9-16 共通語
アード族の若手たちと模擬戦をした。
そしてヒュレオのジョブも聞いた。
『ごろつき』だという。
変にジョブを変えるよりも1つのジョブを極める方が強かったりする、というのは知識として知ってはいたのだが。
『ごろつき』みたいなジョブでも、当てはまるもんなのか。
「なあ」
「ん? お前は、マージだったか」
ヒュレオと入れ替わるように近付いてきたのは、最初に攻撃した弓使い。
「あんたのジョブは一体なんだったんだ?」
「知りたいのか? 戦っている時に『魔剣士』だと言ってたように思うが」
「そう思ったが……それにしちゃあおかしい所もあったしよ。俺のジョブと引き換えでどうだ?」
「等価交換ってことか、まあ良いぞ」
話を受けて、マージが話すのを待つ。
こいつは模擬戦中、俺の動きを止めたりしてきた。そのジョブとスキルはちょっと気になっていたのだ。
「……俺から言えって? 俺ぁ『乱弓士』だ」
「『乱弓士』?」
「なんだ、知らねぇの? ま、ちょっと器用な『弓使い』みたいなもんさ」
デバフスキル持ちの『弓使い』ってところか?
「それで、あんたは?」
「ああ、悪い。俺は予想された通りに『魔剣士』だよ」
「は? チッ、聞き損かよ」
「普通の『魔法使い』や『魔剣士』らしくない戦い方をしているのは自覚している。うまく魔法を使えば、色々できるってこった」
「そうかよ」
「ああ、少し待ってくれ」
マージが話は終わりと帰りかける雰囲気を察して待ったをかける。
「なんだ?」
「お前らもヒュレオに付いて魔物狩りに来るんだろう?」
「負けちまったし、そうなるな」
勝ってたらマジで来ないつもりだったようだ。
ヒュレオの人望も残念なレベルだ。
「魔物狩りに出るのにも少し用意に時間がいる。その間、俺の後ろの仲間とも模擬戦してくれるか」
「ああ?」
マージは俺の後ろにいるサーシャ達を睨みつける。
「あいつらは強いのか?」
「それなりにな。お前らとどっちが強いのかは良く分からんが」
「……ま、構わんぜ。どうせ組まなきゃならんなら、腕の方も多少は知っておきたい」
「そいつはありがたい」
後ろを向いて、サーシャ達に「こいつが、他とも模擬戦して良いってよ」と伝える。
「本当か?」と目をギラつかせて喰いついたのはキスティだ。
「うちの狂犬がやる気のようだぞ」
「……共通語か?」
「ん?」
マージが呟くように何か言った。
「そっちのオンナと話してた言葉だよ。響きが共通語みたいだが」
「良く分かったな。そうか、この辺でも教会関係者は使っているのだったか……」
どこかでそんな話を聞いたはずだ。
この辺では通じるヒトがいないからこそ、仲間内での会話で便利に使ってしまっているが、教会関係者とか分かるやつが居るかもしれないというのは注意すべきかな。
「あんた、聖軍の関係者か?」
「はあ?」
「坊さんには見えねぇし、腕の良い魔物狩りなんだろ?」
「……」
……なるほど。
教会関係者が使うという共通語で喋る集団。
しかし司祭とかではないとなると、教会に近い組織と思われる。こういうわけか?
聖軍と教会がどういう関係なのかは分からないが、「聖なる戦い」を掲げているくらいだから、教会と関係があっても驚きはない。
あれ?
これ、マージのみならずランディカ様とかにも、聖軍関係者と思われている可能性があるか。仲間内では普通に共通語で喋ってたし。
そう言えばランディカ様も、謁見した際に聖軍がどうとか言っていたような……。
急に、色々なことが繋がったように感じる。
肯定すべきなのか、否定すべきなのか。
現状では仮に誤解されていたとしても、そう悪くない状態ではある。
当初の目的であった修行はできそうだし、この辺の魔物に詳しい連中と魔物狩りに参加できるのも悪くない。
いったん黙っておくべきか。
聖軍じゃないなら、じゃあ何者なの?とか言われたら、それはそれでやぶ蛇だし。
「お偉いさんが好きそうなハナシだぜ」
「聖軍はお偉いさんたちにウケが良いのか?」
「そうじゃねぇのか? 真面目な方はな」
「……そうか」
真面目な方ってなんだ?
「悪いが、俺は別に好きでもなんでもないぜ。アンタらのケツを俺たちが拭いてるんだからな」
「そうか」
もう「そうか」以外に言えなくなっちゃったわ。
言ってることが半分も分からないんだもの。
こういう小さな嘘と誤解が、悪い方、それも致命的な方に転ぶこともあるということはこの前、元聖軍に殺されかけたことで思い知ったのだが。だからといって、勝手に相手が勘違いしたことをどうすべきか、判断が難しすぎる。
「で、そっちのオンナどもの種族は?」
「色々だ。人間族とかだな」
「犬猫人系はいないってことでいいか?」
「ああ、それはいないが……」
ルキはウサ耳を持っているが、犬猫ではない。
そもそもこの辺で「犬猫人系」と言えば、獣耳族系統ではなくガチの犬猫に近い顔面を持ってる種族だろうし。
「そりゃ良い。アンタもヒュレオのアニキと付き合ってくつもりなら、気をつけな」
「? 何をだ?」
「……アンタ、アード族のことはどこまで分かってる?」
「いや、お前らの種族ってことだけ知ってるが、種族の特徴とか、歴史とかはさっぱり」
「世間知らずってか、なんつうかね。アード族ってだけで、その辺の犬猫人系の種族にとことん嫌われてるって思っておけ」
「そいつは大変そうだな」
アード族の先祖が何かしたんだろうか。
あるいはヒュレオのせいか。
「ふん」と鼻を鳴らして、マージは歩いて行ってしまう。気分を悪くしてしまったか。
「何をしてる? 戦うんだろう」
違った。模擬戦用の武器を拾いに行っただけだった。手には鞭。痛くない素材になっているのだろうが、鞭というだけで素肌に当たったら痛そうだ。
あんまり模擬戦向けの得物ではないな。
「キスティ、やるか?」
「よしきた!」
「あいつは弓と鞭を使う。サシでの勝負なら鞭になるだろう」
多人数戦であれば弓使いもそのまま参加したりするのだが。
1対1でそれをやっても、あまり意味のある訓練にはならない。
だから弓使いもサブウェポンに持ち替えて戦うのが普通だ。魔法使い相手とかなら、また違うのだが。
「珍しい得物だ。面白い!」
キスティは立て掛けてある模擬戦用の武器から重くて長い棒を選び、担ぎ上げる。
せっかく地ならしをしたのに、キスティが暴れたらまた直さなきゃならんかもな。
キスティとマージの一戦は長引いた。
力で押し切るのがキスティの本領だが、鞭相手に合わせても、相手は体勢を崩したりしない。
そして模擬戦のルール上、鞭の一撃をダメージ覚悟で喰らうという選択肢も取りづらい。
マージはキスティを牽制しながら、巧みに距離を取った。
それでも、終始キスティが押しているように見えた。
鞭というサブウェポンを選択していることもそうだが、マージは直接的な攻撃力より、まずは相手の動きを止めて優位を築くタイプに見える。
しかし、キスティは脳筋速攻タイプだ。多少牽制されても、臆せずに踏み込む。それでいて、致命的な隙は作らないように動き回るのが上手い。
つまり相性が良いのだ。
マージは壁際に追い詰められたところでキスティの猛攻を防げずに敗北した。
「チッ。今日は厄日だぜ」
「自分とも戦ってくれる?」
マージが嘆く間もなく、パッセが次の模擬戦に立候補する。もちろんキスティはやる気だ。
パッセに乗り遅れたリオウも、興味はありそうだ。邪魔にならないくらい離れて、ルキと戦って貰うか。
この調子なら、なかなか良い訓練期間になりそうだ。
パッセとキスティの戦いは、辛うじてキスティの勝ち。
キスティは連戦の疲れもあって、パッセの槍さばきに苦戦した。
しかし、パッセが地面からバインド系の魔法を使い、キスティを拘束しようとしたところを強引に突破し、逆に一撃を加えることができた。
俺との戦いでは不発だったが、パッセが「土魔法」か、それに似たスキルを使えるのは間違いないだろう。普通の相手であれば、いきなりバインドを仕掛けられれば隙ができるかもしれない。
ところが残念ながら、キスティは俺の魔法の練習台にもよくなっているせいで、半端なバインドを喰らっても動揺しない。むしろ咄嗟に突破しようとするだろう。
それを差し引いてもパッセはやはり、槍の技術に長けている一方で、スキルの使い方がお粗末な気がする。
リオウとルキの戦いもルキの勝利。
こちらはリオウの剣技をルキが完封して、圧巻の勝利だった。
リオウの剣自体は、かなり鍛えられている方だと思う。
ただ、無駄に動く割に、狙いが見え見えの事が多い。ルキのような防御重視タイプを抜くのは結構辛そうだ。
その後にサーシャ、アカーネとも戦って辛勝していたので、弱くはないのだろう。
後衛相手の勝利だが。
ウチのメンバーで圧倒的に負けたのは、1人だけ。
アカイトだ。
パッセとマージに挑み、そして散った。
動き回ってかく乱するのは良いのだが、なにせ武器のリーチが違いすぎる。
パッセもマージも、槍と鞭で距離を活かした戦いが身に付いており、アカイトを懐に飛び込ませなかった。
焦れたアカイトの踏み込みを読み、一撃を加えて終戦だ。
1対1でそれなりの実力者が相手だと、アカイトは厳しいな。
こいつは乱戦でこそ輝く気がする。
さて、数日間は準備と模擬戦をしつつ、目標となる魔物の情報収集をして対策も練った。
俺とヒュレオが受けた依頼は魔物の討伐。
その名も「腕人」。
亜人の一種とされ、人間っぽいフォルムだが、知能は低い。身長は2メートル以上で、異常に発達した右腕と鋭い爪が主な武器だという。
近接攻撃しか武器がないなら戦いやすそうだが、身体をツタのようなもので覆っており防御力が高く、力もかなり強いため相当な難敵だという。
まず群れることはなく、単体を相手にできるのは朗報だ。
ヒュレオたちだけだと突破口が開けず、かなり苦戦するらしい。
しかし、魔法で攻撃して体表を覆うツタ的なものを壊せると、そこから剣や槍の攻撃が通るようになる。
俺の魔法を当てにされているというわけだ。
数日後、腕人の出没情報が入り、俺たちは砦を発った。





