5−36 軍隊
拠点から、更に地底湖を右に見ながら奥に進む。
途中で真っ直ぐ進む道は水没するので、左に曲がってしばらく進んだ後、今度は右折。
そこに背をかがんでやっと通れるくらいの高さの、下りの通路がある。横幅は広いのだが、次第に狭くなっていく。
奥まで進むと、坂が急になって、一気に空間が広がる。
その直前で止まり、先を窺う。
この通路もキノコは生えておらず真っ暗だが、先にあるという広い空間からも光は漏れてこない。
移動中は俺の火魔法で最低限の光を確保したが、既に消しているので本当に真っ暗だ。
自分の存在が闇に溶けているようで、本当にダンジョンにいたのだっけという感覚に陥る。
気配探知を発動する。
……いるな。
コツコツと、2回床を叩く。
この暗さでは、ルキは夜目が利くので別として、サーシャたちには手信号をしても伝わらない。暗闇でのコミュニケーションのために、取り決めておいた合図だ。
1回は敵なし。または問題なし。
2回は敵あり、作戦通り。
3回は想定外の事態。または問題あり。
4回は緊急事態だ。
後ろから、それぞれ1回ずつコツ、という音が帰ってくる。準備OKだ。
サーシャが手探りで、縄を握らせてくれる。
サーシャが固定して、下に垂らしているはずの縄の一部だ。
最初に降りるのは俺だけ。
想定外の苦戦となったとき、二段ジャンプで上に素早く帰って来られるのは俺だけだからだ。
もしそうなったら、サーシャたちも支援してくれるだろうから、大丈夫なはずだ。大丈夫だと信じる。だから、余計な力を抜いていこう。
戦いの火蓋はアカーネが切る。
その瞬間を待って、目を瞑る。
まだか。まだか。
カッカッカッ……
何かが跳ねて落ちていく。
同じように、二つ目の物も落ちていく。
縄を握る。
チチチチ、と音がして、瞼に光が差し込む。
ギュッと強く目を閉じて、心の中で3秒数える。
3秒経つより少し前に、光が消えたので、火魔法を発動して飛び降り体勢になる。
かん高い、悲鳴のような声が下から響く。
よし、効果はあったようだ。
縄を握って、目を開けながら飛び降りる。
何度か縄を握り込むようにして、減速する。
残り数メートルほどとなったところで、手を離す。
足を強化しながら、着地する。
ややバランスを崩すが、すぐに攻撃が飛んでくることもなかったので、立て直す。
火魔法の光に照らされたスドレメイタンたちは、全部で5体。2体は明らかに小さい。
その全てが、目を押さえるようにしてのたうち回っている。
アカーネに頼んで、作って貰っていた魔道具。
短時間でいいので、発光量をマシマシにしてもらった光属性の改造魔石だ。
暗闇に慣れているのなら、閃光弾はよく効くだろうという思いつきだったのだが、想定以上に効いている。
直前、昨夜の作戦会議でルキに提案されて取り入れた、先に石で音を立てて、注意を惹いておくという作戦が功を奏したかもしれない。
石と同じ場所に投げ込めば、石を見ていたスドレメイタンは後からきた閃光弾を直視してしまうわけだ。
まだこちらに気付いているのかも怪しいスドレメイタンとの位置関係を、改めて把握する。
最も近くにいて、頭を抱え首筋を晒しているスドレメイタンに、強撃と身体強化を乗せた一撃。追加で魔力放出をお見舞いする。
「グオオオオ!!」
近くにいたスドレメイタンの身体がビクッと小さく跳ねて、顔を上げる。
しかし焦点が合っていないように見える。
時間との勝負。
エア・プレッシャーで加速して、顔を上げたやつの顔面に斬りつける。
もう一体の成体が拳を振り上げている。
少し見えてきているのか、危ういコースに右ストレート。
空中にいたため、剣で合わせる。
もともと直撃コースではなかっただけに、受け流す形にできた。
そこで、殴ってきたやつががくんと姿勢を崩す。
正面に来た顔を斬りつけようとしたが、左手でガードしてきた。
急遽、その左手を足場にして跳ね上がる。
空中で一回転して、倒れた敵の肩甲骨のあたりに着地。まるでアクションゲームみたいな挙動をしてしまった。
無防備を晒した首筋を斬ろうと振り返るが、そこに矢と魔力波が立て続けに飛来して、斬ろうと思った首筋から血が噴く。
探知に切り替え状況を把握。
ここまで何秒だろうか。
上からキスティも降りてきて、2体目に斬りつけた奴の頭を潰している。
残り2体は幼体のはず。
1体は頭にいくつか矢が刺さって動く気配がない。
もう1体は少し離れたところにいたが、背を切られたような傷が見えている。
俺ではないので、シャオの魔法だろうか?
何にせよ、逃す気もない。
身体強化ダッシュで近づき、背中を串刺し。
それから短剣を取り出し、魔力を流してから首筋を抉る。
これでひと通りやったか。
改めて念入りに探知。
最後の幼体が逃げようとしていた方角、奥に続く方向にも敵影なし。
ふう、何とか圧倒できたか。
「お疲れ様です」
サーシャ、アカーネ、ルキも順に降りてくる。
「お疲れ。アカーネ、閃光弾良い感じだな」
「光で目を潰すなんて、エグいこと考えるね〜ご主人さま?」
地球世界の特殊部隊なんかでは、テロが起こっていたら当たり前のように使っていたから思い付いただけだ。
これまでの探索隊はこの手は使わなかったのだろうか。
「気を抜くのは早いです、この領域にいる群れは1つや2つではないはずですから」
ルキがアカーネに注意する。
もしかすると、間接的に俺にも言ってるのかも。
たしかにその通りだ。
「よし、今度は魔石も回収できそうだし、とっととはぎ取るぞ。先に進もう」
スドレメイタンからはそれぞれ、黒っぽい魔石を取ることができた。
幼体は極端に小さい。
魔石って、魔物の成長と共に大きくなるのだっけ。
「ご主人様。魔力はいかがでしたか?」
サーシャが神妙な顔で尋ねてくる。
「ああ、阻害される感じはなかった。やはり、最初のやつが特殊だったのかもな」
「そうですか」
どうやら、ヒトが潜っていないうちにスドレメイタンたちが進歩したわけではなく、やはり例外的に強い個体だったようだ。
これは朗報だ。
しかし、有利な地形と事前準備があるから圧倒できたにすぎない。次からはここまで理想的な奇襲を決めるのは難しいはず。閃光弾にも限りがある。
この領域の構造も、奇襲には向いていない。
なんといっても、巨大な空間が広がっており、その上を支えるように柱や壁が点在しているような地形。
基本的にだだっ広いのだ。
無闇に突き進んでも怖い。
目指す地点までの安全ルートを構築しながら、少しずつ奥を目指すことにする。
一応目星としては、キノコの光だ。
暗いのに慣れているとはいえ、スドレメイタンも光で物を見ている。
この入り口付近にはないが、たまにある赤キノコの群生地には群れが居住している可能性が高い。
だから、キノコの光の配置を見ながら、明るいところは極力避けて進むルートを探る。
この場所から拠点までは、2時間ほどあれば戻れる。
探索をして様子を見ながら、夜は拠点に戻る。
その繰り返しだ。
あとは、スドレメイタンが実際、どれだけ多いかによって方針を変えることになる。
想定以上に密集している場合、その奥まで行くのは難しいかもしれない。
慎重に歩みを進める。
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地面を擦るように、慎重に足を運ぶ。気配探知を前方に巡らせながら、岩陰など目立たない場所で光を出し、地図を確認する。
敵の情報のみならず、赤く光るキノコの位置を記録しながら進む。
サーシャには、このキノコの光に敵影が映らないかを注視してもらう。
アカーネは製図を優先してもらい、魔力感知はおまけ程度。
ルキはその耳を活かして、後方から足音が聴こえないかを確認してもらっている。
それぞれに出来ることを任せつつも、この暗闇では、どうしても俺の気配探知が命綱になってくる。
万が一、先に察知されて包囲されでもしたら、命取りだ。
気の抜けない時間がジリジリと続く。
少しずつとは言え、歩き詰めだというのに終わりの見えない空間が広がっている。
どれだけだだっ広いんだ、この暗い領域は。
時間切れで一度拠点に戻る。2日目も順調に探索箇所を拡大していくが、明らかな異変があった。
スドレメイタンの群れに遭ったわけではない。
逆だ。
スドレメイタンの群れが、見当たらないのである。
これは、流石に予想していない事態だった。
なんせ、入り口には居たのだ。奥にはどれだけ居るのだろうと思うのが普通のはずだ。
まさか、ヒトが潜らないうちに、何らかの理由で衰退したのだろうか。
例えば湧き点が閉じて、スドレメイタンが新たに出現しなくなったとか。
そのうえで、ダンジョン内の他の魔物との生存競争で圧迫されれば、多くの群れが消滅しても不思議ではない。
……そうなのだろうか?
3日目、周囲の安全を確認できたと判断し、真っ直ぐ目的地に進むルートを取る。
目的地まで半数ほどの場所まで進んだところで、サーシャから報告が入った。
「お待ちください。光が揺れています」
「ああ、何か光ったようだ」
小声で話す。
前方で、一瞬だけ青い光が見えた気がするのだ。
「ただ光っただけではなく、移動していたように思います。キノコではないですね」
「……警戒しながら進む。俺が先行する形だ。もし敵に発見されたら、フォロー頼む」
「畏まりました」
『隠密』をセットして、自分の気配を消す。
そして『警戒士』で自分たち以外の気配を必死で探る。
前にあった岩壁を迂回すると、光が増えた。
明らかに、多くの光が移動している。
これは、魔法の光だろうか。
誰かが、誰かに魔法弾を撃っているようだ。
「主様」
ルキが、兜を寄せて聞こえるかどうかの囁き声で言った。
「これは、イミテーターの攻撃魔法では?」
イミテーター。
水龍が言ってた奴らか!
「誰と戦ってるんだ?」
「光の流れは一方通行です。つまり、撃ち合いではありません。イミテーター以外の魔物と争っているのかもしれません」
もしかすると、漁夫の利を狙えるかもしれん。
慎重に近づきつつも、気付かれないことを最優先とする。
もう少し近づき、サーシャの遠目でどうにか情報収集できる距離まできた。
「……照らされるのは一瞬なので自信がないです。戦っているのは、スドレメイタンかと」
スドレメイタンと、イミテーターが派手にやり合っていると。
だから、道中にスドレメイタンがいなかった?
となると、イミテーターとやらがスドレメイタンの頭数を減らしてくれたのだろうか。
もしそうだとすれば、何とありがたい存在か。
できれば仲良くしてやりたいところだが、ルキ情報と水龍の言葉を信じれば、イミテーターも厄介な亜人。
つまり問答無用でヒトを攻撃するはずだ。
「どっちが優勢か、分かるか?」
目のところに手をやって集中している、サーシャに訊く。
「いえ、分かりません。どちらもそれなりの数がいるようです。あれがイミテーターですか」
「強そうか?」
「いえ……そうは見えませんが」
こちらに気付く気配はない。
警戒しつつ、俺にも肉眼でその影が見えるほどに近づく。
イミテーターの身長は、ヒトと同程度か少し大きいくらい。
ひょろっとしている印象。
その両手は筒型になっており、バズーカでも発射するように魔法が発射されている。
驚くべきは、その動きだ。
岩壁や柱に張り付くようにして身を隠し、移動するときは素早く次のポイントまで走る。
まるで地球の軍隊じゃないか。
俺たちの進行方向の右側に展開して、じりじりと前進するのがイミテーター。
対するスドレメイタンたちが、左から右に攻め寄せる。
手には何かの棒や、石など。
魔法を撃ち込むイミテーターに勇ましく踊りかかる個体もあれば、手にした武器を投げつけている者もいる。
白兵戦をしかけた個体は体格差で圧倒するが、近くのイミテーターから集中砲火を食らって沈黙する。
結果的に、スドレメイタンで粘っているのは武器を投げて応戦している個体だ。
やがて手元に投げられるものがなくなると突撃し、集中砲火の餌食となる。
「これは、イミテーターが勝ちそうだな」
突撃が強みのスドレメイタン側が勝つのなら、早期にイミテーターの陣を食い破っているはずだ。
そうはならず、撃ち合いになっている時点でスドレメイタンが致命的に不利。
魔力弾を撃たれてもスドレメイタンがなかなか倒れないので、時間がかかって、結果的に膠着しているだけだ。
逆転の芽があるとすれば、残ったスドレメイタンが連携して一斉突撃を試みるか、イミテーター側が魔力切れを起こすとかだろうか。
白兵戦ならまずイミテーターに勝ち目がないのだから。
なんだか判官贔屓でスドレメイタンを応援してしまうが、加勢するわけにもいかない。
両者とも魔物であって、ヒトの接近に気付いたら一斉にこっちを狙ってくる可能性が高いのであるから。
気付かれないように後退し、大きな岩の陰に隠れて話し合う。
「あの戦いは、このままならイミテーターが勝ちそうだな。ルキ、勝ったイミテーターを奇襲したい」
「右から回り込むように接近しましょう」
「それでいい。アカーネと地図を確認して、ルートを仮決めしてくれ。サーシャ、敵の数は見えたか?」
「全ては見えませんでした。ただ、魔法攻撃の様子から計算すると、どちらも10近くはおりました。これからスドレメイタンの反撃で、何体か減るかもしれませんが」
「10の魔法使いを相手にするようなもんか。奇襲決めないと、危ういな」
「あれが全てとも限りません」
「たしかに。後方に新手がいそうだったら、すぐに撤退だ。皆、合図を見誤るなよ」
あとは敵の魔力弾がどれだけの威力かによるな。
出来ればテストがしたかったが、そうも言っていられない。
スドレメイタンがやられるまでを見ていると、そこまで破壊的な威力はなさそうだが、威力を上げることも出来るかもしれない。
見極めるまでは慎重に対応せねば。
ルキとアカーネがルートを決定し、回り込む。
キノコの光を避けるようにして進み、スドレメイタンと対峙するイミテーターたちの左後ろ斜めのあたりに布陣する。
「まだ戦いは続いているか?」
「そのようです」
「ひと段落したら教えてくれ。戦い終わって油断した隙を突こう」
「承知しました」
イミテーターが布陣しているあたりは、天井に赤い光のキノコが茂っており、暗闇ではない。
閃光弾がどこまで効くかは不明だが、最初に一応投げ込むか。
他にも対魔法戦の作戦をいくつかイメージしながら、合図を待つ。
たまに周囲を照らす、イミテーターの魔法の光。
その瞬間に垣間見えるスドレメイタンの数は、既にかなり少ないように見える。
イミテーターは左翼と右翼を前進させ、包囲して残りのスドレメイタンを殲滅する気のようだ。
「終わりました」
「ようやくか。よし、行くぞ」
魔法の光のピカピカがなくなり、静寂がダンジョンを包んでいる。
ゆっくりと接近し、サーシャが矢を番える。
矢の先端には閃光弾。
注目を集めるために石を投げるのも同じ。
今回はキスティに石を投げてもらう。
俺は魔力を練りながら、その時を待つ。
コンコン、と音がする。
目を瞑って下を向く。
キスティが石を投げて、コツンと音がした。
気付いてくれただろうか?
続いてビュッと音がして、天井付近で光が溢れる。
瞼の裏が白で染まるのを感じつつ、ラーヴァストライクの準備。
閃光から遅れて数秒、敵影の真ん中で破裂するように溶岩弾を放った。
慌ただしく動く気配を察知する。
前進しながら、気配探知。
おおよそで撃ったラーヴァストライクの位置はイマイチだったようで、巻き込めたのは1体か2体だけのようだ。
背後から奇襲されたからなのか、閃光弾が効いたのか。
敵の反応はまちまちであり、あたふたとしている印象。
気配探知で居場所が分かった近くのやつに、探知頼りで剣を振るう。
急所を狙う暇もなかったが、斬りつければまともに血が噴き出て倒れる。タフな魔物ではないようだ。
上に炎の弾を投げ上げて光源を作る。
目についた次の標的に素早く近づくも、魔力弾を放たれる。
直撃しないように身体を捻りつつ、ファイアシールドで防御してみる。
ジュッと音がして、魔力弾とシールドの当たった部分が対消滅する。なるほど。
撃った直後の敵を斬り捨て、もう1体も同じように斬った。
こちら側にいるのはこれくらいか。
よりスドレメイタン側にいた個体は、それぞれ隠れる場所を見つけ、態勢を整えたようだ。
あれでカバー出来ているつもりか。
ラーヴァフローを放ち、弓なりの軌道で落とす。
まともに食らった2体が倒れる。
残るは4体くらいか?
このまま突撃すると、集中砲火を受けるかもしれない。いったん、ルキが守る後ろのラインまで後退する。
追撃の魔力弾が追ってくるが、ルキの盾に阻まれる。
「ご無事ですか」
「ああ、あいつら単体では弱いな」
「ベテランの剣士とも打ち合えるご主人様に、魔法系の敵が白兵戦で戦えるわけもないでしょう」
サーシャが冷静なんだか、呆れているのか分からない声で平坦な評価をする。
「そんなものか。で、残るは4か5だと思うんだが、無理攻めはちょっとリスキーな数だよな」
「はい。まずは倒れた敵に念のため、トドメを刺して行きます。私とアカーネがやりますから、ご主人様は休憩と打開策を」
「おう」
サーシャは、倒れた敵を撃って反応を確かめている。お言葉に甘えて、少しだけシンキングタイム。
その間に「盗人の正義」を発動させて、魔力を少しでも回復させておく。
まさか、こんな銃を持った軍隊と戦うようなシチュエーションになるとはな。
地球でも銃なんか触ったことすらなかったのだ。撃ち合いのセオリーなんて分からない。
とりあえず、こちらはラーヴァフローをはじめ、サーシャの弓など曲射できる攻撃が複数ある。
敵はカバーアクションをきっちりやってくるが、持久戦となればこちらが有利。
ただし、閃光弾やラーヴァストライクなど、派手なことをしてしまっている。
時間をかければ、新手が現れないとも限らない。
4〜5体というのもあくまで予測値なので、実はもうちょっと多い可能性もある。
うーむ、どうするか。
単純な作戦だが、本当にただの亜人なのか確かめる意図でも、やってみるか。
「ルキ。受けてみた感じ、敵の魔力弾を盾で受け続けても問題ないか?」
「はい。至近距離では分かりませんが、今くらいの距離があれば問題なく防げそうです」
「よし、俺とルキで攻撃を受けつつ、後退する。俺はちょこちょこ動き回るが、ルキは後ろに流れ弾がいかないよう注意してくれ」
「はい。撤退するわけではないのですか?」
確かに撤退の指示と取られてもおかしくない言葉だったが、やる気満々の俺の様子を見てそうではないと思ったようだ。
「撤退はしない。手早く排除するためだ」
「分かりました」
サーシャとアカーネが、敵を牽制しつつ、倒れている敵に攻撃を加えている。
「サーシャ、どうだ?」
「はい、全て問題なく倒せているように思います。どうしますか?」
「後退だ。ルキの脇から、サーシャが矢で応戦してくれ。アカーネ、キスティは後方警戒」
素早く作戦を伝達し、準備にかかる。
あえて敵に見えるように、まとまって後ろに下がる。
相手の攻勢が強まるが、最初に隠れていた方向に後退する。
俺はファイアシールドを展開しながら、左右に揺れて回避運動をする。
ふむ。
ちょっと思っていたことが、ほぼほぼ確信に変わった。
こいつら、射撃の腕は悪くないが、上手でもない。
どういうことかというと、ただ「敵の現在地」への攻撃が主で、ある程度距離がある状態で少し不規則な動きをしてやると当たる気配がないのである。
まるで、FPSゲームのCPUとでも戦っているかのようだ。
「イミテーター、か……」
「ご主人様、イミテーターが前に出てきました」
「よし。だがあまり狙いすぎるな。変に勘繰られてもやりにくい」
「はい」
ある程度下がったところで、岩陰に俺が隠れる。
他のメンバーにはそのまま後退させ、『隠密』を付ける。
30秒ほど、ゆっくりと後退するサーシャたちと撃ち合う音が近づいてくるのを待つ。
ここだ。
ラーヴァストライクで、空中から溶岩弾を撒く。
それに乗じて岩陰から飛び出すと、身体強化で一気に接近。
気配探知を全開にしながら、中途半端な場所で止まっていた敵を切り裂く。
もう1体、カバーが不十分で岩から半身見えているやつに、炎の矢を飛ばす。
残り2体がこちらに腕を向けたが、横っ飛びしたことでかわす。
エア・プレッシャーで加速し、岩の上を走っていく。
1体は空中の俺に連射したが、およそ狙いが追いつかず。
空中から2体に炎の矢を飛ばし、胸を貫いた。
「よし。残りは……いないか」
ストンと地面に降り立ち、すぐにサーシャたちの方に戻る。
念入りに何度も気配を探るが、新手の敵の反応はない。
「サーシャ、無事か?」
「はい、皆無事です。この後は?」
そこら中に、死体が転がっている。
なんせ、倒した分だけではなく、スドレメイタンが全滅するまでの間に倒れた両者の死体もある。
魔石だけ採ったとしても、ひと財産。
しかし、ここは欲張るべきではないか。
「派手にドンパチやりすぎた。ここからどこからどう敵が来るか読めん。今日のところは拠点に帰るぞ」
「先に進まないのか?」
キスティがやや不満そう。
「進むさ。そのために今日のところは引き上げるぞ」
ここがスドレメイタンvsイミテーターの前線だったということは、ここから進めば両者の残り戦力とかち合う可能性が高い。
そこを無理して進むと、両者から挟撃される恐れもある。
それよりは、戦況を確認に来た両者の偵察部隊がぶつかり合って、また次の衝突が起きて潰し合ってくれるのが、理想だ。
「急げよ、どっちかの部隊に捕捉されると面倒だ。今は時間との勝負と思え」
「承知した」
キスティも切り替えて、探索陣形に移行する。
帰りもスドレメイタンの群れに会うことはなく、この日は拠点に戻った。
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翌日、改めて拠点を出発する。
地底湖の海鮮も美味しいが、少しばかり飽きも出てきたな。
昨日の夜、就寝するまえにサーシャから、懸念点を相談された。
曰く、矢の数が足りなくなってきたとのこと。
普段は、戦いが終わってから回収していたりもするが、昨日は急いで撤退したため、多くの矢を残して来てしまい、残りの矢が心配だという。
落ちている石などを使って新しい矢の作成も試してみたようだが、あまりうまくはいかなかったようだ。
矢羽の代わりになるものが、良いものがなかったらしい。
とりあえず、今日はサーシャの矢はあまり頼りすぎない方針で。
昨日と同じ場所から下層に侵入。
昨日と同じく、慎重に進む。
昨日戦った場所まで敵と遭うこともなかった。そして、昨日の場所付近まで到着したら、ゆっくりと近付いてみる。
「……異変はなさそうですね。いや」
サーシャが慎重に赤キノコの下を見る。
「イミテーターの死体が、損壊しているようです。昨日はここまでではなかったはず」
死体が、四散するくらいに荒らされているようだ。
昨日俺たちが撤退した後に更に一悶着あったのか、あるいは単に死体蹴りをしただけかは分からない。
「スドレメイタンかイミテーターが荒らしたかな?」
「どうでしょう……まだ近くに、敵がいる可能性はありますね」
「よし、警戒しながら昨日戦ったあたりに行こう」
昨日は、イミテーターの後ろから奇襲する形で攻撃を開始した。
そっちに行ってみると、昨日俺が撃ったはずの死体もごろごろしていた。
ただ、こちらも半数以上の死体が損壊している。
少し調べてみると、アカーネから興味深い報告が入った。
損壊している死体には、魔石が残されていないようなのだ。
「もしや……イミテーターは、魔石から魔力を吸収することもあると聞いたことがあります」
「なるほど、補給か」
イミテーターは細かい作業が出来るようには見えなかったから、死体を壊すことで魔石を露出させたということか。
「こちらは、昨日はなかったスドレメイタンの死体ですね。衝突もあったようです」
その新しいスドレメイタンの死体は、大きく損壊はしていない。
魔石も体内に残されていた。
何かの拍子にイミテーターが魔石を補充に来る可能性があるか。まだ長居はできないな。だが、補充に使われるくらいなら魔石は採ってしまいたいとも思うが。
「よし、サーシャは矢の回収を優先。その作業中だけ、アカーネとキスティで魔石を採れ。俺とルキは警戒だ」
30分ほど、矢の回収と魔石採取に当てる。
その後、残った他の死体は放置して、先に進むこととした。





