石ころ
「煮え切らない男にはストレートに好きかどうか問い質せばいいのよ」
綾乃は熱く語った。彼女がわたしの家に転がり込んで来たのは数日前。同棲中の彼氏と喧嘩をしたとのことで、突然やって来たのだ。
それからというもの、二人で毎晩恋愛話。今夜はわたしの彼についてのこと。
「……でも、彼って何を考えているのか分らなくって、聞き辛いんだよね」
「何を考えているのか分らない男っていうのは、大抵何も考えていないんだよ」
「それでもやっぱり何も聞けないかな」
「あんたは彼氏を甘やかし過ぎ! もういい歳だよ? ハッキリして貰わないと困るでしょ? 聞き辛いんだったらさぁ、グーで一発ガツンとやってやれば良いんだよ。『責任を取れ!』ってね」
綾乃はそう言うと、右手の拳を前に突き出した。
「それこそあり得ない。そういう雰囲気の付き合いじゃないもの。わたしは、たぶん、彼のクールっていうか、掴みどころのない感じが好きなんだと思う。昔からそういう人とばかり付き合ってきたしね。刃物みたいな男っていうの?」
冗談交じりに答える。
彼女は納得のいかない様子でしばらく自身の拳を見つめていたが、何かを思いついたのか、やや誇らしげに再び話し始めた。
「刃物のような男だったらさ、尚更グーで一発でしょ。ほら、ハサミだってグーには勝てないよ?」
綾乃は、左手をチョキの形にして右手のグーと戦わせてみせた。
「綾乃はいつもガツンとやっているの?」
冷やかすように尋ねると、彼女は、「まぁね」と言って笑った。
でも、わたしは知っている。
彼女が毎日、スマホの着信履歴を気にしていることを。
その時、玄関のブザーがなった。扉を開けると、そこには綾乃の彼氏がいた。
「久しぶり。綾乃来てるでしょ?」
わたしは頷き、綾乃を呼んだ。
彼女はふて腐れながら、「ちょっと外で話してくる」と言い、彼の手を引いて部屋を出ていった。
外から言い争う声。でも、すぐに何も聞こえなくなる。
本当に拳を振りあげたのかと心配になって窓の外を見てみると、綾乃は、彼氏に包み込まれるように抱かれていた。
そうか。グーはパーに包まれて負けるんだっけ。
二人を見ていると何だか彼の声が聞きたくなり、わたしはスマホを手に取った。
『もしもし、どうしたの?』
電話口から寝惚けた声。
「ねぇ……わたしとジャンケンでもしない?」