10-38 心配
地下牢の親子と話した。
翌日、村の者を集め、今後の話し合いを行う。
俺たちとニール曹長たち、ビリーたちの他に、何人かの狩人が車座になり、床に直に座る。
そこには村の運営に興味がなさそうだった狩人頭のマフもいた。
仮にも狩人頭だからと、狩人たちに駆り出されたのかもしれない。
この集まりの前に、ビリーたちや狩人たちから、防衛について今までのやり方を聞いている。ヒトに攻められることは滅多になかった村だが、魔物にはしょっちゅう襲われてきた。
当然、備えをしていなかったわけではない。
魔物が出て来るのは主に、魔の森と地元の者が呼ぶ森からである。亜人もしょっちゅう出るし、今はゴブリンが出る。森と接する裏門には見張りの塔が建てられ、2~3人が見張っている。そのうち1人は、周囲の見回りも兼ねる。
表門は街道に通じており、魔物以外の外的、すなわち盗賊などが襲ってくるならこちらだ。
ただ、この村が狩人の村だということは周囲に知られており、穀物などの蓄えが少ない割に武闘派の住民が多いことも知られている。わざわざそんな村に攻め寄せる盗賊などはそうそういない。
魔物が街道側から流れてくることへの警戒も兼ねて、基本1人が見張りに就いてきた。
この小さな村で、常時見張りを表裏に就けているのはそこそこ負担だろう。
だが、この村には寄親的な町であるリームの戦士団の援助がない。村人がやるしかないのだ。
もともとこの地に集まった狩人たちが興したような村であることもあって、この村には良くも悪くもリームの影響が強くない。
リームの領主のメリジリアへの態度は、「村を認めて、自治を認める。その代わり助けもしない」といったものだったようだ。
メリジリアは狩人組と独自の戦士団を設け、場合によってはリームや他の衛星村に武力を貸し出してきた。ビリーと狩人たちの話を聞くと、この村の置かれていた立場が少し理解できてきた。
小さくて独立しているが、屈強な狩人の供給元でもある。
そのメリジリアが戦わずして降伏したというのは、リームや周辺の村落にとってはまあまあショックだったんじゃないだろうか。
「さて、皆集まってくれ感謝する」
「構いませんとも! 我らはお国のため、何でも協力する所存ですぞ!」
ビリーが息巻いている。
狩人たちはそんなビリーをどこか冷めたような、呆れたような表情で見ている。
「いや、その話なのだが。俺としては村の防備を大きく変えるつもりはない」
「なんと!」
ビリーは大袈裟に驚いてみせるが、別にそんな驚く話でもない。
「今、警戒しなければならないのは公国が再度侵攻してくることだ。つまり、表門の防備だな。ここを強化する必要がある」
「分かりますぞ!」
「だから、表門にはそこのリュズたちを配置する。裏門は変わらず、魔物への警戒が必要だ。そちらはこれまで警戒してきた狩人たちが適任だろう。よって表門に1人、裏門に2~3人の村人の配置は同じだ。俺たちが表門にヒトをやるから、そこは認めてほしい」
「もちろん、もちろん! 狩人頭も文句はないでしょう?」
ビリーはマフに話を振る。
イエス以外の答えを受けるつもりはないようだが。
「構わねぇ。今と変わんねぇなら、俺に文句はねぇよ。もともと、文句付けるつもりはないけどよ」
「なら、あんたは何故参加したんだ?」
思わず俺から聞いてしまう。本当に嫌々連れてこられただけか?
「俺が参加したのは、裏の魔の森のことだ。それを話すために参加した」
「魔の森が? 何かあったのか」
「村の防備の話はもう良いのか?」
「まあ、大枠は。とりあえず魔の森に何かあるなら、その話は先に聞いておきたいしな」
なんせ、俺が強引に湧き点を縮めた?場所だ。
変な影響とか出ていないか、気になる。
「それがな。ここのところ、湧き点が広がる予兆がずっと出てたんだが、どうにもおかしい」
「おかしい?」
「むしろ、湧き点がなくなってんだ。縮んだだけかもしれないが、小川のあたりの湧き点がなくなってる」
「確かか?」
マフの報告に思わずといった調子で聞いたのは、俺ではなく年配の狩人だった。
「ああ、オル爺さん。動物たちの様子を見るに、ここ数日のことだと思うんだが」
「そうか……。珍しいが、湧き点は広がることもあれば縮むこともある。一度広がった直後に、縮んだのかもしれない。今回は幸運だったな」
「ああ。そういえば、軍の……あんたらは、魔の森を通ってきたのだったよな? 森の様子はどうだった?」
「それなら……ニール、頼めるか」
「はい」
ニールに説明を任せる。
湧き点が広がって巻き込まれたような現象が起きたが、その後元に戻ったことをニールが説明する。
「ほう。本当に一度広がって、すぐ縮んだのか……? 今まで、魔の森の湧き点でそんなことはなかったがな」
「そうなのか? ニールは、たまにあると言っていたが」
「それは一般論だろう? 魔の森の様子は、この村の狩人が代々観察してきた。これまで、そんな動きがあったことはなかった」
「ほう。不思議だな」
「実に不思議だ。だが、魔の森のことは俺たちもまだ分かり切っているわけじゃないってことかもな……」
マフは腕を組んで眉を寄せた。
「だが、想定外のことが起こったってことは、今度はまた想定外に一気に湧き点が広がるってこともあり得る。しばらく森の警戒に当たるぜ」
マフは魔の森の異変が気がかりのようだ。
異変の原因は俺です、なんて言えるわけもなし、俺も賛同しておく。
「ああ、それが良い。魔の森は村の狩人たちに任せたい。俺たちは公国の動きに注力したい」
「ああ、それは構わねぇぜ。元より戦争なんて、俺には興味もねぇ」
マフは軍の一大作戦なんてものより、魔の森の様子の方が気になるようだ。
まあ、村人としては当然なのかもしれないが。
「そういえばマフ、お前は公国の斥候を殺したのだろ?」
俺が思い出してそのことを話題に出すと、部屋の空気が固まった。
おっと。
「……なんだ? 今度はあんたらが表彰でもしてくれるってか?」
「表彰? まあ、それを希望するのならニールから軍に連絡してみてくれ」
「いや……不要だ」
「そうか。単に、どうやったのか気になっただけだ。別にあんたをどうこうするつもりはない。敵の戦略とか、何か防備のヒントとかがないかって」
「……別にそういったことに役立つことは話せないぞ。単に怪しいやつを見つけて、誰何したら攻撃されたから……致し方なく殺したまでだ」
敵の斥候を先に見つけて、しかも奇襲の機会を捨てて交戦して、倒したのか。
こいつ、かなり強い可能性があるな……。
「そうか。どのあたりで見つけたんだ? 村からは近いのか?」
「ああ? 山向こうの溜水のあたりだよ。近い、とは思うが……あんたの言う近いが、どの程度かによるな」
「村からどれくらいかかる場所だ?」
「半日はかかる……この辺に詳しくないあんたらが行くなら、丸一日だろうな」
丸一日かかる場所か。
斥候側も、そこで村人に発見されるのは想定していなかったかもしれないな。
「そうか。そこにはこの村の狩人がよく行ってるのか?」
「よくって程は行かねぇな。公国のやつらが来てから、行ってないんじゃねぇか? オル爺さん、誰か最近行ったか?」
「いいやぁ、山向こうまではしばらく誰も行ってないだろよぉ」
狩人たちはこれから魔の森の警戒にリソースを割り振るようだ。
街道がある側に敵の斥候が残っているかどうか、分からないわけだ。
もしかすると、まだ近くに敵が残っている可能性は否定できない、か。
「隊長どの! 村の警備体制は分かりましたが……つまり、今街道を誰も見張れていないわけでしょう? 見張りだけでなく、誰かそちらを探ってみるべきでは?」
ビリーは困ったとばかりに真剣な顔をして、問い掛けてくる。
本当に村を心配しているように見えるが……。
「心配するな。そっちは俺たちが担当する」
「俺たち? というと……」
「俺のパーティ……いや、俺とその部下ってところかな」
「なんと! 隊長どのはここにいてくださるのでは!?」
「いや、俺は会議室にいるのは性に合わなくてな。何、困ったことがあればそっちのニールに言ってくれ」
「むむ! 致し方ありませんな。お言葉に甘えて、ニール殿に相談させていただきましょう」
「何だ、相談事があったか?」
「それはもう! とりあえず、彼奴らの処刑のことですな!」
「彼奴ら、というのは」
「もちろん、地下牢にいる親子のことですぞ! 売国奴の、ね」
こいつは処刑をやはり進めたいらしい。
確かに、来週本当にやるなら今から準備は必要だろう。それ自体は何もおかしいことではない。
「ああ、それか。基本口出しはしないが、一応決まったことは俺にも知らせてくれるか」
「……それはもう、もちろんですとも」
値踏みするような目を隠さないビリー。
やれやれ。
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「主。ニール殿が心配しておったぞ」
各所で確認を終わらせてから部屋に戻ってくつろごうとしていると、キスティが真剣な顔で話しかけてきた。
「ニールが? なんだ?」
「警備体制のことだ。壁は実質的に穴だらけで、裏門に回るのも容易だと報告を受けたのだろう?」
「受けた」
「にもかかわらず、正門以外はほぼ村人に今までどおり警備させるだけ。あれでは抑止にならんと」
「まあな、それは分かる。ただ、こっちも人員が多いとは言えないだろ。今は見た目の抑止を上げるより、正面を厚くして、斥候に力を入れるべきだと判断したまでだ」
「それは分かるが……。主、本当に我らは門の警備に加わらなくて良いのか? 軍の新人連中は正直、アテにはならない。分かっているだろう?」
「ああ」
「……主?」
「このままで良い。分かるな?」
「主。本当にそれだけなのか? 何か、良からぬことでも考えているか?」
「いや……いや。この顔を見ろ。何か企んでるように見えるか?」
「……」
キスティは俺の顔をじっと真顔で見る。
こいつ、真顔だと本当に美人だな。
「……良からぬことを考えているようにしか見えない」
「そうか?」
「別に人相のことを言っているのではないぞ。これでも主の表情は散々見てきた。今の顔は、何か……よくないときのアレだ」
「ははは」
こやつめ。
なかなか言うようになったではないか。
ベッドの上で色々悪巧みを働いたせいかもしれない。
「色々分からないことが多くてな。こういうときは、自分も悪巧みをするのも一興だろう?」
「……分かった」
キスティは胡乱な目をしながらも、頷いた。
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翌日、俺たちパーティは全員が正門から街道へと出る。村のことはニールに丸投げだ。
彼は村人たちともうまくやってるし、俺なんかより適切に差配してくれるだろう。
外に出る目的は公国軍の様子見だ。
丸一日はかかるという山向こうの水場に向かう。
村の狩人に道案内を頼むことも考えたが、今回は俺たちだけで行くことにした。
狩人たちには魔の森の様子見を頼んでいるし、軍の機密に関わるかもしれないから……という名目だが、本当のところは俺たちだけで行動出来るメリットを考えてのことだ。
それに、今は山歩きに定評のあるセラがメンバーにいる。彼女に任せれば、そうそう迷うことはないだろう。





