10-2 名前
拠点としている探査艦に転移した。
光が目に入る。
今度は転移装置のある場所ではなく、船の中に直接転移できたようだ。
「おかえりなさいませ」
ヘルプAIの声が響く。
「ああ、何かあったか?」
「報告すべきことはありません」
ふむ。
今回は白ガキの出迎えもなしか。
「さて。話はまた後で、ということかね」
「ひとまず艦内の見回りをしましょう」
サーシャの提言を受けて、艦内を見回る。
俺、キスティと、それ以外の2組だ。
特に異変は見られない。
「主」
キスティが俺の背中に声を掛ける。
悪い話ではないと良いが。
「どうした?」
「柄にもなく塞いでしまったこと、謝罪する」
「そうか。受け入れよう」
別に気にしなくても良いのだが。
謝罪したいならさせておこう。
「だが、もう大丈夫だ。私は無様に死ぬかもしれんが、死ぬまで主に喰らいつくぞ」
「……そうか。なんか急に吹っ切れたな?」
「ああ。なんというか、いまさっきどうでも良くなってしまった。悩んでいたことが」
「うん?」
「転移魔法というものは伝説的な存在なのだぞ、主。前は発動するのにも苦労していたが、今や……まったく末恐ろしい」
「あーそりゃ、転移は白ガキに貰った道具があってのもんだけどな」
「ふっ。これだからな。私じゃない、主の周りがおかしいのだ。あのモク家の英雄にしても、同じ人間族とは、いや同じ人類とは思えないほどの高みにいた」
「……まあ、あの婆さんは普通とは言えんな」
「私から見たらどっちも似たようなものだぞ、程度の差こそあれ。主もあのようなデカブツ相手によく立ち回れるものだ」
「ああ、ありがとう?」
キスティが何を言いたいのか、はかりかねる。
「ここのところ考えていたのだがな、もし、私が戦いを手放したら、何が残るだろうとな。……何もない。安穏と生き残れたとしても、やりたいこともなければ、やらなければならないことも特にない。私の戦士としての役割は、主家の代わりに奴隷になった時に既に一回終わっているのだ……私は空っぽだ」
「……」
「結局私は、自分が考えているほどの戦士ではなかった。それだけのことだな。今までの想いが偽りのものだとか、そんな話ではない……。もとより主たちのような存在と比べて考えたのがおかしかったのだ。単なる田舎戦士家の娘にしては、むしろ良くやっている方だろう? 思い返してみれば、ガルドゥーオンを前にした私のように、魔物を怖がっている連中は沢山見てきた。その気持ちがやっと分かっただけのことだ」
「……良く分からんが、前向きになれたということで良いのか?」
「前向きというべきかは分からんが、まあそうだな。目標は出来た。名のある戦士になるという、過去の夢は忘れる。私が目指すのは主たちの領域に付いて行くことだ」
「ふむ?」
「だが今のままでは足りない。圧倒的に足りない! あの恐怖は、ある意味正常な物差しだ。ただ腕力が強いだけの戦士では、主が臨む戦いの支えにはなれんだろう」
「そうか?」
己の力不足を悟ったということだろうか。
しかし、キスティは真面目で鍛錬も欠かしていないし、決して弱いとも思わないのだが。
ガルドゥーオン戦みたいな、力比べの勝負にもならないような相手だと相性が悪いだけで。
「主たちを見ていて分かった。図抜けた何かを掴まねば、いずれ足手まといになるだろう。ルキなどは加入してから、ぐんぐんと防御スキルの腕を上げている。主も、ルキになら安心して守りを任せられるだろう?」
「ああ、まあ、確かに」
「サーシャ殿も、アカーネも、アカイトすら、図抜けた何かを掴みつつあるように思う。私だけがいつまでも、戦士家の娘から抜け出せていなかった」
「お、おう」
サーシャは確かに才能が爆発していることがあるし、アカーネは最初から頭のねじが飛んでいるところがある。だが、アカイトにまで劣等感を持っていたとは。
あのアカイトだぞ?
「ただ基礎が出来ているだけでは限界がある。やはり、スキルを極限まで使いこなしてこそだ。そのためには魔力操作も、ある程度はできるようになるべきなのだろうな」
「まあ、魔道具が使えるようになれば、装備に頼ることもできるからな。やって損はないと思う」
「その通りだ。何でもやるぞ。ここまで来て、私だけ置いて行かれるなど……つまらなすぎる!」
「ああ。その意気だ」
結局良く分からなかったが、キスティが復活したようだ。
いつもの調子に戻ってくれたら、気まずい雰囲気で過ごさなくて良くなる。
いいぞ。
「ついては、まずは『再生』のスキルについて検証したい。主、あとで付き合ってくれ」
「ああ、良いが……何をする気だ?」
「そうだな。まずはスキルの効果でどこまで再生できるかを把握しなければ。腕を少しずつ刻んで貰って、再生してみるとかな」
「……」
なんかヤダわ。
が、せっかく前向き?になってくれたキスティの出端をくじくのも良くない……か?
「ほ、ほどほどにな」
「遠慮はいらん! ガッといってくれ!」
「あ、ああ」
キスティを刻むのはアカイトにでも任せるか。
復活したキスティと今後の鍛錬について話しつつ、見回りを終える。
怪しい人影などはない。
「ご主人様」
デッキに戻るとサーシャが待ち構えていた。
「なんだ?」
「先に例の超越者様とお話ししますか?」
「いや、あいつが急いでたら出てくるだろうし、待ってれば良いと思うが」
「そうですか、それでは港都市の家に行きませんか?」
「ああ、確かに。ジグに話もあるし、様子見に行くか」
「はい」
持ち帰った魔石や素材で早速実験を始めているアカーネ、キスティとキスティの鍛錬に付き合わせる予定のアカイトは置いていこう。
ひとまず俺、サーシャとドンで東に転移する。
ひと昔前を思い出す、懐かしいメンバー構成だ。
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転移し、地下一階に顔を出す。
ジグは留守かもしれないと思ったが、合図を聞きつけて犬耳のゲゲラッタ、次いでジグが集まってきた。
「ヨーヨー様、おかえり」
「ああ、ジグも留守番ご苦労だったな。変わったことはあったか?」
「大きなことはあんまり」
「それなら良かった」
こっちの情勢は落ち着いてくれたかね?
「ちょうど昨日、エモンド商会がヨーヨー様に会いにきてた」
「昨日? タイムリーだな……」
「急いでいたみたい。直接話したいって」
「ほう。なんだろな」
白ガキが接触してこなければ、先にそっちに行ってみても良い。
「昨日話せなかったから、また3日後に来るって言ってた」
「む。そうか」
こっちから尋ねても良いが、呼んでいる本人が不在の可能性があるな。
「ちなみに呼んでたのは誰か分かるか?」
「会長」
「……間違いないか?」
「うん、会長のテッド・エモンド本人が来てた」
「マジかよ」
急いでるだけでなく、重要な案件らしい。
しかしエモンド商会の重要案件で、依頼先が俺となるとなんだろうな?
魔物素材とかか?
「まあ、先にこっちの話か。ジグ、ちょっと良いか」
ジグを地下室の端っこに連れて行く。
「あー、悪いが他のやつは一旦出ていてくれ」
「はい、行きましょうゲゲラッタ」
「はい」
皆が地下室から出たのを確認して、ジグの前に座る。
「実はな、ジグがいたオウカの里ってあるだろ。あそこの支配権を要らないかと打診されている」
「オウカの? ……どこが打診してる?」
「クダル家だ」
「復興もヨーヨー様に丸投げ?」
「いや、そこは引き続きクダル家が責任を持ってやってくれるみたいだ」
「……。なら、目的はヨーヨー様の取り込みか、そうでなくても名前の利用。注意すべき」
「そうだな、そういう面はあるだろうが、逆に言えばあそこに俺たちの拠点を作るチャンスでもある。ジグはどう思う?」
正直に言ってしまえば俺はどっちでも良いのだ。
どっちも良い面と悪い面がある。
なら、優先したいのはジグの考えだ。
「……オウカの里を復興させるとか、そういうのはどうでもいい」
「そうなのか?」
「霧降りの里は無茶苦茶なことをしたし、嫌い。でもオウカのヒト達が好きってわけでもなかった」
「そうか……」
「気にしてくれて、ありがとう。そして、オウカの里とか関係なく、あそこが欲しいかと言われたら、ちょっと欲しい」
「ほう? 理由を聞いても?」
「拠点作りをしてみたいから。ここの家も楽しいけど、やっぱり領主とかの支配権の範ちゅうでしか動けない」
「ああ、なるほど……」
「でもその程度。いっぱいお金がいるとか、ヨーヨー様に大変なことがあるなら要らない」
「ふむ……そういうことなら、サーシャやキスティとも相談して決めるかねぇ」
「うん」
結論は出なかった。
が、ジグがそれほど故郷に固執していないということが分かった。これも大きい一歩だろう。
それに、支配者として俺ではなく、ジグにやって貰うというのもありだな。
俺は自由にフラフラして、仲間に拠点を持ってもらう。いいかも。
「ヨーヨー様、その話が終わりで良ければ、ゲゲラッタの番、良い?」
「ゲゲラッタか。なんかあるのか?」
ジグは冷静な表情のまま、すっと目を細めた。
「名前。付けてあげるんでしょ?」
「あっ」
「え?」
「……」
「……」
「そうだな、そうだった。もちろん考えてきたぞ」
つい圧に負けてしまう。
「ふぅー。また今度にする?」
「い、いや。呼んできてくれ」
大丈夫だ。
それと知って顔を見ればなんか出てくるはずだ。
間違いない。
「ゲゲラッタ、入ります!」
ゲゲラッタが地下に再度呼ばれて入ってくる。
「うむ」
「そ、それで……」
「名前だったな。考えてきたとも」
「ありがとうございます!」
ゲゲラッタを見つめる。
丸っこい顔に、犬耳が垂れている。
マル……いや。
ワンコ……いやいや。
見た目はダメだな、内面的なこと……は大して知らないので、彼の役割的なことから。
ケービイン……ケビン?
いや、なんか似合わんな。
もっと和風が似合うかも。
「い……マ……」
「イ? マ?」
家を、護る。
みまもリーヌ。だめすぎる。
アルソ……だめだめ。
「イエモン、だ」
「イエモン? 不思議な響きですね」
「ある言葉で、家を護るもの、みたいな意味だ」
「へぇー! 良いですね! イエモン、気に入りました」
「そ、そうか」
ふぅー。
和風を通り越して時代劇みたいになってしまったが、まあアリだろう。
ゲゲラッタ、じゃないイエモン本人も気に入ったっぽいし。
「あー、一応候補をあげたが、気に入らなかったなら再度考えて来るぞ?」
「いえ、大丈夫です! イエモンが良いです」
「ああ。しかし、しばらく考えてやっぱりしっくり来なかったら言うんだぞ」
「はい!」
疲れた。
異様に疲れたぞ。
「しかし、名前を付けたからといってステータスに反映されるわけではないよな。何か手続きが必要か?」
「通常はそうですが、今回は不要」
横からジグが歩み出る。
「お?」
「私のスキルで名前変えとく。イエモン、ちょっと付き合って」
「あ、はい!」
ジグが「誓いの儀」でイエモンに改名することを宣言させる。
どれどれ。
*******人物データ*******
イエモン(獣耳族)
ジョブ 守護者(5)
MP 10/10
・補正
攻撃 N
防御 G+
俊敏 N
持久 G-
魔法 N
魔防 G-
・スキル
防御強化
・補足情報
ヨーヨーに隷属
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おお、変わってる。
『守護者』もレベル5まで上がっているが、スキルは変わらないようだ。
レベル5なら、そろそろ何かスキルを会得しても良さそうだ。
「この後はどうされますか? 旦那様!」
「あー、イエモン。旅で疲れてるからな、今日のところは戻って寝る予定だ」
「部屋をご用意しますね!」
「いや、すまんが別のとこで宿を確保していてな。また今度来るよ」
「そうですか? 分かりました」
すぐに転移で西に戻る。
魔物と戦っている時より緊張したぜ。
やり遂げた満足感とともに床に入る。
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「やあ」
いつもの空間。
今度は促される前にソファにどっかり座り込む。
「やっと来たか」
「おや? お疲れかい?」
「まあちょっとな。で? この呼び出しは……」
「うん。依頼について話そうと思ってね」
きたか。
そのときが。





