9-20 救援
ヒュレオに呼ばれて、依頼の説明を受けに行く。
最初に会った時と同じ部屋で、砦の主であるイェン様を待つ。
イェンはまた、鳥顔の副官を連れて部屋に入ってきた。
「ご苦労。ヨーヨー、だったか」
「ああ」
「聞いた話では、ヒトツメを圧倒し、魔法の腕も確かとか」
「それほどでもある」
「ふむ。流石に腕はあるということだな。そこのアード族から、同行の推薦があってな、私としては腕が立つなら問題はない。詳しくはシェルから聞け」
イェンは手を振って後ろの鳥顔に説明をパスした。これならこいつ要らなかったのでは?
イェンより前に出てきた鳥顔ことシュルシエルが説明を引き継ぐ。
「まずは前提を説明しよう。今回の依頼がそちらの雲のから推薦されたものであることは理解した?」
「ああ」
「そう。では雲のが抱えてる任務を手伝うのが依頼ということは分かるでしょう。ではその依頼が何か、という話になる」
「ふむ」
「雲のが任された任務は、モク家への増援だ」
「ほう、モク家への。ん?」
モク家との戦いの増援ってことか?
「モク家への増援です。理解した?」
「いや、すまないが……モク家は、クダル家に対抗しているのではなかったか?」
「その通り、していた。しかし今回は増援を送る」
「……なるほど」
分からないが、飲み込もう。どうせ説明を聞かないと分からないのだから。
「目標はモク家の前線部隊の救援にある。最低限、前線でそれなりに役に立ってみせることが依頼の達成条件になる」
「敵は?」
「魔物だ」
「まさか……」
リックスヘイジで聞いたモク家の噂を思い出す。
「おそらく想像通り。モク家は既に大型の魔物に多くの拠点を荒らされ、対魔物の前線を大きく下げている」
「……」
「モク家とは争ったこともあるが、憎んでいるわけではない。それに、あの誇り高いモク家の方から我らに救援要請が来るなど、初めてのことだ。我々としてはこれに応じ、今後の対話の糸口としたい」
リックスヘイジで傭兵を軒並み北に勧誘していったモク家だ。
恥を偲んで、政治的に溝がある周辺の勢力にも協力依頼を出したのかもしれない。
ダメ元だったのかもしれないが、クダル家の連中はそれに乗るつもりだと。
「そんな大事な任務に、何故俺を?」
「ふむ。正直に言えば、モク家の救援は優先事項ではない」
「本当に正直だな……」
「リックスヘイジの西では新しい湧き点が猛威を振るっている。とてもじゃないが、他の勢力の救援に全力を傾けられる情勢ではないことは分かるでしょう? だが、半端な実力の者を送っても、むしろモク家の足を引っ張りかねない。それなら送らない方がマシだ」
「いなくても良いし、そこそこ腕が立つ存在。なるほど、俺の使い道として丁度良いってか?」
「そうとも言える、ただ今回の依頼はあくまでそこの雲のの推薦。我々としてはその提案を受けたまで」
そういえばヒュレオの推薦だったな。
「ヒュレオ。今回のその任務、どれだけ危険か分かってるのか?」
「いーや、正直わからん! ただ、死ぬほど魔物と戦えそうだし、もしかすると……大型の魔物と一戦を交えるかもしれないねー」
「大型の魔物って、そんなにヤバいのか?」
「まあ、その辺で出てくるちょっと大きいくらいの魔物とは存在感が違うね。ガルドゥーオンは」
「ガルドゥーオン?」
「……あっ。言っちまった!」
ヒュレオは口に手を当てて黙る仕草をした。
口を滑らせたようだ。
「はあ、雲の。お前がその調子では困る」
シュルシエルがため息を吐く。
「まあ、いずれ分かることだ。ヨーヨー、今の話はここだけのことで頼みます」
「ああ。で、そのガルなんとかはヤバいのか?」
「……巨大な怪獣のような魔物でな。戦士が束になってかかっても軽くあしらわれたりする」
「失礼だったらすまないが、ここの砦の連中でも歯が立たないか?」
「さて。砦の主力がいれば返り討ちにしてやりますよ」
主力がいないと危ないということか。
「モク家の戦士連中にも会えるし、奴らと肩を並べて大物狩りってのは中々できない体験だぜ?」
ヒュレオがアピールしてくる。
ここで仮に大物を放置すると、どうなるか。
北にあるというモク家の勢力圏が魔物で溢れたら……、リックスヘイジは勿論、霧降りの里やその周辺、探査艦の近くも危うくなってくるか。ラキット族の隠れ里もヤバいかもな……。
ただ、俺は皆で転移ができるようになったら、探査艦に戻っておきたいのだ。長期で拘束となると、どうだろう。
「期間は? あまり長すぎると困るのだが」
「そう……、あっちで1週間くらいは活動してほしい。その後どうするかは、雲のと話して決めてくれて良い」
「1週間か」
「先方から要請されている期間もその程度だから。もし問題なく1週間活動できれば、それだけで朱貨を報酬として用意しよう」
……朱貨?
「ヨーヨーちゃん、あんまり馴染みがない? とっても価値が高い通貨よ、ソレ。マジで」
反応が薄い俺を見かねてか、ヒュレオがフォローしてくれる。
「そうか。大貨何枚分くらいだ?」
「時期とか場所とかにもよるケド、50枚くらいじゃね? 合ってる? シュルシュルちゃん」
「概ねその程度かと」
シュルシエルも首肯する。
キュレス周辺で言うところの銀貨以上の価値がありそうな大貨が50枚も。
確かにかなり大金っぽい。
「一度仲間で話し合いたい。持ち帰っても?」
「良い。でも急いで。人員の確保ができ次第出立予定ですから」
「分かった」
ヒュレオとシュルシエル、イェンはこのままこの部屋で作戦会議をするらしい。
俺は自分たちの部屋に戻る。
部屋で、従者たちと円になる。
もちろん、周囲には遮音の魔法も張っている。
「さて、どうすべきだと思う?」
「北に行って魔物退治か。危険があるのは言わずもがなだが、良い経験になるのではないか?」
早速賛成の意を示すのはキスティ。
彼女はもともと戦士家の娘として魔物退治に勤しんできた人物だ。
それが赤の他人の領地だろうと、魔物退治への協力はやぶさかではないようだ。
「新しい土地に行くのはワクワクします」
「拙者も賛成でござる! 魔物は倒すべきゆえ」
ルキとアカイトも前向きと。
「うーん、ボクはどっちでも良いかなー。ここでまったり魔道具作ってるのも良いんだけど」
アカーネは中立。
まあいつも通りと言えばいつも通りの分布だ。
「サーシャはどうだ? 危険があるし、反対か?」
こういう時、現実的に考えてストップを掛けてくれるのはサーシャだ。
「いえ、受けるべきかと」
「意外だな」
「今回の旅の趣旨は、今後のために強くなることです。大型の魔物との戦いを学んでおくことは悪くありません」
「そうか?」
強くなりたいのは、主に対人戦だったのだが。
まあ大型の魔物との戦いを経験しておくというのも悪くはないか。
「それに……北の地で人類が大きく後退した場合、我々の活動拠点や周囲の里にどんな影響があるか、分かりません」
「やはりそこか」
活動拠点、とサーシャは濁して発言したが、次元探査艦のことだろう。
あそこの周りが魔物だらけになるのはちょっと辛い。
「正直に言えば、このタイミングでご主人様がここにいるということに、何か運命めいたものも感じております」
最後に予想外の角度できた。
「運命だって?」
「ご主人様が気にされることはありません、私が勝手に感じていることですので」
「そうか」
こっちに来て、魔王と戦えとか言われなくて良かったと思っていたが。
言葉の通じない、巨大なバケモノと戦えという運命だったら、果たしてどっちがマシなのか。
白ガキの依頼ってのも、案外こういうことだったりして。
「では依頼自体は受けるとしよう。危なくなったら全力でバックれるぞ」
「「はい」」
転移の練習、死ぬ気でモノにしないとな。





