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第5話


 体育の授業で女子は今、バスケをやっていた。今までの授業で、ドリブル、パス、シュートの個人技能の練習を行ってきた。そして今日からは、チームを組んでの試合形式に授業の内容が変わる。先生がこれまでの個人技能力を見て、生徒をA、B、Cの三ランクに振り分けていた。全部のチームが大体同じくらいの強さになるように、先生がチーム編成をした。そしてあたしと春比奈さんは同じチームになった。

 試合でのあたしのポジションはもちろんセンターで、オフェンスになったらすぐにフロントコートのゴール下まで走って行き、相手チームのディフェンスを背中でおさえるポストプレイ。そして高い位置でパスを受け取り、ボールを高い位置にキープしたまま、ピボットターンでゴールの方に振り向いて、ほとんど手首の力だけでのジャンプシュート。もし外したとしても、あたしがリバウンドで遅れを取るわけがなく、あたしは大活躍だった。対して春比奈さんは致命的に運動神経がなかった。ドリブルミス、パスミスを連発し、シュートを打っても一つも入らない。というか届かずにエアーボールになることがほとんで、完全に足手まといだった。

 体育館の半分を女子が使い、もう半分を男子が使って体育の授業は行われていた。

 隣のコートからこっちを見ていた男子の声が耳に届く。

「相変わらず春比奈さんスポーツ苦手なんだな」

「でもドジっ子春比奈さんも可愛いなあ」

「だよな。胸でかくて揺れまくりだし、あれもアリだよな。それにしてもたいぼくの奴、すげえ迫力だな」

「女子の中に男子が入ったら、そりゃ誰だって活躍するって」

 二人して、ぎゃははははと下品な笑い声を上げる。

 誰が男子だよ! と心の中でツッコミを入れる。春比奈さんはなにをしてても可愛くて、あたしはなにをしてても可愛くないのかよ。納得できん!

 あたしはストレスを解消するため、試合で全力を出し切った。

 あたしたちのチームの出番が一旦終わり、コートから出て休憩に入る。春比奈さんがバツが悪そうな表情になる。

「ごめんね足引っ張っちゃって」

 普段から男子に人気があって、ただでさえ女子から嫌われている春比奈さんが、ミスを連発しても男子から高評価をもらっていたせいか、チームメンバーの女子生徒たちは春比奈さんの謝罪を無視し、誰も返答しなかった。仕方がないのであたしが口を開く。

「気にすんなよ。人それぞれ得手不得手があるんだから」

「うん。それにしても大木さん凄いね! あんなに大活躍して格好良いよ。わたしも大木さんみたいに背が高かったらなあ。羨ましいよ。あ、背が高くても運動神経悪かったら活躍できないか。えへへへへ」

 その言葉にあたしはカチンときた。

 小柄で女の子女の子してて男子にチヤホヤされてる奴が、でかいせいで男子から男扱いされてるあたしの背の高さが羨ましいだって?

「あんたあたしに喧嘩売ってんの?」

「え? そんなつもりは……」

「あんたが言ったら嫌味にしか聞こえないんだけど!」

「ごめん」

 春比奈さんが悄然と項垂れる。

 思いのほか大きな声が出てしまい、気づくと周囲のみんなの注目を集めてしまっていた。

 暫くしてまたあたしたちのチームの出番になった。

 オフェンスになってすぐにあたしにボールがまわってくる。すぐさまドリブルで前進する。しかし腕を広げたディフェンスがあたしの前に立ち塞がった。ドライブしようと切り込むが、なかなか通してくれない。あたしは体を捻じ込むように強引な突破を試みる。ディフェンスがクロスステップから大股のサイドステップで進路を阻んできたその瞬間、ディフェンスの頭があたしの顔に直撃する。

 咄嗟に手を鼻にやると、ツンと痛くなった鼻から出てきた血で手が汚れた。

 審判をしていたバスケ部員の生徒が笛を吹き、試合が一時ストップする。

 先生が駆け寄ってくる。

「大丈夫か?」

 あたしは痛みで答えられない。

「保健委員! 大木を保健室まで連れていってあげて」

「保健委員の倉町さんは今日欠席です」

「じゃあ、わたしが行きます」

 春比奈さんだった。

「そうか。大木、春比奈に付き添ってもらいなさい」

「はい」

 あたしはなんとかそれだけ言うと、春比奈さんに付き添われながら保健室に向かった。

 保健室に入ると、保健室特有の薬の匂いが鼻腔に広がる。保健の先生は不在だった。手当てするといっても、ティッシュを鼻に詰めて横になるだけだから、先生を呼びに行く必要はないと二人で判断する。

 あたしにティッシュを差し出す春比奈さんに礼を言う。

「付き添ってくれてありがとう」

「どういたしまして」

 受け取ったティッシュを千切って丸める。それを鼻に詰める。あたしは疑問を口にする。

「さっき怒鳴ったあたしにどうして親切にしてくれるんだ?」

「人に親切にするの好きなの。でもわたしよく誤解されるんだ。好きでやってるだけなのに、男子に親切にするとわたしが好意を寄せてるって勘違いされちゃうし、女子には男子に媚売ってるって思われて嫌われちゃう」

 春比奈さんと一緒のクラスになってから、これまでのことを思い返してみる。言われてみると、春比奈さんは別に男子にばっかり優しくしてたわけじゃなかった。確かに女子に対しても同じように親切にしていた。しかしそれを女子が穿った目で見て、男子に媚売ってると言っていたのだ。

「ぶりっ子の動きをやめたら勘違いされなくなるんじゃないか?」

「自分の動きがぶりっ子だってわかってるんだけど、意識してやってるわけじゃないんだ。わたし昔から自然とぶりっ子の動きになっちゃうの。直そうとしたこともあるんだけど直らなかったんだよ。勘違いされるのは嫌だけど、勘違いされるからって人に親切にすることをやめるのも違うと思うから、やめる気ないんだけどね。さっきわたしが大木さんを格好良いって言ったのも、背が高くなりたいって言ったのも嘘じゃないよ。わたし運動音痴で背が低いことがコンプレックスだから、あれは本心なの」

 あたし一方的に春比奈さんに劣等感を抱いてて、それで春比奈さんの言葉を素直に受け取れなくて怒鳴っちゃったんだ。あたし凄く格好悪いことした。あんなことした自分が恥ずかしい。

「さっきは怒鳴ってごめん。いつも男子にチヤホヤされてるあんたが、いつも男子から男扱いされてからかわれてるあたしみたいになりたいだなんて、思うわけないって勝手に決め付けて、バカにされたと勘違いしちゃったんだ。ほんとごめん!」

 あたしは春比奈さんに向かって頭を下げた。

「そうだったんだ。大木さんってもっと恐い人かと思ってたけど、違ったんだね。それがわかっただけでも、大木さんと話せてよかったよ」

 春比奈さんが笑みを浮かべる。あたしもつられて笑顔になった。

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