


ビリーは懐に入れた金貨を大事そうに抱えて、奥にすっ飛んで行ってしまう。


あいつ、大物なのか小物なのか……。

更新滞っていて申し訳ないです。シンプルに時間がないやつです……今年もありがとうございました。良いお年を。

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